一応、前作の『さとり先生、~~~』を読んでいただければ、理解度が増します。
「お部屋の掃除は終わったし・・・」
「だらしない姉だと思われたくないですね。しっかり身だしなみ整えて・・・」
「手料理なんかで好感度を上げる事が出来るでしょうか」
こんにちは。地底の妖怪古明地さとりです。
今、私は愛してやまない妹を迎え入れるための準備をしています。
愛しのこいしは無意識故に一度出掛けると数週間は戻ってきません。
それでも、今日辺り帰ってくる予感がするのです。きっとこれも姉の愛の為せる技でありましょう。
こんばんは。地底の妖怪古明地さとりです。
妹は帰って来ませんでした・・・。
カンが・・・鈍ったのでしょうか・・・?・・・まあ、今まで当たった事はありませんが・・・
少し半ベソかきました・・・。ペットに見られて死にたくなりました。
妹は地霊殿の何が気に入らないのでしょう?
あるいは私の何がいけないのでしょう?
私とこいしの間には溝こそないものの、マッターホルン級の山がそびえ立っているのでした。
しかし、私とてその山を乗り越えるべく、努力を重ねてきました。だがしかし、何度登頂を目指しても妹の冷たい言葉に心折られてしまうのです。
もう一人では限界です。
ここは誰か相談相手を呼ぶべきです。
ふむ、たとえば身近に居るところでペット達。
だけど、すでに二匹のペットに何故こいしに嫌われてるのか訊いてみた事がありました。
お燐は、『さとり様がわからないんじゃあ、あたいにもわからないです』の一点張り。もうちょっと頑張った答えが欲しいのですが・・・
お空に至っては『うにゅ?こいし様はさとり様のことが大好きじゃありませんか』とか言っていました。そうだったら苦労してません!
やはり、ここは彼女に頼む他ありませんね・・・
紅魔館当主宛てに書状をしたためました。
内容は、前回の私の心を晒し、それを踏まえた上での真摯な謝罪と協力を仰ぐものです。
はたしてレミリアさんは私の事を許してくださるでしょうか?
一時の過ちとはいえ、友人を陥れるような真似をしてしまいました。簡単には許して貰えないでしょう。
後日。
レミリアさんから返事が来ました。内容は私の謝罪を受け取り、それでも親友としてやっていきましょう。
また、早急に地霊殿に向かい、妹への対処を考える。といった事が達筆に書かれていました。
ああ、なんて素晴らしい方なのでしょう。こうも心が広い方だったのですね。ますます、私のしでかしたことが恥ずかしく思えました。
きっと、こういう方だったからこそ、彼女の妹さんも心を許し、従者や配下に恵まれているのでしょう。
やはり、レミリアさん。あなたが羨ましいです。
私があなたのような方だったなら、こいしも心を許してくれたのでしょう。
更に後日。
レミリアさんを出迎えます。少々遅刻してやって来られました。
いつものドレスをはためかせ、威厳たっぷりに私を見据えます。
「この度は、本当に申し訳ありません。件の事は弁解の余地もないです。どうか一度私を叱ってくださいレミリアさん」
私のプライド1つでこいしと上手くやれるなら、喜んで捨てましょう。
「顔を上げなさい。今日は貴女の謝罪を受けるために来たのではないわ」
言われた通りに顔を上げます。しかし、どうしても目を見ることが出来ません。
