「実家に帰らせていただきます!」
「実家って・・・」
レミリアの言葉が終わるのを待たずに、フランドールは飛び出ていった。
魔法の森 霧雨邸
「お姉様ったら信じられないのよ!」
霧雨 魔理沙は心の底から参っていた。
「せっかく紅茶を入れてあげたのにそれを・・・」
「(その話はもう4回目だぜ・・・)」
霧雨邸にフランドールが襲来したのはほんの約1時間前、それからずっとこの調子なのだ。
事の起こりを掻い摘んで語ると次のようになる。
フランドールは夫婦同然の姉(少なくともフランはそう公言している)レミリアの為に紅茶を入れたのだ。
しかしレミリアは一口飲むなり、
「咲夜の方が美味しいわ」
と言い捨てて咲夜に入れ直させた。
この仕打ちにフランドールは怒り心頭、紅魔館を飛び出してきた
というわけだ。
「ちょっと魔理沙! 聞いてるの!」
「聞いてる聞いてる」
「この前もね、念入りに体を洗いながらイメージトレーニングもして寝室に行ったの。それなのに何もせず寝ちゃったのよ!」
「あーはいはい(アリスはそんな事してくれないぜ)」
ちなみにこうして喋っている間にも、フランドールは霧雨邸のお菓子類を加速度的に消費している。
自棄食いである。
「この間なんかお風呂で背中流してあげようとしたらね・・・」
「(アリス~早く帰ってきてくれ)」
魔理沙はフランドールの話を右の耳から左の耳に聞き流ながら、紅魔館に知らせに行った相方の帰宅を心待ちにしていた。
紅魔館 テラス
「それはあんたが悪いわ」
「それはレミィが悪いわ」
「それはお嬢様が悪いです」
「あんたら・・・てか、咲夜まで!」
アリス、パチュリーどころか従者にまで責められて、レミリアはちょっとショックだった。
「あんた、フランがわざわざ紅茶を入れてくれたのにそんなこといったら怒って当然よ」
「でも、咲夜の方が美味しいのは本当だし・・・咲夜のほうが美味しいんだから、咲夜がいれたほうがいいじゃない」
明後日のほうを向いて言い訳するレミリア
「そういうもんじゃないのよ!」
椅子から勢いよく立ち上がり怒鳴るアリス。
その拍子に椅子が倒れて大きな音がするが気に止める者はいない。
「いい! 愛情は最高の調味料なの!」
「はぁ・・・そうなの。」
よくわからないレミリアだったが、従者と親友がしたり顔で頷いているのをみて、とりあえず二つ返事を返しておく。
「恋する少女は料理を作るとき、愛する人への愛情をたっぷり詰め込むの」
どこか乙女チックな表情でヒートアップしていくアリス
「あんたはその料理を否定した。つまりフランドールの愛情を否定したのと同じなのよ!」
びしっ、っと人差し指をレミリアに突きつけ宣告した。
「なっ・・・この・・・私・・・が・・・フランの・・・愛情を・・・否定した・・・だと・・・」
驚愕し力無く項垂れるレミリア、見るからに生気が失われていく。
「どうしたら・・・いいの?」
「きちんと、誠意を持ってフランに謝りなさい。」
「うぅ・・・わかったわ。」
レミリアは項垂れたまま了承する。
だが、横から物言いが入る。
「ちょっと待ってレミィ、ただ謝るだけで許してくれるかしら。」
「そうですね。妹様、今回はかなり怒っていらっしゃいましたからね。」
咲夜とパチュリーがそれぞれの意見を口にした。
「じゃあ、どうするの。」
「そうね・・・レミィが手作りクッキーを作って持っていくのはどうかしら。」
「良いわね、それ!」
「私が・・・自慢じゃないけど、料理なんかしたことないわよ。」
周囲の盛り上がりに反して、及び腰になるレミリア
「大丈夫、私がちゃんとサポートするから。」
そんなレミリアのために、アリスは手伝いを申し出る。
「しかたがない・・・お願いするわ。」
他に手も思いつかなかったのか、しぶしぶレミリアもクッキー作りに同意した。
クッキー作りは困難を極めた。
「レミリアそれは塩よ!」
「え?」
レミリアだけならちょっとした問題ですんだ。
しかし、後の2人はもっと厄介だったのだ。
「レミィ、このヤモリの黒焼きを入れたら仲直り確実よ。」
「ホント!」
「そんなもん入れんな!」
「お嬢様、庭に美味しそうな草が生えていたので入れてみましょう。」
「そうね。いいかもしれないわ。」
「よくない!」
「賢者の石を・・・」
「ドクダミなんて良さそうでは・・・」
「この新薬をいれてみて・・・」
「ヨモギなど和風でよろしいのでは・・・」
「いいかげんにしろー!」
始終この調子である。
アリスは、本当はこの2人、姉妹を仲直りさせたくないんじゃないか、と勘ぐりもした。
そんなこんなでも、クッキーがなんとか完成まで漕ぎつけたのは、アリスの家事能力の高さ故である。
伊達に魔理沙の相方を務めているわけではないのだ。
「・・・できたわね。」
「できたわ。」
無事に完成に漕ぎ着けたこと自体が、驚愕ものだった。
「形と色は変だけど、味はきっとおいしいはずよ。」
だれも味見をしたがらないので、味は予想である。
「フランは魔理沙のところにいるわ。急いでいきましょ。心配だわ。」
「がんばりなさいレミィ、私と咲夜は紅魔館から応援してるから。」
留守番を残して2人は霧雨邸に向かった。
「それでお姉様はね~、って聞いてるの魔理沙」
「・・・」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。
いくらほとんどを右の耳から左の耳に流しているとはいえ、
話の数は13種類、平均ループ数は11回、直接の原因である紅茶の話にいたっては17回を数えている。
しかも全てが、私の愛情にお姉様が気付いてくれないの、という文句の皮を被ったのろけ話なのだ。
神経の図太いことには定評がある魔理沙が、限界を超えるのも無理はない。
しかもまだまだ終わる気配が見えない。
「いつだったか一緒に庭を歩いているときにね・・・」
「・・・(その話は・・・9回目・・・だぜ)」
霧雨 魔理沙は朽ち果てかけていた。
ちなみに霧雨邸のお菓子は全滅した。
コン! コン!
