Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

永遠亭のリボン騒動

2010/06/01 23:37:10
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 春の陽気が麗らかなお昼過ぎ。
 緑の景観が美しい永遠亭の縁側を、鈴仙・優曇華院・イナバは歩いていた。
 一歩、二歩……踏み出す足は次第に大股になり、数秒後にはスキップの姿勢となる。

「ホップっ」

 遂には、とん、と大きく跳ねた。

「ステップ!」

 そして、仔馬の尻尾のように結わえられた後ろ髪が、楽しげに揺れる――。



「ジャてゐどいてー!」
「……へ、鈴仙?」
「きゃー!?」

 鈴仙の視界に、障子を開けて部屋から出てきた同僚の因幡てゐが飛びこむ。
 虚を突かれたのだろう、振り向くてゐは目を瞬かせる。
 瞬かせただけだった。



 兎は急に止まれない――どってんもくもくぅ。





 ――場所を移して、てゐの自室。

 軍隊仕込みの回避術で、鈴仙はなんとか直撃を避けた。
 この件の直撃とはつまり、てゐに衝突することである。
 彼女自身は見事に額から地面へと突っ込んだ。

「おでこ痛い……」

 該当部位に両手を当てる鈴仙に、薬箱を片手に携えたてゐが呆れた視線を向ける。

「素直に突っ込んでくりゃいいものを」
「体格差考えると潰しちゃうじゃない」
「へーへ、私は小さいですからねぇ」

 呟きつつ、薬箱を開けるてゐ。
 鈴仙はじりじりと下がった。
 距離をとっている。

 てゐの半眼が少し険しくなった。

「血、出てない。消毒、必要ない。痛いの、ヤ」
「見りゃわかるっての。冷やすだけ」
「なーんだ、早く言いなさいよ」

 鈴仙はぺしぺしとてゐの肩を叩く。
 口元を引きつかせるてゐ。
 いらっ、ときたようだ。

 気付いているのかいないのか、鈴仙は両手で前髪を分け、額を曝け出した。

「んっ」
「はいよ」
「あぁぁ、冷たい!」

 永遠亭の薬師八意永琳特製の冷感シート。
 フィルムを外しただけで冷たくなると言う。
 作り方は企業秘密、冬の妖怪が一枚噛んでいるらしい。

 閑話休題。

 額を中心に広がる冷たさに、鈴仙は頭を数度振る。
 体が感覚に慣れるまでの行為だ。
 それが理由の一つ。

 もう一つは――デモンストレーション。

「あー……」
「ん、ん、なになに?」
「やけにテンション高いと思ったら……」

 てゐの呆れた声に、鈴仙は食いつく。
 彼女にとって響きはどうでもよかった。
 デモンストレーションが功を奏したのならばよい。

 数瞬の後、頭を振った余波で揺れる後ろ髪をそっと掴み、てゐが続ける。



「その……ポニーテール、悪くないんじゃないかな」

 鈴仙は普段、長い薄紫色の髪をただ下ろしているだけだ。
 けれど今、てゐの言葉の通り、珍しくもポニーテールを結っていた。
 曝け出された白いうなじが健康的なイメージを持つその髪型と、いいギャップになっている。

 ――控えめな賛辞は、悪戯兎の精いっぱいの抵抗だった。



「ぶっぶー」

 だと言うのに鈴仙は唇を尖らせる。
 眉根に皺を寄せるてゐの手を掴み、少し上にずらした。
 突然のことに態勢を崩したてゐの顔が胸に直撃したのだが、鈴仙は一切気にしていない。

