最初は咲夜の事を好きになれなかった。
人間なのに、何で妖怪の下僕として生きるのか、わからなかった。
妖怪に縛られて、その短い命を無駄にするのかと、哀れにすら思えた。
だけど、咲夜はこう言った。
「私は自分の意思で、お嬢様のメイドとしているだけで、縛られてなんかいないわ」
信じられなかったけど、咲夜がそう言うんだから、本当なんだろう。
そして、咲夜は続けた。
「逆に聞くけど、短い人生の中で、自分の役目を見つけて生きているのかしら? 私はお嬢様の傍にいる事が役目だと思うから、お嬢様の傍にいるのよ」
「そういうものなのか」
「そういうものなのよ」
私には少しだけ難しいものだった。
だけど、なんとなく咲夜の気持ちもわかった。
何の目的も無しに生きているなんて、つまらない人生だ。
だから、咲夜はその目的たる部分が、レミリアと一緒にいる事なのだ。
私にとって、魔法のような存在で、切っても切れない縁なのだろう。
なるほどなぁ、と思った瞬間でもあった。
そこから、嫌いだった咲夜を、私は少しずつ好きになっていった。
でもまぁ、友達としていてもいいかなぁ~と思う程度になっただけだけど。
紅魔館には図書館があり、そこの本が目当てでちょくちょく顔を出す。
その度に咲夜に会って、注意されていた。
「勝手に入ってきて何してるのよ」
「インターホンも何も無いのに、勝手に入るも何もないぜ。お邪魔しますと礼くらいはしたぜ」
「本当に?」
「いいや、嘘だがね」
だけど、こんな適当なやりとりを積み重ねていると、段々喋るようになってきた。
それは、咲夜が呆れたからかもしれないし、私を受け入れてくれるようになったのかもしれない。
「また来たの?」
「また来たぜ」
「図書館に行くんでしょう? ついでだから貴女の分の紅茶も淹れておくわ」
「お、ありがとな」
私と同じ人間で、少しばかり年が上の咲夜。
私にとってかっこよく見えるし、憧れでもある。
銀色に輝く髪は、綺麗に整っていて、良い香りがする。
身だしなみもきちっとしてて、仕事の時間と自分の時間との区別がしっかりできる。
透き通った蒼い瞳に整った顔立ちは、大人だと感じさせる。
弾幕勝負でも、力だけの私に対して、高度の技術を駆使して攻撃してくる咲夜がちょっとばかり羨ましかった。
とりあえず、私にとって憧れの存在だった。
「魔理沙、何でじっと私を見てるのかしら?」
「え、あ、あぁ、すまない」
咲夜の声で、現実に引き戻された。
今私は、紅魔館の咲夜の部屋にいる。
洗濯物や食器の後片付け、掃除を終えた咲夜は現在休憩中だ。
そんな休憩中の咲夜の部屋にお邪魔して、紅茶を楽しんでいる。
「時々魔理沙ってぼーっと私見てる時あるわよね」
「ん、まぁ、咲夜って顔綺麗だし大人っぽいなぁって思ってじーっと見てるんだぜ」
「冗談でしょ?」
「さぁ、冗談かもしれんな」
咲夜の焼いたクッキーをひょいと摘むと、口の中に放りこむ。
サクッと心地よい音が口の中を満たしていく。
その後、優しい甘味が口いっぱいに広がった。
咲夜は料理も上手い。
そりゃ、私だって女の子だし、料理はする。
だけど、咲夜に比べたら月とすっぽんだ。
以前、私がクッキーを焼いてきて、咲夜に食べてもらった。
「あら、おいしいわね。ちょっと焼きすぎな感じもするけど、香ばしくて良いと思うわ」
「素直に言ってくれてもいいんだぜ?」
「私はいつだって本当の事を言うわ」
「あぁ、覚り妖怪がこの場にいりゃ、そんな事も言えないだろうな」
「あらあら、酷いわ」
傷つけないように優しく私をフォローしてくれた。
もうなんっていうかもう、優しすぎる。
咲夜は自分の事よりもすぐ人の事を心配する。
これはレミリアにも言われていることらしいが、直る気配は無いらしい。
風邪をひいたときも、仕事をするの一点張りで休もうとしなかったらしい。
「今度美味しいクッキーの焼き方教えてくれよ」
「あら、それはなぜかしら?」
「そりゃぁ……そのぉ……」
咲夜は時々意地悪になる。
安易に答えが想像できるだろうに、わざと答えを私の口から聞こうとする。
その時の咲夜の表情は、憎たらしいほどに素敵な笑顔を見せる。
それに、答えを言うまで相手をしてくれないのだ。
だから、私は答えを口にした。
「咲夜にいつも美味しいものばかり食べさせてもらってるから、お礼がしたかったんだよ!」
