Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

縮まぬ距離

2010/06/24 00:01:22
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夏の日差しが容赦無く降り注ぐ日、普段なら店の中で大人しくしている所だが、僕は重い荷車を牽いて無縁塚に向かっていた。気温も高く、魔法の森の中は何時もより蒸し暑かったが、今の僕にはそんな事を気にしている暇は無かった。

「ふぅ……もう少しだな。」

そんな事を言いながら、僕はこの後訪れる出会いに期待を膨らませていた。
……霊夢や魔理沙は勘違いしているようだが、僕が無縁塚に行くのは流れ着く死体を供養する為であって、決して道具を拾うのが本来の目的ではない。それに道具を拾うのは死体と同じく行き場の無くなった道具達が新たな使い手を見つけるまで僕が商品として一時保管しているという理由もある。以前見つけた毘沙門天の宝塔がいい例だろう。そんな事を考えつつ一歩、また一歩と僕は歩を進め、やがて再思の道に辿り着いた。
後一月もすれば彼岸花が真っ赤な花を付け、今僅かに残っている葉もその頃には枯れているのだろう。
再思の道を通り過ぎ、やがて無縁塚が見えてきた頃には既に昼を過ぎていた。
死体を集め火葬しようと荷車を止め、死体を探して少し歩いていると、見知った顔に出くわした。

「……ん?」

向こうも此方に気付いたらしく、座っていた岩の上から飛び降り、ゆっくりと此方に向かってくる。
そして互いの距離が五尺(約1.50m)程になった時、向こうが一度立ち止まり声を掛けてきた。

「おや霖の字、また来たのかい?此処は人にとっても妖怪にとっても危ない所だって何時も言ってるじゃないか。」

「僕は半妖だから大丈夫だよ。それより君も仕事に戻ったらどうだい?……小町。」

僕がそう言うと、目の前の女性―――小町は軽く笑うと、

「別に良いんだよ。霖の字に会えたからね。」

と言ってくる。僕に会うのが目的とはどういう事だろうか?僕はまだ死ぬ気は無いぞ。それとも閻魔様に見つかった時に身代わりにでもするつもりか?生憎だが僕は今から閻魔様が言う『善行』を行うんだ。身代わりにした所で閻魔様は小町を追いかける筈だ。それに―――――

「お、面白いぐらいに考え込んでるねぇ霖の字。あたいはそんなに難しい事を言った覚えは無いよ?」

「……いや、何。君が僕を使って何をしようと企んでいるのか考えていた。」

「ん~?何かしてほしいのかい?」

言うと、小町はまだ三尺程あった距離を能力で一気に縮め、僕の胸に圧し掛かり、更に首に手を回してきた。
そうなると、僕の胸に彼女の豊満な胸が当たり、顔が三寸(約9cm)ぐらいの距離になる。

「なぁ霖の字……、どうされたい?」

やけに艶を含んだ声でそう聞いてきた。

「……取り敢えず、離れてくれると有難い。」






「ありゃりゃ、つれないねぇ。」

そう言って小町は僕との距離を操り、一瞬で元の場所に戻った。

「霖の字、そこは『なら夜伽を頼もうか。』とか、『まずは脱げ。話はそれからだ。』とか……色々あるだろう?」

「仮に僕がそう言ったとして、君はどうするつもりだったんだい?」

「別に。寝床まで一寸以下に縮めて、そのままおたのしみだよ。霖の字が望むなら、あ~んな事やこ~んな事もしてやって良いね。」

――どうだい?今度は気の利いた返事を期待するよ――
そんな声が、僕の後ろから聞こえた。目の前に小町は居らず、首には後ろから腕が回され、背中には柔らかい感触が二つ。