「っぷあ!?
 あんたもうちょっと恥じらいを持て!
 あと髪に合った白いリボンが似合ってるよ!」

 反射的に仰け反り顰めるてゐに、鈴仙は満面の笑みを浮かべる。



「でしょでしょ?
 師匠に貰ったの!
 もう嬉しくて嬉しくて!」

 スキップもステップも、全てはそのためだったと言う。



 『師匠』――永琳がリボンを渡したのは、なにも鈴仙だけではない。
 夏に向けてのあせも対策に、長髪の者へと配っている。
 否、配っていた。

 結局、永琳は亭の全員に配って回ったのだから。色々と我慢できなかったらしい。

 しかも、リボンは一律ではない。
 形も色も、各々に合った物を選んでいる。
 流石は‘月の頭脳‘永琳と言ったところであろうか。



「‘月の親馬鹿‘って言った方が適しているような」
「ん、何のこと?」
「いやいや」

 鈴仙は首を傾けた。
 その視界から、てゐが消える。
 続く衣擦れの音が背に回ったことを示していた。

 足を崩して座る鈴仙、その後ろ、膝で立つてゐ。

「リボン盗ったら‘幻朧月睨‘」
「容赦ないなぁ。違うよ」
「じゃあ」

 なによ――問うと同時。
 しゅるりとリボンが解かれる。
 重力に引かれ、髪が床へと落ちて行く。

「オプティック!」

 振り向き瞳を赤くする鈴仙に、てゐの片手が押し当てられた。

「みぎゃー!?」
「オプ……? 結い直すだけだって」
「目が、目が赤く染まるー!? ……って元からか」

 鈴仙が絶好調だ。

 それはさておき、解いたリボンをひらひらと漂わせるてゐ。
 気持ちが高揚していたためか、鈴仙の結び方は緩かったようだ。
 加えて、先ほどの飛んだり跳ねたりで、形も曲がっていたそうな。

 事情を聞き、鈴仙は静かになった。
 視線を前方に定め、てゐに委ねる。
 時々頭に触れる指がこそばゆい。



「あ、そだ、てゐ。そろそろ漫画読み終わった?」
「あんたが置いていったんでしょうに」
「面白かったでしょ?」
「……ちょいと子供っぽかったかな」
「むぅ。妖夢も借りる時、微妙な顔してたなぁ」

 穏やかな時間が、暫しの間、続く。

「後で返しに行かないと。……それはそうとさ」
「ん、もうちょいだよ」
「ありがと。……じゃなくて」
「よし、できた」
「えーと、なんで、左右で結ってるの?」

 ――と言う訳で、ツインテール鈴仙の完成である。



「ほんとはお団子にしたかったんだけどね。流石に長さが足りなかった」
「それをするなら姫様の方が合ってるんじゃないかなぁ」
「いや、うん。ほら、月の兎」

 鈴仙が妖夢――更に言うなら正式な所有者は主で、出所はその友人だ――に借りたのは、所謂、少女漫画だった。

「珍しいね」
「ごめん、誘惑に勝てなかった……」
「うーんと、多分、何か勘違いしてるんじゃないかな。私が言ったのは、リボンを持っていること」

 言いつつも、鈴仙は顔を数度振る。
 その眼前に、ひょいと手鏡が現れた。
 浮いているのでは勿論なく、てゐが差し出したのだ。

「あぁ。私もお師匠にもらったからね」

 数秒ほど鏡と睨めっこをして、鈴仙は言う。

「変じゃない?」
「そう思うならやってない」
「じゃあ、師匠と姫様に見てもらおう!」

 外出も申し出ようと、鈴仙は本棚から件の漫画を抜き出した。
 数冊を脇に抱え、ふと首を捻る。
 一冊足りない。

「姫が持ってった」

 視線でてゐに問うと、あっさりと応えが返される。

「丁度良かったんじゃないかな。
 確かお師匠、姫の所に行くって言ってたし。
 あの方にあせもとかは無縁だけど、駄目もとで渡してるんじゃない?」

 立ち上がり、てゐが障子を開く。
 足並みを揃え、二羽は廊下へと出た。
 心持温かくなった耳周りに触れつつ、鈴仙は思った。

 姫様のポニーテール、凄く見たい――と。





 姫――永遠亭の主、蓬莱山輝夜の部屋の前に来た二羽がまず聞いたのは、破裂音だった。
 部屋の中から聞こえてくる、破裂音だった。
 ぶぱぁ。

 そして、赤く染まる障子。

「ひ、姫!? 師匠ーっ!」
「またなにかお師匠がいらんことしましたか姫ぇ!?」

 安心と信頼の永琳クオリティ。

 鈴仙は左の、てゐが右の障子を開く。
 二羽の視界に映るのは、当然のごとく月の主従。
 微苦笑を浮かべる輝夜と仰向けに倒れる永琳だった。

「え、と……?」

 状況を飲み込めず、目を白黒させる二羽。
 気付いた輝夜が顔を左右に振る。
 揺れる、仔馬のような尻尾。

「どうかしら、因幡たち?」

 ――デモンストレーションだ。

「おかしくはない?」
「あ、や、怖いくらい似合って」
「わ、わーわーっ! 姫、可愛い! 綺麗! 素敵!!」

 鈴仙のメーターが振りきれた。
 なんのと言われても説明はできない。
 できないが、確かに振りきれたのだった。

「あぁ、来ては駄目よ、月因幡」
「そんな!? ぎゅっとしたい!」
「あんたちょっとお師匠に毒されすぎ!」

 飛びつこうとする鈴仙のスカートを、どうにか掴んだてゐが叱責する。

 だが――てゐは首を捻る――惨状の理由がまるでわからなかった。

 血で染まる永琳とその辺り一面、一方、普段と違うのは髪を結っているだけの輝夜。
 或いは永琳なら、それだけで全身の血管を破裂させるかもしれない。
 けれど、彼女を中心にして広がる赤い液体は、とても一人分とは思えなかった。