「・・・私の目を見なさい、さとり。私は今日親友として来たのよ。親友の目を見ないで応じるのは無礼にあたるでしょう?」
「は、はい、すみません」
慌てて、目をレミリアさんに合わせます。レミリアさんは微笑んでいました。
同時に心の声が頭に流れ込んできます。
・・・ああ、本当にもう怒っていらっしゃらないのですね。なんて器のでかい方だろう。
「どうぞこちらへ、レミリア」
「ええ」
道中。
「どうして遅刻したのです?珍しいですね」
「ああ、出発する時ね、貴女の所に行くって言ったらフランが拗ねちゃってね」
「ああ、妹さんは私に対して嫉妬心をお持ちのようでしたからね」
「ふふっほんとにね。説得するのに時間がかかっちゃたわ」
「仲良くやっておられるようでなによりです」
幸せそうに微笑むレミリアは太陽のようでした。
私にもその輝きの一欠けらでも分けてもらえるでしょうか。
テーブルに着きました。
「よろしかったらどうぞ召し上がって下さい。余り物ですみませんが」
「へぇ、美味しそうね。これ貴女が作ったの?」
「はい」
一口レミリアは私の料理を口にします。
「んー!美味しい!貴女料理上手じゃない」
「これでも結構長いこと作ってますから」
「本当に上手ね。今度作り方教えてちょうだい」
「喜んで」
レミリアに喜んで貰えたようでよかったです。小食の割にほとんど平らげてしまいました。
「それで、今日は貴女の妹さんの事で呼ばれたのよね」
「はい」
「任せなさい、必ず上手くいくようになるわ」
「は、はい!」
ああ、なんて頼もしいのでしょう。実際姉妹で仲良くやっている方が言うと説得力が違います。
「時にさとり、あなたはどのくらいの頻度で妹さんと会っているの?」
「どのくらいって・・・1ヶ月に2、3回ほど」
「1ヶ月に2、3回!?」
ガタッ!!
思い切り机を叩き、椅子を突き飛ばして立ち上がった我が親友。
「えっ?ど、どうしました?」
「あ、いえ、余りに少ないから驚いて」
どうやらすぐに落ち着きを取り戻したようです。
・・・と思ったら椅子を突き飛ばしたのを忘れ、そのまま座ろうとして ころん、と後ろにひっくり返りました。
・・・・・・ピンク、ですか。
「し、失礼。とにかくさとり、それは少なすぎよ。妹さんもきっとガッカリしてるわ」
「はい、私もそう思います。しかし、こいしは帰って来てもすぐ出掛けてしまうのです」
「馬鹿!!貴女がそんなんだから妹さんも出て行っちゃうのよ!もっと軟禁する位の根性を見せなさい!」
「軟禁ですか!?そんな事をしたらこいしに嫌われてしまいます!」
「わかってないわ!妹さんは出掛ける時いつも貴女が止めてくれるのを待っているのよ!さとり、貴女が・・・私達姉が、妹を守ってあげないでどうするの・・・」
「はっ・・・!」
正直、感服しました。そんな世界があったとは。
愛する妹を鳥籠に閉じ込め、逆に愛を育むのですね・・・
姉妹愛の経験者は言うことが違います。
「さぁ、さとり!妹さんが帰ってきてから一週間、軟禁して姉の愛をとくと味わわせるのよ!」
「わかりました!レミリア!」
2人で拳を交わしました。
□ □ □
久々に我が家に帰ってきたー。お姉ちゃん元気にしてるかなー?
あーお腹空いたなー。いつものように余り物食べよー。ってあれ?ない・・・?
