朝のジャムが少しだけ残ってしまった。
なので今日の美鈴のパンはジャムパンになる。
大喜びするわね、と思いつつ門に向かった。あらお花畑が綺麗。
塀にもたれ掛かる美鈴が目に入る。何か読んでるのかしら、手元に本を持ったままだわ。
いつも通りの時間にいつも通り門を開け今日のご飯を支給してあげましょう。
「何読んでるのかしら?」
「サボってません!」
早い返答。条件反射ってやつかしら。
覗き込むと本には絵が小さい枠に沢山並んでいた。
「漫画?」
「ええ、まあ」
「面白い?」
「ええ、まあ」
「今度貸して」
「ええ、え?」
びっくりしすぎたのか美鈴の額には汗がダラダラ流れていた。今日はそんなに暑くないのに。
でも夏もそろそろね。日の入りも遅くなるしお嬢様の活動時間も短くなるでしょうし。
暇な時間も多くなるから娯楽の一つくらい、余裕はあるでしょう。
「珍しいっすね」
「たまには、ね」
そう、たまには息抜きも必要なのだ。この皿を指先一つで回す程度の息抜きが。
くるくるー。
「あの、いつもより多く回してもらってるところに申し訳ないんですがご飯くれませんかね?」
「ごめんなさい」
調子に乗ってしまった。けどまあいいや、門番相手だし美鈴だし。
ノリにノッてナイフ刺しても笑って流してくれるし。
ごめんなさいと言った途端に今日のご飯、しかもジャムパンを落としても笑顔で。
「あ」
「あ」
乗りすぎた。結果ジャムパンは蟻のご馳走に変わり果ててしまった。
諸行無常、食物連鎖、違うか。
美鈴の頬に一筋の涙がキラリ。素敵。
「ごめんなさい」
「いえ、いいです……それよりおかわりありますかね」
「かいむー」
「さいで……」
「可愛くなかったかしら」
「すいません可愛くする必要が一片たりとも見当たらなかったものでスルーしてしまいました」
「残念」
ホントに残念だ。お嬢様にお茶のおかわりを要求された時とかに使おうと思っていたジョークなのに。
『むー』という部分が腹立たしくも可愛らしい、憎むに憎めない。考えついたときは『いける!』と思ったのに。
私にジョークは向いていないのだろうか。いやそんなことはない。
でも美鈴が涙目なので今日のところは控えておこう。
「今日はご飯抜きっすか……はぁ」
「そうね、気の毒に。生憎今の私は焼きたてのクッキーくらいしか持っていないし」
「ください」
「ああ、本当に気の毒だわ。手元にベリー類をふんだんにあしらった特製のクッキーしか無いなんて」
「ください!!」
「こんな稀少品の使われてないただのクッキー、お嬢様へ差し出すわけにはいきませんわ。投げ捨てるしかない」
「ください!!!!!!!」
湖の手前側端っこまで飛んだ。上々。
私の肩もまだまだいけたもんね。
隣の美鈴は口をポカンと開けたまま湖を見つめている。宙に舞うクッキーの軌道にそんなに感動したのかしら。
ちなみに私は感動した。涙チョチョ切れそう。途中で袋が開いて一枚一枚が別々に飛んでいく場面なんて号泣。
人の出会いと別れの切なさをクッキーに重ね合わせしんみりしていると、隣からやっぱりしんみりした泣き声が。
「クッキーぃ……」
「人間と妖怪は相容れないものなのよ……時間の軸が違うの」
「いや全然そんな話してなかったですよね?」
違うの? てっきり美鈴も人と妖怪の寿命の差故のすれ違いをクッキーと一緒に思いを馳せていたのかと。
いつか私もここから去る日が来るのかしら、来ないのかしら。
何だか最近勢いでどうにかなってしまいそうな気がするのが恐い。ちょーてんかいってやつで。
お嬢様が『命を運ぶと書いて運命!』とか叫びつつ私の寿命がカンスト状態になったりしないかな、しないか。
「咲夜さん私に恨みでもあるんですか……」
はてあったかしら。恨みを買いそうなことはあったような気がする。
うっかりパンが腐ってたり、うっかりランダム効果が表れるパンを支給したり、うっかりパンがとても腐ってたり、ふと思い立って納豆パンを試してみたり、それが大失敗したり。
多いなあ。こんだけしでかせば当然美鈴は私を恨んでいるはずだ。こわっ。
殺られる前に殺らなければ。そっと懐から愛用のナイフを。
「すいませんよっぽど嫌っていたようですね謝りますからそのナイフをしまってください」
「あらレディの腕をいきなり掴むなんて美鈴ったら大胆ね」
「刺そうとしないでください!!」
いくらお笑いに疎い私でもこれくらいは知っている。これは振りってやつだ。
要するに美鈴は、ええと、つまり、うーん、どうされたいの?
