「あっつ~~い」
夏。
太陽がギラギラと照りつけるこの季節は当然、外界とは切り離された幻想郷にも存在していた。
ここは幻想郷の一角にある寺、命蓮寺。
その縁側で雲居一輪はいつも被っている筈の頭巾を脱ぎ、だらりと縁側から下ろした足を水が入った桶に漬けて涼んでいるところだった。
「いつも真面目な一輪がそんな風にダラけてるのを見るのは新鮮ね」
「しょうがないでしょ。私の格好ったら、暑いんだから。いつも半袖半ズボンのあんたにはわからない苦労よ」
「ズボンじゃないわよ、これ!!」
一輪とは対照的に涼しげな水兵の服を着ているこの命蓮寺の船長、村紗水蜜は手に持っている柄杓で庭先に打ち水をしているところである。
とはいっても、この熱気で撒いた水もすぐに蒸発してしまっているのだが。
「……でも、一輪がいつでも頭巾を取っていてくれるなら、夏も悪くないよね」
水蜜がちらりと見た視線の先で、一輪はまだ暑そうに団扇で顔を扇いでいる。
一輪は蒼みがかった空色の髪を肩まで伸ばしていて、この熱さで蒸れるのか頭の後ろで縛ってまとめている。
その髪が団扇の風によってなびく姿を見るのが水蜜の夏の楽しみでもあった。
「いくら半袖っていっても、あんた、平気過ぎない?そんなに夏に強かったっけ?」
「あれ、知らなかった?私、幽霊だから体温低いのよ。オバケは病気にならないとか歌になかったかしら」
「ちょっと、それ初耳よ。水蜜、すぐにこっちへ来なさい」
近寄ってきた水蜜に一輪はがばりと抱きつくと頬擦りまでし始めた。
予想していなかった一輪の行動に思わず水蜜も黙ってされるがままになっている。
「えっ、えっ、い、一輪……!?」
「あ~、本当に冷たいわね、あんたの肌。よし、今日の夜からあんたは私の抱き枕よ」
「ええっ、いきなりそんな関係なんて……聖になんて言えば……」
「じゃあ、普通の膝枕でいいわ。あんたの足も冷たそうだし、後は手を頭の上に置いてくれたら完璧ね」
「まずは交換ノートからお願いします!」
船長はウブだった。
水蜜をからかうのに飽きると、一輪はさっきから横でふよふよ浮いている雲山に声をかけた。
「雲山、風をお願い。そよぐ程度でいいから」
「……」
こくっ。
雲山は頷くと黙って自身の雲の中に小規模の竜巻を作り始める。
雲の妖怪である入道、そして入道を操れる一輪には、雲山に働きかけることで天気を操れる力もあった。
直に、小型の扇風機のように雲山は風を発生させる。
強すぎず、弱すぎず、そういう微調整も一輪の得意とするところであった。
「あ~、やっぱり自然の風が一番ね」
「そこまでするなら、いっそ雨でも降らせた方がいいんじゃない。こんな打ち水よりも何倍も効果があるわよ」
「駄目、駄目。この熱さじゃすぐに蒸発して、この辺り一帯蒸れ蒸れになっちゃうわよ。
仮に雪を降らせても、きっと地面に着くまでに溶けてしまうでしょうね」
「雪……うん、そうだ」
水蜜は何かを思い出すと急いで寺の中へと戻っていく。
その間、一輪は雲山に向かって口を大きく開け、「ヌエハエイリアンダ」とか言って遊んでいた。
「ほら、氷菓子。この前、里で売ってたのよ」
「何それ、凄くハイカラね。ねぇ、早く開けて、開けて」
袋を開けると水色の冷たい固体が木の棒にくっついている物がでてきた。
二人とも見たことがない食べ物だったが、確かにそれからは甘い香りがしてくる。
一輪と水蜜は並んで縁側に座ると、氷菓子に噛りついた。
「……美味しい」
「こんなに美味しい物がまだこの地上に存在していたなんて。地底から出て来れて本当に良かったわね」
「うん」
水蜜の小さな返事の後、しばらくは二人で黙って氷菓子を舐めたりかじったりしていた。
相変わらず横に不動で浮いている雲山からは涼しげな風が二人の頬に当たってくる。
水蜜はちらりと横を見ると、その風に揺られて漂うこの氷菓子と同じような空色の一輪の髪を眺めていた。
白蓮に憧れて伸ばし始めた髪だったが、伸びすぎると頭巾が被れなくなる為、こんな中途半端な長さで伸ばすのを止めてしまった。
それが自分の中途半端さすらも表している様で、一輪はこの髪の毛には微妙な感情を抱いていた。
こうして、よく後ろにまとめているのも、ただ単に伸ばしているだけではないと自己主張している様で滑稽でもあった。
「……一輪の髪、私は好きだな。一輪はみんなに見せたがらないけど」
「何よ、急に」
一輪は少し心の中を見透かされている様な気持ちになった。
「暑くても、寒くても、さ。私は一輪のその髪を含めた顔の全てが見たいんだ。だから、いつでも頭巾脱いでてくれないかな」
「ば、ばかっ」
「ばかかなー」
「あんたのせいでますます熱くなってきたじゃない。もっとくっついてよ」
「うん、わかった。私の肌って冷たいもんね」
二人の少女はぴったりと寄り添って氷菓子を口にくわえている。
それが口を塞いでるおかげで二人は何も言わずに、ただ氷菓子の冷たさと風の涼しさとお互いの肌の熱さだけが感じることができた。
風に撫でられて、一輪の後ろ髪が水蜜の顔にかかった。
「くすぐったいなぁ…」
夏。
