Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

あなたがいたから

2010/06/21 23:19:44
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 あら、これはなにかしら?










 わたしはごろりとベッドに倒れて、枕に顔を埋める。
 誰かの気配。










 わたしには知り合いなんていやしない。
 ときどき見かける妖精のメイド。
 いっぱいいすぎて、見分けなんかつきゃしない。
 メイド長は知ってる。
 たった一人の人間だ。
 それでもあんまり会うことはない。
 ご飯とか運んできたり、そのぐらい。
 咲夜はあいつのメイドだからだ。
 それにあいつの友人の紫の魔女。
 あいつがよく話してくれるけど、わたしたまに見かけるくらいしか見ることがない。
 門番にも会ったことはない。
 いつだってわたしはこの部屋の中。
 出られなくって。
 それでも構わなくって。



「それなら、あなたはどうして生きているの?」



 呟く声。
 小さくか細く。
 細く細く。
 蚊の鳴くような。
 わたしは枕に顔を埋めたまま。
 全部無視。

 わたしの世界はこの小さなお部屋だけ。
 薄暗いお部屋。 
 窓もない。
 光もない。
 とんとんとん、と歩けばもう壁だ。
 とは言ったものの、わたしはこれを享受している。
 つまり意外と受け入れているし、中々楽しいのだ。
 ごろりとベッドに寝そべり、本棚からお気に入りの一冊を取り出すのが好き。
 そのまま紅茶を飲んで読書するのが好き。
 じーっと天井を眺めるのが好き。
 そのままお昼寝するのなんて最高。
 お気に入りの服を着て、鏡を覗き込んで誰も映らないのを笑うなんてざらだ。
 わたしはどこにいるんだろう。
 そんな疑問を鏡にぶつけて、叩き割った。




「ならばあなたはどうして生きていられるの?」



 呟く声。
 少し大きく。
 けれどか細く。
 少し震えて。
 泣きそうな声。
 だけれども無視。
 枕から顔もあげないで。
 
 窓のないこのお部屋で好きなだけ寝るのが好き。
 適当な時間に起きて、用意されていたご飯を食べて、適当に寝るのが好き。
 ときには四人に分身して、一人芝居。
 自分と話して時間つぶし。
 自分と遊んで自分を壊す。
 あー、毎日が暇だ。
 わたしはぼりぼり頭をかいて。
 小さくあくび。
 ふわぁ、と一つ。
 ああ暇。
 誰か助けてー、と物語のお姫様気分。
 だぁれも助けに来ないけど。
 そうしてわたしは今日も眠るのよ。
 牢獄みたいな、煌びやかな部屋で。



「だったらどうしてあなたは生きていけるの?」



 呟く声。 
 悲痛な叫び。
 耳を打つ。
 涙声。
 ばぁか、お前のせいじゃんか。

 でもこの部屋はきらい。
 いってきます、て部屋を出て、
 物語の中の青空が見てみてかった。
 焼かれてもいいから見たいと思った。
 暗がりの中で蛍が見たいと思った。
 月明かりの下で、優雅にダンスをしたかった。
 満点の星空の海を泳ぎたかった。
 草原でごろりと横になって、草木の匂いを肺がいっぱいになるまで吸いたかった。
 そうして家に帰って、ただいま、って言いたかった。



「だったらさ」



 呟く声。
 すん、と鼻をすする音。
 もういいじゃんか。
 全部無視。
 するつもりだった。
 だと言うのに。
 
 知らず、わたしは枕から顔をあげて、そいつを見た。
 今にも泣きそうな、わたしの大切なお姉さま。
 スカートをぎゅっと握って、今にも泣き出しそうに顔を俯かせて。
 ふるふると震えるお姉さま。
 今さら後悔?
 どうでもいいよ。
 されたら困るし。


