Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

あるモノの価値

2010/06/16 18:53:46
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今日は朝から昨夜の雨の所為で蒸し暑い日だった。
何時もは涼しい森の中でもこんなに蒸し暑いのだ、人里はもっと暑いのだろう。なら客の期待は出来ないな。そう思い、僕は何時ものようにある道具の手入れをしていた。
その道具の名は『天叢雲剣』。以前魔理沙のミニ八卦炉を強化した時に、報酬として引き取った大量の鉄屑の中に紛れていた物だ。
この刀には数多くの伝承が残されており、火災を静めるために草を薙いだ事で草薙の剣の別名が与えられた事は有名だ。が、一方では『神器で草を薙ぐなど考えられない』という客観的な意見から、草薙の剣と天叢雲剣は別の物なのではないかという声もある。だが、僕の目にはこの刀の名は『天叢雲剣』と映っており、用途は『降り掛かる災禍を祓う』とある。
ならばあの火災は、誰かがヤマトタケルに危害を加えようとして意図的に起こした事だったとすれば。もしそうなら天叢雲剣と草薙の剣は同じ刀なのだ。その者の勝手な価値観で勝手に違う刀にされてはこの刀も面白くは無いだろう。
価値観の違いといえば、前のこの刀の持ち主であった魔理沙が頭に浮かぶ。このような強力な力を持つ道具を何処で拾ったのかは知らないが、他の鉄屑と一緒に置いていた辺りこの刀の本当の価値になど少しも気付いていないに違いない。
それにこれを持っていたという事は、こんな道具が落ちている場所を魔理沙は知っている事になる。一体何処からこんな道具やあの量の鉄屑を拾ってくるのだろうか。今度強化を頼みに来たら聞いてみようか、それよりもあの魔理沙がそう簡単に教えてくれるだろうか?いや、可能性は零じゃない。零じゃないなら、掛けてみるべきか。
そんな事を考えながら、昼過ぎまで天叢雲剣の手入れをしていた。




***




「やれやれ、何をしたらこんな事になるんだい?」

その日の夕方、朝の蒸し暑さも大分引いてきた頃に僕はある道具の修理をしていた。

「いや、あのブンヤとやったんだけどな、あいつ速いから全然当たんないんだ。だから自棄(やけ)になってファイナルスパーク連射したらそうなった。」

そう言って彼女―――魔理沙は笑った。
話は数分前に遡る。全身ボロボロの魔理沙がやって来たと思ったら、ミニ八卦炉を出して一言『壊れた。』とだけ言った後、修理を僕に押し付け、持参したであろう茸を使って勝手場で何か作っている。、食べられる茸を使っているなら恐らくは茸汁だろう。もう何時もの事なので勝手にさせ、僕は修理に取り掛かろうとミニ八卦炉を分解した。そして内部を見た感想が先程の言葉だ。
はっきり言って酷いの一言に尽きた。ある箇所はドロドロに溶け、また別の箇所は粉々になっていた。一番酷いのは出力制御の箇所で九割がボロボロ、もう使い物にならないのではないかとも思った程だ。

「もう僕の物では無いとはいえ、もう少し大切に扱ってほしいものだね。」

「だーかーらー、悪かったって思ってるよ。だから今こうやって飯作ってるんだろー?」

「全く……、修理には少し時間が掛かるよ。それでもいいかい?」

「少しって、どのくらいだ?」

「少な目に見積もって……一週間だな。」

「一週間!?そんなに掛かるのか!?」

「君が酷使しなければ整備で済んだんだがね。今からするのは修理と補強だよ。嫌ならこのまま持って帰るかい?」

「香霖は意地悪だぜ、私がもうそれ無しじゃ生きられないって知ってるくせに。」

「今までも使えない事はあったじゃないか。」

「それはそうだけど
……!」


―――そのとき、魔理沙に電流走る―――
……そんな声が聞こえた気がした。


「じ、じゃあ……、一週間、泊めてほしいのぜ……」

「泊めるって……此処にかい?」

「だ、ダメか……?」

「フム……」

魔理沙に言われて少し考える。
……魔理沙がいれば、家事はやらなくてもいいし、修理に専念できる。それに読書の時間も増えるか。一日中此処にいることもあるから普段から泊まってる様なものだし、まぁ一週間ぐらいなら大丈夫か……

「別に構わないよ。」

「ほ、ホントか!?」

「あぁ。但し、報酬は若干高くなるよ。」

「また、鉄屑でいいのか?」

そう言われて、昼に考えていた事を試そうと思った。声色からして今の魔理沙は喜んでいる。零じゃないならいける筈だ。

「いや、今回は鉄屑はいいよ。」

「お、ようやく私の実家に遠慮するのを止めたか。」

「いや、そういう訳じゃないんだが……、まぁ頼み事をね。」

「頼み事?」

「あぁ。その大量の鉄屑を何処で拾ってくるのか教えてはくれないか?」

いけるか?

