「あんた、なんで来るの?」
霊夢は、縁側で茶をすするアリスに言った。
アリスはポカンとした顔でこちらを見返してきた。
その後、少しうつむいて何やら考えたらしいアリスは、普段通りに言った。
「茶が出されるから?」
そう言ってこちらを見ながら、湯呑に口をつける。
今日の茶は、妖怪の山の奥地にある深層水で淹れたものだ。
味は普段の5割増しで良い。
「じゃあ、茶を出さなくなったら来なくなるの?」
アリスの言葉で浮かんできた、当然の疑問をぶつけてみる。
するとアリスは再び考えた。さっきよりも長く考えた。
そして、不思議そうな顔で尋ねて返してきた。
「いや、ここに来たら結果的に茶が出されているだけで、出なくてもくるわよ?」
「おい七色莫迦」
ひとつ前の質問の答えはどこに行った。
そういう、言外の訴えももちろん向こうは理解しているのだろう。
あえてそれをスルーして、茶のおかわりを自分で注いでいるに違いない。
アリスが本日通算4杯目の茶をすすっているのを見ながら、霊夢は渋い顔をした。
アリスはこちらの顔に気がついたのだろう。
茶を飲むのをやめてこちらを見た。
そして、さも当然のごとく言った。
「あんたもうちに来てるんだから、別にいいでしょ?それともうちも出入り禁止にする?」
「…………」
そう言われると、困る。
うん、すごく困る。
困ったついでに、ちょっと聞いてみた。
「アリスがうちに来る理由って、私と同じ?」
アリスの体は一瞬ぴくりと動き、しばらくそのまま制止した。
ゆっくり10秒くらいしてから、アリスは再び動き出す。
茶を飲み干して、こちらを見ずに言った。
「まぁ、そのとおりよ」
「……それならしかたない。もう一杯飲む?」
「もういいわ、お腹一杯」
差し出した急須は丁寧に断られた。
仕方がないので、アリスと一緒に空を見上げる。
夏にお似合いの、巨大な入道雲が空を陣取っていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「あなた、なんで来るの?」
アリスは、テーブルの向い側で鶏肉のステーキを食べている霊夢に言った。
霊夢は口いっぱいに肉を頬張ったまま、ハムスターみたいな顔でこちらを見返してきた。
その後、少しの間咀嚼しながら何やら考えたらしい霊夢は、普段通りに言った。
「ご飯が食べられるから?」
そう言ってこちらを見ながら、スープをスプーンですくって口をつける。
今日の鶏肉は、人間の里でも一番おいしいと評判のブランド鶏だ。
味は普段の5割増しで良い。
「じゃあ、ご飯を出さなくなったら来なくなるの?」
霊夢の言葉で浮かんできた、当然の疑問をぶつけてみる。
すると霊夢は再び考えた。さっきよりも長く考えた。
そして、不思議そうな顔で尋ねて返してきた。
「いや、ここに来たら結果的にご飯が出されているだけで、出なくてもくるわよ?」
「おい脳内春巫女」
ひとつ前の質問の答えはどこに行った。
そういう、言外の訴えを向こうは理解しているのかしていないのか。
そこら辺があいまいだから、肉を切り分ける手を止めさせることができない。
霊夢が付け合わせのコーンをスプーンですくうのに四苦八苦しているのを見ながら、アリスは渋い顔をした。
霊夢はこちらの顔に気がついたのだろう。
スプーンを置いてこちらを見た。
そして、さも当然のごとく言った。
「あんたもうちに来てるんだから、別にいいでしょ?それともうちも出入り禁止にする?」
「…………」
そう言われると、困る。
うん、すごく困る。
困ったついでに、ちょっと聞いてみた。
「霊夢がうちに来る理由って、私と同じ?」
霊夢の体は一瞬ぴくりと動き、しばらくそのまま制止した。
ゆっくり10秒くらいしてから、霊夢は再び動き出す。
最後のひと切れを食べてから、こちらを見ずに言った。
「まぁ、そのとおりよ」
「……それならしかたない。おかわりいる?」
「もういいわ、お腹一杯」
その言葉を聞いて、アリスは食器を台所へと持っていった。
洗うのは後でで良いだろう。
置いて戻ってきたら、霊夢は白く曇った窓の外を見ていた。
冬らしい、一面の銀世界が魔法の森を覆っていた。
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「あっ」
「あら」
桜舞い散る春のことだった。
博麗神社とアリス邸の丁度真ん中で、霊夢とアリスは会った。
「奇遇ね」
「本当ね。今日は買い物?」
アリスは、霊夢の持っている瓶を見ながら尋ねた。
霊夢は「まぁね」と軽く返す。
「里に美味しいお酒があるって聞いたからね、買ってきたのよ」
「へぇ、そうなの」
「そういうアリスも買い物?」
今度は霊夢が聞き返した。
アリスは緑色の手提げ袋を抱えている。
中身は見えないが、フルーティーな香りは香ってきた。
「そうよ。季節だし、さくらんぼを買ってきたの。他にもフルーツを沢山ね」
「へぇ、そうなの」
軽い世間話。
どこぞの主婦の会話のような内容だった。
唐突に、霊夢は下を見た。
アリスも釣られて下を見る。
そこには大きな一本杉。
巨大なその木は枝も太く、目印にも最適なので、ここらでは空の待ち合わせ場所として使われていた。