おかしいな~お姉ちゃんはいつも私の分まで用意してくれてるのに。
お姉ちゃんの部屋、騒がしいな・・・覗いちゃえ。
・・・だれ?あの吸血鬼?あ、でもフランドールとちょっと似てるかも。案外姉妹とかだったりして。
・・・ないな。地上の妖怪が地底に来るなんて。
それにしても・・・むう・・・随分楽しそうじゃない・・・私というものがありながら・・・
いや、まぁ・・・いつもお姉ちゃんに気持ち伝えてるのに・・・なんか・・・お姉ちゃん気づいてくれないんだよねぇ・・・う~ん・・・だからいつもすれ違ったまま。
はぁ、お腹空いた。今日はここで寝て朝ご飯食べたらまた、どっか行こ。
お休みなさい。
1日目
なんと、朝起きると珍しくこいしが自分の部屋で寝ていました。
「丁度、こいしが帰ってきましたね」
「ええ、いいタイミングだわ。早速決行しましょう」
「あの・・・本当に大丈夫なんでしょうか?」
「何を今さら言ってんのよ。安心しなさい、絶対大丈夫だから」
「は、はい」
「さ、起きないうちにはやく運びましょう?」
「はい。では、足の方を頼みます、って、あ、スカートの中は見ないようにして下さい」
「はいはい、貴女もなかなかの過保護振りね」
私はこいしの脇に手を差し込み持ち上げます。
・・・こうして寝顔を見るのは何ヶ月ぶりでしょうか。幸せそうな寝顔を見ているだけで心が癒されます。
予定通りの軟禁部屋・・・軟禁、ですか・・・。いや、私はもう腹を括ったのでした。レミリアも必ず上手くいくと仰っていましたし。その軟禁部屋に運び入れます。
む、ドアが上手く開きません。地霊殿も老朽化が進んできたのでしょうか。
ベッドにこいしを優しく降ろします。ああ、ほんとうに可愛らしい子ですね。
「さあ、ミッションは始まったばかりよ。今日からガンガン攻めていきなさい!」
「はい!」
今の私にとってレミリアは指針。どこまでもついて行きます、先を生きると書いて先生。
「まずは、得意の料理でもご馳走して心をつかむのよ」
心をつかむ。実は私がもっとも苦手としている部分。なぜならこいしは心が読めません。平生、心を読んで相手の出方を窺っている私にとって難しい事なのです。
しかし!今私にはレミリアが付いていてくれています。彼女は人の観察には長けており、非常に頼りがいがある方なのです!
「はい、頑張ります!」
私の頑張りがこいしに届くことを信じて。
「ううおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!」
少女さとり、全力で料理中...
「お空!火力が足りないわ!!」
「あいっ!!!」
「出来、まし、たっっっ!!!」
「いい出来よ!さぁ、妹さんもそろそろ目を覚ましてるはず。灼熱の内に持っていってあげなさい!」
「はい!」
5分後。
「・・・・・・」
「さ、さとり?」
「レミリア・・・私はきっと妹に愛されてはならない宿命なのです・・・」
「さとり?どうしちゃったの?」
「レミリア・・・今までご教授ありがとうございました・・・!」
「さとり!落ち着きなさい!何があったの!?」
「出家して、悟りを開こうかと思います・・・」
「待って、早まらないで!」
□ □ □
ふわ~あ・・・よく寝た。
あれ?私の部屋こんなだったっけ? う~ん、あまり地霊殿には帰らないからな~
別段外に用事もないけど、お姉ちゃんの心配そうな顔可愛くてやめらんないんだよね~。癖になっちゃった。てへっ。
でも、そんなに心配するくらいなら一度くらい呼び止めてくれたっていいのに・・・
ん、お腹空いた。お姉ちゃんにご飯せびろ。
あれ、ドア・・・どこ?
・・・・・・これ?
・・・・・・ドアノブないじゃん・・・・・鍵穴しかない・・・
・・・どうなってんの?出れないじゃん。
っと、開いた・・・ってお姉ちゃん?
手には美味しそうな料理。あと鍵。
おお、気が利くね~さすが私のお姉ちゃん!もう大好き!
とりあえずご飯かな。お腹が空いたし、鍵あればいつでも出れそうだ。
あ、お姉ちゃんにお礼言わなくちゃね。私、お姉ちゃんに愛想尽かされそうだし。
「ご苦労、お姉ちゃん。お姉ちゃんは料理しか能がないもんね。料理だけ作ってれば私に好かれるって思ったんだね?ふふ、短絡過ぎて、心の瞳なんて必要ないわね!」
訳(ありがとう、お姉ちゃん。お姉ちゃん料理上手だもんね。料理上手な人に私が弱いの知ってるんだね?ふふ、お姉ちゃんはストレートで攻めてくるから心の瞳がなくてもわかっちゃうんだからっ!)
