紅葉の葉が乱雑に敷き詰められている、紅魔館のバルコニーにて。
私は日傘の下で物思いに耽っていた。
テーブルの上には紅茶が置いてある。わざわざ自分で淹れたものだ。
それを一口飲むと、やっぱり不味い。とてもじゃないけど、飲めたのもじゃないわ。
「はぁ……」
溜息を吐き、私は日光が照りつける青い空を眺め、ふと目を潤ませた。
あー、眠い。
うーん……。
「あ~もう、やめやめ~」
「どうしたのよ、フラン。まだ物語りは始まったばかりよ?」
不満を顕にした霊夢が、私の前に飛び出してきた。
いやだってねぇ、急に「私の作った脚本で一山当てて、賽銭向上を狙うわよ」って来たのは良いけど。
私だって読者だって「またかよー」って顔してるのが、分からないのかしらこいつは。
「もう全部わかるのよ展開が。どうせ咲夜の寿命オチなんでしょ?」
「ちょっとー、まだそれ言わないでよ。せっかく話を作るために、咲夜には隠れてもらったのにー」
「もう『実は登場人物は死んでましたー!』ってオチで意外性を作るのは無理よ。優秀な先人達がどれだけやってると思ってるの」
「そうは言うけどね。話の作り方ではまだ、可能性はあると思うんだけど?」
「そういう人は、話自体が面白いのよ。オチだけで読者をビックリさせようってのが甘いわ。欠伸しながら演じてる、私達の身にもなりなさい」
納得がいかない、という顔の霊夢を捲くし立てる。
すると、咲夜が「まぁまぁ」と私を宥めながら、紅茶を二つ持ってきた。
暢気にティータイムをしている場合か。
「だいたい咲夜もさー。どんだけ死んでるのよ。もうちょっと頑張りなさい」
「そうは言っても私は人間ですし」
「そんな事気にしなくてもいいの。どうせサザエさん時空なんだから」
「おーい、それは禁句でしょフランー」
「五月蝿い、私は永遠に幼い495歳なのよ。とにかく、この話はやめやめ。どうせこんな普通の流れじゃ「また寿命っすか?wwwワロスワロスwww」って言われるのが関の山よ」
「でもそしたらオチどうすうるのよ?」
「だから皆で話し合うの。ほら二人とも何かアイディアだして」
みんなで、う~んと唸りながら考えてみる。
まったく安直な考えの所為で、私達が苦労するばかりだ。
もうどうせなら『十六夜咲夜、暁に死す』っていうタイトルにしておきなさい。
その方がまだやり易いわ。
「あ、そうだわフラン。貴方死になさい」
「えー、嫌よ。なんで私、主役から死体役に転落しなきゃならないのよ」
「咲夜が生きていて、実はフランが死んでましたー! ってオチなら新しいと思って」
「そんな話もうありそうだけどなー……。というか死亡オチで驚かせるのはやめなさいって」
「じゃあ少し工夫するわよ。だからほら、フランは自分の部屋で、紅茶でも飲みながら隠れてなさい」
「ちぇ、しょうがないわねー」
「それじゃあ行くわよ。咲夜も準備して」
「はぁ、今日はオフのはずだったのに」
―――
紅葉の葉が乱雑に敷き詰められている。紅魔館のバルコニーにて。
私こと咲夜は、日傘の下で物思いに耽っていた。
テーブルの上には紅茶が置いてある。わざわざ自分で淹れたものだ。
それを一口飲むと、やっぱり美味しい。私は紅茶煎れの天才だわ。
「さて、それでは最終戦争へと行きますか」
それから私は、図書館でパチュリー様と談話したり、最果ての地で紫と戦闘したり、靴下しか履いてないぬえを襲ったり、こいしちゃんときゃっきゃウフフするけど、どうせオチへの繋ぎなので省きます。
「はぁ、はぁ。この果てしなき戦いが、ようやく終わったわ」
私は崩壊した幻想郷を後にした。
エターナルフォースパーフェクトプリティー咲夜になって、黒幕の紫を倒したけど、もうすでに遅かったようね。
そしていまは亡き、フランドール・スカーレット様の事を思い、ゆっくりと目を閉じた。
