「お届け物ですよー」
「新聞はいらないわよ」
ニコニコした笑顔を貼りつけた文に対し、冷たい言葉で返す霊夢。
「あやや。霊夢さんったらクールなんですから。文困っちゃう」
「それで?何の用?」
「無視ですかそうですか。まあいいです、頼まれていたものですよ」
はい、と差し出したのは写真だった。
被写体となっているのは何故か照れている様子の魔理沙だった。
霊夢はそれを見るとさっきまでの無表情が笑顔に変わる。
「あら、ありがとう。さすがね」
「これくらいなら簡単なことですよ」
ふふんとそれなりの胸を張る文。
「お茶でも飲んでく?」
機嫌の良くなった霊夢は珍しく文を気遣うような言葉を掛ける。
「ありがたく頂きます。できれば口移しがいいです」
「苦丁茶でいい?」
「ごめんなさい緑茶がいいです」
「それでいい」
霊夢がお茶の用意をしている間、文はその後ろ姿を眺めていた。
雲か、あるいは夢のように掴みどころのない人物。
そんな彼女に自分は惹かれている。
しかし、彼女は自分をどう思っているのだろうか。
迷惑なパパラッチか、良くて便利屋くらいか。
写真を提供することしか自分にはできない。けれども、そんな繋がりでも今の自分には十分。
そう、十分…。
「なに、ぼけっとしてんの?」
「ホワァァ!」
「きゃっ!」
突然声をかけられ奇声を上げ驚く文とそれ以上に驚かせられる霊夢。
「もう、なんなのよ急に。熱でもあるの?」
「霊夢さんにはいつでもお熱ですけどああごめんなさいお札構えないでください」
本気の意思を感じ取り平謝りする文。
霊夢はお札を仕舞い、ため息をついた。
「まったく。なんであんたはそうなのかしら」
「…霊夢さんが相手だからですよ」
「は?それどういう意味って、誰の許可とって寝てんのよ」
拗ねたような口調で呟いたかと思うと、文は頭を霊夢の膝に任せる。
いわゆる膝枕という体勢である。
霊夢は少し赤くなっていたが、文から見えなかった。
「これは寝言です、寝言ですからね」
「…もう」
諦めたようにため息をつき、文の話に耳を傾ける。
文は霊夢に顔を向ける。
「私は写真を撮って、それを霊夢さんの渡して。それで霊夢さんが嬉しいなら満足だったんですけどね。それだけだと満足できなくなってしまって。なんて言えばいいんですかね。他の誰かじゃなくて私で嬉しくなって欲しくて。写真じゃなくて私が来たから嬉しい、と思って欲しいと」
一気に言い終えると、霊夢から顔を背けてしまう。
霊夢は無言のままだったが、やがて口を開いた。
「要は寂しかったの?あんた」
「ええそうですよ、子供みたいですけどね」
そう言う文は長い年月を生きてきた妖怪ではなく、見た目相応の少女のように脆そうに見えた。
霊夢はそっと髪を撫でてやる。
「あんたらしくもない。逆に考えなさいよ。『ツンデレな霊夢さんは私に会う口実のために写真を頼んでいる』。そう考えないの?」
「けど、違うんでしょう?」
「まあ、そうだけど」
嘘がつけない霊夢だった。
余計脱力する文にを霊夢は無理やり上半身を起こす。
「ほら、カメラ出しなさい」
「何をするつもりですか?」
半ば強引にカメラを奪う霊夢。
「いいから。カメラを見る」
霊夢はカメラを自分に向けた右腕を突き出し、左腕を文の首に絡める。
そして、顔と顔がぶつかるまでような至近距離まで体を密着させる。
「れ、霊夢さん!?」
「ジタバタするな!」
霊夢の突然の行動に顔を真赤にして暴れる文を、同じく赤い顔で押さえつける霊夢。
「ったく。あんたが思ってるほど私はあんたを嫌いじゃないわよ」
「え?」
「嫌いな奴に仕事は頼まないわよ。あんたも私の信頼に答えなさい」
文の肩ごしに見えた霊夢はそっぽを向いていたが、嫌がっているようには見えなかった。
ただ、恥ずかしそうではあったが同時に嬉しそうでもあった。
それは自分が考えてる以上に想われていたからだろうか。
「ほら、恥ずかしいからさっさと終わらせるわよ」
「…霊夢さん」
「…なによ」
「やっぱりツンデレ痛い痛い!首を絞めないで!」
「うるさい!」
ああ、そうだ。
捕まえようとしても捕まえられない。
それなのに、自分から近寄って手を差し出す。
そんな取らえどころの無い少女に私は惹かれたのだ。
時々差し出される手のぬくもりを思い出せる。
それだけで私は十分だ。
そう、心から思えた。
>突然声をかけられ奇声を上げ
ホワァァ!
もっと広がれあやれいむの輪!(ちょ
どこまでも広がっていいよね!
あやれいむいただきました。感謝。