ちゅんちゅん……
清清しい風が、今日も幻想郷を駆け抜ける。
鳥たちの目覚めの歌が、朝になったことを知らせていた。
白みがかった空に腕を伸ばせば、今日一日の活力が沸いてくる。
今日も住人たちは、平和な幻想郷を謳歌し……
どっこおおおおおおおおおおおおおんんんん!!
バサバサッ!!
突然の爆発音に、朝のコーラス隊が空へと飛び上がった。
さらに早起きの住人たちも飛び上がり、まだ寝ていた住人たちも何事かと起き上がった。
視線の先には、もくもくと黒い煙が立ち昇っている。
方向からして、博麗神社の方角だろうか。
方角というか、もろ博麗神社っぽい。
いや、被災地は博麗神社だろう。
そう確信した住人たちは、何事も無かったかのように、朝空から気力を貰う作業を再開した。
一方その頃、博麗神社では……
「……みみゅ。饅頭怖い……zzz」
どっこおおおおおおおおおおおおおんんんん!!
「……んぅ? ……玉露怖い……zzz」
博麗の巫女が、裏の山から響く轟音を無視して、幸せを謳歌していた。
『此処が……分岐点なのね……』
< ちびゆかの幻想 ~第一話 私の名前はちびゆかだもん!~ >
「……いったぁぁぁぁい!」
太陽がすっかりのぼり、今は正午。
先ほどの爆発が嘘のように、幻想郷はやっぱり平和に満ちていた。
神社の裏山の一部は、みごとに禿げていたけど。
「コレくらい我慢しなさい」
「腕一本吹き飛ぶのが、コレくらいなの!?」
「幻想郷ではよくあることよ」
「無いから! 少なくても私の知ってる世界では!」
肘から先が無い少女を、博麗の巫女、ねぼすけ霊夢が治療をしていた。
符で患部を包み込んで止血し、回復を促進。
さらに体中にある小さな傷は、ツバをつけておけば直るとかいって嘗め回し
「きゃぁああ霊夢おばちゃんの変態!」
「お、おば!? いい度胸じゃない。表へ出ろちびすけ」
「ちびすけじゃないもん! 私の名前はちびゆかだもん!」
「それはさっき聞いたわよ。えっと、ゆかりの隠し子だっけ?」
「違うけど合ってるというか、えぇっと……」
ちびゆかと自分の事を呼んだ少女は、肘に張られた符を捲りながら言いよどんでいた。
そもそもちびゆかとは誰なのか。なぜ博麗神社で治療を受けているのか。
すべては数時間前に遡る。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「此処が……分岐点なのね……げほっげほっ! もう何この煙!」
爆発地点の中心地。
そこに一人の少女が居た。
白に赤いラインが入った帽子に、赤と紫の服。
赤いクリスタルを胸につけ、その背中からは、色とりどりの宝石がついた羽が生えていた。
誰が見ても思わず可愛いと言ってしまうほどの顔立ちをしている。
が、今は煤で汚れていて、ルックス50%低下といった感じだ。
金色の長い髪の毛もボサボサになり、毛先が今も燃えている。
「おっかしいなぁ。転移に失敗したのかな……って熱い! きゃぁぁ髪の毛燃えてるし! ってうわぁあ何か痛いと思ったら、右手が無いし!」
慌てて左手で、火を消す。
膝あたりまであった髪の毛は、無残にも腰までの長さになってしまった。南無三。
「うぅ……せっかくママにほめてもらった髪の毛なのに~……ま、又伸ばせばいっか! アフロにならなかっただけでも良しとしよう、うんうん……うん?」
右手が無いのに、ポジティブシンキングな子だった。
ちなみに、右手からはドクドクと血が垂れ流し状態だが、気が付いてないらしい。
となると、当然貧血を起こすわけで。
さらに黒い煙で酸素が薄く、火を消すのに暴れたり大声出したら、貧血を促進するわけで。
結果、少女は急にぱったりと倒れた。
そして、目が覚めたら布団に寝かされていたのだ。
「こ、ここ…・・・は?」
「あら、目が覚めたのね。まだ起きてはダメよ。すぐに霊夢を呼んでくるから寝ていなさい」
「あ……待って、マ……マ……」
ぼやける視線に映った紫の服。
それを追うように手を伸ばすが、次の瞬間、彼女の意識はまた途絶えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ところでママは?」
「ママ? あぁ紫なら、眠いとかいって帰ったわよ」
「そうなんだ。こっちでもママは変わらないんだね」
「変わらないかどうかは知らないけど、紫はずっと紫であることは想像がつくわね」
