いちゃいちゃしようって、今日は決めていた。
妖怪の山に、文から貰っている通行手形を犬の天狗に見せて通りながら、あたいはふんふんって拳を回しながら飛んでいる。
やるぞー! って、今から凄く気合が入ってる。
「いちゃいちゃだもん! いちゃいちゃであっちっちーよ!」
そう。いちゃいちゃっていうのは、ラブラブなカップルがぺたぺた触りあったり、うふふって愛を囁きあったりする、傍目にはうざいゴミみたいな存在たちがするほぼ猥褻物みたいな行為、って大ちゃんが言ってた。
でも、チルノちゃんとへたれな天狗さんならほのぼので問題ないよって、何かされたらこれを使ってって、ドクロのマークがかっこいい小瓶を持たされた。
大ちゃんは、よく分からないけどさいきょーのあたいの友達に相応しい、さいきょーの友だ。
そしてそんなあたいのさいきょーの恋人で、お嫁さんで、可愛さ爆発で、ビックバンで、キラッ、びゅう、かあかあ、なのが文だ!
頭の中に文が登場すると、それだけで顔がにへらってして、あわてて引き締める。
でもすぐまたへらってして、ぎゅっとして、へら、ぎゅ、へら、ぎゅ、を繰り返したら、飽きて、もうずっと笑うことにした。
さすがは文、さいきょーねって。あたいは額に浮いた汗を拭った。
文は、あたいのふぁむふぁたーるってやつだといいねって大ちゃんが言ってた。
よくわかんないけど大丈夫! あたいと文はある日運命的に出会い、戦い、そして結ばれた恋人同士で、さいきょーなカップルだから!
クールでマッチョなあたいに、可愛い文は恋をして、あたいも文に夢中なのよ!
今は、どーしても文より背が低いけれど、もっと背がのびたらスーツとか着て、文に氷のバラを持って告白するんだから!
『文、好きだよ! だから結婚しよう!』
『……え? チルノさん』
『文、あたい、文より大きくなったんだから、もう『さん』はいらないよ。チルノって、呼び捨てにしてよ!』
『え? ……そんな、急には……は、恥ずかしいですよぉ』
『駄ぁ目。ね? お願いだから言ってよ?』
『わ、っ、もぉ……! しょうがないですねぇ』
つんって、
恥ずかしがる文が、背伸びして、鼻先に指を軽く押し当て。はにかんでくれる。
『チ・ル・ノ♪』
なんって、
「わきゃあぁぁああぁあん♪」
やばい!
すごい!
文の可愛さブリザード!
あたいってばもうどーしよう?!
今からちゃんと練習しなくちゃ!
そんで、そのままゴールインだよね!?
「そ、それっそれがいい! そうしよう! それがいいんだよぉ!」
「? 何がいいんですか」
「だからね、文にバラを氷でバラバラで……っ!」
「?」
――――。
振り向いたらブリザード、じゃない、文がいた。
ギシリ、とあたいが変な音をたてる。
文は不思議そうにあたいに顔をよせて、お腹でも壊したのかな? っていう感じに、ちょっと心配そうにあたいを見てた。
「…………ッ!」
ボッ! と、さっきまで考えていた恥ずかしい事が文に分かるわけないのに、文ならもしかして、なんて思っちゃって、顔が、ううん、全部が熱くなる。
「チルノさん?」
「な、なんでもない!」
あれれっ?! すごく恥ずかしいよ?!
頭の中のはにかむ文と、目の前で不思議そうにしている文はおんなじ顔なのに、全然違っていて、でもしっくりきてほっとする神秘で、でも顔が熱い。
あぅ、とあたいは顔を隠して、文のお腹に体当たりした。どんっ! て。
でも文はびくともせずに、あたいをあっさりと抱きしめて、平気そうに首を傾げてた。
「? いや、本当にどうしたんです」
「だっ、だからあたいは元気だもん!」
「そりゃあ、見れば分かりますけど」
「だ、大ちゃんが、あたいの頭はいっつも元気だっていってるもん!」
「……大ちゃんさんは、その、少々笑顔できっついですよね」
困った顔で笑って、文はそのままあたいを抱っこして、ゆっくりと飛んでいく。
ぎゅってしてた目をちろりと開けると、それは見慣れた光景で、あぁ、文の家に飛んでるんだなって分かった。
「……うー」
「あやや? 今日のチルノさんはご機嫌斜めというやつですか」
「……ちがうもん」
文にしがみついて、頬を膨らませたら「そうですか?」って、意地悪な声と、楽しそうな笑みが一緒に降ってきて、頭を顎でぐりぐりってされた。
ちょっと嬉しくて、でも「何すんだよー」って抵抗してじたばたすれば、文は「はいはい」って、あたいの背中をぽんぽんってする。
「まあせっかく遊びに来てくれたんですし」
「……ぶう」
「どうせだから楽しくしましょうよ」
膨らんだほっぽを両手でこねられて、抵抗してぷいっとしたら「かわいいかわいい」って言われて、ますますほっぺが風船みたいになる。
嬉しいけど、構ってくれるけど、ちょっとはあたいがリードしたいのにって、いつもいつも、こんな風に子供扱いされて、少し不満だった。
文は、そんなあたいにくくっ、て感じに、喉の奥で笑う様にして、楽しそうに笑った。
かわいいって、たくさん言われた。
言ってもらえた。
ちょっとしか、嬉しくなんてないんだからね!
大ちゃんが言ってた、安い女に見られたくなくて、つーんってしたら、文はますます楽しそうに、声をあげてひぃひぃ笑う。
よくわかんないけど、ムッとしたからちゅーしてやった。
そしたら文はくすぐったそうに唇を舐めて、あははって、私をくるくるって回してくれた。
それから、ふわりと文の羽みたいに柔らかく、五月の風みたいに透明に笑った。
「あー、もう。……かわいいんだから」
きゅうって。
身体の中まで抱きしめられるみたいな、優しい声。
その声が全身をびびびって通っていくと、あたいはぷるぷるしちゃって、ぎゅって文に抱きついて離れたくなくなった。
いちゃいちゃしたいって、さいきょーに思った。
「あ、ああ文!」
「はい、なんなりとチルノさん」
「今日はね、今日は」
「ええ」
「いーっぱい、いちゃいちゃするのよ!」
「と?」
「たくさん、ぎゅーってしてね!」
「わ」
くすり、ってとろける様な音が振ってきて。
「……それは、素敵です」
抑える様な、ふわんってした感触。
きゅうって、またしたからこっそり顔を上げると、口元を抑えて視線を泳がせて、ちらっと見えた耳まで赤い、そっと照れてる文がいた。
イチゴみたいに赤い、可愛くて、さいっきょーの。
あたいの文だ。
ずきゅんってした。
あたいはすごく嬉しくてドキドキしたから、文の身体をよじ登って、今度はムッとしたからじゃなくて、大好きだから。
文の手をどけて、心を篭めてちゅーをした。
文はぽけっとした後に「あやややややや……」って、さいきょーのあたいをメロメロにさせる、さいきょーの可愛い顔をしてくれた。
いちゃいちゃって。
この顔を見たら、顔が熱くてぎゅうぎゅうって身体の奥からたくさん溢れて、早くしたいなーって思った。
でも、今日はまだ一杯あるから。もうちょっとぐらい我慢しようって。
文にもう一回、今度はお互いに笑いながらちゅーをした。
あたいは、バターみたいに溶けちゃいそうで、えへへってご機嫌に笑った。
大さんwwwwwwwwwwwwwwww
文チル最高!!
大ちゃんww
全てがチルノの妄想道理になるとあら不思議、私の妄想道理にww