夜。
それは妖怪の時間。
夜。
それは私達の時間。
夜。
それは、あの人と会える時間。
<- 昼なんて大ッ嫌い!! ->
暗い闇の中。
朝も昼も夜もない牢獄。
そこに、小さな吸血鬼の少女が寝ていた。
名前はフランドール・スカーレット。
金色の髪をもつ、可愛い女の子。
けれど彼女は……
「ん~……今何時だろう……」
寝ぼけ眼のまま時計へと手を伸ばす。
部屋は真っ暗。
とはいえ、普段の彼女なら吸血鬼の目で昼間のように明るく見えるはずだった。
でも、彼女は寝ぼけ眼。ぼんやりと映る世界を見ているのか見ていないのか。
そんな状態で手を伸ばしたものだから、時計の位置が分かるはずも無い。
無意識の内に手探りで時計を探していた。
と、そんな時。
むにゅっ
なにやら柔らかいものが、手に触れた。
マシュマロのような、もっと弾力のある。
まるで女の人の……
「あん♪ フランったら大胆ね」
「!!」
突然耳元で囁かれた声に、フランは飛び起きた。
布団を跳ね飛ばし、目の前にいる何かを見る。
まだぼやける視界が、次第に定まっていく。
輪郭が、くっきりと見えた頃には、目の前の何かが手を振っていた。
「おはよーフラン。いい朝ね」
「……ゆ、かり?」
「はーい。貴女の目覚まし時計、ゆかりんよ」
にこにこと笑いながら、ゆかり……八雲 紫がベッドに寝ていた。
フランの枕を頭の下に敷いて、まるでこのベッドは私の物とでも言うかのように、当たり前に寝ていた。
「びっくりしたー」
「あらあら。一体なんだと思ったのかしら?」
「てっきりお姉様が、私の貞操を奪おうとしたのかと思った」
「もしかしたら、私も目的は同じかも知れないわよ?」
「それは困るなー。だって紫はきゅっとしたら壊れてしまうでしょ?」
「そうねー。きゅっとされると、痛そうだわ」
ふわっと大きな欠伸を一つ。フランは両手を伸ばしながら、体のスジを伸ばし始めた。
でも何かおかしい。なんとなく寝不足な気がする。
不思議に思ったフランは、紫に尋ねた。
「ゆかり、今何時?」
「さぁ? 時計ならそこにありますわ」
妖怪の賢者なら、時間くらい精密にちゃっちゃと計算しろと思うけれど、ここは牢獄。
星の位置も、空間も、空気もおかしいところでは難しいのかもしれない。
フランは唯一の時間刻み機、目覚まし時計を見た。
「あ……そういえば寝る前に壊したんだっけ」
愛用の咲夜のお下がりのパジャマ、熊さん着ぐるみを着るときに、失敗してこけて頭をベッドの縁にぶつけたらしい。
不貞腐れて寝ようとしたら今度はカチカチと時計の音が気になり、きゅっとしてどかーんしてしまったのだ。
「そんなフランの為に、私が目覚まし時計を用意しておいたわ」
「本当!? ありがとう!」
そういえばさっき手を伸ばしたら何かに触れた。
柔らかいから、てっきり胸かお尻かと思ったけれど違ったらしい。
でも柔らかい目覚まし時計というのも珍しいな。
投げても壊れないように配慮してくれたのかもしれない。
色々と紫に感謝しつつ、フランは目覚まし時計を探した。
が、見つからない。
「あれ?」
「どうしたのフラン?」
「時計ないよ?」
「何を言っているのかしら。貴女の目の前にあるじゃない」
紫曰く、目の前にあるらしい。
でもフランの目には、それらしきものが映っていなかった。
唯一映っていたのは、目の前でずっと手を振り続けている紫だけ。
「まさか、いやぁまさかね」
おそるおそる、手を伸ばす。
そして紫のほっぺたを指でつついてみた。
『あん♪ フランったら大胆ね』
「!!」
『おはよーフラン。いい朝ね。はーい。貴女の目覚まし時計、ゆかりんよ』
「……いらない」
きゅっとしてどかーん☆
「あらあらまぁまぁ。せっかく藍に精密に作らせたのに。髪の毛からつめの先まで」
「もぅ! 馬鹿なことやってないで、ちゃんと出てきてよ」
部屋に反響するほどの大声。
その声にこたえるかのように、ベッドの下から紫が出てきた。
「なんでそんなところに入ってるの」
「えっちな本でも隠してないかと思って♪」
「あ、あるわけ無いでしょ!!」