「嫌だぜ。あそこを香霖に教えたら、あの一帯はぺんぺん草一本も残らないからな。」

修正。零には何を掛けても零だった。というか何だその理由は。草に興味は無い。

「……そうかい。」

「そういう事だぜ。さぁ香霖、この魔理沙様特製の茸汁が出来たぜ~。」

「ん、分かった。今行くよ。」

そう言って居間の方に向かうと、既に料理は並べられており、僕が座る席の隣に魔理沙は座っていた。

「ほう、美味しそうだね。」

「当然だ。この私の自信作だからな!」

「その台詞は君が料理を作る度に聞かされている気がするね。……頂きます。」

「細かい事は気にしちゃダメだぜ。……頂きまーす!」

先ずは自信作らしい茸汁に口を付ける。白味噌の優しい味が口の中に広がった。

「うん、美味しいな。」

「当たり前だぜ。料理に一番必要な物を入れたからな。」

「一番必要な物?なんだいそれは?」

「あ……それは、そのー……ひ、秘密だぜ!」

「ふむ、そうか。まぁいいよ。」

そう言って再び食事に戻る。そして料理も半分ぐらい食べたとき、ふと横を見ると、魔理沙が赤くなっていた。時折何か言いたそうに口を開くが、すぐに口を閉じる。そんな事をさっきからしていたのだろう。魔理沙の分の茸汁はすっかり冷めてしまっていた。そして、意を決したかの様に口を開いた。

「こ、香霖!」

「ん、なんだい?」

聞き返すと、魔理沙は箸でおかずの茸の炒め物を持ち、

「ほ、ほら、あーんしろ!」

と言ってきた。

「?あ、あーん」

言われるがままに口を開けると、魔理沙は炒め物を僕の口の中に放り込んだ。うん。美味しい。

「ど、どうだ?」

魔理沙は顔を赤くし、上目遣いで聞いてきた。……何故だろう。この姿はあの人形遣いに見せてはいけない気がする。

「あぁ、美味しいよ。」

そう言うと魔理沙は「えへへ」と笑って自分の食事に戻った。

―――あぁ、そういえば昔同じような事があったな。
確かあれは、魔理沙がまだ実家にいた時の事だ。
久しぶりに親父さんの所へ行き色々と話している内に外は暗くなってしまい、結局その日は泊まる事になった。
夕食の席で、魔理沙が最近箸の持ち方を覚えたらしく、僕の隣で自慢していた。そしてその後、『こーりん、あーん。』と言って同じように箸を差し出した。それを食べた後、僕は―――

