白澤。
多くは牛の様な体で人面、その顔には顎鬚を蓄えており、顔に三つと胴体に六つの目、額に二本と胴体に四本の角を持つ姿で伝えられる霊獣である。
白澤に遭遇した家は子々孫々まで繁栄すると言われており、聡明で森羅万象に通じ、古来から病魔よけとして信じられてきた。だが僕はこの二つの言い伝えは嘘なのではないかと思っている。その理由は先ず後者から語ろう。
白澤は病魔を退ける存在だと伝えられている。つまりそれは白澤自身が病魔に強い、或いは病魔に冒される事がないと言えるだろう。が……
「病魔よけの白澤が病に冒されるとはね……」
目の前の少女、上白沢慧音は顔を赤くして僕の布団に横になっている。
何故慧音が此処で寝かされているかというと、話は数十分前に遡る。
慧音は寺子屋の子供達に読み書きを教える為の鉛筆を買いに来ていた。慧音曰く、『字と書き方を教えるのには、筆よりこっちの方がいいんだ。』との事だ。かきかたえんぴつと表記された鉛筆を持って楽しそうに生徒の事を話す慧音を思い出す。
そして里と香霖堂の丁度中間地点辺りを歩いていた時に運悪く雨に降られたらしい。そのとき傘を取りに戻るか悩んだそうなのだが、飛べば大丈夫だろうという結論に至り急いで飛んできたそうだ。だが傘を使っていない以上、少しは濡れる事になる。普段ならそれくらい何ともなかったのだろうが、教師としての仕事はもちろん、最近力の弱い妖怪が集団で里を襲ったらしく、疲労が限界に達していたらしい。それに体が濡れた事で疲れが一気に出たらしく、店に着くなり崩れる様に倒れた。そのままにしておく訳にもいかず布団に寝かせた後、額に手を当てると少し熱があった。
こうして慧音は僕に今日一日看病される事になった。軽い熱だし一晩もすれば完治するだろう。
「む、違うぞ霖之助。私は確かに白澤の力を持つが白澤自身ではないからな。」
「ふむ、そういうものなのか。」
「あぁ、そういうものだ。細かい事は気にするな。」
「そうは言ってもね……」
白澤は病魔よけの力を持つ霊獣だという言い伝えは有名だったから、(大体お前は昔から……)慧音も病気には罹らないものだと思っていたのだが、やはり純粋な霊獣と半人半獣は違うという事か。(……おい、聞いているのか?)ひょっとすると慧音は白澤の力を持ってはいるが、半獣故にその加護は完全なものではなく僕の様な半妖と同じで普通の病気に罹りにくいというだけなのではないだろうか。(……む~~)だとするなら慧音が風邪を引いた事も納得がいく。更に……
「……(ゲシッ)」
「痛っ」
「……無視するな。」
「あ、あぁ、済まない。」
「そうやって思考し始めるとすぐに周りが見えなくなるのは昔から変わらないな……。」
「性分だからね、直し様がない。それに僕から見れば君も昔から全然変わらないよ。」
「な、何だと!?失礼な、少なくとも胸は――――ゴホッゴホッ」
「あぁほら、余り無理をしないでくれ。」
体調が悪いときに大声を張り上げたりするからだ。彼女なら分かりそうなものだが、普段の冷静さを欠いているな。
「全く……お前は昔からデリカシーに欠けている。そうやって私の気持ちも知らずに……」
「君の気持ち?」
「あ……い、いや、気にするな。うん。」
「そ、そうか……。」
幼馴染が昔から自分に対して思っている事が何なのかは気になったが、今しがたデリカシーに欠けると言われたばかりだ、深く聞くのは野暮だろう。
「本当にお前は……ゴホッゴホッ!」
「……ただの風邪とはいえ、大丈夫か?」
「ん……まぁ一晩も眠れば回復しているだろう。……すまないが今夜は泊めてくれないか?」
「……まぁ構わないが。」
「そ、そうか。すまないな。」
その時だった。
外で雷鳴が轟いた。
「ひゃぁあ!!?」
その瞬間、慧音は普段の彼女からは想像も出来ないような甲高い声で可愛らしい悲鳴を上げた。
「まだ苦手なのかい?雷……」
「し、仕方ないだろう!怖いものは怖―――ひゃんっ!!!」
弁解をしている最中に雷が落ちた為に、慧音は途中で言葉を途切らせ、また悲鳴を上げた。
どういう訳か、慧音は昔から雷が苦手だった。雨が降る度に怯え、雷が落ちれば悲鳴を上げる。
「全く……やっぱり何も変わっていないじゃないか。」
