「っはー。ぬえぬえしたー」
そう言って、実に気持ち良さそうに風呂場から顔を覗かせたのは正体不明飛行妖怪こと封獣ぬえ。
タンクトップにホットパンツというラフな格好に身を包んだ彼女は、首に掛けたタオルで額の汗を拭いながら、軽快な足取りで廊下を歩いていた。
―――と、そんな彼女を、廊下の突き当たりで待ち受けるひとつの影があった。
その影はぬえの姿を確認すると、ゆっくりと歩み出た。
「―――ぬえ」
「? 何? ナズーリン」
その影とは―――命蓮寺きっての賢将、ナズーリンであった。
彼女はオホン、と咳払いをした後、真剣な表情で言った。
「……君は、可愛いな」
「…………」
「…………」
―――沈黙。
数秒後、ぬえが怪訝そうに訊ねた。
「……何? いきなり」
「ふむ……変化なし、か」
「? 何が?」
「……まあ、そうだろうな。やはり彼女でないと……」
「いや、だから何が?」
戸惑うぬえをよそに、一人ふんふんと頷くナズーリン。
やがて、彼女は首を振りながら言った。
「ああ、いや……すまない、なんでもない。忘れてくれ」
「……はい?」
「本当に、なんでもないんだ。……では、失敬」
「……? 何なの? 一体……」
そそくさと去っていくナズーリンの背中を訝しげに見つめながら、ぬえは首を傾げた。
―――その五分後。
「あ、ぬ、ぬえ」
「? 何? 星」
居間でごっきゅごっきゅとコーヒー牛乳を飲んでいたぬえに声を掛けたのは寅丸星だった。
彼女はどこかそわそわした様子で、視線を上下左右へ彷徨わせている。
「……?」
そんな星をぬえが胡乱な目で見つめること十数秒、星はやがて、意を決したように言った。
「え、えっと……ぬ、ぬえは可愛いですね!」
「…………」
「…………」
―――沈黙。
数秒後、星がほう、と息を漏らした。
「……やはり、動きませんね」
「……いや、だから何なの? さっきのナズといい……」
少し苛立ったような口調で言うぬえ。
すると、星は途端に慌て始め、両手をわたわたと振りながら、弁解するように言った。
「あ、え、えっと、その……ごめんなさい、なんでもないんです! 忘れてください!」
「……はあ?」
「じゃ、じゃあそういうことで!」
「ちょっ……もう、何なの? 一体……」
どたどたと駆けていく星の背中を見ながら、ぬえは残りのコーヒー牛乳を飲み干した。
―――そのまた五分後。
「あ、ぬえ」
コーヒー牛乳を飲み干した後、居間で引き続き日課のぬえぬえ体操をしていたぬえに声を掛けたのは雲居一輪だった。
「……何? 一輪」
ぬえはぬえぬえ体操を中断し、なんとなく嫌な予感を覚えながらも、次の一輪の言葉を待った。
すると一輪は、いつになく優しい笑みを浮かべて言った。
「ぬえは、可愛いわね」
「…………」
「…………」
―――沈黙。
ぬえはがっくりとうな垂れ、盛大に溜め息を吐いた。
一方、一輪は何かを確かめるように、うん、うんと頷いた。
「……やっぱり駄目ね。私じゃあ……」
「……あのさあ」
じとっとした目で、一輪を睨むぬえ。
対して、不思議そうに首を傾げる一輪。
「? どうしたの? ぬえ」
「……それはこっちの台詞。一体何なの? さっきから……ナズや星に続いて、一輪まで。……何? 私を馬鹿にしてるわけ?」
かなり苛立った口調で言うぬえ。
すると一輪は、やや慌てた調子になりながらも、笑顔のままで答える。
「あ、いや、えっと……ご、ごめんなさい。そういうわけじゃあ、ないのだけど……」
「はあ? じゃあ何なの? 次から次へと……」
「そ、それは、その……あ、私、お風呂入らないとっ!」
「ちょっ、こら! 逃げるなあ!」