「どうして言いよどむのかしらかしら~しらしら~?」
「どかーんするよ!?」
痛いのは嫌ね~と、胸元から取り出した扇子で、口元を隠しながら言う。
間違いない。今度は本物の紫だ。
途中からフランと話していたのはこっちの方だったのだろうけれど。
いくら精密に作っても、返事を返す機能までは付いていなかっただろう。
「夜のお供機能はちゃんと付いてたわよ?」
「いらないから!」
「キスもできたのに」
「……いらないったらいらないの!」
「ふふふ。そんなに大きな声を出して。可愛い熊さんね」
怒っている姿は、悪魔もびっくりするくらい可愛かった。
なにせ熊である。しかも着ぐるみだ。
さらに咲夜のお古で、胸とかもぴったりサイズ。
紫でなくとも、ぎゅっと抱きしめたくなるだろう。
「というわけで、ぎゅ~」
「きゃぁぁいきなり何!?」
「フラン~かーわいい~。ぎゅ~♪」
「きゃぁぁきゃぁぁぁ!」
紫が真正面からぎゅっと抱きしめる。
フランは真っ赤になりながら、手と羽をパタパタとばたつかせるが、しっかりホールドされた体は決して離れることが無かった。
「フランは暖かいわ。柔らかいし、羽もこんなに綺麗」
「はーなーせー! このおっぱい魔人!」
「おっぱ……こほん。胸を馬鹿にする子は、こうよ!」
「な、むううううううぅう!!」
更に暴れるフランの頭を、紫はさらに強く抱きしめた。胸の谷間に。
布を一枚挟んでいるとはいえ、その柔らかさは芸術品と呼べるだろう。
人口では決して作ることの出来ない、大自然の神秘。
それをフランは顔一杯で感じていた。
「ほらほらどうかしら~? フランが馬鹿にしたおっぱ……胸に挟まれる気分は?」
「もががあんんんんんんんん!!」
顔をさらに紅くしたフラン。このままだと、ぎゅっとしてどかーんされそうだ。
何故か紫も顔を赤くしているが、やっている本人もやっぱり恥ずかしいのだろうか。
紫が赤くなるに比例して、抱きしめる力は増しているようだ。
「んんんん! んんん!! ん? んんんんんんん! ん! んん!! ん……」
「ぁん♪ あんまり暴れると服が脱げてしまうわフラン? あら? フラーン!?」
お約束。フランは窒息死してしまった。
羽はピコピコと、せわしなく動いていたけれど。
495歳の若さで……南無三です。
羽はパシパシと、紫の腕を叩いていたけど。
フラン本体がぐったりしたところで、紫は慌てて手を離した。
羽は相変わらず元気に輝いていたけれど。
「……ぷはぁ! はぁはぁ、死ぬかと思った……」
「之はいけないわ。人工呼吸をしないと」
「死んでないから!」
「遠慮しないで。レッツゴー人工呼吸~むちゅ~♪」
「みぞおちパンチ!」
「ごふぅ!」
折角演技で脱出したのだ。これ以上掴まってなるものか。と全力を振り絞って、アッパーを繰り出したフラン。
それは的確に紫のみぞおちにヒット。
見事、一撃でベッドに沈めることに成功した。
「ぐふ……みごとよフラン……もう、私が教えることはなにもないわ」
「変な知識以外、教えてもらったこと無いんだけど」
「私が死んでも、笑っていてね?」
「紫が死んだら爆笑してあげる」
「私が死んだら寂しいだろうけれど。あの目覚まし時計を私だと思って大切にしてね」
「だからいらないって、うわ直ってるし! きゅっとしてどかーん☆」
再度爆発する紫人形。
飛び散った体が、妙に生生しい。
人形の頭が、おなかを抑える紫の頭に当たったけれど、残念ながら頭が入れ替わることは無かった。
ゆかりん~あたらしい顔よー、とは行かなかったようである。
「入れ替わったら、少しはよくなったかもしれないのにね」
「フランひどいわ。私がこんなに苦しがっているのに……心配もしてくれないのね」
「だって紫だし」
「それは愛されていると理解していいのね? 私も愛してるわフランーぎゅ~♪」
「どうしてそうなるの! フラン必殺、みぞおちパンチパートⅡ!」
「すくりゅー!?」
ひねったパンチが紫のおなかにクリーンヒット。
しかも回転により、内臓をえぐるようにダメージを与えるフラン最強の技だ!
