今日も、月を見ていた。
正確には、見えるはずのない、新月を。
「はぁ・・・。」
あの日から、私が力のほとんどを封じられた日。
一番愛していたひとが、人を食べなくても生きていけるようにと、自らの命と引き換えに私の力のほとんどを封じてしまった、あの日。
嫌だよ、と、何度も言ったのに、ずっとずっと、一緒にいたいと言ったのに。
「どうして・・・・。」
だれもいないのに、一人でつぶやいてみる。
あの時、何かの術で封じるのなら、まだよかった。
彼がそれでも生きていられるのなら、尚更よかった。でも。
それは無理だった。
使った術が特別強かったから、彼が命を落としたのではなかった。
そもそも、彼は術など使わなかった。
彼は私の髪をリボンのようなお札で結んだ。
そして言ったのだ。
「私を・・・、私を食べろ。」
「それで封印は完成する。」
と。
「嫌だよ・・・、そんなの・・・・、できないよ!!」
強く、とても強く、否定したつもりだった。
けれど、彼の覚悟には、及ばなかった。
彼は、にっこりと、私に微笑みかけてくれた。
そして、優しく、とても優しく抱きしめてくれて、頭をなでてくれた。
「ありがとう・・・・。」
「嬉しいよ・・・、そんなに私のことを思っていてくれて・・・。」
「何で・・・、ほかにも・・・、ほかにも方法は・・・」
でも、彼は首を振って、
「このやり方なら、お前は・・・・人を食べなくても今までどおり生きていけるから・・・。」
そして、
「ごめんよ・・・・・。ルーミア・・・・・。」
「・・・・・・っ!!」
何が起きたか、判らなかった。
赤い、紅い、どろっとしたものが、
「いや・・・・いやぁぁぁぁああああ!!!」
彼は、自分で命を絶った。
なら、もう・・・・・。
「・・・・・・っ。」
食べるしか、なかった。
結局、私は力のほとんどを封じられた。
闇を操る事ぐらいしかできなくなった。
でも、もうめったやたらに人を食べなくても、生きていけるようになった。
「これで・・・・・、よかったのかな・・・・・。」
私は見えない月を見るのをやめて、また夜空を漂い始める。
「大好きだよ・・・・・・。」
新月のよるは、闇に隠れていたくはない。
だって・・・。
彼が私のことを思って、死んでいった夜だから。