ぬえの追及の声も届かず、一輪はすたこらと居間から出て行ってしまった。
「もう……なんだってのよ……」
一人居間に取り残されたぬえは、むすっとした表情で呟いた。
―――そのさらに五分後。
「あ、ぬえちゃん」
「……聖」
居間でのぬえぬえ体操を終え、自室へと戻るべく廊下を歩いていたぬえに声を掛けたのは命蓮寺のリーダー、聖白蓮だった。
彼女はいつものように、柔らかい笑みを浮かべていた。
「…………」
しかし今のぬえは、そんな白蓮の笑顔すらも、懐疑的に捉えざるを得ないような心理状態となっていた。
いつになく険しい顔つきをしたぬえを前に、白蓮は不思議そうに首を傾げる。
「? どうかしたの?」
「……いや、なんでもない。……で、何?」
二度あることは三度ある。
だが、四度はそうそうないだろう。
そう思い、白蓮に一抹の希望を託すぬえ。
しかし、彼女のそんな淡い期待は、白蓮の次の一言により、あっさりと裏切られることになる。
「あ、うん。えっと……ぬえちゃんは可愛いわね!」
「…………」
「…………」
―――沈黙。
ぬえはもはや何のリアクションも返さず、ただただ無言で、じとっと白蓮を見つめるのみ。
一方、白蓮は、きょとんとした表情を浮かべている。
「……あら? おかしいわね……」
「…………」
やがて、沈黙したままのぬえに違和を感じた白蓮が、心配そうに声を掛ける。
「? ぬえちゃん? どうしたの?」
「…………っ」
そこでついに、ぬえはぎろりと鋭い視線を白蓮に向けた。
そして一気に、畳み掛けるような口調で言う。
「もう、一体何なの!? よりにもよって聖まで……私への嫌がらせのつもり? それとも、普段悪戯されてる仕返しかしら?」
すると、白蓮は驚いた様子で、口に両手を当てて言った。
「えっ! ご、ごめんなさい、そういうつもりじゃあ……」
「じゃあ何なの? さっきから皆して、私のこと可愛い可愛いって……」
これまでの不満をすべてぶちまけるかのようにぬえが言うと、白蓮は申し訳なさそうに頭を下げた。
「……ごめんなさい、ぬえちゃん。配慮が足らなかったわね」
「…………」
素直に謝る白蓮に対し、ぬえもとりあえずは口を噤み、彼女の次の言葉を待った。
そして、白蓮もぬえの気持ちを汲み取ったのか、真面目な表情で話し始めた。
「……ムラサがね」
「ムラサ? ムラサがどうかしたの?」
思わぬ人物の名前を耳にし、白蓮の言葉を遮るような形で反応するぬえ。
白蓮はそんなぬえの様子にくすりと微笑むと、話を続けた。
「……ええ。実はね、さっき、ぬえちゃんがお風呂に入っているときに―――」
◇ ◇ ◇
今からおよそ一時間前。
ぬえがお風呂でぬえぬえしている頃、彼女を除く他の面々は皆、居間に集まっており、
「……まったく、ご主人は……」
「ごめんなさい。ナズーリン……」
「まあいいじゃないの。無事に見つかったんだから……」
「ふふふ……」
―――と、とりとめもない話題に花を咲かせていた。
「本当に、もう……」
「えへへ……」
「…………」
「…………」
―――そしてふと、皆の会話が止まったときだった。
ずっとその機を見計らっていたかのように、命蓮寺の船長、村紗水蜜は大きな声で言った。
「ぬえって、すっごく可愛いんですよ!」
その余りにも唐突な発言に、残りの面子は一瞬固まる。
そして、最も速く反応したのはナズーリンだった。
「……なんだい船長。藪から棒に」
次いで星、一輪も相槌を打つ。
「ま、まあ、確かにぬえは可愛いですね。なんか、子供みたいで」
「そうね、憎たらしい所もあるけど……その点については同意するわ」
