Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

烏天狗と巫女のちょっと捻くれたそういう関係

2010/06/09 14:57:21
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 ぱくり、と。

 ほどよい甘さのお饅頭を口にしながら、私は、私に限りなく近い位置に座り、同じくお饅頭を頬張っている博麗の巫女を隠れ見ながら思う。
 そう、もう何度目かになるかも覚えていない、小さく湧き上がる根底の願い。


 この、すました顔をする人間の泣き顔が見てみたい……!


 という、願望。








「……むぐ」


 盛大な溜息を饅頭でせきとめ、ずずっとお茶を啜る音を耳に、苦い気持ちを顔には出さずに二つ目のお饅頭に手を伸ばす。
 自分でも泣き顔が見たいとかそこそこ悪趣味だと自覚しているがいかんせん、見たいのだ。
 泣いてる顔。
 それはもう、ものすごーく見たい。
 見せてくれるっていうのなら、条件次第によっては私を好きにさせてもいいぐらいに。

「……むぅ」

 だって、この人間。本当に欠伸ぐらいでしか涙を流さないのだ。
 大抵の事では動じてくれないし、私が嫌味を零しても軽く流すし、強引に取材にきて怒らせて高ぶらせ、意地悪言って泣かせようとしても、肉体言語であっさりと押しかえされるしで、とにかく泣かない。
 流石に博麗の巫女というか、色々なしがらみから無重力すぎて、泣くまでいかないという事なのか。でも、そういう人間だからこそぼろぼろに泣く姿をめちゃくちゃ見たい。
 ボロ泣きでなくても、涙を流すところは絶対に見たい。撮りたい。一滴でも落とさせてやりたい。
 と、強く強く思う。

 饅頭を頬張りつつ、不穏に彼女を横目に見て、チラリと見る膝の上に乗せたカメラ。
 このカメラで撮ってきた彼女の表情は様々で、笑顔もあり、怒りの表情から呆れ、戸惑い、逡巡、迷い、喜び、ご機嫌、と。様々に焼き付けてきた。
 が、しかし。
 彼女の泣き顔だけはいまだに撮れた事がない。
 あの魔理沙さんですら、弾幕ごっこと速さ勝負で勝利した暁に、チャンスとばかりにきつめな毒舌を浴びせてやれば、顔を泣きそうに歪めてくれたのだ。
 冷たい表情を貼り付けて『やはり、貴方もくだらない人間ですか……』なんて、わざとけなしてみたら、ぐにゅっと泣きそうにしてくれるのだ。
 なんだよっ!? 今日は意地悪だ! なんて叫びながらも、その大きな瞳からあとほんのちょっと突いただけで零れそうな涙は誤魔化せない。
 とどめに、ちょっと汚い言葉を浴びせたら、がむしゃらに体当たりしてきて、間近でその泣き顔を堪能できた。眼福だった。
 勿論ばっちりと写真に撮った。


 まあ、その後、魔理沙さんの保護者なアリスさんにしっかりと釘をさされ、泣き顔を取った写真を焼きまわしして下さい! とお願いをされたりもしましたが、とにかくあの生意気で強気で厚顔無恥な魔理沙さんだって泣く時は泣くのに、霊夢さんはちっとも泣く気配がないのだ。

 ……あれかな。
 もしかして、まだ心の距離がありすぎるせいだろうか?


「? 何よ、そんなにジッと見たりして」
「え。あ、いえいえ、霊夢さんは横顔も美人だなーって思っていただけですよ♪」
「……馬鹿じゃないの?」
「うわっ、酷いですねぇ、あ、まだ食べますか? お饅頭」
「……頂くわよ」

 まじまじと見ているのに気づかれて、慌てて誤魔化しつつも、私は思考を再開する。
 魔理沙さんとは自分で言うのも何だけれど、けっこう仲良くしていると思うのだ。
 だからこそ、私が『そういう所が嫌いなんですよ、下等な人間が』とかちょっと苛めるだけで泣いてくれたのだろう。
 で、その後に私が泣き顔を撮りたかったから暴言吐きましたごめんなさい、って謝って、しかし三週間と五日は許してくれなかった。
 意外と心狭いというか、ケチですね魔理沙さん。

 よーやく仲直りしたと思ったら、二度と意地悪言うな馬鹿烏って一方的な約束を取り付けられ、その場で破ったら弾幕ごっこが開始されてぐだぐだで。……ったく、本当に人間は面倒臭い。
 椛なら、私だからって早々に諦めてガルガルと延々無期限に不機嫌そうに唸るだけだというのに……って、ん? もしかしてそっちの方が厄介か?