「……………………」

気の利いた返事か。……良し。













「……君はもう少し、自分を大事にするべきだと思うよ。」


僕なりに気を利かせた返事をしたつもりだ。
……何処からか、『やっぱり……』と聞こえた気がした。いや、聞こえた。


◆◆◆

「あぁ、やっぱり……霖之助さんは霖之助さんだわ、これなら監視も必要無さそうね。
……さて、帰って境内の掃き掃除して、お茶飲まなきゃ。」

◆◆◆

「お、あたいの事女として見てくれてるのかい?そいつは嬉しいね。」

言って、小町は更に抱き着いてくる。背中の感触が段々と上にあがり、やがて感触は後頭部に辿り着いた。

「このまま胸で顔を挟み込むと『ぱふぱふ』って言う行為になるらしいねぇ。この前読んだ外の世界の漫画に描いてあったよ。」

「試そう……何て考えてないよな?」

「お、良く分かってるじゃないか霖の字。ささ、あっちの茂みに行こうか。あたいが気持ちよくしてあげるよ。」

「やめてくれ。僕は無縁仏を供養しに来たのであって、君の暇潰しに付き合うつもりは無いよ。」

「そいつは残念……っと。」

そう言い、小町は渋々といった感じで僕から離れ、再び元の場所に戻った。僕もそれを勝手に合図とし、作業を開始する。

「じゃあ、僕は君の仕事を増やしてくるから、速い所仕事に戻ったほうが良いんじゃないのかい?」

「馬鹿を言わないでほしいね、霖の字。あたいはここ一月真面目に働いてたんだ。一日ぐらいサボったって罰(ばち)は当たんないよ。」

「ほぅ、君が一月も働くとは珍しい。ある種の異変だね。」

小町は僕から離れている筈なのに、まるで耳元に居るかの様な声の届き方だった。声が届くまでの距離でも操っているのだろうか?案外話し相手ができて嬉しいのかもしれない。
まぁ僕としても無言で作業をするよりは幾らかマシだ。そう思って聞きながらも、作業の手は休めない。

「異変とは失礼だね。……まぁいいか。で、その所為でちょっと困った事になってね。」

「うん?」

仕事をして困る事とはなんだろうか?少し気になったが作業を続けつつ聞く事にした。

「映姫様がちょっと疲れてるみたいだからね。あたいが休めば映姫様の負担も少しは減るんじゃないか……と思ってね。」

「成程。上司思いの素晴らしい考え方だね。」

後ろの茂みに居る彼女もさぞ嬉しい事だろう。―――本当の話ならば……だが。

「だろ?なのに映姫様はあたいのその優しい気持ちに気付いていないんだよ。だからあたいはサボリという形でその思いを表してるんだよ。なのに映姫様は気付いてくれないんだ。酷いと思わないかい?霖の字。」

「人の思いに気付かないのは良くない事だが、それを理由にサボリを正当化しようとする事はおかしいと思うよ。」

「私も彼の意見に同意ですね。」

「へぇ、やっぱり映姫様もそう思い……ます……か……?」



暫しの沈黙。気付いた時からずっと笑いを堪えるのに大変だった。



「え、映姫様!?にゃんでこんな所に!?」

「それは私の言う事です小町。貴女は今仕事の筈ですよね?何故こんな所に?」

「そ、それは……」

「……もういいです。今なら見逃してあげます。早く仕事に戻りなさい。」

「は、はい!じ、じゃあな、霖の字。」

「あぁ。……と、君はいいのかい?」

「えぇ。私は貴方にも話があります。」

「……僕に?」

「えぇ。……お説教です。」

お説教。
その言葉を聞き、気が付くと僕は逃げようとしていて、気が付くと腕を掴まれていた。

「何故逃げるのですか?まだお説教は始まってもいませんよ?」

「いや、気が付いたら体が動いていて……本能的に危機を感じたもので。」

そう言う今も、僕の体は逃げようと動いている。

「ッ……止まり……なさ……いっ!!!」

いっ、の部分で、その細腕の何処にそんな力があるのだというぐらいの力で僕の腕は大きく引っ張られ、僕は後ろに倒された。

「うおっ……!」

咄嗟の事だった為に反応が遅れ、地面に強く頭を打ちつけ、僕は意識を失った。





***






「う……」

次に目が覚めた時、先ず感じたのは頭の後ろにある筈の土の感触ではなく、柔らかい、人肌の感触だった。

「あ……まだ起きては駄目ですよ。」

完全に覚醒していない意識の中、状況を把握しようと思い起き上がろうとすると、上の方から声が聞こえ肩を押さえられた。

「ん……?」

「駄目です。まだ、このまま……寝ていて下さい。」

衝撃を与えられて意識が少し覚醒し、横になっている状態で現在の状況を確認できる範囲で把握する。
頭の下に感じる人肌の感触と、閻魔様の声が上から聞こえる状況。

恐らくだが……これは……




















「膝枕……?」

それも以前拾った外の世界に乗っていた横に寝る形ではなく、膝と一直線になって寝る形だ。

「は、恥ずかしいんですから……余り動かないで下さい……。」

「あ、あぁ、済まない……。」

見ると、若干顔を赤らめている。しかしそれだけではない。顔以外の部分も、赤みを帯びている。彼女だけではない。僕の体もだ。
少し顔を横に向けると、(んぁっ!)……済まない。……とにかく、日が少し傾いていた。何てことだ。これではもう無縁塚を出発しなければ日没までに店に間に合わないじゃないか。

