荒削り注意。
「ここをこうして…と。よし、これで!
…えー?まただめかぁ」
「…」
「どこがおかしいのかなぁ」
彼女の家に遊びに来たら中から何やらひょろひょろとした奇音が響いてた。
ノックしても声を上げても反応がなかったから何だか心配になって、勝手に入ってきたのだが…。
「じゃあこうならどう!
…これでも上手く行かない…」
「…」
部屋に入ってみると、彼女、アリス・マーガトロイドは何やら怪しい機械群のなかで必死になってカチカチと指を動かしていた。
相変わらず綺麗な指。見とれてしまう。…じゃなくて。
「せっかく紫に無理言って外から取り寄せてもらったのに」
ああ、あれだ。確か、「ぱそこん」だったか。霖之助さんのところで見たことがある。何だろうか。霖之助さんよりもよっぽど様になっている気がする。
しかし変な音。ぱそこんから鳴っているようだが、何かの音楽か。いやこれで音楽だなんて言ったらプリズムリバー3姉妹にどやされるか。
とにかく、彼女は私の侵入にすら気づかないほどそれにのめりこんでいるようだった。隣の机に置かれているティーカップから湯気が消えているあたり結構な時間を要しているのだろう。
「絶対に諦めないんだから!」
「…♪」
今の彼女は声をかけたって恐らく気づかない。
何時もの彼女は周りの変化に敏感で、よく気が回るタイプだが、1度何かに集中しだすと、驚くほど周りが見えなくなってしまう。一見欠点のように見えるが、そうでもない。そのときの彼女の横顔がとてもとても楽しそうで、何時ものお姉さんのような雰囲気が嘘のように消えうせた、まるで小さな少女のような無邪気な笑顔になっているから、私にはとても欠点だなんて思えない。いやホント。何時まで眺めてたって飽きない。むしろずっと見ていたいくらい。
しかし、一体何をしているのか。ここからではよく見えない。よく見えるよう場所を移動しようとして…。
がしゃーん
「よし!…?なにかしら」
「あ」
近くに置いてあった素材箱を思いっきり袖を引っ掛けてなぎ倒した。これでは流石の彼女も気がついたようで。
「あ、どうも。久しぶりねアリス」
「あらいらっしゃい霊夢。昨日会ったばっかりだけどね」
「うんまあ。それにしてもあんた何やってんの?それ」
「え?ああ、これ?これはね。…。…?」
「アリス?」
「…もしかして聴いてた?」
「ええ。外まで聞こえてたし」
「そう」
そう言って後ろを向く彼女。何か気に障ることでもしたのだろうか?
心配になって彼女に謝ろうと横から覗き込むと。
「あ」
「…」
「顔真っ赤」
「…当たり前よ。恥ずかしいんだから…」
「あー」
耳まで真っ赤。何かにのめり込んでいるときの彼女の顔も好きだが、こうして恥ずかしがっている彼女の顔もまた好きだな。これがまた。
「ところで」
「ん?」
数分後。ぱそこんをなおしてそのままティータイムへ突入。
「あれは何だったの?」
「あーあれね」
アリスが焼いてくれていたフィナンシェをもしゃもしゃとしながらあの不思議な音楽についてたずねてみる。
「DTMよ」
「でーてーえむ?」
「ディーティーエム。デスクトップミュージック。まあ簡単に言うとパソコンで音楽が作れる機能のことよ」
「へえー」
「人形作りみたいに上手くは行かないみたい。仕方ないけど」
何だかよくわからないが、まあとにかく凄い機能なんだろう。うん凄い。まあそれはよしとして。
「じゃああれは何の曲だったの?」
「え?そ、それは…」
「教えてくれてもいいじゃない。私たちの仲でしょ?」
あ、また顔が赤くなっていく。目をそらし、顔をうつむけ、手は服の裾を握ったりはなしたり。うん。可愛い。
「笑わないでよ?」
「うん」
「…のための…曲よ」
「え?」
「だから!…あなたのために作った…曲…」
「…え?」
私の曲?なんでまた。
「あなた弾幕ごっこのとき、凄く強くて、凄く…可愛いから、それにあう曲があったらもっと可愛くなるかな…て」
「あ、ああ。なるほど」
「…笑わないでよ」
「ううん、微笑んでるの」
「同じじゃないの」
仕方ない。嬉しいんだから。楽しみなんだから。
「楽しみにしてるわね」
「もう…。精々楽しみに、してなさいよ」
「♪」
…
月が欠けた夜。明けが来ない夜。異変の気配。
あいつらが動いたらしい。自然と笑みがこぼれる。
…楽しみ。
おまけ
「うへ~。強かったな霊夢のやつ。今日は特に」
「ええ。2人がかりでもきついくらい」
「それになんかあいつ終始笑ってたし」
「ええ。何かいいことでもあったんでしょう?」
「…なあ」
「ん?」
「戦ってるときは必死で気づかなかったけど、勝負中なんか音楽がなってなかったか?」
「そう?きっと気のせいよ」
アリスは何の曲を作ってたんだろう…少女綺想曲と人形裁判を合わせた曲とか?
レイアリ愛はたくさん入ってました!
でもこのSSを書いてるあたり転んでもタダじゃ起きない派なんですね、わかります
あと誤字報告です>「怪しい機会群」、「機械群」でしょうか