 ……って、話がそれた。

 ええと、私的には、魔理沙さん程といかなくても、私は霊夢さんとそこそこに仲が良いと思うのだけれど、異変を一緒に解決した事だってあるし、うん。
 でも、やはり単純な魔理沙さんの様にはいかない、という事だろう。
 彼女の様にちょっとちょっかいだして心を折るだけで、保護者なアリスさんの胸の中でえぐえぐ泣いてくれれば可愛げがあるけれど、霊夢さんはそういった所が感じられない。マジで可愛くない。


「……だから、さっきから視線が痛いのよ、何なのよ一体?」
「いいええ、可愛い霊夢さんを見つめていたいが故に、ついつい視線が貴方を捕らえてしまうんです。別に変な意図はありませんよぉ」
「……な、によそれ。本当に馬鹿なんじゃないの?」


 と、顔をしかめっ面にされて睨まれた。
 ……うわぁ。
 冷たい視線。
 私が人間だったら心から冷えているだろうそれに、真面目に可愛げがないと、此方の方が顔をしかめそうになるのを笑顔で誤魔化す。
 取材対象としてはこれ以上なく面白いし、私個人として気に入ってもいるけれど、それはそれこれはこれ。
 彼女のこういう不遜な態度は、正直言って不愉快でもあった。
 ま、博麗の巫女として特別に許しますけれど、もうちょっと、そこで照れて頬を赤らめるぐらいの可愛げが本当にほしいものだ。
 イライラっとして、にこりと再度笑顔を作る。


「ま、本音を言うなら霊夢さんは可愛くないですけどね」

「――――」
「……あっ」

 ぎしっと固まる。
 霊夢さんではなく、私が。

 ……しまった。

 いや、今のは予想外。
 私で私が予想できなかった。
 つ、つい、口が滑っちゃった。

「………文」

 あちゃあ、やらかした。
 霊夢さんが不機嫌そうに顔をしかめて「ふぅん?」とか怖い眼差しで見つめてくる。ぶるりと悪寒がする。
 あんまりに泣いてくれそうにない霊夢さんに苛立っていたとはいえ、こんな阿呆な失敗をするとは情けなし。
 背中に嫌な汗もかいてきた。

「い、いやぁ、あの、霊夢さん?」
「……あんた、本当にいい度胸してるわよね?」
「あ、あははは、いや、それほどでも」
「可愛いとか言ったと思えば、本音では可愛くないと?」
「それは、ほら、言葉の綾で」

 ぴりぴりした殺気を感じる。
 肌にチクチクくるこれに、どーしたもんかと唇を引きつらせる。
 逃げようにも位置が悪い。
 彼女はどういう訳か、本当に私に限りなく近い、っていうかもう少しでべったりと勘違いできそうなぐらいの位置で一緒に縁側に座り、お饅頭を食べていたのだ。
 幻想郷最速のスピードだろうと、この距離で彼女の張る結界と弾幕と物理的な針と博麗の勘が併せ持たれては、ものすごくピンチである。
 ……私、今日五体満足で帰れるのかな?
 死亡してもおかしくない現状であった。

 くそ。
 泣かない癖に変な所で沸点低いなこの巫女は。かわいくねぇ!
 心中で盛大に叫ぶ。

「…! あんた、また可愛くないとか思ったわね」

 読まれた。
 視線がギロリと鋭くって、そんな所で勘をつかうな怖いな! 誤魔化そうにも、もう口がひきつりすぎて声もでませんよ!
 心の底から可愛くないは簡単には誤魔化せないわ変な所で怒るわ泣かないわ。

 流石に、さっきの失敗のおかげでスイッチも入ったし、もう五体満足ですまないだろう可能性も考慮して心が否応なく覚悟を決めてしまい、私としても進むしかなくなった。

 こ、うなったら。
 腕一本を覚悟に、泣かせよう、と。

 私は全然割りに会わないと知りつつも、ごくりと喉を鳴らして、一歩を踏みだした!