「……ま、まぁいいです。気絶した時はどうしようかと思いました。」

「まだ貴方のお世話になるつもりはありませんよ。」

魂の方でも、話の方でもだ。

「……折角の機会です。貴方には前々から言いたい事が沢山ありました。今日は一つでも多くそれを消化しておきましょう。」

「………………」







  ガシッ  ドサッ






「逃がしませんよ。」

……逃げるのは無理か。
僕は逃げる事を諦め、閻魔様の話を聞く事にした。

「そう、貴方は少し、商売を疎かにしすぎてる。
以前何度か私は貴方のお店に行きました。その時の貴方の対応は『いらっしゃい。』と一言言ってその後は客に見向きもせず、店番という名の読書に励む。そんな事をしていては極楽には行けません。これからはもう少し御客の相手を真面目にする事。それが貴方に積める善行です。次に……」





***





「……それが貴方に積める善行です。……さて、これが最後です。」

……ようやく終わりか。
一つ一つの話は然程長くはない。……が、それが何十個もあるなら話は別だ。
だがそれももう終わる。膝枕という名の拷問から、やっと解き放たれるのだ。日も、地平線に沈みかけていた。
最後だと思うと、何だか、安心し……て……






「そう、貴方は少し、……いや、かなり。人の心を理解していなさ過ぎる。そもそも貴方は、あの巫女や魔法使いが店に来る本当の理由に気付いていない。……尤も、それを私の口から言うのはフェアではないので言いませんが。ともかく、貴方は人の気持ちに鈍感と言うか、無頓着と言うか、何と言うか……、……そう、朴念仁。それが貴方にピッタリの言葉です。少なくともその性格を直さない限り、貴方は極楽に行く事など夢のまた夢……ってコラ、寝るな!」




「うっ……!」

意識が完全に落ちかけた瞬間、僕は膝枕から蹴り出された。

「折角人が貴方が極楽に行けるように善行を積む方法を説いていると言うのに、何ですかその態度は!ホントに極楽に行く気があるのですか!?それに一番重要な所で眠るとは何事ですか!!?さぁ眠ってしまった訳を話しなさい!話さないなら悔悟棒で百打の刑です!」

「ん…………」

意識が半覚醒状態にある為か、頭が上手く回らない。仕方ないので、思った事をそのまま口にすることにした。

「いや……状況が何だか心地よくて、つい……ね。」

「こっ、ここここ心地良い!!?」

「……ん?」

見ると、彼女の顔は今まさに沈みかけている夕日の様に真っ赤になっていた。

「(こ、心地良い……?だ、駄目です映姫、この朴念仁の言う事を間に受けては駄目です!お、落ち着かなきゃ……2.4.6.8.10.12.14.16.18.20.22……って!2の倍数を数えてどうするんですか映姫!そ、素数です、素数!2.3.4……ぁあ!違います違います!)」

「……???」

閻魔様はさっきから顔を赤くしたまま頬を押さえてう~う~と唸っている。

「……閻魔様?」

「……う~、う~……!」

……気付いていないのか?

「……閻魔様!?」

「……う~、う~……!」

……はぁ、仕方ない、か。






























「……映姫。」

「!!?」





やっと動きが止まった。

「取り敢えず、落ち着いた方がいいのでは?」

「あ、あぅ……」

「……閻魔様?」

「(ムスッ)……なんですか?」

「い、いや……」

……何だろう。気まずい。

「……そういえば、一つ貴方に聞きたかったんですが。」

「ん?」

「何時から私が此処にいると気付いていたのですか?小町を呼び戻しに出て来た時、貴方は然程動揺していませんでしたし。」

「あぁ……」

そういえば小町はどうしたのだろう。あの後一人で戻り、今も人魂を運んでいるのだろうか。だとするなら運ばれる人魂は何とも理不尽な気持ちだろう。三途の川で待たされ、やっと運ばれたと思ったら今度は自分を裁く閻魔がいないのだ。もうすぐ小町が呼び戻しに来るのではないさろうか。
まぁ今はそんな事はどうでもいい。今僕が問われているのは、何時から彼女に気付いていたのか、だ。

「最初から。」

「最初?」






「あぁ。具体的には、閻魔様が『よかった……』と呟いたときからですね。」

「!!?」

そう。あの時僕は確かに人の呟きを聞いた。あれは閻魔様の声だった筈だ。

「き、気付いて……」

「えぇ。小町に気付かれないようにするのが大変でしたよ。」

「!?」

?何故だ?
何故彼女は顔を赤らめているのだ?僕が何か怒らせるような事を僕はしただろうか?

