「ん…」
私は目を覚ました。
ベッドから身を起こして周りを見渡すと一面紅の色調で揃えられた部屋だ。
私はその紅い壁や調度品からここが姉のレミリアの寝室であることを把握した。
甘い香りが私の鼻をくすぐる。なんとも品のいい部屋か。私の部屋とは違い、上品である。
なんというか勿体ないな、こんな奴に使われてる部屋は。
…まぁ、そんなことはどうでもいい。私には考えなければならないことがある。
まず、何故自分がここに居るのか?
そして何故姉が隣で寝ているのか?
ふむ…。
……。
…わかんね。オマケになんだか頭痛がしてきた。気分も悪い。きっと姉に何かされたのだ。昨日の夕飯を食べた後の記憶がないところを考慮すると何か強力な薬でも飲まされたのだろうか。…姉は私に構って欲しくて仕方ないような奴だから。いや、仕方ないじゃ済まないな。
姉を睨んでみた。すると、同時に目を覚ましたようだ。
寝ぼけ眼で少し寝癖がついている。
なんて間抜け面をしているのだろうか。
「おはよう、フラン」
「……ふん」
「気分はどう?」
「最悪よ」
「そう、大丈夫?お水飲む?」
「いらないわ」
スパッと切り返す。
私ってばクール。カッコいいでしょ?
では、さっさと自分の部屋へ戻ろう。着替えて、それから朝食を頂こう。
ベッドを出ようとしたら姉が口を開いた。
「昨日大変だったんだからね」
「ん?なにが」
「覚えてないの?昨日お酒飲んで酔っ払って」
「誰が?」
「貴女が」
「私が?」
「そう。私にくっついて離れないから大変だったのよ」
「くっついてって何さ」
「文字通りよ。木についたカブトムシみたいに私にひっついて、猫みたいに甘えてきてさ…で、こうして一緒に寝たってわけ。まぁ、可愛いかったから許す」
ほう、昨夜の記憶がないのは私がお酒を飲み過ぎたからであると言い張るつもりか。確かに初めてお酒を飲んだものだから少し加減を間違えてしまっていたのかもしれない。
いや、知的で紅魔館のお姉さん的存在(妹だが)でとおってる私がお酒ごときに負けるはずがないし、そもそもあんなただの液体に記憶を奪う能力があるとは思えない。
……ん? というか、話を聞く限りまるで普段素直じゃない私がお酒に酔って本心をさらけ出してしまった―――ように聞こえるじゃないか!
そもそも本心も「お姉様、抱っこー!」みたいな甘えん坊じゃない。そんな子供みたいなことして欲しいなんて思ったことない。
そう、私はシスコンのこいしと違ってこんな姉なんか慕っていないのである。むしろめんどくさい奴とか、うざったい姉とかそういう位置づけだ。私達姉妹の仲の悪さは紅魔館の内外に知れ渡っているに違いない。
「嘘ばっかり。また私に構って欲しいの?お姉様も随分な暇人なのね。紅茶を啜る以外に趣味でも見つけたらどう?」
「そうしたいのだけれどまだまだ手の掛かる妹がいるからね。構ってあげないと拗ねるでしょう?」
「拗ねる?誰が?」
「貴女が」
「私が?」
「そう」
「笑わせないでよ」
だが、姉はクスクス笑って全く聞く耳を持たない。
何を笑っているんだ、腹立たしい。
突然姉が私の頭に手を伸ばしてきた。
「な、なな何だよ」
「フラン、寝癖ついてる。ふふっ、ちょっと待ってなさい。今なおしてあげるからね」
そういって姉はブラシを取りに行く。
なんだ、その「手が掛かる妹ねぇ」みたいな生温い視線は。
「い、いい!自分でやる!」
なんだ、その「素直じゃないんだから」みたいな生温い視線は!
おっと、ちょっと熱くなってしまった、クールダウンクールダウン。私はクールでカッコいい女。私はクールでカッコいい女。
「まぁまぁ、お願いだから、ね?」
「う…なら、い、いいけど」
駄目な姉のお願いを聞いてやるのも妹の役目だ。まったく、難儀なものだ。
姉は丁寧に私の髪を梳いていく。…ところで、そのなでなでする動作は必要なのか?
「綺麗な髪ねー」
「……」
「さらさらで滑らか」
「……」
「金色なのも羨ましいわ」
「……」
「……」
「……」
「ねぇ」
「……」
「何か喋ってよ。寂しいわ」
「……」
うーうるさい。
いまそれどころじゃないんだ。
顔が熱くて、心拍数が上昇して、なんか変な気分だ。オマケに姉のほうをまともに見れない。
…これが二日酔いというものか!
…はやく終わんないかな。段々羞恥心がこみ上げてきた…
目線がふらふらと落ち着かず、なんとなく窓の方を眺めていると姉が口を開いた。
「ふふ、フラン。私いま幸せよ。こうして貴女と一緒に居られるだけでね」
「そんなことで幸せとは随分と安い人生だね」
「そんなことなんかじゃないわ。私にとってはとても意味のあることなの」
「なんだっていいよ」
「またそんなつれないこと言って。フランは私のこと嫌いなの?」
姉が冗談まじりで言った。
「そんなの当然じゃない。大嫌いよ」
私はすかさず答える。私は姉が大嫌いである。そう、これは覆らぬ大前提だ。
「あら、そうなの。残念」
姉はさらっと答えると私の頭を撫でていた手を止めた。
……え、なんだよ。なんで急に止めるんだよ。 どういう意味なんだよそれは。…え、あれ、え?私のこと好きなんだろ?撫でてればいいじゃない。なんで止めるん?あ、いやでも、もちろん私は大迷惑だよ?撫でられたって別に嬉しくないしカッコつかないし…ね?わかってるでしょ?さっきも言ったけど私は姉が大嫌いだって、っておいこらちょっと、なにニヤニヤしてんのさ!
「フラン、私のこと嫌い?」
姉がまた同じ質問をしてきた。
「………嫌い…」
「いいの?嫌いでいいの?」
柔らかく笑う姉。なのに随分イジワルに見える。
「……に、…………ない」
「なぁに?よく聞こえない」
うー…
「べ、別に、嫌いじゃないって言ったの!!」
「ん~、よく言えました!う~りうりうり」
頭なでなでに頬擦りが加わった。ああ、せっかくセットしたのにまたボサボサに…
まあ、またお姉様にやってもらうけど。
…ん?なんだよ。…言いたいことはわかってる。
そうさ、大好きだよ。重度のシスコンだよ。毎日お姉様と寝てるし、髪のセットだってやってもらってるよ。 だからなに!?それがあなたの人生に影響を与えるわけ!?関係ないじゃない!ほっといてよ!
…いいじゃん別に、ちょっとくらい姉妹の仲がよかったって
「お姉様」
「ん?」
「もっとぎゅってして」
あーもう本当に良い!!!
お姉様も、ちゃんと妹のことが分かってあげてるんですね。
ツンデレ過ぎるwww大人なレミリアが素敵です
ところで、
「レミリアにぎゅっとされるフラン」→仲の良い姉妹
「フランにぎゅっとされるレミリア」→どかーん
になるのはなぜでしょうか
未だかつてないフランのツンデレっぷりに、私の中の血が騒いで止まりません。いいわあ、このフラン。