「ねぇ、ちょっと話していかない?」
そんなことを、霊夢は言った。
別段断る理由は無い。
帰ったところで、やることなんてそんなに無いのだ。
「いいわね、そうしましょう」
二人はゆっくりと下降し、手ごろな枝に並んで腰かけた。
一望できる春の幻想郷。
桜の木はまちまちに立っているが、ほとんどは緑色だった。
緑の絨毯に桜の刺繍が、はるか遠くに連なる山々まで広がっている。
「……あのさ」
霊夢は聞いた。
アリスは霊夢の顔を見たが、霊夢はこちらを見てはいない。
ただ、幻想郷を見ていた。
アリスは、それがふさわしいのだろうと考え、霊夢に倣った。
「なに?」
アリスは、前に向き直ってから答えた。
二人で、同じ景色を見ている。
「その果物、かなりの量があるけど……全部自分で食べるの?」
霊夢の言わんとするところが、なんとなく理解できた。
理解して、やっぱり顔を向き合わせてする話じゃないなと思った。
互いに臆病なだけだなんてわかっている癖に。
「違うわ。半分は霊夢の分よ」
アリスは正直に答えた。
隠す必要などない。結局、霊夢が遊びに来た時にフルーツポンチが出されてわかることだ。
「やっぱり、そうなんだ」
霊夢はそういうと、クスリと笑った。
それを聞いたアリスは、霊夢に尋ね返した。
「霊夢はそのお酒、一人で飲むの?」
アリスは尋ねてから思った。
これは、結構恥ずかしい。
白状したときも相当な恥ずかしさだったが、相手から真意を聞きだすセリフというものも負けないくらい恥ずかしい。
「一人でこんな良いお酒はもったいないから、アリスと飲もうと思っていたわ」
霊夢の言葉を聞いて、心が和らいだ。
ほっとして、ちょっと脱力して、そのあと、喜びが込み上げた。
「そうよね、やっぱりそう」
そんなことを言って、アリスはようやく霊夢を見た。
今度は霊夢もこちらを見ていた。
何とも良い笑顔だった。
普段の霊夢から、この笑顔を想像できる者はいないだろう。
互いに顔を見合わせて、笑顔でいるうちに、なんとなく可笑しくなってきた。
そして気がついたら、二人で笑いあっていた。
くすくすくすと。
けらけらけらと。
互いの顔をみて笑いあっていた。
ひとしきり笑って、笑いが治まっても、目は相手の目を離さない。
今度は、顔をそむけることができなくなっていた。
「ねぇ霊夢」
「なによ」
アリスは、期待を持って尋ねた。
多分、これも同じだから。
きっと今までと一緒で、今回も同じ気持ちでいてくれるはずだから。
だから。
「この一年、沢山遊びに来てくれたけど、その理由をいい加減教えてくれないかしら」
霊夢はニヤリと笑った。
多分、向こうも同じことを考えているのだろう。
「なら、あなたの理由も教えて頂戴?」
「もちろんいいわ、そのつもり」
緊張しないわけがない。
知るのが怖くないわけじゃない。
拒絶される未来を想像しないわけがない。
だけど。
飛び出してくる言葉は同じ。
二人の気持ちも同じ。
今までの関係も同じ。
これからの関係も同じ。
きっと、全て同じ。
「じゃあ、いっせーのーせで同時に言うわよ」
「不公平が無くていいわね、そうしましょう」
そう信じて、二人は息を吸い込んだ。
確信したから、自分の気持ちを正直に言った。
『いっせーの―――――あなたのことが好きだから!』
はもった。
盛大に、清々しく。
一字一句完全に同じだとは、流石に思わなかった。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……っぷ」
「……っくく、ははっ」
「あはは…あははははっ」
「く…っくっくっくっくははは!」
「あーっはははははっはははははははは!」
「あはは…はは、あははははは!!」
ほらみろ。
やっぱり同じだったじゃないか。
わかっちゃうんだってば。
思考回路が同じなんだってば。
ああもう。
向こうもわかってたってことでしょう?
まったく、恥ずかしい。
やりづらいったらありゃしない。
これだから、似た者同士は。
風に乗って、桜の花びらが飛んできた。
笑い合う二人の元へと飛んできて、赤く熟れたさくらんぼの上に乗っかった。
まるで、恋人同士になれたことを祝福してくれているようではないか。
それを笑いながら見たアリスは、まだ笑っている霊夢に尋ねた。
「で、今日はどっちの家にする?」
終
にしてもこの雰囲気を一年続けるとは…素直なんだかそうじゃないのか…
ってか周りからするとなんだ今更かみたいな通い妻っぷりw朝からテンション高めですよ!
………さて会社に行くか
いやはやレイアリはいいものだ。
この似た者同士だからこそのやりとりがイイよね~告白でハモるとは流石です。
多分誤字 手ごろが枝に並んで→手ごろな枝に並んで
あぁでも、何か暖かくなれました。
最後のハモりがいいなー
やっぱりレイアリが一番好きだー!!!!
誤字報告
>その後、少しの間租借しながら
→その後、少しの間咀嚼しながら
毎回俺の弱点直撃しやがって……とりあえず部屋に溢れんばかりに吐いた砂糖を片付けないとな…
やっぱりレイアリが一番良い!
いやあ、もうほんとに、ほむらさんのこととことん尊敬します。