 ◆ ◆ ◆










 ……うん泣きそう。

 目の前で、さっきまでのんびりとお茶をしていた筈の文が、急に意地悪を言い出してくるのだ。
 これで泣くなってどういう拷問だと思うぐらい、辛い。

 何よ……! お土産にお饅頭まで持ってきてくれて、お茶を飲みながらチラチラ私を見て、可愛いとか言ってくれたくせに、突然可愛くないですねとか。
 ちょっとぐらい本気にした私が、馬鹿みたいじゃないのよ……!


「ええ、ええ。本当に霊夢さんって可愛くないです。これなら魔理沙さんや早苗さんの方がずっと可愛いですよ」
「……ああそう、それで?」
「顔の造詣は悪くないのだから、もう少し愛想をつけて貰えない? はっきり言ってその顔が不愉快なのよ」

 冷たい口調。
 温度のないほぼ初めて向けられる声色に、心臓が嫌な音を立てて引き絞られる。
 奥歯を噛んで無表情を気取りながらも、私の心はサクリサクリと、文の言葉のナイフで抉られている。

 ……そ、そりゃあ。

 私は、あの二人に比べて可愛くないのは、分かるけれど、何も、そんな風に蔑むみたいに言葉にしなくてもいいじゃない。と思う。
 そんな声で、目で、表情で、つまらなそうに投げ捨てるみたいに、適当に。

「……好き勝手言ってくれるわね」

 イラついて、悲しくて、反射で針とお札を構えると、目の前の文はにっこりと目を細めて鼻で笑う。
 思わず、その私なんて相手にもしていないみたいな冷笑に、ぐらりと心の中の柱が揺さぶられて、なのに、苛められているのに、変に爽やかで嫌味を感じない、ドキッとする笑顔に見惚れて。……ぐらぐらとくやしい。
 くやしいから、衝動で刺した。
 額に。
 サクって音が聞こえた。


「…………いや、痛いんですけど」
「あんたが悪いんだから、自業自得よ」


 呻く文に、ようやくちょっとすっきりしつつ、針を抜いて流れる血には、その、少し罪悪感。
 なによ。
 不可解にイラだつ。どうして私のほうがチクリと痛まなくちゃいけないのよ。……馬鹿じゃないの。


「……で? あんたはいきなりこういう事言い出して、何がしたいの? まさか私が泣くとか思ってないわよね?」
「え?」

 っていうか、もう、本気で泣きそうだから止めて。
 恥も外聞もなく、あんたを殴りながら号泣しそうだから、とは言えずに、ただもう止めなさいよと願いを篭めて冷たく言えば、文はそこで始めて「む?」と顔を崩した。
 ばれた? みたいな顔に。

 ……は? えっ、まさか図星なの?

 呆れ、を通り越して、何で? と疑問を感じてしまった。


「……あんた、その顔はまさか本気で私の泣き顔が見たかったわけ?」
「い、やぁ、あははは。……まさかばれるとは」

 文は、私の向ける詰まらなそうに蔑む様な視線を気まずそうに受け入れ、それから残念そうに肩をすくめる。
 あぁ、本気だったんだ。
 その、ちょっとしょんぼり顔に、演技だろうと疑いつつもドキリと湧き上がる罪悪感。……むぅ。


「はぁ……、流石霊夢さん。やっぱ泣きませんか」
「当たり前でしょうが」

 いや、危なかったけどね。
 ポーカーフェイスで乗り切ったけど、今にも布団の中に篭って悔し涙を零したいぐらいよ。
 あんたの言葉って、よく分からないけどいちいち突き刺さるのよ。
 等とは、当然言えずに、私はあえて強気に胸を張った。

「……あーあ。魔理沙さんは可愛く泣いてくれたけれど、霊夢さんはやっぱ駄目かぁ」
「そりゃあ…………」

 ……。
 ひくりと、自分でも意外なぐらいひきつる唇。
 うん?
 どうやら、今の文の台詞は、私でも気づかない何かを刺激したらしい。
 あれ、ちょっとさっきとは違う意味でむかつく……?