太陽がギラギラと照りつけるこの季節は当然、外界とは切り離された幻想郷にも存在していた。
ここは幻想郷の一角にある寺、命蓮寺。
その縁側で雲居一輪はいつも被っている筈の頭巾を脱ぎ、だらりと縁側から下ろした足を水が入った桶に漬けて涼んでいるところだった。
「いつも真面目な一輪がそんな風にダラけてるのを見るのは新鮮ね」
「しょうがないでしょ。私の格好ったら、暑いんだから。いつも半袖半ズボンのあんたにはわからない苦労よ」
「ズボンじゃないわよ、これ!!」
一輪とは対照的に涼しげな水兵の服を着ているこの命蓮寺の船長、村紗水蜜は手に持っている柄杓で庭先に打ち水をしているところである。
とはいっても、この熱気で撒いた水もすぐに蒸発してしまっているのだが。
「……でも、一輪がいつでも頭巾を取っていてくれるなら、夏も悪くないよね」
水蜜がちらりと見た視線の先で、一輪はまだ暑そうに団扇で顔を扇いでいる。
一輪は蒼みがかった空色の髪を肩まで伸ばしていて、この熱さで蒸れるのか頭の後ろで縛ってまとめている。
その髪が団扇の風によってなびく姿を見るのが水蜜の夏の楽しみでもあった。
「いくら半袖っていっても、あんた、平気過ぎない?そんなに夏に強かったっけ?」
「あれ、知らなかった?私、幽霊だから体温低いのよ。オバケは病気にならないとか歌になかったかしら」
「ちょっと、それ初耳よ。水蜜、すぐにこっちへ来なさい」
近寄ってきた水蜜に一輪はがばりと抱きつくと頬擦りまでし始めた。
予想していなかった一輪の行動に思わず水蜜も黙ってされるがままになっている。
「えっ、えっ、い、一輪……!?」
「あ~、本当に冷たいわね、あんたの肌。よし、今日の夜からあんたは私の抱き枕よ」
「ええっ、いきなりそんな関係なんて……聖になんて言えば……」
「じゃあ、普通の膝枕でいいわ。あんたの足も冷たそうだし、後は手を頭の上に置いてくれたら完璧ね」
「まずは交換ノートからお願いします!」
船長はウブだった。
水蜜をからかうのに飽きると、一輪はさっきから横でふよふよ浮いている雲山に声をかけた。
「雲山、風をお願い。そよぐ程度でいいから」
「……」
こくっ。
雲山は頷くと黙って自身の雲の中に小規模の竜巻を作り始める。
雲の妖怪である入道、そして入道を操れる一輪には、雲山に働きかけることで天気を操れる力もあった。
直に、小型の扇風機のように雲山は風を発生させる。
強すぎず、弱すぎず、そういう微調整も一輪の得意とするところであった。
「あ~、やっぱり自然の風が一番ね」
「そこまでするなら、いっそ雨でも降らせた方がいいんじゃない。こんな打ち水よりも何倍も効果があるわよ」
「駄目、駄目。この熱さじゃすぐに蒸発して、この辺り一帯蒸れ蒸れになっちゃうわよ。
仮に雪を降らせても、きっと地面に着くまでに溶けてしまうでしょうね」
「雪……うん、そうだ」
水蜜は何かを思い出すと急いで寺の中へと戻っていく。
その間、一輪は雲山に向かって口を大きく開け、「ヌエハエイリアンダ」とか言って遊んでいた。
「ほら、氷菓子。この前、里で売ってたのよ」
「何それ、凄くハイカラね。ねぇ、早く開けて、開けて」
袋を開けると水色の冷たい固体が木の棒にくっついている物がでてきた。
二人とも見たことがない食べ物だったが、確かにそれからは甘い香りがしてくる。
一輪と水蜜は並んで縁側に座ると、氷菓子に噛りついた。
「……美味しい」
「こんなに美味しい物がまだこの地上に存在していたなんて。地底から出て来れて本当に良かったわね」
「うん」
水蜜の小さな返事の後、しばらくは二人で黙って氷菓子を舐めたりかじったりしていた。
相変わらず横に不動で浮いている雲山からは涼しげな風が二人の頬に当たってくる。
水蜜はちらりと横を見ると、その風に揺られて漂うこの氷菓子と同じような空色の一輪の髪を眺めていた。
白蓮に憧れて伸ばし始めた髪だったが、伸びすぎると頭巾が被れなくなる為、こんな中途半端な長さで伸ばすのを止めてしまった。
それが自分の中途半端さすらも表している様で、一輪はこの髪の毛には微妙な感情を抱いていた。
こうして、よく後ろにまとめているのも、ただ単に伸ばしているだけではないと自己主張している様で滑稽でもあった。
「……一輪の髪、私は好きだな。一輪はみんなに見せたがらないけど」
「何よ、急に」
一輪は少し心の中を見透かされている様な気持ちになった。
「暑くても、寒くても、さ。私は一輪のその髪を含めた顔の全てが見たいんだ。だから、いつでも頭巾脱いでてくれないかな」
「ば、ばかっ」
「ばかかなー」
「あんたのせいでますます熱くなってきたじゃない。もっとくっついてよ」
「うん、わかった。私の肌って冷たいもんね」
二人の少女はぴったりと寄り添って氷菓子を口にくわえている。
それが口を塞いでるおかげで二人は何も言わずに、ただ氷菓子の冷たさと風の涼しさとお互いの肌の熱さだけが感じることができた。
風に撫でられて、一輪の後ろ髪が水蜜の顔にかかった。
「くすぐったいなぁ…」
惚れた
いちりんのポニーテールマジ最高
ポニテは最強です
一ちゃんのポニテは最高です。