Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

夏に戸惑う

2010/06/10 23:37:33
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神社の縁側には巫女の姿は見えず、つい一週間前から私の恋人になった少女が一人座っていた。
一つの湯のみだけを傍らに沿え、私が地面に降り立つのをじっと見つめている。
「アリス」
「どうして、一人なの?」
まだ話をするのには些か距離があるように思えたが、挨拶の言葉もなく彼女はストレートに質問をぶつけてきた。
彼女の問いかけには答えずゆっくりと距離を詰め、湯のみを挟み腰を下す。
「霊夢は?」
「里に買い物に行った」
「お嬢様から言伝頼まれたのに。客に留守番をさせるなんて困った巫女ねえ」
何気ない、本当に平凡な会話なのに一気に心拍数があがっていく。
神社に来る前は平気だった。
しかし、境内に降り立ちアリスの姿を認めた瞬間からのぼり始め、今ではもう、息が切れる程になっている。
全身から汗がだらだらと流れ、びっしょりとシャツを濡らす。
「ちょっと、大丈夫?汗凄いわよ」
「あ、ええ、平気よ」
ハンカチを出し、額の汗を拭われた。
そんなに近付かないで、困るから。
「それで、どうして一人なの?」
「え、ああ。お嬢様がね、今日は神社には行かない。だから行かないって事を霊夢に伝えて来いって。でも、気を使われちゃっただけなのよね。今日は朝からだらだら過ごしていて、神社に行かないんですか?って聞いたら私は行かないけどお前は行って来い。知ってるんだぞ、人形遣いと付き合ってる事位。って言われちゃって。嫌なんだけどね、そういう風に気を回されるの。それに私の恋の成就記念に館中をあげてパーティーすると言い出して。そんな事されたら恥ずかしいじゃない。結局人の事からかって遊んでるだけなのよね」
一気に、言い終えた。
脳がまるで働かなくて、面白おかしく話す事すら出来ない。
彼女の方を見る事も出来ずただ下方を向き、目の端で姿を捉えるだけ。
太陽の光は強く、金色が光を反射する。
「可愛がられていて、良いじゃない」
「あ、ええ、そうね」
「霊夢が戻ってくるまではいられるの?」
「夕方までは戻ってくるなって」
「レミリアっていいとこあるのね」
アリスはふふふ、と楽しそうに笑う。
「でも、やっぱり嬉しいわ。こうやって二人で逢えるの。貴女に好きだって言われた時は嬉しくて仕方なかったけど、私が紅魔館に逢いに行かない限り逢えないものだと思っていたわ。どこかに出かけなくても構わないけど、やっぱり逢えないのは寂しいから。―――――――――――――――………







何も、言えない。
何も、話せない。
アリスの言葉がどんどん遠くなっていく。
蝉の鳴き声が轟音のように鳴り響き、それなのにとても静かで世界から遮断される。
じりじりと太陽に照らされて、体が熱い。
思い出したかのようにたまにしか吹かない風が木々を揺らし、時折影を作るが、暑い。
熱い、暑い、厚い。
こんなにも近くにいて、手を伸ばせば触ることだって出来るのにそんな勇気は一つもなくて、自ら作りあげてしまったハードルが壁のようにそびえ立っている。
壊せず、乗り越える事も出来ず、ただこの空間に溶けていく。
絶え間なく溢れ出す汗が体に纏わりついて気持ち悪い。
口の中に溜まった唾を、ごくり、と飲み込んだ音がやけに大きくリアルに響いた。








……――――――ちょっと咲夜?聞いてるの?」
視界の端で、アリスが動く。
金髪が揺れて、世界を変える。
「本当に大丈夫なの?」
「へ……?」
視界は全て覆われて、私の世界はアリスだけになっていた。
アリスは私の前にしゃがみ込み、心配そうにこちらを見上げている。
背に光を受けているのだから輝く筈もないのに瞳は光を放っていて。
ああ、アリス自身の光なのかな。
ぼんやりとそんな事を思う。
私と反してアリスは汗ひとつかいていない。
妖怪は寒暖に強い。
不公平だ。
「熱中症?」
「えっ、え、あ、大丈夫、大丈夫よ!」
アリスの手がゆっくりと伸びてきて、そして、触れた。
頬にひんやりとした感触。
どっ、どっ、どっ、どっ。
心臓の音が五月蝿い。
触れられた場所から更に熱を帯びていき、顔が、体が、全身が熱い。
何もしてないのに息切れなんかして、確かに心配されても無理はない。
でも、熱なんかない。
病気でもない。
ただ、ただ。
恋をしていた。
私は目の前のこの少女に、恋心を抱いている。
見ているだけで苦しくて。
話す程に思考は飛んで。
何も考えられず、体がおかしくなる程に、アリスの事が、好き。
「熱あるんじゃない?無理して来なくても良かったのに」
「あー…本当に、平気よ。暑いからぼうっとしちゃって」
五月蝿い、五月蝿い。
心臓が、五月蝿い。
恋人になれても、いや、むしろなってからの方が緊張は大きくなった。
何かしても良い関係。
したいのに、出来なくて。
話す事すら難しい。
愛想笑いを浮かべていたが、それもどうやら無理そうで、頬の筋肉が垂れ下がっていく。
ふっ、と前を向けば綺麗な蒼にぶつかった。
時は止まり、蝉の声は聞こえない。
今、一対の大きな蒼い瞳がこちらを見つめている。
輝いて、煌いて、美しい。
見ていられずに目線を下げれば、桜色の唇に目を奪われた。
触れたい。
愛しい人の唇に、自分の唇を重ねたい。
瞳を閉じて、ほんの少しだけ距離を詰めれば良い。
そうすれば最上級の幸せを味わえる。
気持ちを固めるようにじっとりと汗ばんだ手を強く握り締める。
詰める、近付く、そして、触れる。
…そんな事、出来るわけなかった。
勇気なんて全く出ずに、少しも動けずがちがちに固まったままの私。
そんな私を不思議そうに見つめるアリス。
もう、恥ずかしくって。
自分自身がいたたまれなくて。
「ご、ごめん、アリス!私やっぱ体調悪いから帰る!霊夢にお嬢様来ないって言っといて!」
「え、咲夜!?」
アリスを残し、逃げるように飛び去ってしまった。