「……へ、へえ、あんたは魔理沙を泣かせたんだ?」
「ええ、ちょっと突いたらすぐに泣いてくれました。可愛かったですよ。普段が普段なだけに。……まあ、その後にアリスさんに説教くらいましたけどね」
「……ふうーん」

 何よ、今の魔理沙が可愛かったんですよーって、へらりとした顔は。
 っていうか、あんた私は可愛くないのに魔理沙は可愛いって?
 あいつが可愛いのは認めるけれど、何も、そんな顔でいう事ないんじゃない?!

「…………」
「?」

 強く睨むと、きょとんと返された。
 喉元まででかかった台詞を押し込めて、ふんっと鼻を鳴らす。

 あんたサドなの? と。聞きそうになったのだ。
 
 知らなかったわ。
 あんた、幽香属性の苛めっ子だったわけね。じゃあ苛めるのは愛情表現とかそういう趣味が悪いので……

 ――――。

 ふえっ?


「あれ? なんか顔が赤いですよ?」
「…おっ…怒りすぎて血圧でも上がったみたいね!」
「えっ、そこまでむかつきました? ……あー、失礼しました」

 普段見られない赤ら顔を見て、調子に乗りすぎたと素直に頭を下げる彼女。
 誤魔化せたと安堵しつつ、ぐらぐらと頭が揺れそうな衝動と戦う。

 ま、まさか私が、別の理由で赤面しているとは思っていないらしい。


 ……そっ、そそそっか!
 こいつにとって、苛めるって、愛情表現か。
 そうか。
 うん。
 そうなるわよね。間違いないわよね?
 ……ん、と。

 ……そーだったら、いいな。


「霊夢さん?」
「なによ」
「今度はにこにこしてますけど、怒ってたんじゃないんですか?」
「ああ?! そ、そりゃあ、さっき謝ったあんたの顔が見物だったからね、水に流したわ!」
「……はぁ?」

 なんだそりゃあ、な顔をして変な顔する文を見て、自覚はなかったけれど、私はどうやら本当ににこにこしているらしい。
 頬が上がって口元がくすぐったくて目元が下がる。
 多分、凄くでれでれと情けない顔だろう。
 文が珍しそうにしているから、普段は出そうとしても出せない笑顔。

 ……まあ、恥ずかしいものは恥ずかしいけれど、泣き顔を見られるよりもずっといい。

 泣いている姿よりも、情けなく笑っている姿を晒して、こいつのあほ面を見ている方が、ずっとずっと良いに決まっているのだから。

 それが、私の曲げられない意地だ。


「文」
「はい?」
「私を泣かせるなんて、あんたには一生無理よ」
「……ほぉ?」

 ぴくんと、何やらプライドを刺激されて不適に笑う文に、私はふふんと鼻で笑ってやる。
 瞳が好戦的で、どうやら意地悪な言葉やら態度やらを思考しているのだろうけれど、分かっていない。

 私はもう、あんたの意地悪で泣いたりしないだろう。
 たった数分前なら、子供みたいに声を押し殺して涙を流していただろうけど、今はそんな事はないだろう。


 あんたの意地悪は愛情表現。
 そう、勝手に解釈しちゃったから、あんたが冷たければ冷たいほど、私はどこかで喜んでしまうだろうから。

「諦めれば?」
「……あっはっは。面白い冗談ですね。私に向かって諦めろとは」

 にやりと、笑う文。

 あら。
 意地悪烏が、真剣な顔で私を見据えている。
 私を泣かせようと本気になって、私と向き合っている。

「……!」

 普段から飄々として、新聞とネタばかりで、私の事を面白い取材対照としてしか見ない、まるで風みたいに気まぐれな文が、今は私を泣かせるという目的で、ひたむきな視線で私を射抜く。


 ……あぁ。


 やっぱ無理よ文。

 こんな視線を向けられて、興味を向けられて、絶対に泣かせるんだって意気込みで私を全力で意識するあんたを前に。

 私と勝負する、今だけ対等なあんたに。

 あんたの興味を、泣き顔を、奪われない為に、あんたを掴み取って離さない為に。


 私は一生。あんたの前でなんて、泣いてやらない。


 ――――それが、私の人生の目標に。今、なっちゃったから。


 ざまぁみなさい。
 ばーか。












 ◆ ◆ ◆














 泣かねー!