はがそうとした符を、霊夢がまたピシリと貼り付ける。
痛いのだろう。少女は顔をゆがめて必死に訴えるが、霊夢はそしらぬ顔で欠伸までしていた。
「てか、あんた吸血鬼なんでしょ? 腕くらい生えてこないの?」
「だって、太陽が昇ってるもん。夜ならこのくらいの傷、一時間くらいで治るんだけど」
「ふうん。その髪の毛も?」
「これは無理かな。また伸びるのを待たないといけない」
「そう。せっかく綺麗なのに、残念ね」
霊夢が、少女の焦げた髪の毛を撫でるように指をすべらす。
櫛を通したくても、この状態では引っかかってうまく通らないだろう。
「そうだ。私が切ってあげようか?」
「え、本当にいいの霊夢おばちゃん!?」
「ついでにあんたの首の斬ってあげようか?」
「あわわわ、ごめんなさい。ついクセで」
どんなクセよ、と言いながら戸棚からはさみを取り出す。
銀色に輝くはさみは、まるで新品のような光沢を放っていた。
「ほら、そこじゃ髪の毛が散らばるでしょ。外に出なさい」
「は~い♪」
とてとてパタパタ。
羽がうきうきしていることを表しているかのように動く。
太陽に照らされた宝石のような装飾が、さらに輝きを増した。
でも、美しいというよりは、やっぱり可愛い。
その姿はまるで最近のフランドールにように。
「そうか。どこかで見た羽だと思ったわ。フランドールと同じじゃない」
「? お母さんがどうかした?」
「……は? あんたの母親って紫じゃないの?」
「私は、紫ママとフランお母さんの子供だよ?」
「はぁ!? いつから紫は犯罪者になったのよ。てか、どういうことか説明しなさい」
面白そうだから、という言葉を飲み込み、少女を縁側に座らせ、はさみを首元に当て説明を要求する霊夢。
人、それを脅しという。絶対にかわいい少女にするべき行為ではない。
「霊夢お……ねえちゃん。首に当たってる、当たってるよ!」
「あててんのよ。いいから答えなさい。紫とフランが何ですって?」
「やっぱり此処が分岐点なんだ……」
「分岐点?」
「あ、うん。なんでもない。ちゃんと説明するから、首チョンパは簡便してほしいかな」
「しょうがないわね……お好みの長さは?」
「え?」
「髪の毛」
「えぇっと、じゃぁできるだけ長く」
「はいはい」
ちょきちょきと、小気味いい音が霊夢の手元からなり始めた。
その音に合わせるかのように、少女が語り始める。
「……私の名前はちびゆか。紫ママとフランお母さんの子供。そして、過去を守るために未来からやってきた使者」
「いきなりスケールがでっかくなっわたね」
「未来といっても、可能性の世界……らしいよ。私にとっては現実なんだけどね」
「ふうん。あ……」
「何?」
「な、なんでもないわ続けて」
耳元で、ジョキっと音がしたけどそれは気のせいだろう。
ちびゆかは、自分の帽子を握りしめながら、話を続けた。
「過去、えぇっと、"この時間"を守るって言ったけれど、本当は必要ないらしいの」
「たとえ"今"が壊れても、それは壊れた未来、可能性につながるだけ。ほかの可能性が消えるわけではなく、それはそれであり続けるものね。少し語弊はあるけれど」
「あら紫じゃない。おはよう」
「マ……ママ!?」
にょきっと、ちびゆかの前に出てきたのは、眠いと言って寝たはずの紫だった。
(面白そうだから)爆発の現場へいち早く駆けつけ、(面白そうだから)そこに倒れてるちびゆかを神社へ送り届け、(面白そうだから)霊夢に押し付けた本人がそこにいた。
「はぁい、面白そうな話をしていたから出てきちゃった♪」
「その前にまずその寝ぐせを直してから、出直してきなさい」
霊夢の指摘に、ぴょこんとアホ毛みたいに立っている髪の毛をあわてて隠す。
コホンと咳を一つ。隙間に座りなおし、ちびゆかに視線を送りつつ口を開いた。
「初めまして、ちびゆかちゃん。私は貴女のママじゃないけれど、ママって呼んでもいいのよ?」
「う、うん? ママ?」
「あぁなんて甘美な響きなのかしら! 聞いた霊夢聞いた? ママよママ。私急に子供がほしくなってきたわ。むしろ今から子作りしましょ霊夢!」
「うっさい。落ち着かないとこの子の首が飛ぶわよ。わりと本気で」
「なんで私の首!? それとママ、不倫はだめ!」
さっそく違う未来へと一直線に向かうところを、すんでのところで回避。