そう言って体を抱き寄せ、頭を撫でてやる。
「ふえ?」
「昔はこうやってやったら泣き止んだじゃないか。」
雷が鳴る度に悲鳴を上げ、仕舞には泣き出す。それが昔の慧音だった。だから泣き止むまでよく頭を撫でてやった。そうすると何故か泣き止むのだ。
「ほら、もう怖くないだろう?」
「……、うん……」
やっぱり昔と変わらない。すぐに落ち着きを取り戻し、やがて眠ってしまった。
「やれやれだな。
―――――うん?」
布団は慧音が使っているから、予備の布団を出すか。そう思って慧音の傍を離れると、右腕を引っ張られた。
「霖……行かないで……」
「……本当に、昔から何も変わっていないな。」
昔の慧音は、僕の名前を呼びにくいという理由から『霖』と呼んでいた。子供っぽいという理由でかなり前にこの呼び方は止めていたが……
「霖……」
「分かったよ……慧音。」
そう言って再び傍に座る。
と、その瞬間だった。
「うわっ……!!!」
慧音は一瞬のうちに右手を僕の脇腹にまわし、横に転がる容量で僕は押し倒された。
「何を……」
する、と続けるつもりだったが、幸せそうな慧音の顔を見て、
「……まぁ別にいいか。」
と思ってしまった。
「霖……好きぃ……」
「あぁ、僕も好きだよ。」
「えへへ……」
寝言とはいえ、適当に返事をしてやると、寝言で返事をする慧音。これも昔から変わらない。
「お休み、慧音。」
昔と変わらない事に、何故か安心感を覚えつつ、僕は夢の世界へ落ちていった。
◇◇◇
「……うん、完全回復だ。」
霖―――之助の所に泊まった翌日、私は朝早くに帰路に着いた。
「それにしても、霖之助の前であんな醜態をさらすなんて……」
そう言いつつ、私は昨日の夜の事を思い出す。
未だに雷が怖い私に、霖――之助は幻滅しただろうか?だとしたら悲しいな……
いや、もっと酷いのは今朝の事だ。目が覚めたら霖之助の顔が正面にあった。恥ずかしすぎて思わず殴ってしまった。霖之助は「大丈夫だ」と言っていたが……悪い事をしたな。今度お詫びの品でも何か持っていったほうがいいな。
……そうすれば、また霖に会う口実が……
「うふふっ」
意気揚揚と、私は里に戻った。
***
「――――――ん?」
里に着いてから違和感に気付いた。
皆私を見て、なんと言うか……ニヤニヤしている。
「ち、ちょっと慧音!」
「おぉ妹紅、どうした?」
「どうしたもこうしたも無いわよ!」
「す、すまない、話が見えないんだが?」
そう言うと妹紅は数枚の紙の束を私に差し出した。
「こ、ここここれ、本当なの!?」
「ん?なになに……?」
そこに書かれてある文字を見て、驚愕した。
『文々。新聞 号外
里の守護者と香霖堂店主、熱愛発覚!!
雷神様も思わず照れる、雷鳴の中の熱い一夜――――――』
「な、ななななななななななななななぁ……っ!!!」
顔が真っ赤になるのが、自分でも嫌と言うぐらいに分かった。
何時撮ったのかは分からないが、私と霖之助が添い寝(というよりは、私が霖に覆い被さっている)写真がこれでもかと言うぐらいに引き伸ばされ、一面を飾っていた。
「け、慧音……」
「も、妹紅!ち、ちが、あの、これは、その、ええと……」
「……おたのしみ、だったの?」
その言葉を聞いた後、私は意識を手放した。
霖之助に滅茶苦茶嫉妬…パルパル…
慧霖もとっても良かったです!
貴方が描く慧音が可愛い。
慧音が霖と呼んだところは不自然に感じました。
話は普通に面白かったです。
>>奇声を発する程度の能力 様
パルッたんですかw
慧霖良いですよね!
>>華彩神護 様
霖「罪?僕が何かしたかい?」
慧音は可愛いんです。はい。
>>3 様
それは慧音がですか?それともこの作品がでしょうか?
どちらにせよ今後の参考にさせていただきます。
>>4 様
有難う御座います!
>>5 様
香霖堂できる前はその名前で呼ぶ
↓
香霖堂できて霖之助になる。
↓
呼びにくいから「霖」にする。
↓
子供っぽいって思ったから「霖之助」にする。←今ここ
どうでもいいですね、すいません。
>>6 様
白沢は白澤が漢字制限でそう表記されるそうです。
ってけーねが言ってた。
読んでくれた全ての方に感謝!