???
天子が目を覚ますと、まず最初に見たのは天井だった。
(ここは、私の家?いや違う)
天子が謹慎処分を受けていた時に飽きるほど天井を見ていた、間違える訳がない。
(それじゃあここは何処かしら…)
「ここは永遠亭よ。気が着いたかしら?」
するとそこには服の半分を赤と青の二色で分け、長い銀髪を三つ編みにした女性が立っていた。幻想郷でこんな容姿をしているのは一人しかいない。
幻想郷の薬師―
「貴方は…、八意永琳?」
「いいえ、衣玖ライダーW(ワロス)です」
「何故!!?」
じゃなかった。良く見ると帽子から触覚の様なものが出ている。
「何してるのよ貴方は」
そう呆れた声と同時に矢が大量に飛んできて全部永琳(衣玖)に当たった。ハリネズミぽくなった(笑)。ハリネズミは可愛い。
「痛たたたた、いきなり何をするんですか。まったく、死ぬところでしたよ」
「まったくはこっちのセリフよ。けが人の前で何やってるのよ、てかピンピンしてるじゃない」
「土曜日ですから」
「今日は火曜日よ」
はぁ、とため息をついて永琳は天子の方を向いた。
「で、気分はどう?」
「え、ええ、いくらk、ってあいたたたたた!!?」
「ああ、無理に起きない方がいいわよ。普通なら死んでるから」
「え…」
「全身打撲、主に頭部を強打、しかも至る所の筋と骨が逝っちゃてたのよ。それに臓器もいくつか潰れてたわ。貴方が天人で私が治療しなかったら貴方大変なことになってたわよ?」
「そうだったんですか…、ありがとうございます」
「おや?素直に感謝の言葉を言うなんて総領娘様らしくも無いですね…。偽物ですか?」
「衣玖、あんたキャラ変わってるわよ。後、チルノは?」
すると二人は押し黙ってしまった。
「え?どうしたの?二人とも」
「チルノは…」
「チルノさんはもうここにはいません」
「え?どういう事!?」
「ああすみません、言い方が悪かったみたいです。チルノさんは今出かけてます」
「そうなんだ…、良かった…」
そう言って天子は安堵の溜息を吐いた。
―――へえ、それなら丁度いいわね。
「「「!?」」」
何処からか声が聞こえた。
天子が周りを見回すと両端にリボンが付いた線を見つけた。
八雲紫の「スキマ」である。
「久しぶり、天人さん」
「八雲…紫!!」
「あらあら、何しに来たのかしら?」
「ちょっとそこの天人に用があってね」
そう言って扇子を広げ口元を隠すと何事も無いように言った。
「これから二日後、幻想郷を移転します。」
「は?何でそんな事を私に…」
天子の本当の住処は天界、なのに何故紫はわざわざ言いに来たのか。
そして天子は気付いた。
(いいですか総領娘様、このままだとチルノさんの存在が消えてしまいます)
まさか…、
(外の世界で妖精は存在の基盤が無くなる訳ですから幻想郷の崩壊と同時に消えてしまいます)
まさか、まさか…
「八雲紫――、一体あなたは私に何をさせたいの!?」
「いえ、貴方に望むものはもう無いわ。それよりも大事なのはこの後」
「今度は何があるっていうのよ」
「あらあら、今日は親切で来てあげたと言うのに失礼ね」
「いいから早く言いなさいよ!!」
「今日から三日後、今回とは比べ物にならないほどの地震が来るの」
そう言って紫は淡々と告げた。
「元々、博麗大結界等の結界は内と外を断絶させるための結界。故にここで大地震が発生しても外に幻想郷の存在を知らせないために結界は幻想郷内で処理しようとするわ。幻想郷は全てを受け入れる、という言葉はここからも来ていますわ。と言っても、気付かれない程度に外の世界に徐々に流してるから何とか保っていましたわ。しかし今回の地震はさすがに結界のキャパを超えてしまった。だから竜宮の使いに事情を話して何とかしてもらおうかと思ったのよ」
「衣玖…今の話は本当?」
「はい、総領娘様」
そう言う衣玖の顔はとても緊張していた。
「さて本題はこれから、これから私は移転の準備に取り掛かります。だから…」
―――邪魔をするなよ?
紫の口から冷やかに出たその言葉はその場に居た全員を圧迫した。
「…それじゃ、私は帰りますわ」
そう言って紫はスキマを展開し、帰ろうとした。
「………よ…」
「…何か言ったかしら?無力な天人さん」
「待って!次は…、次こそは止めるから!!」
すると紫は振り向き、天子を冷たい目で見ながら言った。
「次は止める?前兆すら止められなかった無能な天人の戯言を信じろと?」
「だからって、自分が大好きな人が消えてしまうのを黙って見ていられる訳ないでしょ!?」
「………………………」
しばしの間、紫は考えるような素振りを見せると顔を上げて天子に言った。
「天人、表に出なさい」
「え?」
「私に勝ったら、後は貴方の自由にしていいわ。ただし、私に負けたら後は口出さない事。分かったかしら?」
「…ええ、上等よ!!」
永遠亭、大庭
そして決闘が始まった。
勝負では無く決闘。
何故なら弾幕の一つ一つが相手を「殺す」程の力が込められていたからである。
「避けてばかりじゃ私に勝てないわよ、天人さん」
「分かってるわよ!!」
そう言いつつも天子は紫の弾幕を避けるので精一杯だった。それもそのはず、天子は今攻撃する事が出来ないからである。
理由は簡単、非想の剣が無いから。
天子のスペルの大半は非想の剣を元に使っている。故に何か大技を発動したいならば非想の剣が必要なのであるが…。
(あの時、気を失った後何処行ったのか分からない――!しくじった!!)