 今日も今日とて、彼女に意地悪をしに行く私は、馬鹿じゃないかと思いつつも、霊夢さんを泣かせないままに、ここで止める訳にもいかないというか。とにかく意地になっていた。
 ああもう! どーして泣かないかなー!?


「あら、今日も来たのね」
「えーえー、今日も来ましたよ、貴方の涙を頂く為に!」
「いきなり機嫌悪いのね。気分が悪いわ。とっとと帰れ」
「冷たい?!」

 こっちの方が泣きたくなる相変わらずの冷たすぎる態度。
 この人間には可愛げという大切な要素が生まれながらに備わっていないに違いない。
 彼女を見ていると、全人類が可愛く見えて、最近は魔理沙さんにも早苗さんにもちょっと優しい私ですよええ!
 ちくしょー!
 かーわーいーくーなーいー!


「……って。本気で機嫌悪そうね」
「そりゃあね!」

 呆れ顔とか失礼ですよ!
 もう、何ヶ月通いつめていると思っているんだ!
 なのに一向に泣く気配がない所か、もう骨でも折って痛みで泣かせようかとか、ついつい趣味じゃない事を考えるぐらいですよ、まったく!

 イライラとする私に、霊夢さんは袖に下に口元を隠して「ふーん」とか適当な感じで私を見ている。
 たかが人間に馬鹿にされているみたいで、非常にむかむかする。
 が、しかしだ。
 それもこれも、原因は泣かせられない私にあるのだから。それは甘んじて受けてやりますよ。

 今日こそ絶対に、泣かしてやる。
 鬼になってやる。
 限度を守らないと針がくるから、そこらへんの線引きはしっかりとして、彼女の瞳に涙を浮かべさせてやる。


「霊夢さん」
「何よ」
「今日こそ、絶対に、泣かせてやりますからね!」
「……やれるもんならやってみれば」
「ええ、やってやりますよ!」
「……っていうかさ」

 箒を片手に、霊夢さんは明後日の方向を見て何となく聞いてくる。

「今日も泣かせられなかったらどうするのよ?」
「明日泣かせます!」
「……明日も駄目だったら?」
「そりゃあ、泣かせるまでずっとですよ!」
「……私が死んだら?」
「幽霊の貴方を泣かせます。地獄に行ったなら、手紙を書くんで泣いたかどうか返事を下さい」
「…………」
「生まれ変わったっていうなら、小町さんあたりを懐柔して、生まれ変わった貴方を見つけて、まあ、花とか蟲とか下等生物かもしれませんが、とにかく見つけて泣かせます」
「……それ、泣く機能なんてないでしょう」

 ばっかじゃないの、って吐き捨てられて。
 彼女が此方を見る。
 ふにゃふにゃっと笑っていた。

「? とーにーかーく、私は諦めませんよ! 貴方を泣かして、号泣させてやります」
「無理よ無理。あんたにはぜったい!」
「ぐぬ?! ……ふっ、その台詞は、今日の私の攻めを耐え抜いてから言って下さいよ。今日はこれです! 外の世界の名作を取り寄せました! 題名は『フランダースの犬』です!」
「さて。お茶にしようかしら」
「ふっふっふ! これから情感たっぷりに音読してやりますからね! 覚悟して下さい!」
「……枕になってくれるなら聞く」
「よっしまかせろ!」