―――
「完璧よ咲夜」
霊夢は、ひでぇぞこれひでぇぞこれ、って壊れたテープレコーダーのように呟く咲夜に、握手を求めた。
だけど咲夜は、霊夢の事が目に入ってないのか――多分、見たくないだけだと思うけど――「もう飛ぶしかねぇ」って そのまま空へ行ってしまった。
ああ、可哀想な咲夜……。
「あいつの行動は、わけがわからん」
「ねぇ、霊夢。わけがわからないんだけど?」
「あら、フランじゃないの。どうだった?」
「話がグダグダすぎるわよ。なんで幻想郷いきなり崩壊してるのよ。咲夜も死んでるし。私はなんで死んだのよ」
「でもまぁ意外だったでしょ?」
「うーん、結構見る話だと思うわ。紫さんもよく黒幕役になってるわよ」
「うそーん。じゃあ次、何か意外なアイディア何か出してよフラン」
ほらほら早くして、って無茶振りしながら私の羽を引っ張る霊夢には、流石に戸惑った。
あー、もう。痛いからいい加減離してよぉ。
だいたい考えが安直……はさっきも言ったわね。
「それじゃあ、霊夢が死んでみたらどうかしら?」
「え? 私?」
「ええそうよ。主人公の貴方の死亡オチなら、結構驚くんじゃないかしら?」
「それなら魔理沙でもいいじゃない」
「魔理沙ならこの前、『幻想郷、なぜか死んじゃう登場人物ランキング』で、二位妹紅さんに大きく差をつけて、ダントツの一位に輝いてたわよ」
「あいつ喜んでた?」
「ええ、嬉し泣きながら賞状とトロフィーと主催の文さんを、マスパで焼き払ったそうよ」
「そりゃ良かった。まぁでも、私が死ぬ話は無理ね」
「あら、どうしてかしら?」
私が聞くと霊夢は、まったくこれだからロリペド吸血鬼は、って指を振りながら溜息を吐きやがった。
お姉さま、もう爆発オチでいいかしら……?
「私が死んだら、すぐに博麗大結界が崩壊しちゃうでしょ? フランもそれくらいの設定、覚えておきなさい」
「……それ本気で言ってるのかしら?」
「違うの?」
「うん。えっと、儚月抄見た?」
霊夢が「え? 見たけど何か?」って顔で私を見てきた。勘弁して頂戴よ。
私は霊夢に、儚月抄下巻のあるページを見せた。
「ほらここ、霊夢が帰らぬ人みたいになってるけど。文さん別に心配してないでしょ。しかしこいつの顔、どう見ても悪役ね」
「そんな馬鹿なー。私が死んだ瞬間、幻想郷は疎か、宇宙が崩壊して第三次巫女巫女大戦が……」
「そんなわけないでしょう」
「ってことは私の変わりはいくらでもいるのかぁ」
「そんなに落ち込まないで。あなたが居なくなったら、みんな悲しむわよ」
本当に? って尋ねる霊夢の肩を、励ますようにポンポンと叩いた。
心配しないで、みんなあなたの事が大好きなんだから。
いつの間にか戻ってきた咲夜も、暖かい目で霊夢の事を見つめてるわよ。
……ちょっとやつれた咲夜?
「ありがとうみんな……。それにしても、オチって難しいわ」
「心配しないで霊夢、もうオチは決めてあるわよ」
「どうするのつもりよフランは?」
「黙ってみていて頂戴」
霊夢が見守る中、私は左手を握り紅魔館を爆破してみせた。
伝統と安心のオチ
まったく、役立つ能力だわ。
どうせ来週には館も戻ってるでしょ。
いや、そこは省略するな。
永遠い幼い
→永遠「に」幼い
幻想郷は愚か
→「疎か」
おろか【疎か】
(「おろ」は大ざっぱの意)
(2)物の数でないこと。
(イ)(「…は―」の形で)…は無論、その上更に。…ぐらいはまだしも。「日本は―唐天竺までも」
広辞苑 第六版 (C)2008 株式会社岩波書店
>>ぺ・四潤さん
しかし省略しないと大長編に
>>2さん
その倍は必要なはず……。
>>3さん
誤字報告ありがとうございます。
修正させていただきます。
でもそれが一番安心する