さらに今、天子の体はぼろぼろでまともに戦える状態ではなかった。
「お終い、よ」
幻想「第一種永久機関」
「!?」
そう紫が宣言すると紫の周りに光球が現れ天子に向かって妖力弾を一斉に発射した。いつの間にか天子は追いつめられており避けようにも避けきれなかった。
(ゴメン、チルノ……)
氷塊「グレードクラッシャー」
「「!?」」
その時、天子の前に氷の壁が発生し天子を守った。そして――、
「おてんば恋娘!只今参上!!」
非想の剣を持ったチルノが現れた。
「あらあら、恋人さんのお出ましね」
「な…!?」
そう言って天子は頬を赤らめた。
「こいびと?それより天子!大丈夫!?何があったの!?」
「決闘してただけよ、氷精さん」
「紫…、あんたは絶対許早苗!!紫!覚悟!!!」
「あら、貴方に私を倒す事が出来るかしら?」
「二人共、お下がりください」
「え?」
「衣玖?」
「あら?竜宮の使い如きが何の用?」
「決闘は私が引き受けましょう」
「本気かしら?」
「ええ、お二人には先の地震で負ったダメージがまだ残っています。それならまだ私の方が戦えますので。…それに我が主とその恋人を従者として、友人として傷付けさせる訳にはいけませんので」
「…結構貴方冷静ね」
「いえ、そんな事はありませんよ…。チルノさん、非想の剣を貸して下さい」
「え?うん」
「衣玖!?無茶よ!非想の剣は天人しか使えないのよ!?」
「ええ解ってます。使ったら体にかなりダメージがいくことも」
非想の剣は気質を操る剣。相手の気質を見抜き弱点を狙って攻撃することも可能な天界の宝。
衣玖は天子に向かって二コリと笑うと紫に剣を向けながら高らかに宣言した。
「つまりは一撃で仕留めればいいんです。一撃なら大丈夫でしょう?」
「いくらなんでも無茶よ!!」
「あらあら、私もなめられたものね」
「ふふっ、…いきます」
「………」
紫奥義「弾幕結界」
「全人類の非想天」
「それ私の!」
紫を囲むように発生した暴力的な超高密度の弾幕が衣玖を襲う。対して衣玖のスペルは元々天子のモノ、不完全な力で紫の本気に勝てるはずもなくすぐに弾幕に飲み込まれてしまった。
「「衣玖!!!」」
弾幕が消えるとそこには衣玖が倒れていた。
「…終わりね。それじゃあおとなしくしてなさい」
「…誰に言ってるんですか?」
「なっ!?」
「「衣玖!?」」
紫の後ろに立っていたのは紛れもない衣玖だった。
飛天(ピー)剣流奥義 (衣)玖頭龍閃!!!
「「結局最後までパクッた!!しかも弾幕勝負一切無視!!?」」
「カハッ!?な、何故?貴方は私の弾幕に飲み込まれて…しかも非想の剣も使ったのに…。っ!!それじゃああれは!!!」
「そう、私の自慢の羽衣で編んだ囮です」
「何時の間に…」
「貴方の最後の弾幕は強力でしたがいかんせん量が多い、弾幕に囲まれ貴方から見えなくなった隙に入れ替わったんですよ」
「そんな…、あの量の弾幕を避けきるなんて…」
「あー、勘違いしているようですけど私これでも今死にそうなんですよ?」
「「「え???」」」
「だってまず非想の剣を二回使ってますし、囮の時もまず弾幕に囲まれないと囮を作れないので幾らか喰らわなきゃいけないのにさらに脱出の時にもさらに超高密度の弾幕から脱出しなきゃいけないんですから。さすがにこれはま、ずい、で…」
そう言って衣玖は倒れた。
「衣玖!?」
「あーもう、皆無茶ばっかりして…。優曇華!治療の準備!!咲夜!患者を時間を止めて治療室に移して!!」
「ハイ!師匠!!解りました!!」
シュンッ
「解りましたわ」
シュンッ
「私はいいわ…、自分で何とかするから…。…天子」
「…え?」
「地震の件は任せたわ。私が愛する地を、幻想郷を守ってちょうだい」
「…はい」
「フフッ、お願いね」
そう言うと紫はスキマの中に消えていった。
「…どうしたの?天子」
「いや…、紫に初めて名前を呼ばれたからさ。それに笑いかけられたのも初めて…」
「んー、それって認められたって事でいいんじゃないかな」
「そっか、それじゃあ頑張らないとね」
「そ、もっともっと頑張らないと」
「うっ、痛いところ突くわね」
「あはは、それじゃあ頑張ってね。…あたいは天子に、何もしてあげられないから…」
「そんなことない。チルノが居てくれるから私は頑張れるんだから!」
「ホント?」
「うん、ホント」
「そっか、あたい、天子の力になれてたんだ…。よかったー」
そう言ってニカっと笑うチルノ、しかしすぐに悩んでいるような顔になってしまった。
「どうしたの?チルノ」
「ゴメン、天子」
「え?どうしたの?」
「アタイ、何かすっごい眠い」
眠たそうにチルノは眼を擦る。
「…非想の剣、何時から探しに行ってくれたの?」
「んー、日の出前?」
「そりゃ眠いわよ…、それにあれだけ紫の本気の妖気を浴びてたら体が緊張して疲れるわよね。ふわぁ…、私も眠くなってきちゃった」
「どうするの?」
「まだ体も痛いし、今日は寝る事にする」
「んー、そっか」
「「おやすみ」」
「天子?居る?衣玖さんの治療終わったわよ…って、あら」
そこには布団の上で仲良く寝ている天子とチルノの姿があった。
>咲夜は永琳の娘派
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