 駆け寄ると「ん」と手を出されたので、その手をとって指を絡める。
 今日の攻めは自信ありますよと声を大に言えば、あっそと軽く返される。
 繋いだ手が少し熱かった。

 よく分からないけれど、彼女はこうやって触れていると大人しく、私の攻めを比較的静かに受けてくれる。
 私自身、こうしていると不思議とわくわくして、彼女を泣かせるのが楽しみで仕方なくなるから。こうやって触れ合うのは悪くない。
 まったくもって、不可解で不愉快で不理解な、楽しい人間だ。


 視線をふとそらすと。玄関前に野菜が置いてある。
 あの量は、私の分も考えて買ってきたのだろう。じゃあ明日は私が自腹で二人分の材料を買って、何かを作らねばなるまい。
 特に取り決めもないままに決まったルールを、頭の中で確認して小さく頷く。

 一応は新聞もネタ探しも今は余裕があるし、今日と明日は泊まる事にしよう。
 一緒の布団で寝るのも慣れたし、彼女の抱き枕になる屈辱だって薄れてきた。
 最近は、家で一人で寝ても物足りなくなってきたし、特に問題はないだろう。


「そうだ、文は、今晩何が食べたいわけ?」
「んー。さっぱりしたものがいいです」
「そ」


 きゅっと強く手が引かれて、彼女の目が笑っていて。
 
 ああ、早く泣かせないって思った。






 この人間はきっと。

 泣き顔はとても可愛いものじゃなく、触れたら壊れちゃいそうなぐらい繊細な、酷く綺麗なものだと思うから。


 早く見たくて見たくて、しょうがない。




 霊夢さんは、そんな私の考えを分かっているのかいないのか、ふと私を振り返り、それは不敵に笑って見せた。



 それは可愛くない、泣かせがいのある笑顔だった。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 あやれいむがたくさんで嬉しかったので、ひっそりと便乗してみました。

 ちょっと捻くれつつも仲良しな二人。

 意地悪しているのにどこから嬉しそうな霊夢に、意地悪している筈なのに嬉しがられて悔しい文。
 
 身悶えする程にあやれいむが素敵すぎて、もっと増えて下さいと思ってしまいます。
 
夏星
コメント



1.ねじ巻き式ウーパールーパー削除
意地悪でさどいあややかわいいのです。
すっげぇにやにやしました。
2.名前が無い程度の能力削除
感想を考えてたらあとがきとほぼ同じ内容だった件
3.椿削除
そう言えば、最近あやれいむ多いね。
誰だ!俺の口の中砂糖をつっこんだやつは!!
4.奇声を発する程度の能力削除
あやれいむばっかだ…
5.Misaki削除
あやれいむは、こういう関係が私大好きです…!
さどさどかっぽー愛してます(’ω’ごちそうさまですっ
6.名前が無い程度の能力削除
んもう、お互い様なんだからぁ!
すてきすぐる
7.名前が無い程度の能力削除
あやれいむって素敵
8.名前が無い程度の能力削除
これはいいあやれいむ
9.ケトゥアン削除
ま た あ や れ い む か

( >_<)b<GJ!!
( >_<)bb<もうみんなGJ!!
\( >_<)/<あやれいむ万歳!!
10.名前が無い程度の能力削除
夏星さんまで参戦か……
嵐がくるな。あやれいむという名の嵐が。
11.名前が無い程度の能力削除
この流れなら言える。魔理沙の泣き顔の写真焼きまわししてください。
文に酷いこと言われても、平静を装う初期霊夢かわいい。
12.名前が無い程度の能力削除
嬉しそうな霊夢が可愛すぎて生きるのがつらい
ところであやや、「北風と太陽」という話があってだな…
13.名前が無い程度の能力削除
あやれいむ感染が広がってるなw
14.名前が無い程度の能力削除
頑張って鳴かせてください待ってます
15.時空や空間を翔る程度の能力削除
賽銭入れたら感涙するかも・・・
それも号泣きで。
16.名前が無い程度の能力削除
あやれいむはいいですね、本当にいいものです。
夜になれば、文なら霊夢を泣かせるなんて簡単に…いやなんでもないですごめんなさい。
17.オオガイ削除
凄い……本当にこういった文章は何を食べれば作れるのだ。
甘い甘いあやれいむ。
感謝。