だが村紗は、そこでちっちと指を振った。
「いやいや……確かにぬえは、そういう意味でもすっごくすっごく可愛いですけど。でも、私が言ってるのはそういうことじゃないんです」
「? ……ぬえちゃんには、もっと違う可愛さがあるってこと?」
首を傾げながら、訊ねる白蓮。
村紗は腕を組み、目を閉じたまま大きく頷く。
「はい」
「……じゃあ、どういう可愛さなんだい? それは」
ナズーリンの問い掛けに、村紗はにやりと笑って答える。
「……皆、この後、ぬえがお風呂から出てきたら、一言、『ぬえ、可愛いね』って、言ってあげてみてくれませんか」
「? どういうことですか?」
星の疑問に、村紗は胸を張って答える。
「……そうすると、多分ぬえは、こんなことを言うんです。『は……はぁ!? い、いいいきなり何言ってんの!? ばっかじゃないの!? しねば!?』……と」
「ま、まあ……確かにぬえなら、そんな風に言いそうね」
やたらリアルにぬえの口調を再現する村紗に少し引きつつも、一輪が同意する。
すると村紗は、一層興奮した様子で話を続けた。
「そうでしょう!? でもね! 口ではそんなことを言いながらもね! いいですか一輪!?」
「え、ええ……いいから、何なの?」
いつになくハイな村紗にかなり引きながらも、話の先を促す一輪。
すると村紗は、ぐっと拳を握り締めながら、声高に言った。
「―――ぬえの身体のとある箇所は、全く正反対の反応を示すんですよ!」
「? 正反対の、反応?」
今度は一輪に代わって、白蓮が言葉を返した。
村紗は力強く頷く。
「はい!」
「どこなの? それは」
白蓮はいつものように落ち着いており、おっとりとした調子で訊ねる。
すると村紗は、自身の肩甲骨のあたりを指差しながら、にぃっと笑って答えた。
「……羽根です」
「羽根?」
「そうです! 私が、『ぬえ、可愛いね』って言うと、ぬえの羽根が、ぱたぱた動くんです! 口では悪態をついているのに! 顔はそっぽを向いているのに! そのギャップが、もう可愛くて可愛くて……」
頬に両手を当て、くねくねしながら嬉しそうに話す村紗。
一方白蓮は、やや驚いた様子で言葉を返す。
「へ~、そうなの。それは知らなかったわ」
「そうなんですよ! それから他にもね、ぬえったら……」
◇ ◇ ◇
「―――って感じで、ムラサは他にも、ぬえちゃんの可愛いお話を沢山私達に聞かせてくれ―――って、あら? ぬえちゃん? どこ行くの?」
―――その直後、暢気な顔で縁側を歩いていた村紗は、ぬえの渾身のドロップキックを背後からモロに喰らい、翌日丸一日、布団の上で療養することを余儀なくされたという。
了
とりあえずぬえぬえ可愛い
電車に乗ってるのに顔がにやけて元に戻らない。
そして、ぬえぬえ体操の詳細をk(ry
可愛えぇ。
ぬえのツンデレ(?)がパネェ
この二人はもっとラブチュッチュするべきいやしてくださいおねがいしま
GJ!
嬉しすぎて顔があっつい・・・ていうかにやけが止まらないー!
こんな表情見せられない!ムラサのばかあああああ!!!)
とか思っているかもしれないなんて妄想しましたw
まりまりささんのムラぬえ大好きです
斬新なぬえナズかと思って期待してたのに何にも無かった!残念だ!
船長のぬえバカっぷりがたまんねぇ。
キャプテンがデレデレだよぉ~!!!
甘すぎて虫歯になっちゃうよぉ~!!!
ぬえぬえしてるぬえ可愛いよぬえぬえー。
ところでぬえぬえ体操とやらの詳細をお聞きしたい
それから両手を挙げてぬえぬえと背伸びの運動から始まるのか
ぬえかわいいよぬえ
もっとだ!もっとこのかわいいぬえとムラサを我所望する!!