太陽がなにも一つとは限らず、二つないしは三つも輝いていようが何ら間違いはない。太陽が金色なることと照合させて、金髪の霧雨魔理沙をまさに太陽だと評する者もいた。
しかし、魔理沙は自分を太陽に例えられた話を耳にしていなかった。
風が吹けば塵が流されるように、本人までは届いてくれないようだ。
その魔理沙が、彼女こそ太陽だと称する妖怪に、風見幽香がいた。
たしかに彼女は、幻想郷でも珍しく異国情緒にあふれたひまわり畑を拠点にして、ちかよる他の妖怪や妖精に容赦なく弾幕を浴びせている。ときには殴りもする。太陽と言えばひまわりだし、見境なく太陽風が噴出するさまと彼女の弾幕を類似させるには難しくない。
ただ、魔理沙はそのような皮肉な態度で幽香を太陽とは呼んでいない。
魔理沙がひまわり畑へ向うと、魔理沙はおろか大人の男性よりも背丈のたくましいひまわりたちが、まず着地をこばんだ。
魔理沙はひまわりの頭上を浮きっぱなしになり、ようやく降下できそうな範囲を見つけると足をおろした。
狭いひまわり間を、太い茎をかきわけるなんて魔理沙にはできない芸なので、いちいち身体を右に左にくねらせながら進んでいった。
ずっとひまわりとの押し合いへし合いを続けているうちに、大きく地面が剥き出した広場にでた。ここは空からだと見えず侵入もできないため、魔理沙のようにひまわりを押し合いへし合いしなければ辿り着けない場所だった。
魔理沙の肘をこえるかこえまいか、小さなひまわりがぽつぽつ雑草と一緒に生えており、魔理沙は踏まないように気をつけながら中央へ歩いた。
そこには日傘をさした幽香が立っており、魔理沙が来ることを予感していたかのように魔理沙へ向いて、どうあっても本意にしか見えない、しかし間違いなく作りものの笑顔を浮かべていた。
「きょうは暑いわね」
暑い。太陽が頭上に陣取って核融合の産物を散らしてくるものだから、人間の生理現象はいやおうなく活発化させられて、魔理沙の汗腺も休んでくれそうにない。しかし、それに比べて幽香は汗をかいていなかった。
「暑いな。そんなことよりひまわりを一輪、もらいにきたぜ」
「なぜ」
魔理沙はしゃがむと、足元にある風にゆれていたひまわりを指でつついた。もう少しゆれはばが大きくなった。
「地霊殿の主は、この素晴らしい花を見たことがないそうだ。そこで私は持ち前の人脈をいかすために、幽香のところまで来たわけだ」
魔理沙は顔を上げた。幽香の笑顔が作りものらしさを強めており、日傘の影が邪悪さの演出に一役かっていた
「もしも、私が、ひまわりを適当にひっこぬいてあなたに渡して、その地霊殿の主というヤツまで行き届いたとしましょう。私の能力圏から飛び出てしまったひまわりは、よほどしっかり育てなければ、じきにしぼむ、じきに枯れる。ちょっと待ちなさい、地霊殿ですって。地底ってこと。話にならないわね。暑い太陽もなく、冷たい雨も降らず、涼しい風も吹かない地底に、どうして我が子を捨て行くことができるの」
魔理沙はもっと幽香を見つめようとしたが、日差しが割りこんできたので、諦めて下のひまわりを見た。
「幽香はおもしろいな。私が来るたびに笑顔なのに、私がひまわりをくれと言うたびに怖い顔をする。でも、今日もくれるんだろう」
「……」
「きょうは一段と怖いな。じゃあ、そうさな、ひまわりの種をくれよ。地霊殿の主には責任をもって発芽させる。かわいい双葉が出てきたのなら、毎日欠かさず水をやる、陽の光もかかさず浴びせる、ときには乾いた風を送って涼ませる」
「だめよ」
「伸びて伸びて、葉が出て増えて、ほおらみろ、つぼみが作られてきたぞ。水をおこたるな、陽の光に注意して、たまに肥料をやるのも悪くない」
「やめなさい」
「つぼみが開いてきた、黄色い花びらが見えはじめたぜ。もうすぐ小さな太陽ができる」
魔理沙の目の前に幽香の足が突き立ったので、魔理沙は立ち上がって幽香と視線を合わせた。背が高いのはだんぜん幽香である。
「魔理沙、あなたは太陽が地底にあるっていうの」
「あるぜ。ちょっと馬鹿で熱加減を知らない、夏の太陽それそのものだけどな」
幽香の双眼がギラつくサマは、とても直視できるものではなかったが、魔理沙は負けじと見つめ返して彼女の炎が落ち着くのを願った。
折れたのか、呆れたのか、幽香はやがて左手をさし出してきたので、手の平を見てみると黒白のシマ模様をした種が一粒あった。
魔理沙は事も無げに種をうけとった。
「一粒だけ。一粒だけのチャンスよ。それを枯らしてしまったり、まして発芽すらできないようじゃ、私は地霊殿に乗りこむかもしれないわ」
「知らない。じゃあ帰るぜ」
ぐるりと振り返った魔理沙は、来たときとおなじ道を戻りはじめた。ひまわりの群生地へ入りこんでしまう前に種をポケットへ落としこんだ。そして、普段は煩わしく感じているポケットのギミックの一つである、ボタンを止めてしまうほどの念の入りようだった。
魔理沙は適当に離陸できそうな場所を探し当てると飛び上がり、うんと上空を目指すと身体を支える魔法のみを使い、あとはすべて気流にまかせた。
まず紅魔館へ寄り花を扱った内容の本を借りてから、地霊殿へゆくのはそれからだと決めた。
