魔界に入り、どれくらいの時間が経ったのだろう。
殺風景な荒涼とした大地を過ぎ去り、暗闇で覆われた場所へ辿りついた。
「ここが聖の封印された地です」
打ち倒された毘沙門天の代理が紅潮した頬を緩める。
対し、素っ気無い表情で博麗 霊夢は「ふーん」 と興味がないと声を漏らした。
――何故、自分はこんな事をしているのか?
今回は異変と呼べるものじゃないからだろうか。
空飛ぶ宝船を追って、気づけば魔界。以前、霊夢は魔界に来た事があった。
その時も、何処か息苦しい薄暗い空気が気に入らなかった。
そんな不機嫌そうな霊夢を横目で見やり、寅丸 星は苦笑した。
「まぁ、良いじゃないですか。ここは聖の救出を喜ぶとしましょうよ」
「……はいはい。大体、その聖ってのはどういう奴なのよ?」
これから助ける者を少しでも知っておこうと思った。
やんわりと星は微笑を浮かべる。
「良い人でした。私達妖怪を助けようと、封印されてしまった者です」
「それって私の立場から言えば、最悪の存在じゃない? それに、良い人って人間なの?」
「ええ。人間です。しかし、その力は人の域を超え、他の狭量な人間に畏怖される程でした」
脳裏に封印された情景が思い浮かんだのだろう。
星は少しだけ、表情に陰を落とす。
「はいはい。別に良い悪いは私が判断するから」
ぶっきらぼうな口調だった。しかし、込められた意味合いは慰めに近い。
貴女も不器用ですね、と星は囁く。
「うっさいわねぇ。早くしてよ」
「まぁそう焦らないで下さい。そうですねぇ。私としては貴女と聖が争うのは見たくありません」
「へぇ、で? また戦るの?」
「違います。私の口から聖の素晴らしさを語るとしましょう。そう、あれは――」
遠くを見上げ、星は声音に懐かしみを混ぜる。
しっとりした声は存外心地良い。戸惑うも、霊夢はしっかりと耳を傾けてしまう。
「私がうっかり聖の顔面に膝を入れてしまった時の話です」
「いや、意味分かんないんだけど」
きょとん、と星は霊夢を見やる。
「そうですか? 私の膝は的確に急所をえぐるんですよ?」
「アンタ、実はそいつの事嫌いでしょ」
「いえいえいえ! そんな事はないですよ。私は、あんなに頼りがいのある方は初めてだと思いました」
「それ、さりげに私の質問に答えてないわね」
「あはは。まぁ、貴女も聖を見れば分かりますよ。――では、そろそろ封印を解きます」
薄暗い景色がゆっくり変わっていく。
星は右手に宝塔を掲げ、光を放った。際限が無いのか、光は次第に強くなっていく。
瞼を開けるのもつらいのだろう。霊夢は細めていく瞼の合間、ソレを見た。
光に同調したのか、遠くの彼方から陽が昇ってくるようだった。勿論、実物ではない。
(これは――凄い)
霊夢は感心する。
今、この場に施されていた封印は一夜限りの封印。だからこそ、強力無比でもあった。
しかし、薄暗い魔界に陽は存在しない。常に月明かりが照らしているような明度だった。
人間界用の封印。それを魔界で使えば、なるほど。上手い使い方だと霊夢は考えたのだ。
陽に人影が混じる。
両手を空にあげ、何かを握っていた。
「嗚呼、聖……!」
眩しそうに星は人影を見つめた。
霊夢の視界も光に馴染み、ソレの姿がはっきりと見えた。
そこに居たのは――。
「貴女が私を助けてくれたのですね」
「待って、待ちなさいよ」
霊夢が止める。しかし、ソレは喋り続ける。
「感謝しています。私はこれから、魔界をでて外の世界で苦しむ妖怪たちを助けに生きます」
「いや、落ち着け私。素数を数えるんだ」
「そうだ。何か、貴女にお礼をしましょう」
「じゃあ少し黙って!むしろ待ってなさい!」
一から始め、三と数えたところで霊夢はすぐに諦め、ソレを――全身毛むくじゃらの何かを指差した。
頭から紫、そして金色へとグラデーションしている毛色は、見る者の目を疑わせた。
「って、アンタ人間じゃない!」
「いつの世も人間は変わっていないようですね」
何か逆鱗に触れたのだろう。
毛むくじゃらは、聖 白蓮(仮)はスゥと眼を細める。丸いガラス玉の上を毛が覆っていく。
「な、なによ?怒ったの?」
「――いつの世も、人間は誠に薄く、軽挙妄動であるッ!」
びりり、と緊張と威圧感が霊夢の頬を撃った。
意味が分からない。この段階において、霊夢は何故襲われなければいけないのか、分からなかった。
それ以上に理解が出来ない恐ろしさに口をも閉ざしてしまう。
「いざ、南無三――!」
(来る!)