どうかな?私の気持ちわかってくれたかな。
あれ?お姉ちゃん?なんで泣いてるの?あの吸血鬼になんかされたの?大丈夫だよ、お姉ちゃん。私、お姉ちゃんを守るために強くなったんだから!
あっ!待って!どうして出てっちゃうの?
あー・・・出れない・・・やっぱり鍵がないと外に出れないのか・・・寂しい・・・
次の日。
「先日はお見苦しい所をお見せして申し訳ありません・・・」
気恥ずかしくてレミリアの目を見れません・・・
「いいのよ。私も貴女に情けない所見せた事があったでしょう? あの時の貴女の励ましの言葉が支えになったの。今度は私の番。貴女がどんなに挫けようと私は一生応援して見せるわ」
・・・ああ、親友とはこういうものだったのか。
心に流れてくる温かい奔流。その激しい流れに身を預けたくなるような心地よさ。
私、生まれて初めて親友というものを知りました。傷だらけの心が癒されていくようです。
「・・・あ、ありがとう・・・」
「ちょ、ちょっと、泣く事ないじゃない」
不覚にも涙が出てしまいました。しかし、不思議と恥ずかしさは込み上げて来ません。
自分の心は読めませんが、この時初めてレミリアを心から信頼しているのだと気づきました。
「さあ、今日も頑張っていきましょう」
「了解です」
レミリアに1つアドバイスを貰いました。妹の冷たい言葉はツンデレゆえの照れ隠しだと思え、との事です。なるほど、そう思えば心へのダメージがかなり軽減されますね。
・・・具体的な解決になっているんでしょうか。いえ、レミリアの事ですから、きっと深い意味があるに違いありません。思慮深い方ですから。
□ □ □
なんでお姉ちゃんは私をここに閉じ込めたんだろう・・・
ふむ。
きっと、いつも出かける私の事が心配になって目の届くところに置いておきたかったんだね!
やっと私の気持ちに気づいてくれたんだぁ~ 嬉しい・・・
部屋に閉じ込めるのはどうかなって思うけど、束縛が強いの、私は嫌いじゃないよ?
だけど、一言『あなたが心配なの』って言ってくれたらいいのに・・・
もう、お姉ちゃんったら口下手なんだから・・・でも、そういう所も大好きだよ。
あ~あ、退屈だなぁ・・・お姉ちゃんがちょくちょく来てくれるのは嬉しいけど、一言二言で帰っちゃうんだもんな~
必ず泣いて。
・・・最近お姉ちゃんの泣き顔見ると、なんかイケナイ気持ちになっちゃうのはどうしてだろう?
さっき、退屈しのぎにチェスをしようって言ってきてくれた時なんてこれ以上ないくらい愛をこめてお礼を言った時なんて・・・
『わ~い!お姉ちゃん大好き!でも、お姉ちゃんチェスなんて出来るの?いつも独りでいるよね。私友達とよくやるから強いけど、相手になるの?』
訳(わ~い!お姉ちゃん大好き!でも、お姉ちゃんチェス得意?でもいつも忙しいからチェスする暇あるの?私こう見えて友達と練習したから結構得意だけど手加減しないよ~)
泣きました。ゾクゾクしちゃう。
絶対あの吸血鬼に脅されてるんだ!お姉ちゃんは私が守る!
・・・でも出れない。
う~もどかしい・・・この扉一枚向こうにお姉ちゃんが助けを待っているというのに・・・!