「で、お前はのこのこと逃げ帰ってきたのか?」
紅茶を飲みながらお嬢様は吐き捨てるように言った。
私のあまりにも早い帰宅に、『どうした、何があった?何かあったならやっつけに行くぞ』等と言われ、仕方なく私は神社で起こった事を話してしまった。
「悪魔の狗とも呼ばれた咲夜がその様か。子供じゃないんだからさ」
全くもってその通りで返す言葉は何もない。
自分でも、自分の奥手っぷりが嫌になる。
きっと嫌がられないというのは分かっているのに、あと一歩が踏み出せない。
「まあ、あれだよ。こう…ガッていってンッっていけばなんとかなるからさ」
「全然参考に出来ませんよお嬢様」
「つまりは勢いだよ勢い」
勢い、ね。
それよりも手を出す勇気の出し方を教えて欲しい。
きっとお嬢様は臆したりしないから良いアドバイスは貰えないんだろうな。
「あ、そうだ。明日パーティーするよパーティー」
「へ?」
どうしよう、嫌な予感しかしない。
お嬢様の意地悪そうな顔が次の言葉を聞かなくても内容を知らせてくれている。
「咲夜の両想い記念パーティー。おめでと咲夜。アリスも呼ぶから」
「アリスもですか?」
そんなの恥ずかし過ぎる。
付き合ってまだ一週間。
結婚するんじゃないんだから晒し上げもいいところ。
もしこれで、考えたくもないが私達がすぐ別れたらどうするんだろう。
それとも別れない運命が見えてるのかしら。
「そ。まあ飲みすぎて帰れなくなったらうちに泊めれば良いし。しかしちょうどどこの部屋もいっぱいだからなあ。泊めるとしたらどこに泊めれば良いんだろうなあ」
「空き部屋も客室もいっぱいありますよ。何言ってるんですか」
「残念。メイド妖精達が明日の深夜空き部屋客室全て大掃除するって言い出してさ。折角あいつらがやる気出してるのに、主人の私がやる気をそぐわけにはいかないじゃない」
「お嬢様…無理矢理過ぎます」
「ま、良いじゃないか。明日は頑張れよ」
「はあ…」
そんな、紅魔館住人全員が知ってる中で初夜を迎えられるわけがない。
からかわれているが、応援してくれてるのも分かっている。
明日。
せめてアリスの顔をまともに見て話せる位にはなろう。
勇気の一歩を、踏み出そう。
読んで頂き有難う御座いました。
外野です。
私の思考回路にはエロスがこびりついているので健全な妄想をするのが凄く難しいです。
隙あらばエロに突入です。
そんな中、健全妄想が出来て形にする事が出来ました。
私もまだまだ純情な感情が空回りせず残ってると思うと嬉しいです。
また見かけましたら読んで頂ければ幸いです。
外野
[email protected]
http://wheader.blog48.fc2.com/
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
咲アリだー!!!
読んでる最中ニヤニヤが止まらなかった
2.名前が無い程度の能力削除
なんてヘタレな咲夜wキュンキュンしちゃいました
3.名前が無い程度の能力削除
今回はヘタレ咲夜さんで攻めてきましたねムフフ、これはパーティーが面白い事になりそうだw
4.名前が無い程度の能力削除
何をしてるんだ!?

早く続きを書く作業に戻るんだ!!
5.名前が無い程度の能力削除
これはあれですね、いつかの作品にあったお嬢様と霊夢の賭けの一部。
お嬢様は咲夜さんの初心さを承知しているでしょうから、今回も霊夢は負けたのですね。
6.名前が無い程度の能力削除
>早く続きを書く作業に戻るんだ!!
恐らく続きはコッチじゃなくて、裏の方になりそうな予感が
7.名前が無い程度の能力削除
レミリアに問い詰められる咲夜さんかわいいよと思って読み終わって
後書きにフイタw
隙あらばエロに突入wwww
8.名前が無い程度の能力削除
この咲夜さんは頭の中でいろいろ考えすぎて、とんでもないこと言い出しそうw
いやはや、咲アリっていいものですね。