「そんな大声出さなくてもいいじゃないの。いいわ、今度教えてあげる」
満足そうにする咲夜。
私はその顔へ手を伸ばし、頬を引っ張った。
柔らかい頬はぐにゃりと曲がり、咲夜の顔が歪む。
「なんでこんな満足そうな顔をしてるんだ」
「ひゃぁ、らんれかひらね」
頬を離すと、何事も無かったかのようにすっと立ち上がった。
「夕方のティータイムは終わりね。ちょっと片付けてくるわ」
「あぁ、いってら……」
「ただいま」
「遊んでるだろ?」
「何の事かしら」
時を止めることができる咲夜は、私が返事をする前に帰ってきた。
咲夜は、悪戯好きだ。
時間を止められたら、何をしたのかなんてわからない。
気づいたら帽子がどこかに消えていたり、飲もうとしていた紅茶がすっごく甘くなってたりと、例をあげたら切りが無い。
大人な癖に、悪戯が好き。
なんというか、可愛らしいから許してしまう。
「なぁ、咲夜」
「なにかしら?」
「……いや、なんでもない」
「そう」
咲夜には珍しく、しつこく聞いてこようとしなかった。
何か私から察したのだろうか。
私は、最初のころと比べて、咲夜の事が好きになっていた。
そりゃ、悪戯とかいろいろされるけど、それでもいい。
友達として、素直に咲夜の事が好きなんだと改めて思った。
私はふと窓の外を見る。
もう外は茜色に染まっていた。
これから咲夜は夕飯の準備があって忙しいだろう。
邪魔にならないように、私はここを立ち去る事にしよう。
私はゆっくりと立ちあがると、咲夜に言った。
「ありがとな。今日のところは帰らせてもらうぜ」
「えぇ、わかったわ。それじゃ、足元に気をつけて帰ってね」
「おう、またな」
足を動かしたその瞬間だった。
何かその足に引っかかり、盛大に私はこけた。
背後を見ると、赤い紐がピンッと張ってあるのに気がついた。
私は咲夜の顔を見る。
そこには、満面の笑みがあった。
「あらあら、だから足元に気をつけてと言ったのに」
前言撤回。
あぁ、やっぱり咲夜なんて大嫌いだ。
人間なのに、何で妖怪の下僕として生きるのか、わからなかった。
妖怪に縛られて、その短い命を無駄にするのかと、哀れにすら思えた。
だけど、咲夜はこう言った。
「私は自分の意思で、お嬢様のメイドとしているだけで、縛られてなんかいないわ」
信じられなかったけど、咲夜がそう言うんだから、本当なんだろう。
そして、咲夜は続けた。
「逆に聞くけど、短い人生の中で、自分の役目を見つけて生きているのかしら? 私はお嬢様の傍にいる事が役目だと思うから、お嬢様の傍にいるのよ」
「そういうものなのか」
「そういうものなのよ」
私には少しだけ難しいものだった。
だけど、なんとなく咲夜の気持ちもわかった。
何の目的も無しに生きているなんて、つまらない人生だ。
だから、咲夜はその目的たる部分が、レミリアと一緒にいる事なのだ。
私にとって、魔法のような存在で、切っても切れない縁なのだろう。
なるほどなぁ、と思った瞬間でもあった。
そこから、嫌いだった咲夜を、私は少しずつ好きになっていった。
でもまぁ、友達としていてもいいかなぁ~と思う程度になっただけだけど。
紅魔館には図書館があり、そこの本が目当てでちょくちょく顔を出す。
その度に咲夜に会って、注意されていた。
「勝手に入ってきて何してるのよ」
「インターホンも何も無いのに、勝手に入るも何もないぜ。お邪魔しますと礼くらいはしたぜ」
「本当に?」
「いいや、嘘だがね」
だけど、こんな適当なやりとりを積み重ねていると、段々喋るようになってきた。
それは、咲夜が呆れたからかもしれないし、私を受け入れてくれるようになったのかもしれない。
「また来たの?」
「また来たぜ」
「図書館に行くんでしょう? ついでだから貴女の分の紅茶も淹れておくわ」
「お、ありがとな」
私と同じ人間で、少しばかり年が上の咲夜。
私にとってかっこよく見えるし、憧れでもある。
銀色に輝く髪は、綺麗に整っていて、良い香りがする。
身だしなみもきちっとしてて、仕事の時間と自分の時間との区別がしっかりできる。
透き通った蒼い瞳に整った顔立ちは、大人だと感じさせる。
弾幕勝負でも、力だけの私に対して、高度の技術を駆使して攻撃してくる咲夜がちょっとばかり羨ましかった。
とりあえず、私にとって憧れの存在だった。
