それはリビングのソファーで三人揃ってのんびりしている時の事でした。
萃香さんを挟んで反対側に座っているこいしが唐突に何かを言い出しました。
「ねぇ、萃香さん!…………キス、して?」
「ぶっ……!」
何事かと、私は慌ててこいしの方を覗き込みました。
するとこいしは萃香さんに向かって頬を突き出しているところでした。
…………いっちょまえに、薄く頬を桜色に染めて色気づいてやがります。
もちろんただ黙っているつもりはありません。
そんな羨まし────こほんっ。
不埒な行為を許すわけにはいかないのです!
あくまで……そう、あくまで妹の教育のためと思い、一言申してやろうとしたその矢先。
『ここは任せて。』という萃香さんの心の声が。
その声に私は一瞬躊躇したものの、ここは萃香さんを信じてみる事にしました。
別にこいしの視界に隠れるように握ってくれた右手に気を良くしたとか、そんなんじゃないんで。あしからず。
「ほっぺで……良いのかい?」
そうです、言ってやってくださいよ萃香さん!
こいし、貴女に萃香さんの唇は百年早い──────は?
信じられないその一言に、思わず動きを止めてしまった私。
そしてそれが、命取りになってしまいました……。
「えっ? ぁ……その……じゃあ……くちびるで///」
「(にっ)……そうこなくちゃ。」
ちゅ。
気付いた時には、二人の顔がくっ付いていました。
「……どうだい? キスのお味は?」
余裕たっぷりな様子の萃香さん。
やはり生きてきた年季が違うのでしょう。
なりは私達と大差ありませんが、こういう所で年長さらしさを感じてしまいます。
だって今のこいしの顔ったらないですから。
「///ぁ……りがとございしたぁ!?」
桜色だった頬は、真っ赤にまで燃え上がって。
よく分からないお礼(?)を残して、こいしは逃げるようにしてリビングから去っていきました。
「…………よくもまぁ見せ付けてくれますね。」
そして違う意味で私の顔もすごいことになっていることでしょう。
もし鏡があっても覗く気にもなりませんが、こちらに振り返った萃香さんの反応を見れば十分に想像がつきます。
「そ、そんな顔しないでおくれよ……さとり。」
ほらね。
「…………私が怒らないとでもお思いですか?」
だとしたら私の愛を甘く見てますね、萃香さん。
目の前で愛する者の唇を奪われて動じないほど、冷たい女でもないつもりです。
「その……もう少し広い心を持って欲しいなぁ……なんて。」
「ほほぉ……では、萃香さんの言うところの心の広さとはきっと太平洋くらい広いんでしょうね?」
「は、はははは……。」
乾いた笑みを浮かべ、心では『困ったなぁ……』なんて呟く萃香さん。
……私だって別に、萃香さんを困らせたい訳じゃないのに。
何だか私が悪いような気持ちになって来ました。
「……そんな目をしないでよ、さとり。」
「させてるのは……どこの誰ですか……?」
ずるいです。
私の気持ち、知っててこういう事するんですから。
私ばっかり嫉妬して、やきもち焼いて……だけどやっぱり嫌いになんてなれなくて……。
でも一番ずるいところは、優しすぎるところで……。
ぎゅっ。
「ごめん……。」
やっぱり……ずるい。
そんな風に抱きしめられると、もう何も言え無いじゃないですか。
「……キス、しようか?」
「…………とうぜんです。」
だからちゃんと償って貰わないと。
私が満足するまで萃香さんの事、今日は独占してやるんだって。
そう心に強く私は誓いました。
「うわぁ……なんだかんだ言ってわたしより長いんだから……キスしてる時間///」
わたしが戻ってくると、そこでは口付けを交わす二人の姿が。
それも一度や二度だけでは飽き足らず、お姉ちゃんは何度もおかわりをねだっています。
その姿のなんと刺激的なこと……。
普段見せることのないお姉ちゃんの女としての顔に、わたしもすっかり大興奮です!
「何をされてるんですか? こいし様。」
突如呼び掛けたられた声に驚いて振り返ると、そこには不思議そうに首を傾げるお燐がいた。
そりゃそうか。ドアの前で、中にも入らず突っ立ってたら誰だって疑問に思うはず。
「なんでも。ただ……見守る愛も大事かなって、そう思っただけ。」
「……はい?」
全く理解が及ばない様子のお燐。
ちょっと遠まわし過ぎたかな?
でもズバリ答えを言うわけにもいかないし。
『中で二人が逢瀬をしています。だから覗いてました。』
…………うん、お姉ちゃんの尊厳にも関わるし、やっぱりここはそっとしておいてあげよう!
「良いから、なんでも無いってば! そんな事より、お燐? たまにはわたしに付き合ってよ!」
「たまにはって、ちょくちょく暇つぶしに付き合わされてる気がしますけど──」
「へぇ……お燐ってばそんなこと言うんだ…………ペットの癖に。」
「──や、やだなぁ、こいし様! 冗談ですよ、冗談! ささっこいし様、あたいと何して遊びます?」
「そうだなぁ……。」
考え事をする振りをしながら、さり気なくリビングから離れることに成功したわたし。
後はごゆっくり、お姉ちゃん♪
タグだけ見てツッコミを入れる日が来るとは思わなんだ。
すいさとこいだー!やったー!
でも3(ピー)じゃないんですかー!やだー!
最近新しい人も多いですし、特に他に類を見ない珍しいカップリングですので。