おそわれいむ

勝負の鉄則に『己を知り敵を知る』と言うものがある。
それを怠らないものこそが勝者になるのだ。

「…寝てますね」

ダンボールに身を隠し、隙間から様子を伺う。
これにどれだけの陰密性があるのか疑問だが、諏訪子様が言うのだから問題ないだろう。多分。
霊夢さんは縁側に座ってうたた寝をしていた。
その可愛らしい寝顔に見とれるが、首を振って雑念を払う。
衝撃でダンボールがガタガタ揺れ慌てて抑える。
深呼吸をして、もう一度霊夢さんを見る。眼は閉じたままだった。

「近づいても大丈夫そうですね…」

体育座りに近い姿勢のせいでかなり歩きづらいが、なんとか霊夢さんの側まで近づく。

「よっと…」

ダンボールを脱ぎ、霊夢さんの隣に座る。
これだけ近づいても眼は閉じたままだった。

「…ん」

穏やかな寝息を立てている霊夢さんをじっと見つめる。
いつもの不機嫌そうな表情ではなく少女らしい可愛さがあった。
私はそっと髪に手を伸ばす。
丁寧に手入れされた髪は柔らかく少し羨ましい。

「…む」

そのまま頭を撫でる。
普段こんなことをしたら夢想封印ぐらいされそうな行為ではあるが、寝ているなら問題ない。
頬が緩んでいることを自覚しながらそのまま続ける。

「…さなえ？」

なにか聞こえた気がしたが気のせいだろう。
寝ているのだから大胆なことをしたっていいはずだ。そう、いい。今決めた。
霊夢さんに両腕をまわしてぎゅと抱きしめる。
柔らかくていい匂いがして、とても気持ちがいい。

「…って何してんのよ」

やけにはっきりした声で聞こえたが気のせいに違いない。
気にせずに抱きしめ続ける。
それなりの大きさの胸に頭を擦り付けるように押し付ける。

「ああもう、霊夢さん可愛いです！」
「そう、ありがとう」
「…あれ？」

気のせいにしてはやけにはっきりと聞こえるし、なんだか距離も近いような。
恐る恐る顔をあげると、それはそれは素敵な笑顔をした霊夢さんがいました。

「で、何をしているのかしら？」
「いや、あのその。れ、霊夢さんかわいいですね！」
「早苗ほどじゃないわ」
「そ、そうですか」

さらりと口説き文句を言う霊夢さん。
こんな状況でなかったら、ときめいていただろうが迫る危機に心臓は鳴りっぱなしだ。

「けど」

ずいっと顔を近づける霊夢さん。
相変わらず素敵な笑顔のままだ。怒気のオーラさえ無ければもっと素敵なのに。

「泣いてる早苗もかわいいと思うのよね」

笑顔のままそんなことを言い出した。
必死に逃げようとするががっちりと抱きしめられてそれは叶わない。
ここで問題だ！
どうやってこの危機を乗り越えるか！
①キュートでミラクルな早苗は突如逆転のアイディアを思いつく
②神奈子様と諏訪子様が助けに来てくれる
③現実は非情である
⑨バカ
⑬俺の背後に立つな

「ハッ！」

諏訪子様が近くまで来ている！
なんかこう共振的なものでそれを察知する。
どこに、一体どこに…！

「あー。早苗」
「す、諏訪子様！どこですか！何処にいるのですか！」
「いや、早苗のすぐ後ろだけど…」

答え②　②　②

「た、助けて…」
「いやうん。神奈子には黙ってるから。けど、TPOを考えてね」
「え」

そそくさと立ち去っていくのを気配で察する。
私と霊夢さんがいちゃついてると勘違いしたようである。
普段ならそんな勘違いも、照れつつも嬉しがっていたのだろうが今は違う。

「どうして欲しい？」

答え③

　　　　③
　
　　　　　　③

覚悟を決めて眼を固く閉じる。
強張る私の身体を解すように優しく抱きしめられる。
霊夢さんの顔が近づいてきて


ちゅっ


唇に何かが触れた。

「ふぇ？」
「冗談よ。いくらなんでもそこまでしないわよ」

そう言って霊夢さんは笑った。
先程までの怒気は嘘のように鳴りを潜めている。
そんなことよりも唇に触れたのは…。

「れ、霊夢さん。今、何を…」
「さあね。人の寝込みを襲う巫女には教えないわ」
「そ、そんな…」
「それとも」

意地悪な笑顔で、

「もう一度して欲しい？」
「ツっ！」

そんなことを言うものだから、一瞬で全身が沸騰する。
赤くなった顔を見られないために後ろを向く。

「ホント、あんたって可愛いわね」
「ずるいですよ…」

楽しそうに笑い続ける霊夢さんを背に、私は小さくなることしか出来なかった。

④レイサナ