「意義有りよ! フランの最強の技は涙目の上目使いだわ!」
「立ち直りはやいね。もう一発いく?」
「やめておくわ。さすがの私も、3発目は出てはいけないものが出ちゃう」
「深海魚って、釣り上げると胃を口から出すらしいよ?」
「お願いだから目を輝かせながら拳を握らないで。怖いわフラン」
気が付いたら、紫がベッドに横たわり、フランがその上に座っているという図になっていた。
所謂、マウントポジションというやつだろう。
傍から見たら、フランが紫を押し倒しているようにも見える。
「もういいよ。で、紫は何をしにきたの?」
「フランに会いに来たのよ? これ本当」
「だったら普通に来ればいいのに」
「だって~あまりにも幸せそうにお昼寝しているのだもの。私も一緒に寝たいじゃない?」
「……ベッドの下に居たのに?」
「♪~~」
「口笛でごまかすなぁ!」
だんだんフランも疲れてきた。
目が覚めてこれから一日が始まるというのに、どうして朝一でこんなに疲れなければいけないのか。
夜だけど。夜のはず。
「今? 午後1時よ? お昼寝にはちょうどいい時間よね」
「私にとっては深夜だ馬鹿ぁぁぁぁぁ!!」
太陽なんて吹き飛んじゃえ。
それくらいにフランは太陽が嫌いだ。
だって、一緒に遊べないから。
だって、眩しいから。
だって、私には、光なんて届かないから。
そんな恨みを込めた本日最強のパンチ、フラン確殺、ドラキュラクレイドルみぞおちストレートが決ま……らなかった。
フランの回転力を利用し、瞬時に正座形態へと移行する。
そしてベッドの上に着地し、フランの頭を定位置へセット。
あとは随分前にふきとばされた布団を、隙間経由でフランに被せれば完成。
母符「愛情いっぱいの膝枕」
このスペルカードの前には、どんな恐ろしい吸血鬼だって大人しくならざるを得ないのだ。
「あ……」
「ふふ。フランはこれが好きなのよね」
「……うん、でも」
「なぁに?」
「そのスペルカードの名前はやだ」
一瞬驚いた顔になる紫。
嬉しさ反面、不安半面といったところだろう。
恐る恐る、フランにたずねてみる。
「じゃぁ、これなんてどうかしら?」
愛符「フランドール専用の膝枕」
昼。
それは友達の時間。
昼。
それは夢の時間。
昼。
それは、あの人に包まれる時間。
昼。
それは、幸せの時間。
フランかわいい。
子供もかわいい。
すさまじい娘っ子だかや…
膝枕……よく分かってらっしゃる!
後、私もこの二人を書いてみたいなと思いました。
膝枕最強伝説には全面的に同意します
けどお話はとっても素晴らしかったです!
ゆかフラ流行れ
ふらんとちびゆかが遊んでる姿を妄想すると、犯罪的に鼻血がでそうですが無害です。
>可愛い上に能力がチートクラスw
強い親の子って強さがインフレするとおもうんだ。
物語が進むにつれ、弱くなったりするけど、修行さぼったりとか。
>後、私もこの二人を書いてみたいなと思いました。
これは期待せざるを得ない! ちびゆかもだしてい い の よ ?
すいません調子に乗りました。 ゆかフラ流行れ
>膝枕最強伝説には全面的に同意します
未曾有の膝枕祭りはじまらないかなぁ
>何故だ…このパソコンからは見れない…orzちくしょおおおお!!!!
何故かUPしたファイルが消えたりしたので、リンクだけにしました。
画像はったら管理人さんに怒られるのかな。ごめんねごめんね