「どうされたいの?」
「とりあえずこの状況から開放され且つご飯をもらいたいですね」
ということなのでナイフをしまってあげた。流石私、笑いの分かる瀟洒な女。
私の腕から手を放した美鈴は肩で息をして何だかとっても疲れ気味。何だか可哀想ね。
疲れた時には甘いものが一番、と私は懐から手作りのウェディングケーキを取り出した。
「さ、これをお食べなさい」
「あの、スケールが大きすぎるんですが」
「おやつといったらこれでしょう」
「初めて聞きました」
「はぢめての共同作業をお望み?」
「聞いてー」
愛用のナイフ再び登場。それを握る私の手にそっと美鈴の手も重ね合わせて、やだ、美鈴の手、おっきい。
不覚にも跳ねる胸のときめきをめきめきと強引に抑えつつナイフをケーキの真ん中に沈ませていく。ずぶずぶ。
乳頭、間違えた、入刀完了。これで晴れて私たちも立派な夫婦だわ。
「ハネムーンはどこにする? 熱海?」
「頭痛いんで診療所連れてってもらっていいですか」
「あら大変」
本気で疲れてるわこの娘。まるで掴めない上司に散々振り回されたような疲れっぷり。
どうかしたのかしら、咲夜心配。時を止め一瞬で竹林の診療所まで飛んでいく。
そのままお薬を失敬した。あとでお代は払います。請求書を送ってくだされば。
ついでに時を止めたまま美鈴の口にビタミン剤やら頭痛薬やらを滝のように放り込む。
こんだけ摂取すれば元気百倍ね。熱々の紅茶で流しこんであげましょう。
そして時は動き出す。
なーんて。
あ、美鈴倒れちゃった。
***
目を覚ますと自分の部屋の天井が見えました。おそらく私の横でちょこんと椅子に座りながら船を漕いでいる彼女が運んでくれたのでしょう。
完璧瀟洒でありながら時々、というか常にどこか抜けている彼女ですが館のみんなを思う気持ちは本物です。
お嬢様に借りていたはずの漫画が彼女の膝の上に折り目がついてしまうような置き方で広げられているのは気のせいです。
少し天然入っててお茶目なだけなんです、多分。
だからこの氷嚢代わりに額に乗っけられたジャムパンにもきっと彼女なりの気遣いが、メッセージが。
あるといいなぁ……。
ジャムパンうまっ。
なので今日の美鈴のパンはジャムパンになる。
大喜びするわね、と思いつつ門に向かった。あらお花畑が綺麗。
塀にもたれ掛かる美鈴が目に入る。何か読んでるのかしら、手元に本を持ったままだわ。
いつも通りの時間にいつも通り門を開け今日のご飯を支給してあげましょう。
「何読んでるのかしら?」
「サボってません!」
早い返答。条件反射ってやつかしら。
覗き込むと本には絵が小さい枠に沢山並んでいた。
「漫画?」
「ええ、まあ」
「面白い?」
「ええ、まあ」
「今度貸して」
「ええ、え?」
びっくりしすぎたのか美鈴の額には汗がダラダラ流れていた。今日はそんなに暑くないのに。
でも夏もそろそろね。日の入りも遅くなるしお嬢様の活動時間も短くなるでしょうし。
暇な時間も多くなるから娯楽の一つくらい、余裕はあるでしょう。
「珍しいっすね」
「たまには、ね」
そう、たまには息抜きも必要なのだ。この皿を指先一つで回す程度の息抜きが。
くるくるー。
「あの、いつもより多く回してもらってるところに申し訳ないんですがご飯くれませんかね?」
「ごめんなさい」
調子に乗ってしまった。けどまあいいや、門番相手だし美鈴だし。
ノリにノッてナイフ刺しても笑って流してくれるし。
ごめんなさいと言った途端に今日のご飯、しかもジャムパンを落としても笑顔で。
「あ」
「あ」
乗りすぎた。結果ジャムパンは蟻のご馳走に変わり果ててしまった。
諸行無常、食物連鎖、違うか。
美鈴の頬に一筋の涙がキラリ。素敵。
「ごめんなさい」
「いえ、いいです……それよりおかわりありますかね」
「かいむー」
「さいで……」
「可愛くなかったかしら」
「すいません可愛くする必要が一片たりとも見当たらなかったものでスルーしてしまいました」
「残念」
ホントに残念だ。お嬢様にお茶のおかわりを要求された時とかに使おうと思っていたジョークなのに。
『むー』という部分が腹立たしくも可愛らしい、憎むに憎めない。考えついたときは『いける!』と思ったのに。
私にジョークは向いていないのだろうか。いやそんなことはない。
でも美鈴が涙目なので今日のところは控えておこう。
「今日はご飯抜きっすか……はぁ」
「そうね、気の毒に。生憎今の私は焼きたてのクッキーくらいしか持っていないし」
「ください」
「ああ、本当に気の毒だわ。手元にベリー類をふんだんにあしらった特製のクッキーしか無いなんて」
