Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ささやかなお茶会

2010/06/10 22:55:36
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 こんこん。

 夜遅く、けど、私たち吸血鬼にとっては一番活動しやすい時間に、扉を叩く音が響く。

「フラン、開けてくれるかしら?」

 あれ? いつもなら、「入るわよ?」とお姉様が言って、私が、「うん、いいよ」って答えるはずなのに。どうしたんだろうか、今日は。

「うん、お姉様、ちょっと待ってて!」

 考えてても仕方ないから、私は椅子から立ち上がって、扉まで駆け寄る。

「こんばんは、フラン」
「こんばんは、お姉様。……どうしたの? 珍しいね。お姉様が、自分で紅茶とお菓子を持ってくるなんて」

 扉の向こう側には、湯気を立ち上らせる紅茶の入った二つのカップと、クッキーの積まれたお皿が乗った銀のトレイを持ったお姉様が立っていた。
 甘い香りが届いてくる。

「ふふん。今日の紅茶とクッキーは私が作ったのよ」

 お姉様が、自慢げに言う。……って、お姉様が作ったっ?!

「それ、ほんとっ?」

 驚きすぎて、思わずそんなふうに声を上げてしまう。

「なんだか、物凄く失礼な反応ね。正真正銘、私が作った物よ。なんなら、咲夜に聞いてもいいわよ」

 不満そうな態度を取るお姉様。ここで、咲夜の名前を出す、ってことはほんと、なんだ。咲夜は、お姉様と私にだけは絶対に嘘を吐くことはないから。

「そう、なんだ。……ごめんなさい、疑っちゃって」
「信じてくれたんなら、別にいいわ」

 私が謝ると、すぐにお姉様は不満そうな態度を何処かへとやってしまった。
 お姉様は、細かいことはあんまり気にしない性格なのだ。

「でも、突然、どうしたの?」
「別に、そんなに大した理由もないわ。そうね、一言で表せば、貴女を喜ばせてあげたいから、かしら?」

 お姉様が、微笑みを浮かべる。
 私は、その微笑みに思わず見惚れてしまう。お姉様が浮かべる微笑みは、綺麗過ぎるのだ。卑怯だ、と思ってしまうくらいに。

「フラン?」

 動きを止めた私を見て、お姉様が不思議そうに首を傾げる。そう、お姉様は、自分の微笑みの破壊力に全く気付いていないのだ。

「な、なんでもないよっ。紅茶が冷めちゃうから、早くお茶会を始めようよ!」

 お姉様に見惚れていたことを誤魔化すように、私はそう言って、さっきまで私が座っていた椅子を目指す。

「そうね。夜は長いとはいえ、紅茶の熱は待ってくれないものね」

 焦りに焦って、挙動不審な私とは対照的に、お姉様は落ち着いた足取りで私の対面の椅子に座る。そのときに、銀のトレイも、テーブルの上に置く。
 落ち着いたお姉様を見て、ずるい、と思ってしまう。私に原因があるんだとしても。