そのときちょうど真下には、かつて間欠泉が原因で広がった地底へつながる穴が、まっ黒い口をあけていた。
しかし、魔理沙は自分を太陽に例えられた話を耳にしていなかった。
風が吹けば塵が流されるように、本人までは届いてくれないようだ。
その魔理沙が、彼女こそ太陽だと称する妖怪に、風見幽香がいた。
たしかに彼女は、幻想郷でも珍しく異国情緒にあふれたひまわり畑を拠点にして、ちかよる他の妖怪や妖精に容赦なく弾幕を浴びせている。ときには殴りもする。太陽と言えばひまわりだし、見境なく太陽風が噴出するさまと彼女の弾幕を類似させるには難しくない。
ただ、魔理沙はそのような皮肉な態度で幽香を太陽とは呼んでいない。
魔理沙がひまわり畑へ向うと、魔理沙はおろか大人の男性よりも背丈のたくましいひまわりたちが、まず着地をこばんだ。
魔理沙はひまわりの頭上を浮きっぱなしになり、ようやく降下できそうな範囲を見つけると足をおろした。
狭いひまわり間を、太い茎をかきわけるなんて魔理沙にはできない芸なので、いちいち身体を右に左にくねらせながら進んでいった。
ずっとひまわりとの押し合いへし合いを続けているうちに、大きく地面が剥き出した広場にでた。ここは空からだと見えず侵入もできないため、魔理沙のようにひまわりを押し合いへし合いしなければ辿り着けない場所だった。
魔理沙の肘をこえるかこえまいか、小さなひまわりがぽつぽつ雑草と一緒に生えており、魔理沙は踏まないように気をつけながら中央へ歩いた。
そこには日傘をさした幽香が立っており、魔理沙が来ることを予感していたかのように魔理沙へ向いて、どうあっても本意にしか見えない、しかし間違いなく作りものの笑顔を浮かべていた。
「きょうは暑いわね」
暑い。太陽が頭上に陣取って核融合の産物を散らしてくるものだから、人間の生理現象はいやおうなく活発化させられて、魔理沙の汗腺も休んでくれそうにない。しかし、それに比べて幽香は汗をかいていなかった。
「暑いな。そんなことよりひまわりを一輪、もらいにきたぜ」
「なぜ」
魔理沙はしゃがむと、足元にある風にゆれていたひまわりを指でつついた。もう少しゆれはばが大きくなった。
「地霊殿の主は、この素晴らしい花を見たことがないそうだ。そこで私は持ち前の人脈をいかすために、幽香のところまで来たわけだ」
魔理沙は顔を上げた。幽香の笑顔が作りものらしさを強めており、日傘の影が邪悪さの演出に一役かっていた
「もしも、私が、ひまわりを適当にひっこぬいてあなたに渡して、その地霊殿の主というヤツまで行き届いたとしましょう。私の能力圏から飛び出てしまったひまわりは、よほどしっかり育てなければ、じきにしぼむ、じきに枯れる。ちょっと待ちなさい、地霊殿ですって。地底ってこと。話にならないわね。暑い太陽もなく、冷たい雨も降らず、涼しい風も吹かない地底に、どうして我が子を捨て行くことができるの」
魔理沙はもっと幽香を見つめようとしたが、日差しが割りこんできたので、諦めて下のひまわりを見た。
「幽香はおもしろいな。私が来るたびに笑顔なのに、私がひまわりをくれと言うたびに怖い顔をする。でも、今日もくれるんだろう」
「……」
「きょうは一段と怖いな。じゃあ、そうさな、ひまわりの種をくれよ。地霊殿の主には責任をもって発芽させる。かわいい双葉が出てきたのなら、毎日欠かさず水をやる、陽の光もかかさず浴びせる、ときには乾いた風を送って涼ませる」
「だめよ」
「伸びて伸びて、葉が出て増えて、ほおらみろ、つぼみが作られてきたぞ。水をおこたるな、陽の光に注意して、たまに肥料をやるのも悪くない」
「やめなさい」
「つぼみが開いてきた、黄色い花びらが見えはじめたぜ。もうすぐ小さな太陽ができる」
魔理沙の目の前に幽香の足が突き立ったので、魔理沙は立ち上がって幽香と視線を合わせた。背が高いのはだんぜん幽香である。
「魔理沙、あなたは太陽が地底にあるっていうの」
「あるぜ。ちょっと馬鹿で熱加減を知らない、夏の太陽それそのものだけどな」
幽香の双眼がギラつくサマは、とても直視できるものではなかったが、魔理沙は負けじと見つめ返して彼女の炎が落ち着くのを願った。
折れたのか、呆れたのか、幽香はやがて左手をさし出してきたので、手の平を見てみると黒白のシマ模様をした種が一粒あった。
魔理沙は事も無げに種をうけとった。
「一粒だけ。一粒だけのチャンスよ。それを枯らしてしまったり、まして発芽すらできないようじゃ、私は地霊殿に乗りこむかもしれないわ」
「知らない。じゃあ帰るぜ」
ぐるりと振り返った魔理沙は、来たときとおなじ道を戻りはじめた。ひまわりの群生地へ入りこんでしまう前に種をポケットへ落としこんだ。そして、普段は煩わしく感じているポケットのギミックの一つである、ボタンを止めてしまうほどの念の入りようだった。
魔理沙は適当に離陸できそうな場所を探し当てると飛び上がり、うんと上空を目指すと身体を支える魔法のみを使い、あとはすべて気流にまかせた。
まず紅魔館へ寄り花を扱った内容の本を借りてから、地霊殿へゆくのはそれからだと決めた。
そのときちょうど真下には、かつて間欠泉が原因で広がった地底へつながる穴が、まっ黒い口をあけていた。
この後のお話がどうなるか気になります
次回作も期待してます。