喉を鳴らす霊夢に聖 白蓮(仮)は、ムック(正式名称、多分)は弾幕を放った。
その獰猛そうな、だけどシュールな外見から、酷く凶暴そうな攻撃を放ちそうだ。
そう思わずにはいれないのだけど――。
「魔法、魔界蝶の妖香」
「アンタが妖香とか言うなし!」
空間移動した霊夢の膝がムック(もうこれで決定)の鼻筋に減り込んだ。
「ぐぉぉっ!?い、いきなりなにをするだー!?」
「うっさい!馬鹿すけ!油かけて燃やすわよ!」
「ぐっ、こうなったら奥の手を――」
「アンタ浅いわね!」
霊夢は突っ込んだ。ただし、グーで。
「みぎゃっ!くぐっ、超人――」
「っ?」
何処からともなく、笑い声が響いてくる。
それは霊夢の背後から。
ムック(瀕死中)は言葉を叫び続けた。
「ガチャピン!」
「誰よ、この出っ歯!」
霊夢は飛んで、体を翻した。
眠たそうな顔で飛んできた緑色の物体に、見事な後ろ回し蹴りが炸裂した。
地に落ちてく緑をムック(あわわと、口を押さえてる)は見送った。
ふと、遠くで見守っていた星に霊夢は怒鳴る。憤然と肩を上下させていた。
「アンタの助けたかったのって本当にこれなの!?」
まぁ、たしかに”うっかり”膝蹴りを繰り出したくなるわねぇ、と霊夢は思った。
「い、いえ、知りません」
「星!?」
ショックを受けたムック(涎のような涙を溢してる)は叫んだ。
「一緒にパジャマ早脱ぎ競争をしたじゃないですか!」
「お前はっ!服着てない!」
霊夢の踵がムック(変態)の頭に深々と減り込む。眼球が押し出され、細い神経の束までも露出させ、ぶらんとぶら下がる。
全力だったのだろう。言葉どおり必殺だった。
ムック(故)は地上へと落ちていった。
霊夢は勢いよく星をみた。気まずそうに視線を逸らす星。
「あれって何だったのよ?」
「もし、あれが聖だったとしたら――、ああ。仲間達になんて申し訳ないことを」
「アンタ……」
――どんだけ記憶力ないのよ。と、そんな言葉を霊夢は飲み込んだ。
「あら?」
不意に上空から声が生まれた。
ふわふわと誰かが降りてくる。星は彼女を見て、声を上げた。
「聖!」
「ああ、星じゃない。懐かしいわねぇ。どうしたの?こんなところまで?」
「聖を助けに来たんですよ」
「まぁ」
「大変だったでしょう聖」
ドレスのような黒い洋服の少女が聖というらしい。
霊夢はどっと疲れたように息を吐いた。
「はぁ、あれは何だったのよ」
「あ。あれは私の人形です」
嬉しそうに白蓮は言う。
「実はこの法界は端までいくと、パンデニュウムが見える位置に有るんですよ。そこで神綺って方とよくお話をしてまして。創製魔法と人形術を教えてもらったんです。これが中々面白くて、つい」
「つい、じゃないわよ。なんだか疲れたわぁ」
「そうなんですか?」
「そうなんですよぉ。もー、別にアンタが勝手に妖怪助けてもいいから、帰るわよ私」
「でしたら、船で外までお送りしましょう」
これは助かると霊夢は力なく頷いた。
その後、別段戦闘をするわけでもなく三人は幻想郷に帰っていった。
霊夢はただくたびれただけ。星は目的達成が出来て嬉しかった。
聖は昔と違う外の世界に、妖怪を守らなくても良いと知り、しばらく仲間達と過ごすことを決めた。
そんな傍ら。
結界の解除された法界にて。
ムック(死体)を見つけた散歩中の神綺は嬉しそうだった。
「ふふ、これ可愛いわ。これを複製してアリスちゃんの周りの世話をさせてあげましょ」
霊夢が聞けばぞっとする台詞とセンスだった。
幻想郷に三体の不思議生物が侵略するのは――また、別の話。
面白かったですwwwむしろ書いてくれてありがとうございました
ステンバーイ………ステンバーイ……………ゴッ!
面白かったですか、それは良かったです。勢いで書いてしまいましたから。独りよがり云々考える事もなかったので。
真面目に安心しました。
>>奇声を発する程度の能力さん。ありがとうございます。200作品読破とコメ付けおめでとうございます。
>>東方創想話について語るスレ その116 >>721さん。こんな事になってしまいましたw いえいえ、こちらこそ、わざわざ読んで頂き、有難うございます。
>>3さん 魔界村はやってないですねぇ。超魔界村でラスボスまで行って、最初のステージに戻されて、不貞寝しました。意味が分からないです。さすがにそこまで根気良くゲームをする事は出来なかったですw
>>4さん その、ごめんなさい。元ネタが……、少しググってきます。
ちなみに、蛇足ですが私はガチャピン派です。