ん?少し扉に隙間がある。覗けそう・・・
後日。
「うっ・・・うっ・・・」
「お~よしよし・・・」
「こいしが・・・こいしが・・・」
「わかってるから、わかってるから」
「私の事を・・・ぐすっ・・・お姉ちゃんがこんなんで・・・恥ずかしいって・・・」
「き、機嫌がたまたま悪かっただけよ」
「えぐっ・・・ひどいです・・・私これでも姉として・・・頑張ってるつもり・・・なんです・・・よ?」
「うんうん」
「料理とか・・・こいしが・・・喜んでくれるとおもっ・・・思って・・・・・・がんばってれんしゅうしたのに~~ああああ~~~」
「うんうん。ちゃんとわかってるから・・・」
「なのに・・・こいしは・・・こいしが・・・私の事を・・・ううっ・・・お姉ちゃんがこんなんで・・・恥ずかしいって・・・」
「う、うんうん」
「こいしが・・・私の事を・・・あうぅっ・・・お姉ちゃんがこんなんで・・・恥ずかしいってぇ・・・」
「そんなことないわ。あなたは立派にお姉ちゃんしてるじゃない」
「でも・・・でも・・・」
「妹さんはただ素直になれないだけよ。誰にでも反抗期というものがあるものだわ」
「・・・・・・」
「反抗期に終わりが見えない?そんな事で貴女は妹さんを見限るの?」
「それはありません!!」
「でしょう?なら今貴女がするべき事は、私に泣きつく事?貴女の妹さんの言う、恥ずかしい行為をする事?」
「違います!!」
「それでこそ姉というものよ」
レミリアからすぐ離れます。そうです、私が間違っていました。こんな事でくよくよしている間にこいしのどんどん心は遠ざかっていくのです。
レミリア・・・あなたにはつくづく感服させられます。
この軟禁生活は、こいし自身の心を変えるのではなく、私自身の脆弱な心をを鍛える為のものでもあったのですね。
そこまで、考えてくれていたなんて・・・頭が上がりません。感謝します。
「とりあえず、お風呂嫌いなこいしと一緒にお風呂に入ります!!!」
「それでこそ姉というものよっっ!!!」
□ □ □
・・・お姉ちゃんが・・・吸血鬼に抱きついてた・・・?
・・・いや、見間違いだよ・・・うん・・・きっと・・・そう・・・
だって、お姉ちゃんは、お姉ちゃんは、私の事・・・・・・好き、じゃ・・・なかったの・・・・・・?
もしかして、私をここに閉じ込めた本当の理由は、恋人を見せつけて、私を諦めさせようと、して・・・たの・・・?
一度悪い事を考えてしまうと、転がるように落ちていく。覆す事が出来ない。
もう、ここには居たくない。
何も見たくない。
瞳と心を深く固く閉ざした。
最終日。
「どうだった?随分長く部屋に居れたみたいだけど」
「今日は様子がおかしかったです。話しかけても反応はないですし、抜け殻のようでした。おかげでなでなでしたり、耳たぶをはみはみしたり、やりたい放題でした」
「きっと、それは心を許してきている証拠よ。あと一息ね」
「本当ですか!レミリア、ありがとうございます!」
「まだ喜ぶのは早いわよ。この後、上手くいくのかどうかは貴女によるわ」
「どういう事でしょう?」
「さあね」
レミリアの心は移ろいやすく、読み取りづらい時がしばしばあります。というか、心を読んだ時の手ごたえというものがいまいちわかりません。
「はあ・・・」
これ以外に返事が出来ませんでした。
□ □ □
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
当日。
さあ、いよいよ今までの成果が現れるときです。いつも以上に身だしなみを整え、こいしの好物でテーブルはいっぱいです。
因みにレミリアは紅魔館に帰りました。
まったく、見届けると仰っていたのに。
でもきっと、結果は見るまでもないって事ですね。きっとそうです。
昨日の様子がおかしかったのは気になりますが、もうきっと機嫌は直っているでしょう。
扉の鍵穴に鍵を差し込みます。
「こいし、入りますよ」
昨日と同じ、返事はありません。少し溜め息をついた後、部屋に入ります。
こいしは部屋の隅っこで体育座りをしていました。帽子を目深にかぶり、目元が全く見えません。
「こいし。一週間閉じ込めて申し訳ありませんでした。出歩くのが好きなあなたには辛かったでしょう。しかし、この一週間で私があなたをどんなに心配しているかわかってもらえたでしょうか。あなたに私の気持ちをわかってもらいたかったのです。・・・・・・しかし、それは私自身のエゴである事もわかってるつもりです。お詫びになるかわかりませんが、あなたの好きなものをたくさん作っておきました。食べるのも食べないのもあなたの自由ですが、是非食べてもらいたいです」
誠心誠意、話しかけたつもりです。しかし、こいしはいつのまにか部屋の外をとぼとぼと歩いていたのでした。
こいしの気配は無、そのものです。気づかないうちに出て行っていたのでしょう。
こいしの歩みは確実に出口に向っているものでした。
・・・ああ、また、こいしが行ってしまう。
私は心配する事しか出来ないのでしょうか?