「ふふ、自分で用意した紅茶とクッキーを前にしてのお茶会は、なんだかいつもと違う気分になるわね」

 いつもよりも声を弾ませながら、私と自分自身の前にカップを置く。私の好みにあわせて淹れてくれたのか、紅茶からはクッキーにも劣らない、甘い香りが漂ってくる。

「さあ、どうぞ。存分に味わってちょうだい」
「うん、いただきます」

 そう言って、紅茶に口をつける。

 ふわり、と紅茶の香りと甘さが口の中に広がる。
 存分に甘くて、けど、しっかりと紅茶の香りも残っている。そして、暖かさが自然と身体の中へと広がっていく。

 ……うん、私が大好きな味だ。お姉様が、それをちゃんと分かってくれていることが嬉しくて、思わず笑みを零してしまう。

「お姉様、美味しいよ。私の好みのど真ん中だよ」
「当然よ。私は、フランの好みは、何から何まで把握しているのよ」

 お姉様も、笑みを浮かべながら、そう返してくれる。
 紅茶以外の熱が、私の中へと注がれる。

 そんな熱に、少し浮かされるようにしながら、今度はクッキーへと手を伸ばす。

 形は綺麗に整っている。咲夜のものと比べたら劣りそうだけど、十分に綺麗だと思える。

 私は、ゆっくりとそれを口に運ぶ。

 さくっ。

 噛むと、そんな気持ちのいい音がした。けど、それは最初の一噛みだけだった。
 どうしてか。
 それは簡単だ。中が湿っていたから。
 でも、それは失敗じゃない。意図されたことなんだから。

 噛んだクッキーから滲み出てきたのは、蜂蜜だった。紅茶よりも甘い甘いそれが、舌を遠慮なしに刺激してくる。
 幸せな刺激だ。甘いものは、どんなものだろうと、私を幸せにしてくれる。

「このクッキー、最高だね。幸せになれるよ」

 きっと私は、さっきとは比べ物にならないような満面の笑顔を浮かべている。
 お姉様は、これを作るために、どれだけ努力を重ねたんだろうか。

「ふふ、そう。どう? 私への尊敬が高まったんじゃないかしら?」

 自信満々の笑顔を浮かべて、そう言う。絶対に間違っていない、と信じて疑っていないかのように。

 でも、残念。お姉様の言葉は外れだ。

「ううん、そんなことないよ」
「へえ、それは残念だわ」

 気にしてない風を装ってるけど、本当はすごくすごく気にしてる、ってことを知ってる。
 でも、ごめんなさい。お姉様への尊敬が高まることは、絶対にないんだ。だって―――

「私は、もともと、お姉様のことを最上級に尊敬してるんだよ。だから、これ以上尊敬する余地なんてないんだ」

 それに、それだけじゃない。

「お姉様のことは、最上級に信頼してるし、最上級に誇ってるし、最上級に愛してる」

 私にとって、お姉様以上の存在なんてありえない。

「それはそれは、光栄なことね」

 さっきまでの様子は何処へやら。すぐに、嬉しそうにそう言う。子供っぽいなあ、って思う。

「私は、貴女のことを最上級に可愛いと思ってるし、最上級に信頼しているし、最上級に誇ってるし、そしてなによりも、最上級に愛しているわ」

 私の言葉を真似して、そう返してくれる。

「私の言葉、盗ったね」

 そう言いながらも、私は心の中で嬉しい、と思ってて、

「私は私の思ったことを言っただけだわ」

 お姉様もきっと同じ風に思ってくれてるんだ、って思って、

「じゃあ、きっと、次に言う言葉も同じになるんだろうね」
「さあ? 言ってみないことには分からないわ」

 だから、私たちの言葉は重なるんだろう、と確信する。

「大好きだよ、お姉様」
「大好きよ、フラン」

 私たちの言葉は、溶け合って、混ざり合って、心の中へと沈んでいった。

 確かな、暖かさとなって。


Fin
プロットばっかり書いてて溜まってた欲求不満を吐き出したかった。

やまもおちもないお話でしたが、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

コメレス↓
http://ameagari.oboroduki.com/comeres/teatime_comeres.html

2010/6/11 誤字修正 コメレス追加。
4さん、誤字報告ありがとうございました。
2010/6/13 コメレス更新
紅雨 霽月
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
すばらしく甘い
2.奇声を発する程度の能力削除
心が落ち着いていく…
とっても良かったです!!!
3.名前が無い程度の能力削除
あまーい
4.名前が無い程度の能力削除
誤字ですよー。
紅茶をお菓子を → 紅茶とお菓子を

美しき姉妹愛、良きかな良きかな。
今の現実に、これほどまでに純粋に互いを尊敬し、誇り、愛する姉妹が居るだろうか?
5.名前が無い程度の能力削除
いいねえ…
この姉妹は毎日こんな感じでいいのさ。
6.url削除
私もお嬢様の紅茶飲みたいです