間欠泉によって開いた穴。
本来ならば光が届かないはずのこの地底世界にもわずかだが月の光が降り注ぐ。
今日は満月か……。
古明地さとりは久しぶりに『月』というものを見た。
地にぺたんと、座る。
月を見るのはいつぶりだろうか。
そう物思いにふけていると
「お・ね・え・ちゃ・ん♪」
何時の間にかさとりの妹――古明地こいしがさとりの後ろにいた。
こいしは手に何かを持っているようだ
お団子でも持ってきたのかしら。
「あら、こいしも月を見に来たのですか。……今宵の月は綺麗ですね」
「……本当にそうね」
「……こっちにいらっしゃい」
さとりはこいしに手招きする。しかし、こいしはこちらに来ない。ただにこにこと笑顔でさとりの方を見ているだけ。
「月よりも綺麗なものを見つけたわ」
「ふむ。それは一体?」
「お姉ちゃんよ」
「冗談はやめなさい」
「冗談じゃないよ、お姉ちゃんは綺麗だわ」
「まあ、褒め言葉として受け取っておきましょう」
いつもにこにこ笑っているだけ。その笑顔は能面のよう。
「(そんな顔で褒められてもどうとも思わないわ)」
そこでこいしが手に持っていた何かを隠す。
「あのね、今日はお姉ちゃんにプレゼントがあるの」
「あら、嬉しい。一体何をくれるのかしら」
こいしが『それ』を渡そうとさとりに近づく。
こいしが手に持っていたそれは――根ごと掘り返されたと思われる血のように赤い色をした花だった。
「ひっ!……赤い……花?」
「そうよ、彼岸花」
「彼岸花……ですか」
球根ごと掘り出されてしまってこの彼岸花もかわいそうに……。
しかし、こいしの気持ちはありがたく受け取っておかねば。
そんな事をさとりが考えていた時、こいしがさとりにこんなことを聞いてきた。
「彼岸花の花言葉を知ってる?」
変なことを聞くものだ。そう思いながらその問いに答える。
「花言葉?確か……『悲しい思い出』」
そこではっとする。
『悲しい思い出』
こいしは私に怒っているのではないのだろうか。
今までペットを介してしか妹と向き合ってこなかったダメな姉にこいしは幻滅してしまったのではないだろうか。
だから、毒性がある、『悲しい思い出』という花言葉をもつこの花を私に渡そうとしたのではないだろうか。
これは決別宣言!?
「今夜は月が綺麗ね」
「え、ええ」
明らかに動揺した顔でそれに答える。
こいしがそんなさとりの耳元に顔を近づけていき、そして
「私、死んでもいいわ」
そう囁く。
呆然としてしまう。
私はこいしを苦しめていたの?それなら……それだったらむしろ私が……!
顔面蒼白になって呆然としているさとりの顔にこいしは自分の顔を近づけていき……
唇と唇が重なる。
「!?」
「うふふ♪」
唇と唇が離れる。
こいしが先程までの能面の笑顔とは違った幸せそうな笑顔をしてくるくる回る。
楽しそうにくるくる、くるくると回る。
さとりには、流れるこいしの綺麗な髪が月のように輝いて見えた。
「今夜は月が綺麗だね!お姉ちゃん!」
「えっ、えっ!?」
何が起こったのか把握しきれていない。
妹から死にたいというような言葉を告げられ、それからキスをされてああもうなにがなんだか!
するとまた、こいしがさとりの耳元で
「じゃあまた会う日まで、お姉様。待ってるから」
と呟くとさとりの頭を撫でてさとりからすーっと離れていく。
「ちょっと!こいし!」
「バイバイ!」
こいしはさとりに手を振る。
その姿はどんどん薄くなっていく。
「こいし!」
そうしてこいしは突然私の眼に入る世界から、私の意識から消えてしまった。
「I love you...~♪」
お姉ちゃん、彼岸花の花言葉はね。
『悲しい思い出』だけじゃないのよ。
彼岸花の花言葉は『また会う日を楽しみに』、そして……
彼岸花の花言葉は自分的にはかなり好きなので良かったです
さとりは結局こいしの想いを理解することは出来ないのかしら…
本命はこいフラかもしれないけど、無意識にこいさとを求めてるいに違いない!