おゥい、そこいくのは因幡のてゐ姐さんじゃアないかァ。
何だァ、かちかち山のちゑちゃんじゃアないか。
そンなに急いでどうしたのサ。私に何か用事かィ?
へへ、用事ってほどのモンでも無いんだけどサ。
てゐ姐、京に行ってきたンだろ?
だったら土産話の一つや二つしてくれたってバチは当たらないじゃないのサ。
土産話ったってサ。妾ァ都に観光に行った訳じゃア無いンだよゥ。
それに、私は都の中に入った訳じゃア無いからね。
ええっ、だってあの辺には都以外には寺やら神社やら、抹香臭い場所しか無いじゃないのサ。
あの辺に行って、都以外の何を見るってンだィ。
まあ、色々あるのサ。
じゃア、具体的に何をしてきたってンだィ?
てゐ姐、知ってるだろゥ?そうやってはぐらかされると、このちゑちゃんは余計に燃え上がるタチなのサ。
ハァ、会う度に言ってる気もするが、面倒臭い奴だねェ。あンた。
いいよ、解ったよ。教えてやるからそこ座ンな。
へへっ、流石はてゐ姐だ、太っ腹太っ腹。
伊達に長生きしてないねェ。
だったらもうちょっと年長者を敬いな。
あー。話すとなるとちょっとばかし恥ずかしいンだけどねェ。
ふんふん。
今の季節さ。ほら。空を眺めると目に着くモンがあるだろゥ?
月だね。
そう。それサ。
その事で妾ァ京のほうへ行ったのサ。
昔っから、月にァ妾らと同じような兎が住んでるというが、それァ本当かどうかってのが気になってねェ。
はァ、そりゃあまた随分とまあ。京にいって解る事とも思えないケド。
それで、どうだったんだィ?結果はサ。
うん、どうやら住んでるって話サ。
へェ、解ったのかい!
だけど、そりゃあそうだろうねェ。
ほれ、今宵もくっきりとお月さんでお仲間が餅ついてる姿が浮かんでらァ。
ところがどっこいちゑちゃんよゥ。
私が聞いた所によると、海を渡った遠い遠い西の国の人間は、あれを女の横顔と見るそうだ。
女ァ?私にァ兎が餅ついてるようにしか見えないがねェ。
それに、女の横顔と見た所で、結局兎は住んでたんだろゥ?
だったらそれでいいじゃないのサ。
・・・そうだね、それでいいのかもしれないね。
ん、どうしたんだいてゐ姐、急に立ち上がったりして。
悪い事言ったのなら謝るからサ。
安心しな、あンたが悪い訳じゃないよゥ。
こう、あンなに綺麗な月を見てたら血が騒いでねェ。
ちゑちゃん、踊ろう。
飛んで跳ねて、月が消えて朝になるまで踊ろうよゥ。
あは、いいねえ。流石てゐ姐、話が解る。
それじゃあ、月でがんばるお仲間に見えるように踊ろうよ。
月から横目でこっちを見てる別嬪さんから見えるように。
寂しい癖に、澄ました顔でさらりと嫌われ事を言ってのける姫さんに見せつけるように。
嬉しく楽しく、踊るとしようかァ。
兎何見て跳ねる
てゐの思いが伝わってきました。