こいしの頼りない背中を見つめている事しか出来ないのでしょうか?
・・・いや、違う。『出来ない』じゃない。今までやらなかっただけじゃないですか!
何もしないままでこいしを見送るなんて、今までの私と変わらないじゃないですか!!
そうだ、レミリアはヒントをくれていたじゃありませんか。
『妹さんは出掛ける時いつも貴女が止めてくれるのを待っているのよ』
『上手くいくのかどうかは貴女によるわ』と。
レミリアは答えを言わない性格です。道筋だけを示すまさに『指針』なのです。
答えに辿り着くのは私自身の強さ。
運命を決めるのは私自身の強さ。
・・・この一週間で鍛えてきたじゃありませんか!!
「待ちなさい!こいし!!」
初めて、こんな大声を出しました。掠れてしまったかもしれません。途中でつっかえてしまったかもしれません。
しかし、こいしの閉じた瞳にも響く大声であったと信じています。
「今すぐ、帰ってきなさい! 私は、あなたが、好きです! 姉妹だとか、あなたが私をどう想っていようが関係ありません! ・・・ただ、あなたが恋しいのです! だから・・・だからずっと!ずっと私の傍に居なさい!!・・・こいし!!」
こいしが立ち止まりました。私は全力で走ってこいしの元へ向います。
普段走ったりする事がないため、息が続きません。しかし、弱音を吐いている場合ではありません。
そのまま後ろからこいしに抱きつきました。こいしは嫌がりもせず受け止めてくれました。
「私はもう泣きません。私は強くなります。あなたを守りたいから。あなたの傍にいたいから。でも、私は弱虫です、泣き虫です。独りでは何も出来ません。ただ、こいし、あなたが居れば頑張れます。強くなれます。あなたに強くなっていく私を見て欲しいからここまで頑張れました」
そうだ、この一週間も誰のために頑張ってきたのでしょうか。言うまでもなくこいしのためではないですか。
ここで、全てを無駄にする訳にはいきません。私の心の内を全てこいしに聞いてもらうのです。
・・・その時、こいしが私の手を振りほどきました。
そんな・・・私の想いは伝わらなかったのでしょうか。・・・一生このままなのか・・・だとしたら私は・・・
しかし、次にこいしは身を翻すと正面から私に抱きついてきました。
深く私の胸に顔を埋めてきます。
「・・・・・・後ろから抱きしめられるよりも、お姉ちゃんの匂いがするからこっちがいい」
あ、鼻血出た。
「お姉ちゃん、私、ずっとその言葉を待ってたんだよ?」
「え?」
「お姉ちゃん、私の気持ち伝えてもすぐどっか行っちゃうから嫌われてるかと思ってたんだよ・・・?」
「そんな・・・いつそんな事を言ってましたか?私があなたの気持ちを受け取らないなんてあるはずがありません」
「え?言ったじゃない、大好きだよって・・・」
「え?」
「え?」
「え?」
どうも噛み合いませんね・・・
「まあいいや・・・今改めて言えばいいもんね」
「大好きですよ、こいし」
「あ、ずるーい。私が先に言いたかったのにー」
「こういう事は姉が優先なのです」
「む、なら仕方ないか・・・」
「ふふふ、そうですよ」
冗談を混じりながら話す私達。これだけの事に何百年かかったのやら。
やっと私の気持ちが届いたのですね・・・
いえ、まさかこいしも同じ気持ちだったとは気づきませんでした。姉として失格ですね。
・・・こいしの心はこれからゆっくりと勉強する事にしましょう。
服越しに伝わる熱が、ただ、愛しい。
あなたの髪も、その瞳の色も匂いも、ただただ、愛しい。
もう一度こいしを強く抱きしめます。
「ねえ」
「はい?」
笑顔で応答する私。
「何であの吸血鬼に抱きついてたの・・・?」
空気が凍りつきました。私の笑顔も凍りつきました。
見・ら・れ・て・た・・・?
