彼女は静かに夜を迎える。
全てが目覚める朝日とともに。
彼女の夜は、世界を包んでいった。
重く、哀しく沈む空気が私を押し潰していく。
縁側から眺める月は、恨めしいほどに爛々と輝いていた。
もう、十分生きたわ。
彼女は笑いながら夜を迎えた。
周りが涙する嗚咽とともに。
一人の人間の灯が消えた。
言葉にしてしまえば、それだけのこと。
それだけのこと、それが世界を変えてゆく。
彼女の存在は世界を支えるほど大きかったのだ。
彼女の周りを囲む人間が、妖怪が、みんなみんな涙を流す。
偉そうな吸血鬼も、お気楽な幽霊も、我が儘な月人も。
今日ばかりは、皆俯いて、肩を震わせていた。
私は今、静かに佇んでその光景をただただ眺めていた。
私も、できるなら今すぐ泣き崩れたい。
彼女の名前を何度も呼んで、叫びたい。
でも、泣きたいと思っても、涙が出ない。
叫びたいと思っても、言葉が出ない。
視えない刃が私の体を中空に縫い付けたように、身動きが取れなくなる。
その刃は、とても冷たくて、まるで氷のようで。
体が凍る、心が凍てつく、世界が固まる。
まるで静止画のように、世界は時を止める。
何が賢者か。何が大妖怪か。
一人の人間の火を灯すことも、背中のゼンマイを巻くこともできない、ただの老獪だ。
泣くことも、叫ぶことも知らない、ただの赤子だ。
やり場のない哀しみを、心の奥底へと押し込める。
積もりに積もった気持ちを、いつになったら吐き出すの?
そんな疑問さえ、その中に投げ捨てて。
私はまだ、動けないでいた。
世界は廻る。全ては巡る。
否応無しに昇る太陽が世界に光を与える。
木を、地を、空を、私を、彼女を照らす。
それは笑っている彼女の顔を浮かび上がらせて、心の奥からナニカが噴き出そうとする。
その光は、彼女との思い出さえも照らし出して。
初めて出会ったときを。
共に戦った夜のことを。
彼女と笑いあった日を。
何気なく過ぎた日常を。
強く、深く、儚く照らす。
まるで彼女がそばにいるかのように、温かく、優しく。
氷の刃を、ゆっくりと、抱きしめるように溶かしていった。
世界を包み込むように。
世界を慈しむように。
彼女の光は、私を、世界を変える。
いつのまにか、頬は濡れていた。
いつのまにか、口は言葉を紡いでいた。
ああ、泣くってこうするんだったか。
ああ、叫ぶってこうするんだったか。
永く忘れていた、単純な、大切なモノが心から溢れ出す。
ああ、哀しいってこんな感じだっけ。
ああ、寂しいってこんな感じだっけ。
人間が、動物が、植物が、この幻想郷が、ゆっくりと目覚める。
一つの劇を見終わった観客のように、一斉に鳴らす。
彼女の存在を。
彼女への感謝を。
無音の世界が、聞こえるはずのない音で包まれてゆく姿を、私は見た。
ああ、ありがとうってこんな気持ちだっけ。
ああ、さようならってこんな気持ちだっけ。
妖であることを忘れ、人間のように泣き、そして感謝した。
世界が全ての境界をなくして、彼女を送り出す。
人と妖、木と鳥、天と地。
この世の全てが、彼女に愛を送る。
旅立つ彼女へ、別れの詩を紡ぐ。
ああ、今までありがとう。
ああ、そしてさようなら。
優しき光が、ゆっくりと革命を起こす。
暗い世界に光を満たして。
闇に佇む私を光で照らして。
この幻想郷全てを変えてゆく。
そして、また会いましょう。
それが、いつになろうとも。
彼女は静かに夜を迎える。
私が目覚めた朝日とともに。
全てが目覚める朝日とともに。
彼女の夜は、世界を包んでいった。
重く、哀しく沈む空気が私を押し潰していく。
縁側から眺める月は、恨めしいほどに爛々と輝いていた。
もう、十分生きたわ。
彼女は笑いながら夜を迎えた。
周りが涙する嗚咽とともに。
一人の人間の灯が消えた。
言葉にしてしまえば、それだけのこと。
それだけのこと、それが世界を変えてゆく。
彼女の存在は世界を支えるほど大きかったのだ。
彼女の周りを囲む人間が、妖怪が、みんなみんな涙を流す。
偉そうな吸血鬼も、お気楽な幽霊も、我が儘な月人も。
今日ばかりは、皆俯いて、肩を震わせていた。
私は今、静かに佇んでその光景をただただ眺めていた。
私も、できるなら今すぐ泣き崩れたい。
彼女の名前を何度も呼んで、叫びたい。
でも、泣きたいと思っても、涙が出ない。
叫びたいと思っても、言葉が出ない。
視えない刃が私の体を中空に縫い付けたように、身動きが取れなくなる。
その刃は、とても冷たくて、まるで氷のようで。
体が凍る、心が凍てつく、世界が固まる。
まるで静止画のように、世界は時を止める。
何が賢者か。何が大妖怪か。
一人の人間の火を灯すことも、背中のゼンマイを巻くこともできない、ただの老獪だ。
泣くことも、叫ぶことも知らない、ただの赤子だ。
やり場のない哀しみを、心の奥底へと押し込める。
積もりに積もった気持ちを、いつになったら吐き出すの?
そんな疑問さえ、その中に投げ捨てて。
私はまだ、動けないでいた。
世界は廻る。全ては巡る。
否応無しに昇る太陽が世界に光を与える。
木を、地を、空を、私を、彼女を照らす。
それは笑っている彼女の顔を浮かび上がらせて、心の奥からナニカが噴き出そうとする。
その光は、彼女との思い出さえも照らし出して。
初めて出会ったときを。
共に戦った夜のことを。
彼女と笑いあった日を。
何気なく過ぎた日常を。
強く、深く、儚く照らす。
まるで彼女がそばにいるかのように、温かく、優しく。
氷の刃を、ゆっくりと、抱きしめるように溶かしていった。
世界を包み込むように。
世界を慈しむように。
彼女の光は、私を、世界を変える。
いつのまにか、頬は濡れていた。
いつのまにか、口は言葉を紡いでいた。
ああ、泣くってこうするんだったか。
ああ、叫ぶってこうするんだったか。
永く忘れていた、単純な、大切なモノが心から溢れ出す。
ああ、哀しいってこんな感じだっけ。
ああ、寂しいってこんな感じだっけ。
人間が、動物が、植物が、この幻想郷が、ゆっくりと目覚める。
一つの劇を見終わった観客のように、一斉に鳴らす。
彼女の存在を。
彼女への感謝を。
無音の世界が、聞こえるはずのない音で包まれてゆく姿を、私は見た。
ああ、ありがとうってこんな気持ちだっけ。
ああ、さようならってこんな気持ちだっけ。
妖であることを忘れ、人間のように泣き、そして感謝した。
世界が全ての境界をなくして、彼女を送り出す。
人と妖、木と鳥、天と地。
この世の全てが、彼女に愛を送る。
旅立つ彼女へ、別れの詩を紡ぐ。
ああ、今までありがとう。
ああ、そしてさようなら。
優しき光が、ゆっくりと革命を起こす。
暗い世界に光を満たして。
闇に佇む私を光で照らして。
この幻想郷全てを変えてゆく。
そして、また会いましょう。
それが、いつになろうとも。
彼女は静かに夜を迎える。
私が目覚めた朝日とともに。