 結局、妥当な推測も立てられず、輝夜へと視線を向けるてゐ。

「月因幡、貴女はさっきから浮かれすぎ。めっ、よ」
「あぅ、ごめんなさい、姫様ぁ……」
「それで正気に戻るんかい」

 突っ込むてゐは、気がつかなかった。

「あれ? さっきからって……聞こえていたんですか?」

 代わりとばかりに、鈴仙が問う。

 この場だけならば、輝夜の言葉は出て来ない。
 だから、てゐの部屋に入る前の嬌声を拾ったのだろう。
 跳ねて飛んだ時、思わず口にしていた、掛け声を。

 ――そう、鈴仙は推測した。

「ええ。
 故に、永琳は倒れている。
 ……これじゃちんぷんかんぷんかしら」

 愛するペットの鋭い指摘に笑み、輝夜が立ち上がる。
 その手には、一冊の本が掴まれていた。
 鈴仙が借りた漫画だ。

 一歩、二歩、と二羽に近づく。

「あ、姫! 床は血で汚れています!」
「永琳のだもの。構わないわ」
「えっと、御馳走さまです」

 意味はよくわからなかったが、鈴仙は自身がよく向けられる言葉を言ってみた。
 向けてくるのは、主に輝夜や永琳。
 傍にいるのはてゐだった。

「めっ。
 ともかく、そう、褒美を考えていたの。
 ほら、珍しく永琳が下心抜きの仕事をしたでしょう?」

 そのてゐが、額に手を当てている。
 ついで、重い溜息を零した。
 理解したようだ。

「ちょっとこら、てゐ。ちゃんと聞きなさいよ」
「あんたが言うな。……姫、まさか」
「ふふ、地因幡も一因ね」



 何を?



「私は、貴女に借りていた是を読んでいた。
 丁度その時、永琳がやってきたわ。
 そして、月因幡の声が聞こえた」
 


 部屋の惨状を。
 永琳の状態を。
 褒美の内容を、だ。



「あ、是って」
「うん。『姫――」
「ライオンのぬいぐるみも用意しておくべきだったわ」



 つまり、鈴仙と同じく、輝夜も跳ねたのだ。
 それも極上の笑顔という大盤振る舞い。
 永琳にはちょっと刺激が強すぎた。
 


 顔を見合わせる鈴仙とてゐ。
 再び輝夜へと視線を向ける二羽の視界には、輝夜と、その髪を彩る赤いリボンが映る。
 そして、件の漫画を差し出す輝夜に浮かぶ笑顔は、彼女たちのみならず、永琳にまで繰り返し元気を与えてしまっているのであった――。





「えーと、じゃあ姫様、このあり得ない量の出血って、全部……」
「永琳よ。蘇って思い出して出し切って、蘇る。繰り返し」
「あぁ、リボーン」

 ――おあとが宜しいようで。




                      <ちゃんちゃん>
・いけいけゴーゴー、ジャーンプっ! お読み頂きありがとうございます。

・久しぶりに幸せ兎が書けて、私は満足です。
・若い方に姫のネタってわかるのかしら。
・ネタ被り凄い怖い。

いじょ
道標
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
元ネタは分からなかったけどポニテの姫様を想像したら幸せな気分になりました!
…ピクシブでポニテの姫様のイラストないかなぁ。
2.名前が無い程度の能力削除
ポニテ姫様、ツインテ鈴仙は正義。
可愛い永遠亭をありがとうございます。
3.名前が無い程度の能力削除
赤いリボンにライオンのぬいぐるみ、姫……ああ、あれか。と思ったけどタイトルくらいしか記憶にないなぁ。
4.名前が無い程度の能力削除
主人公の声が確かピカチュウだったことが真っ先に浮かんだ自分って……。
てゐ苦労人気質な気がw
5.名前が無い程度の能力削除
御馳走さまでしたー!!
6.名前が無い程度の能力削除
ネタ被り?
ポニテの姫様ならいくらでもおk。
7.名前が無い程度の能力削除
パラレルパラレル
8.ぺ・四潤削除
元ネタわからんけどポニテ姫様が可愛いことはわかった。
そのうち新番組ブレザームーンが始まるのかww

前作はいろいろ条件がそろいすぎてたので、てっきりあの絵を見た上で書いたもんだと思ってました。
知ってるよとか言われたらどうしようかとww