「魔理沙~ 生きてる~」
アリスの声に魔理沙の精神が一気に息を吹き返す。
しゃべり続けるフランドールを華麗に放置して、無駄の無い動きで玄関まで駆けていく。
「おう! 今開けるぜ」
玄関の先にはアリスと小箱を持ったレミリアが立っていた。
「お邪魔するわね」
魔理沙を押しのけ、まったく遠慮ない足取りで霧雨邸に足を踏み入れるレミリア。
そのまま居間まで真っ直ぐ歩いていく。
「・・・お姉様・・・何しに来たのよ」
姉の顔を見るなり、ふてくされた表情をするフランドール。
「ごめんなさいフラン、あなたの気持ちを踏みにじってしまって、私が悪かったわ」
「お姉様・・・」
素直に謝る姉に驚くフランドール。
普段の態度からは考えられないことだった。
レミリアは持ってきた箱をフランドールに差し出す。
「お詫びにクッキーを作ってきたの。私の手作りよ」
「お姉様の手作り、本当に?」
信じられないのも無理は無い。
およそ紅魔館で厨房が似合わない女ナンバー1、それがレミリアだ。
「本当よ。アリスにも手伝ってもらったけどね。さあ、食べて」
レミリアから受け取った箱を開けるフランドール。
箱を開けると、なんとも形容しがたい匂いがただよってくる。
形は統一性に欠け、色合いもおかしい。
フランはその内の一つを取ると、一瞬の躊躇の後、意を決して口に放り込む。
「もぐもぐ・・・なにこれ・・・味は・・甘くて辛くてしょっぱくて苦いし・・・匂いは変だし・・・パサパサしてるし・・・」
散々な評価である。
「でも・・・おいしい」
「本当においしい?」
「お姉様が私のために作ってくれたから、私にとっては最高のご馳走よ。」
不安そうな顔をする姉に、フランドールは満面の笑みで答えた。
「・・・ねぇフラン、帰ったら紅茶を入れてくれないかしら、2人でクッキーを食べながらお茶にしましょ」
「うん!」
レミリアは妹の返事を聞くと、アリスと魔理沙の方を向き
「世話になったわねアリス、魔理沙」
珍しく感謝を口にした。
「もう喧嘩はやめてくれよ、本当にさ」
魔理沙の精も根も尽き果てた表情をみて、姉妹はくすくすと笑いあった。
「おいしいね、お姉様」
「当たり前じゃない、フランと私の愛情が詰まったお茶会なんだから」
「最高のお茶会だね」
・・・後日
「実家に帰らせてもらうわ!」
「お姉様の実家ってここでしょ」
「言ってみたかっただけよ!」
ツッコミを入れるとそのまま空に飛んでいくレミリア
博麗神社
「ねぇ、霊夢聞いてよ~ フランってば・・・」
「そ~なのか~(はやくフランを連れて来てルーミア・・・)」
博麗 霊夢は心底うんざりしていた。
そのころ紅魔館では
「きらいなのか~?」
「嫌いなわけないじゃない!」
「すきなのか~!」
「誰よりも愛してるわ!」
「そ~なのか~」
という会話が行われていた。
姉妹夫婦ならぬ夫婦姉妹ですね。
逆バージョンも読んでみたいかも。あとヨモギクッキー食べたい
喧嘩するほどなんとやら…と言いますし、この姉妹なら何があっても大丈夫でしょうw
いえ、書いてください
完成品の味見ぐらいしてあげてw
>しかも全てが、私の愛情にお姉様が気付いてくれないの、という文句の皮を被ったのろけ話なのだ。
それはぜひ聞いてみたい…
ルーミアとフランの会話の続きもw