「魔理沙。」

「ん?」


それを食べた後、僕は


「ほら、あーん。」


今やっている事と全く同じ事をしてやったんだった。

「えっ……」

それを見て魔理沙は顔をこれでもかと言うぐらいに赤くし、可愛らしく口を開けて箸を受け入れた。

「美味しいかい?」

「……不味い訳が無いぜ。料理に一番大事な物が入ってるんだからな。」

「そうか、それは良かった。」

『料理に一番大切な物』が何かは分からないが、美味しいなら問題ない。

「これだけ料理が美味いなら、何時お嫁に行っても大丈夫だな。」

そう思ったので、魔理沙を褒める意味も含めてそう言った。

「およっ、おおおおおお嫁!!?」

……何故か驚かれたが。

「恥ずかしがる事は無いよ。十分に美味しい。もっと誇ってもいいと思うがね。」

「い、いや、そうじゃなくてな……」

「??」

魔理沙はそう言うと俯き、小さい声で何かを言った。

「こっ……香霖は……貰ってくれないのか?」

「ん、何か言ったかい?」

「な、何でもないぜ!ご、ご馳走様!」

そう言うと魔理沙は寝室の方に走っていってしまった。

「……一体何だったんだ?」

魔理沙がおかしくなった原因を考えていると、そこである考えが浮かんだ。

『あーん』のお返し、お嫁の話――――――
全て子供の時にやった事だ。
そしてお嫁の話をした後、俯いて何かを言うのも同じ。

「まさか……」


「昔と同じで、子供扱いされるのが嫌だったのか?」

そう考えると全て合点がいく。
幼い頃の魔理沙は、何故か子供扱いされる事を嫌がった。『あーん』も、考えてみれば子供にする事だ。それにお嫁の話をして喜ぶのも子供だ。それに最後の俯き小声で何かを呟く行為。あれはよく思い出せば顔が赤く染まっていたような気がする。恐らくは子供扱いされた事に腹を立てたのだろう。だが何故怒った後、慌てて逃げ出すかの様に寝室に行ったのか?それにも当然理由がある。
僕が思うに、ここで声を上げて激昂すれば、大人気ないと思われるかも知れない。子供扱いを何より嫌った魔理沙なら有り得る話だ。
そして行き場を無くした怒りの矛先を枕にでも向けたのだろう。だから寝室へ走って行ったのだ。

「全く……」

子供扱いが嫌いなのは分かるが、精神的にも肉体的にも僕から見ればまだまだ子供だ。昔と変わらない。

「……価値観の相違、か。」

天叢雲剣にしても、自分の事にしても、魔理沙はまだまだ分かっていないらしい。それも、長年魔理沙の事を見てきたから分かるのだろう。

「さて、小さい頃の怒った魔理沙はどうやったら機嫌を直したかな。」

飴をあげたら笑っていたが、今はどうだろうか。やはり子供扱いに怒るのだろうか。いや、下手な価値観で物事を決め付けてはいけないな。だが今は飴なんて無いからな、どうしたものか……
……いや、もう一つあったな。魔理沙が機嫌を良くした事が。


「また昔みたいに頭でも撫でてやれば喜ぶかな?」


そう思い、魔理沙のいる寝室へと向かった。
「魔理沙。」

「こ、香霖。」

「魔理沙、おいで。」

「な、なんなのぜ……?」

「……」


ポン。なでなで……


「ふえぇっ!!?」

「……さっきはすまなかったね。」

「き、きゅう~~~~~~」

「……魔理沙?」




その日、魔理沙は顔を真っ赤にして頭を撫でられたまま気絶した。何故そうなったのかは分からないが、その後魔理沙は次の日の昼まで起きなかった。



投稿ニ作品目。どうも唯です。
調子に乗って二日連続投稿です。
授業中に浮かんだ妄想をぶちまけただけなので、おかしい所があると思います。
前回に同じく誤字や脱字、表現のアドバイス等ございましたらお知らせ下さい。
取り敢えず、この作品を通して言いたい事は一つ。
『魔理沙は可愛い。』これだけです。
最後に、此処まで読んで下さり有難う御座いました。
コメント



1.華彩神護削除
よし、次は朱鷺子だ。はたてだ。大好きだ!!
もちろん魔理霖もいいものだ。
霖之助はイケメン。
2.奇声を発する程度の能力削除
この朴念仁がー!!!!
霊霖に続いて魔理霖とは!ナイスです!!!
この調子でドンドン行っちゃいましょう!
3.名前が無い程度の能力削除
>『魔理沙は可愛い。』
ええ、この世の真理ですね
次は咲霖ですか?それとも別キャラですか?霊夢か魔理沙の続きですか?
全く関係の無い話ですか?
貴方の作品がもっと読みたくてしょうがないです。
4.削除
コメント貰うとやっぱり嬉しいですね。
ではコメ返しです。

>>華彩神護 様
魔理霖いいですよね!

>>奇声を発する程度の能力 様
この調子ですか!?頑張ってみますw

>>3 様
はい、真理です。
次は一応慧霖か幽香霖を予定してます。
まぁ他も多分やりますけどw

あと、タグの「オリジナル設定」消します。
読んでくれた全ての方に感謝!
5.名前が無い程度の能力削除
是非ゆうかりんを!!
6.名前が無い程度の能力削除
これは良いね。ちょと短いけど、短いなりに話がまとまって
すらすらと読みやすい。良くある朴念仁の霖之助と乙女魔理沙の構成何だけど
読んでいて苦にならないくらい。さっぱりした良い出来です。

斬新さや新しいは無いですけど、小説としての構成度合いは実にいい感じです。
次回作も期待してます。
7.削除
コメ返しで~す。
>>5 様
ゆうかりんは大体の案がまとまったら書きます。それまでお待ちを……

>>6 様
有難う御座います!
ご期待に答えられるように頑張ります!

読んでくれた全ての方に感謝!
8.ト~ラス削除
乙女魔理沙こそ総ての心理!最高でした。

それにしても朴念仁に魔理沙を任せられぬ!
と言うわけでこの魔理沙は頂いて逝きまs(ファイルマスタースパーク
9.名前がない程度の能力削除
素晴らしい、素晴らしい!!