「ばっかじゃないの」


 びくんと震える気配。
 起き上がって、近寄って。
 か細い身体を抱きしめる。

「今さら後悔とか遅いよ」
「でも」
「いいよもう」
「だったら答えてよ」

 はぁ。
 ため息。やんなるよ、もう。
 でもね、
 
「お姉さまが」

 ぷい、と顔を背ける。
 顔に熱。
 あつい。
 恥ずかしい。
 すっごい恥ずかしい。
 言ってやんないけど。
 絶対言ってやんないけど。

「お姉さまが、いたからだよ」

 頬が熱かった。
 きょとん、とした姉の顔に思わず吹き出した。
 姉が頬を赤く染める。
 わたしの頬も真っ赤。
 姉妹そろって頬を染めて、ああもう恥ずかしいったらありゃしないわ。
 そうして――









「おっ姉様ぁああああー!!」

 ばーん、と扉をぶち壊すように部屋に飛び込んでくるフランドール。
 部屋の中央で紅茶を片手に、膝の上に乗せた本を読んでいるレミリアを見とめ、そこに突進をしかけた。
 にやり、と口元に笑みを浮かべ、レミリアは、ひょい、と飛びのいた。
 どんがらがっしゃーん、とフランドールが机ごと紅茶をぶちまける。

「あら? どうしたのかしら?」

 ゆっくりと着地したレミリアが言う。
 涙目のフランドールが引っくり返ったままの状態で指差した。正確には持っていた本を。

「そ、それ!」
「これ?」

 本を指差す。
 頑丈そうな革表紙のしっかりした本だ。真っ赤な表紙に金色の十字架の飾り。

「これがどうしたの?」
「どうして、それが! ここに!?」
「うん? これがどうしたの?」
「わ、わたしの日記ぃ!」
「うぅん?」
「ど・う・し・て、お姉様が持ってるのかしら?」
「いや、ちょっと、ね?」

 にっこり、満面の笑顔。
 
「かわいかったわよ?」

 特に最後のほう、と付け加える。
 かぁ、とフランドールの頬が赤く染まった。
 ぐぬ、と歯を噛み締めながら言い返す。

「お姉様だってあのときは!」
「私はいいのよ」
「なんでよ!?」
「いや、だって」
「?」

 ぽっと蒸気した頬に両手をあてて、レミリアは言った。
 
「……その涙目とか、すごい良いから」

 がーん、と、頭が横殴りにされるようなショックを受けた。
 そりゃあそうだった。
 実の姉が、そっちの趣味だったのだ。

「えーと、そうして、どうしたんだっけ?」

 とか言いながら日記をぱらぱらとめくる。
 フランドールが飛び掛る。
 ひょい、と身をかわすレミリア。
 ずざー、と滑っていくフランドール。
 ぐぅう、とうなる声。
 半身あげて、レミリアを涙目で睨みながら、ぐずぐずと、

「お姉様のどえす」
「甘いわよ」

 ふふん、とレミリアは胸を張った。

「フラン限定でいぢめられるのもおっけぇよ!」
「お姉様のばかぁ!」

 うわーん、とがむしゃらに飛び掛かって、日記をぶんどるとフランドールは駆け出した。
 ぎゅ、と胸に日記を抱きしめて。
 一度振り返って、大声で、

「お姉様のばっかぁああ!」

 と叫んで、去っていった。
 残されたレミリアは、満足そうに頷いて、

「うんうん、ひらがなっぽい発音ね。やっぱひらがなのばかは良いわー」

 と、ひとしきり頷いたあと、さっとポケットから紙束を取り出した。
 そこには先ほどの涙目フランが映っていた――

「パチェに感謝しなくちゃねぇ」

 それを大事そうにポケットにしまい込んで、レミリアは歩き出した。
 よっこいしょ、と吹っ飛んだ机とかを元に戻す。

「咲夜ー! ちょっと来てー!」

 と大声で言った。
 
 ベッドの横の写真立てには、丸くなって眠る、姉妹の姿が映っていた。









[了]
風呂に入ったらこうなった。

シリアスだったもの。
シリアスかもしれなかったもの。

フランドールは泣かせたくなるので困る。
いや、狂気っぽいのも好きですよ?
話の通じない感じのも。
月空
コメント



1.再開発削除
このフランドールには何か、ぐっと来るものがある。
2.名前が無い程度の能力削除
このフランを抱きしめたいな。
もちろんレミリアの専売特許だが!
3.奇声を発する程度の能力削除
物凄い良かったです!!!!