そもそもこの世界では不倫でもないのだけれど。
「紫のせいで話が止まったじゃない」
「あら、ごめんあそばせ。ところでこの子はなんですの?」
「そこから説明し直しなの!?」
このままだと話が進まないので、現状を要約しよう。
少女の名前はちびゆか。命名は永遠の17歳のゆかりん。
ネーミングセンスが悪いといわれ続けたが、フランが認めたのでこの名前になったらしい。
そして、紫とフランがにゃんにゃんな関係になった可能性からやってきた未来人である。ミ・ミ・ミラクル♪
未来では、霊夢、紫、ちびゆかで異変解決に尽力していたらしい。
そして、とある異変の時、それは起こった。
「私が消えた?」
「うん。突然、霊夢おば、おねえちゃんが消えたの」
「はぁ、もうおばちゃんでいいわよ。あなたの時代では私はもう40歳とかなんでしょ?」
「ううん、22歳独身処女」
「やっぱりおばちゃん禁止!」
今の霊夢とちびゆかでは、それほど年の差はないだろう。
それでおばちゃんと呼ばれたら、怒るのも無理はない。ましてや22歳でおばちゃんと呼ばれたらぶち切れてもいい。
未来の霊夢がゆるす。
「霊夢落ち着きなさい。子供から見たら大人は全部おばちゃんよ。私みたいなうら若き乙女でも……」
「紫は仕方がないわ。で、どうして私が消えたのが、こっちに来ることに繋がるのかしら」
「んと、パチェさん曰く……えぇっと……あれ、なんだったかな?」
「そこ一番大事じゃない!」
「待って、思い出すから。えぇっと、博霊の巫女が、幻想郷で、じゃないか。幻想郷は博霊の巫女によって、うぅん」
「私はババァじゃないわ!」
「反応遅っ! じゃなくって、今大事なところだから紫は黙ってなさい!」
「あぁん、喉まで出かかってたのにぃ!」
はい、話が進まないので説明タイムに移りましょう。
幻想郷。それは博霊大結界により外の世界と分かれている。
だがそれは今はどうでもよく、問題は博霊の巫女という存在である。
彼女の存在は、幻想郷からも浮いている。そして時間、運命、可能性、過去現在未来からも。
無限の可能性がある"未来"。可能性の数だけ彼女は存在するはずなのだが……
ある条件がそろうと、すべての可能性に影響をおよぼすらしい。
たとえば霊夢が"過去"で死ぬと、現在、未来の霊夢もいなくなってしまうのだ。
「まじ?」
「マジらしいです」
「あらあら、では私がここで霊夢とにゃんにゃんしたら、貴方は居なくなるのかしら?」
「そうなる可能性はあるけど、まだ私が存在してるということは、この世界のママはフランお母さんとにゃんにゃんするか、条件がそろってないのだと思う」
「子供がにゃんにゃん言うな。紫も言わせるな」
霊夢に指摘されてから、顔を赤らめるちびゆか。
やっぱり少し天然なのかもしれない。
「ところで、その条件って何かしら?」
「パチェさんが色々言ってたけど、意味がよくわからなくて」
「だめじゃない。どうせその説明の時に紫が横から、ちゃちゃを入れてたんでしょ」
「う、うん……」
「私のせい!?」
霊夢にがっちり睨まれること数十秒。
紫はDOGEZAで謝まっていた。
この世界の紫はたぶん悪くないけれど、紫だし。
「でもでも、パチェさん曰く簡単に言うと、"悪の組織に霊夢が襲われる! そこに颯爽と正義のヒロイン、ちびゆかが参上した! がんばれちびゆか、未来は君の手にかかっている"らしいです」
「悪の組織……分かったわ。後でパチュリーの前髪もぱっつんにする」
「それ変わってないよ?……も!?」
「正義のヒロインちびゆかは、細かいことは気にしないものよ?」
「きーにーすーるー! あぁ髪の毛がかなり短くなってる! しかも逆立つくらいにぼさぼさ!?」
何をどうしたらサラサラだった髪の毛がボサボサになるのか。
やたら横に広がった髪の毛は、金色に輝いている分、神秘的ではあったが……それでもボサボサだった。
「大丈夫、ぱっつんになったのは左だけ。右はほら、おろしたらまだ胸くらいまであるわ」
「霊夢おばちゃんのバカバカ! 直してよすぐに!」
「右もぱっつんにしてあげましょうか?」
「ごめんなさい霊夢おねえちゃん」
「素直でよろしい。ほら、帽子かぶって、横髪を前に持って……こうしたら、ほら可愛い」
左目だけだして、右目が髪の毛で隠す、変わった髪型の少女がそこに現れた。
新生ちびゆか誕生の瞬間である!