「魔理沙、何でじっと私を見てるのかしら?」
「え、あ、あぁ、すまない」
咲夜の声で、現実に引き戻された。
今私は、紅魔館の咲夜の部屋にいる。
洗濯物や食器の後片付け、掃除を終えた咲夜は現在休憩中だ。
そんな休憩中の咲夜の部屋にお邪魔して、紅茶を楽しんでいる。
「時々魔理沙ってぼーっと私見てる時あるわよね」
「ん、まぁ、咲夜って顔綺麗だし大人っぽいなぁって思ってじーっと見てるんだぜ」
「冗談でしょ?」
「さぁ、冗談かもしれんな」
咲夜の焼いたクッキーをひょいと摘むと、口の中に放りこむ。
サクッと心地よい音が口の中を満たしていく。
その後、優しい甘味が口いっぱいに広がった。
咲夜は料理も上手い。
そりゃ、私だって女の子だし、料理はする。
だけど、咲夜に比べたら月とすっぽんだ。
以前、私がクッキーを焼いてきて、咲夜に食べてもらった。
「あら、おいしいわね。ちょっと焼きすぎな感じもするけど、香ばしくて良いと思うわ」
「素直に言ってくれてもいいんだぜ?」
「私はいつだって本当の事を言うわ」
「あぁ、覚り妖怪がこの場にいりゃ、そんな事も言えないだろうな」
「あらあら、酷いわ」
傷つけないように優しく私をフォローしてくれた。
もうなんっていうかもう、優しすぎる。
咲夜は自分の事よりもすぐ人の事を心配する。
これはレミリアにも言われていることらしいが、直る気配は無いらしい。
風邪をひいたときも、仕事をするの一点張りで休もうとしなかったらしい。
「今度美味しいクッキーの焼き方教えてくれよ」
「あら、それはなぜかしら?」
「そりゃぁ……そのぉ……」
咲夜は時々意地悪になる。
安易に答えが想像できるだろうに、わざと答えを私の口から聞こうとする。
その時の咲夜の表情は、憎たらしいほどに素敵な笑顔を見せる。
それに、答えを言うまで相手をしてくれないのだ。
だから、私は答えを口にした。
「咲夜にいつも美味しいものばかり食べさせてもらってるから、お礼がしたかったんだよ!」
「そんな大声出さなくてもいいじゃないの。いいわ、今度教えてあげる」
満足そうにする咲夜。
私はその顔へ手を伸ばし、頬を引っ張った。
柔らかい頬はぐにゃりと曲がり、咲夜の顔が歪む。
「なんでこんな満足そうな顔をしてるんだ」
「ひゃぁ、らんれかひらね」
頬を離すと、何事も無かったかのようにすっと立ち上がった。
「夕方のティータイムは終わりね。ちょっと片付けてくるわ」
「あぁ、いってら……」
「ただいま」
「遊んでるだろ?」
「何の事かしら」
時を止めることができる咲夜は、私が返事をする前に帰ってきた。
咲夜は、悪戯好きだ。
時間を止められたら、何をしたのかなんてわからない。
気づいたら帽子がどこかに消えていたり、飲もうとしていた紅茶がすっごく甘くなってたりと、例をあげたら切りが無い。
大人な癖に、悪戯が好き。
なんというか、可愛らしいから許してしまう。
「なぁ、咲夜」
「なにかしら?」
「……いや、なんでもない」
「そう」
咲夜には珍しく、しつこく聞いてこようとしなかった。
何か私から察したのだろうか。
私は、最初のころと比べて、咲夜の事が好きになっていた。
そりゃ、悪戯とかいろいろされるけど、それでもいい。
友達として、素直に咲夜の事が好きなんだと改めて思った。
私はふと窓の外を見る。
もう外は茜色に染まっていた。
これから咲夜は夕飯の準備があって忙しいだろう。
邪魔にならないように、私はここを立ち去る事にしよう。
私はゆっくりと立ちあがると、咲夜に言った。
「ありがとな。今日のところは帰らせてもらうぜ」
「えぇ、わかったわ。それじゃ、足元に気をつけて帰ってね」
「おう、またな」
足を動かしたその瞬間だった。
何かその足に引っかかり、盛大に私はこけた。
背後を見ると、赤い紐がピンッと張ってあるのに気がついた。
私は咲夜の顔を見る。
そこには、満面の笑みがあった。
「あらあら、だから足元に気をつけてと言ったのに」
前言撤回。
あぁ、やっぱり咲夜なんて大嫌いだ。
咲マリ最高!
はっ!私は何を言っt
咲マリ最高!
よし、俺もこの波に乗ろう
咲夜さんはお茶目さん。よくわかっていらっしゃる。
わざわざ目立つように赤い紐にしたのは優しさ故なのか、それともわざと気づかせて跨いだ着地地点の床に別の仕掛けがしてあったりするのか。