「そ、それは、つまり……全部聞いていた、という事ですか……?」

「全部……何の全部ですか?言ってくれなければ分かりませんが。」

「えぅぅ……、つ、つまりs「あー居た居た映姫様!早く来てください!」……小町?」

映姫が僕に説明しようとした時、何処からとも無く小町がやって来た。

「もう、折角人魂運んだのに映姫様が居なくちゃ意味な無いじゃないですか!」

……どうやら僕の読みは当たっていたらしい。

「さぁ映姫様、霖の字と話すのが楽しいのは分かりますけど、今日はもう帰りますよ!」

「え、ちょ……」

「じゃあなー霖の字。気をつけて帰りなよ!」

「……あ、あぁ。」

僕がそう答えた瞬間、小町と映姫の姿は消えていた。

「……帰るか。」

呟き、僕は無縁仏の供養もそこそこに店に帰った。





***





「……映姫様ー。」

「……何ですか?小町。」

「頑張ってくださいよ?霖の字との事。」

「そ、それは……」

「いやーしかし、映姫様から『好きな人が出来たかも知れない』って聞かされた時はあたいびっくりしました。」

「う~……」

「何処でどう霖の字と知り合ったのかは知りませんが……映姫様自身が頑張らないと、どうにもなりませんよ?」

「………………」












































「恋する二人の距離は、あたいも操れませんから!」

「……馬鹿。」
―――それにしても、彼に全部聞かれていたんでしょうか。

小町の船に乗っている時、ふとそう思った。

あの時、私が無意識に呟いた、あの言葉―――――










『よかった……
たとえ相手が小町でも、女として譲れないものがあるんです。
店主さんは、譲りません―――!!!』

……聞かれてたら、どうしよ。



投稿八発目。唯です。
タイトルで小町×霖之助と思った方、残念。映霖です。
今回も深夜のテンションで書き上げたので、おかしい所が多々あると思います。いや、絶対にあります。
映姫様と霖之助の出会いの話は、近々執筆の予定。でも今日からテスト一週間前でPC使えない……
次に投稿するのは最短でも二週間後。私の作品を待っているという方がいましたら嬉しいです。
あと、出来ればで良いんで誰かカプとシチュ下さい……。ネタが無い……。
今回も誤字や脱字があればご報告ください。
最後に、此処まで読んで下さり有難う御座いました。
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
>にゃんでこんな所に!?
こまっちゃん可愛い!

もう本気で霖之助が妬まs…間違えた羨ましい!!!
2.名前が無い程度の能力削除
とりあえず……「」の終りに『。』は不要ですよ。

貴方の作品は好きなので是非、次も頑張って下さい。…………霊霖がいいな(ボソッ
3.名前が無い程度の能力削除
まず無縁塚は毎年秋の彼岸の時期だけです。他の季節は何処で拾っているか不明ですが
原作で妖怪の山に頻繁に訪れているとも読める内容があるので、そこが拾い場所の可能性が高いです。
あと香霖堂は新しい品もどんどん入荷する、霖之助本人も拾い物を売る店と言っていますし
動かない古道具屋の異名と原作の香霖堂の設定では矛盾した部分も多いんですよね。

話の内容は普通に面白かった。次回作も期待
4.名前が無い程度の能力削除
まさかの映霖とは…
ん?映霖?

(゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん!
5.名前が無い程度の能力削除
ここまで霖之助にパルパルしたのは初めてかもしれない。
6.名前が無い程度の能力削除
うん、素晴らしい。そして霖之助が羨ましい。
7.名前が無い程度の能力削除
閻魔だって恋していいじゃない!!
ニヤニヤ話、今回も素晴らしかったです。ありがとうございました。
8.華彩神護削除
ネタかい?
ではまたseed txtから一つ。

さとフラVSレミこい
「「妹さんを下さい」」
「「……」」
「「うちの妹を簡単にやれるかーー!!」」

勝負だ!!!

…こんな感じ?
難しそうだったら言って下さい、また別の出します。
話はGJ!!
画像見つからなかった…。
9.削除
遅れましたがコメ返しです。

>>奇声を発する程度の能力 様
こまっちゃんはかわいいんです。はい。

>>2 様
霊霖ですか。七夕ネタの次ぐらいにでも考えておきます。

>>3 様
本当に霖さんは矛盾点が多いですね。
期待して下さるとは……嬉しいです!

>>4 様
(゚∀゚)。彡゚えーりん!えーりん!
えーりん違いですねw

>>5 様
そんなにパルパルしたんですか!?w

>>6 様
素晴らしいなんて……有難う御座います!

>>7 様
閻魔だって恋したいんです。死神はそうでも無いみたいです。

>>華彩神護 様
どんな状きょ……
……頑張ったら書けそうですねw
画像ありませんでしたか、残念……。

読んでくれた全ての方に感謝!