こいし・・・そんなドスの効いた声が出せたのですね・・・
「えっっっとぉ・・・・・・・・・」
「お姉ちゃんは・・・あの吸血鬼が、好きなの?」
「い、いえ!彼女は私の友人です!」
「友人に抱きつく・・・?」
声が、低いっ
怖い怖い怖いこわいこわいこわい・・・・・・
「あのっ!あれはなんというか!そのっ!こ、転んでしまってたまたま彼女に倒れてしまっただけなのですよ!だからその・・・あの・・・決して!好きだからとか、そういう訳ではなく、ただ、純粋に・・・あのー・・・転んでしまって・・・と、とにかく私の好きな人はこいしであって、彼女は、私の大切な友人であって!・・・えー、わ、私はこいし一筋ですから・・・・・・こいしが、好きです。こいし以外は、好きじゃないです」
「大切な・・・?」
「あ、いえ、結構どうでもいい、ゆうじん・・・知人です」
「ふうん・・・まあ、そういう事にしてあげる」
ごめんなさい・・・ごめんなさい、レミリア・・・。
私はやはり、どシスコンです・・・。
「こいし、これからはずっと一緒に居ましょうね」
「うん!」
また、こいしは地底には眩しすぎるくらいの笑顔になりました。
つられて私も微笑みます。
「それでは、まずお風呂に入りましょうか」
「ご飯食べたい」
「・・・はい」
あ・・・涙出た・・・・・・泣かないって決めたのに・・・
こんな続編を待っていた
無意識ドS少女可愛い
もうこれしか言えねえ…最高でした!!!
>ピンク、ですか。
何がなのか詳しく
椅子を倒したのくだりでまた噴いたww
こいしちゃんにあれだけ言われて心が折れずによく一週間頑張ったよ……
いい姉妹ーズでした。
>ピンク、ですか。
>それを説明すると○○行き
穿いてないというのか……! なんと恐ろしい……!!
切実に願いますww
>「フラン、お風呂入ろっか?」
>「え!や、やだよっ!恥ずかしいよ」
教え子に先越されちゃってますよレミリア先生。
さとり様もこいしちゃんも想いがしっかり伝わって何より。
後日談として甘々なお話を激しく希望!!
ていうかこいしちゃんそりゃ伝わらんわw
個人的にはプリズムリバー三姉妹と秋姉妹編も見てみたいです。
後日談もお願いしたいです!!
これはお茶会にも期待したい。
最後は姉の根性を見せてくれましたね。
運命を捻じ曲げたさとりんかっこいいよ。
笑いあり、シリアスあり、なのにちゃんとドキドキできて凄くお得感満載でした。
それにしても、姉に焼き餅を焼く妹は何故こんなにも可愛いのかと…フラレミ、コイサトもっと見たいなぁ