「ください!!」
「こんな稀少品の使われてないただのクッキー、お嬢様へ差し出すわけにはいきませんわ。投げ捨てるしかない」
「ください!!!!!!!」
湖の手前側端っこまで飛んだ。上々。
私の肩もまだまだいけたもんね。
隣の美鈴は口をポカンと開けたまま湖を見つめている。宙に舞うクッキーの軌道にそんなに感動したのかしら。
ちなみに私は感動した。涙チョチョ切れそう。途中で袋が開いて一枚一枚が別々に飛んでいく場面なんて号泣。
人の出会いと別れの切なさをクッキーに重ね合わせしんみりしていると、隣からやっぱりしんみりした泣き声が。
「クッキーぃ……」
「人間と妖怪は相容れないものなのよ……時間の軸が違うの」
「いや全然そんな話してなかったですよね?」
違うの? てっきり美鈴も人と妖怪の寿命の差故のすれ違いをクッキーと一緒に思いを馳せていたのかと。
いつか私もここから去る日が来るのかしら、来ないのかしら。
何だか最近勢いでどうにかなってしまいそうな気がするのが恐い。ちょーてんかいってやつで。
お嬢様が『命を運ぶと書いて運命!』とか叫びつつ私の寿命がカンスト状態になったりしないかな、しないか。
「咲夜さん私に恨みでもあるんですか……」
はてあったかしら。恨みを買いそうなことはあったような気がする。
うっかりパンが腐ってたり、うっかりランダム効果が表れるパンを支給したり、うっかりパンがとても腐ってたり、ふと思い立って納豆パンを試してみたり、それが大失敗したり。
多いなあ。こんだけしでかせば当然美鈴は私を恨んでいるはずだ。こわっ。
殺られる前に殺らなければ。そっと懐から愛用のナイフを。
「すいませんよっぽど嫌っていたようですね謝りますからそのナイフをしまってください」
「あらレディの腕をいきなり掴むなんて美鈴ったら大胆ね」
「刺そうとしないでください!!」
いくらお笑いに疎い私でもこれくらいは知っている。これは振りってやつだ。
要するに美鈴は、ええと、つまり、うーん、どうされたいの?
「どうされたいの?」
「とりあえずこの状況から開放され且つご飯をもらいたいですね」
ということなのでナイフをしまってあげた。流石私、笑いの分かる瀟洒な女。
私の腕から手を放した美鈴は肩で息をして何だかとっても疲れ気味。何だか可哀想ね。
疲れた時には甘いものが一番、と私は懐から手作りのウェディングケーキを取り出した。
「さ、これをお食べなさい」
「あの、スケールが大きすぎるんですが」
「おやつといったらこれでしょう」
「初めて聞きました」
「はぢめての共同作業をお望み?」
「聞いてー」
愛用のナイフ再び登場。それを握る私の手にそっと美鈴の手も重ね合わせて、やだ、美鈴の手、おっきい。
不覚にも跳ねる胸のときめきをめきめきと強引に抑えつつナイフをケーキの真ん中に沈ませていく。ずぶずぶ。
乳頭、間違えた、入刀完了。これで晴れて私たちも立派な夫婦だわ。
「ハネムーンはどこにする? 熱海?」
「頭痛いんで診療所連れてってもらっていいですか」
「あら大変」
本気で疲れてるわこの娘。まるで掴めない上司に散々振り回されたような疲れっぷり。
どうかしたのかしら、咲夜心配。時を止め一瞬で竹林の診療所まで飛んでいく。
そのままお薬を失敬した。あとでお代は払います。請求書を送ってくだされば。
ついでに時を止めたまま美鈴の口にビタミン剤やら頭痛薬やらを滝のように放り込む。
こんだけ摂取すれば元気百倍ね。熱々の紅茶で流しこんであげましょう。
そして時は動き出す。
なーんて。
あ、美鈴倒れちゃった。
***
目を覚ますと自分の部屋の天井が見えました。おそらく私の横でちょこんと椅子に座りながら船を漕いでいる彼女が運んでくれたのでしょう。
完璧瀟洒でありながら時々、というか常にどこか抜けている彼女ですが館のみんなを思う気持ちは本物です。
お嬢様に借りていたはずの漫画が彼女の膝の上に折り目がついてしまうような置き方で広げられているのは気のせいです。
少し天然入っててお茶目なだけなんです、多分。
だからこの氷嚢代わりに額に乗っけられたジャムパンにもきっと彼女なりの気遣いが、メッセージが。
あるといいなぁ……。
ジャムパンうまっ。
正直不快感は拭われませんでした……
そう考えると咲夜さんが可愛く……我はまな板じゃないですやめてナイフきれちゃういやぁぁ!
鬼畜過ぎて笑えませんでした。
やられる美鈴はたまったもんじゃないでしょうけどw
どこから突っ込んだらいいのかw
笑うと言うかクスッとしたというか
シュールだ