「可愛いのは知ってるもん。うぅ、なんでこんなことになったのよぅ」
「これも運命だったのよ。たぶん」
「こんな運命、レミリアおばちゃんに変えてもらうもん!」
「そうか、レミリアはあんたの叔母にあたいするのね。そうか、そうよね。笑ってはだめよね、うん。今度レミリアおばちゃんって呼んであげよう」
霊夢は現状を楽しんでいた。
霊夢らしいといえばそうなのだけれど、命を狙われているということを完全に失念していた。
平和すぎたのだ。
あの紫ですら、DOGEZAのまま固まって……
無音
紅い世界
「!!」
「危ない霊夢おねえちゃん!」
突如回りが変わった。
世界が紅く染まり、風の音もなくなったのだ。
そこままるで、咲夜の世界を、血で染めたかのような世界。
その世界に。
一本の槍が刺さった。
その槍は……神槍グングニル。
「ッチ、はずしたか」
槍の上から声がする。
どこか威厳のある声。霊夢にも聞き覚えのある声。
ソレは、真赤な服に身を包み、背中の羽をはばたかせながら降りてきた。
「レ、レミリア?」
「ごきげんよう霊夢。ごきげんようついでに、死んでくれる?」
「なっ!」
レミリアの指先から放たれる弾幕。そのどれもが規格外。丸い球なのはなく、先が尖りあたれば肉に突き刺さるだろう。
それが、よけることが出来ないほどの密集。
結界で防ごうにも、間に合わない!
「させないんだから!」
とっさにちびゆかが手を前にかざす。
すると、ちびゆかと霊夢に向かっていた弾幕だけが、"消滅"した。
灰も残さず、音もなく消え去ったのだ。
「お前は……ちびゆかか」
「ちびゆか!? あんた……」
「霊夢おねえちゃんは、私が守る! 変身!!」
ちびゆかの掛け声とともに、彼女の服に変化があらわれた。
赤と紫の服に、フリルがたくさん付き、リボンもところどころに施される。
千切れていた右手が復活し、爪が伸びる、
胸の赤いクリスタルが、半分に割れ、手の甲にくっつく。
右手は赤。左手は紫。
そして、目も同じように色を変えた。
右目は赤。左目は紫。
彼女の額に光があふれ、金色にきらめくティアラが装着される。
そして、はじけた。
「正義の色に想いを重ね、悪意を消し去る永遠の少女! ファンシーちびゆか只今見参!!」
「……」
「……」
風がないはずなのに、風が吹いた気がした。
「だから私はやだって言ったのに、ママの馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!」
ぽかぽかと、地面にDOGEZAしている紫を叩くファンシーちびゆか。
どうやらさきほどのアレは、未来の紫が考えたものらしい。
だが、とうの紫は石のように固まっていた。
ふわふわの服ですら動くことはなく、そこだけ時間が止まっているようだ。
否、その空間で動ける者は、霊夢とファンシーちびゆかと、そしてレミリアだけのようだった。
「ちびゆか」
「……こういう風にしたらカッコイイってママとお母さんと、パチェさんが……」
泣きそうな声でつぶやくファンシーちびゆか。
霊夢は確信した。ポーズはフラン、服は紫、そしてセリフは間違いなくパチュリーの考案だと。
そしてさりげなく、親指を天に向けてグッジョブとつぶやいていた。
「と、とにかく!」
がばっと頭を持ち上げたファンシーちびゆかが、人差し指をレミリアにむけて差しむける。
そしてここ一番の声量で、宣言を言い放った。
「あなたの存在を、この世界から末梢する!」
<次 回 予 告>
「ファ、ファンシーちびゆか、だと!? 知らないぞそんな存在は! 私の歴史の中に存在していない!」
「何を驚いているの、あの馬鹿」
「あれはレミリアおばちゃんじゃないです。あれは……幻想郷の歴史!」
次回 ~第二話 もう変身しないもん!~
幻想郷の歴史が舞い散る……
何かもう色々とカオスすぎて突っ込むのがつらいWWW
感激です!
ちびゆか可愛いよちびゆか
キーボードが・・・
その愛の結晶が登場とは…・・・
いいぞ、もっとやれー!!
ちちちちちびゆかにつっこむですと!? 絶対に許さんきに!
>ちびゆか可愛いよちびゆか
奇声を発する程度の能力さんのちびゆかマダカナー
>笑いすぎて鰹節の粉が舞ったwwww
TAKOYAKIなのか!? そーなのか!? そのTAKOYAKIを殺してでも奪い取る
>いいぞ、もっとやれー!!
第二話まで続けて、もし一人でも続けてほしいという声援があるなら、われは戦う。
闘って戦って、カオスへの道を!(ちがう