「ねえ、知ってる一輪?紅魔館にも館を守っている門番がいるらしいですよ」
「そう、それは初耳だわ」
当然知っている。幻想郷で暮らす上で、姐さんやみんなが危険に巻き込まれないように、
寺を建てて早々に雲山やナズーリンの力を借りて幻想郷のことは調べ尽くしているのだ。
あまり褒められたことではないので、みんなには黙っているけど。
「そしてですね、その館には『メイド長』という館を仕切っている人間もいるらしいの」
「そう、それは凄い人間ね。あの吸血鬼の館を仕切っているなんて」
それも知っている。
でも、水蜜が嬉しそうに話しているのだから、私は話に横槍を入れる気なんてない。
背中にさらに体重がかかる。
洗濯物を畳んでいる私と背中合わせで胡坐をかいている水蜜が体を預けているからだ。
「それで、貴方は何を言いたいのよ。その門番とメイド長に会いたいわけですか」
「ちーがーいーまーす。話は最後まで聞いてよね。それでね、なんとその門番とメイド長は……恋仲らしいんです」
「え」
それは知らなかった。
いや、さすがの私も人のプライバシーまで根掘り葉掘り調べたりはしない。
とはいえ、風の噂程度の話なら全て雲山が聞いているはずだ。ゴシップ情報ならネズミが嗅ぎつける。
本当なのか怪しいわね……。
「そんな話、どこで聞いたのよ。貴方、そこまで他人と話したっけ?」
「新聞屋。色恋の話はありますかって聞いたら、嬉しそうに二時間も話してくれたわ」
黒髪の方か、横を結んでいる方か……。
「信憑性は疑わしいわね。天狗の話なんて話半分に聞くくらいが丁度いいわ」
「そう……かしらね。私は本当だと思うけど」
ん?
「どうして貴方がその門番とメイド長の仲を応援しているのよ?顔も見たことがないでしょう」
背中が離れる。
水蜜が体を丸めているからだ。
だから、今度は私が水蜜に背中を預けてみた。
「水蜜?」
「……門番さんって偉いよね。家を守って、家の人達を守って。家の外で家の中の人達が安心して仕事ができるように守っているの」
「そうね、私も貴方の船を守っているからよくわかるわ」
「……」
水蜜、なんか貴方の体、熱いんだけど。
「きっとそのメイド長さんもさ、その門番さんがいるから安心して仕事ができると思うんだ。お互いに家の中と外を守っているんです」
「そのメイド長は館の仕事の責任者らしいわね。家の中のことはメイド長に。家の外のことは門番に。吸血鬼が任せて眠れるわけだわ」
「……」
水蜜が手を握ってくる。
水蜜、なんか貴方の手、熱いんだけど。
「そ、そういえば私も船の責任者だよね。メイドさんほど船の仕事はしていないけど」
「貴方も船長だしね。自動操縦でも船は貴方の意思で動いているんだし、寺の掃除とか修理とかも毎日欠かさずやっているじゃない」
「うん、私にできるのはそれくらいしかないし……」
「それで十分よ。貴方は立派な船の責任者だわ」
振り向くと水蜜と目が合った。
水蜜、なんか貴方の顔、真っ赤なんだけど。
「だ、だからぁ、ふ、ふね……館の管理人と番人は凄くいいパートナーだと思うんです!」
「そうね、その二人が連係を取れていないと館の運行が届こおってしまうわ」
「私と一輪も聖を助けた時に連係を取れていましたよね!」
「私が巫女を船の中に誘い入れて、貴方が魔界に着くまで時間稼ぎをして……本当に私の意思を汲んでよくやってくれたわ」
「わかるわ!千年も一緒にいたんですから!私は一輪の考えていること、だいたいわかります。わからないこともあるけど……」
ど、どうしたの……?手が痛いんだけど……
「そろそろわかってほしいな。私がわからないことを貴方にわかってほしい」
「へ」
「船の中を守る私と船の外を守る貴方はお互いのことがわかっているから、お互いに助け合って補い合って支え合えると思うの」
「……そうね」
「あと一つだけ、私がわからない一輪のこと、私にわからせてくれますか?」
「私にわかることならね」
あー、長い前フリだこと。
「一輪は私が好きですか?」
「好きよ。水蜜が私を好きなのと同じくらいね」
何を今さら。好きでもない人の船など自分から守るものか。私は姐さんと違って聖人なんかじゃないよ。
「……一輪は本当に雲みたいね。捉えどころがないんですもの」
「貴方は錨に縛られすぎよ。ずっと同じところに留まって。さっさと錨を引き上げて船を出せばいいのに」
「いろいろと準備がいるんです。それができないと船長として許可は出せません」
「その間に雲は見えなくなってしまうかもしれないわよ?」
泣きそうな顔しないでよ。ちゃんとここにいるでしょ。
「……錨を雲にぶち込んで引き止めます」
「それなら私は当てやすいように、見えなくならないように、大きな大きな雲になるわ」
「それなら私は海になる。ずっと貴方を映していたいから」
「それなら私は空になる。貴方に私の色を映したいから」
おでことおでこをくっつける。お互いの熱が伝わってくる。
「じゃあ、それって、一緒ってことじゃない」
「そう、ずっと一緒ってこと」
やれやれ、入道以外に舟幽霊にも憑かれてしまったようね。
そういえば、舟幽霊のこと、海入道って言うんだったかしら?
「そう、それは初耳だわ」
当然知っている。幻想郷で暮らす上で、姐さんやみんなが危険に巻き込まれないように、
寺を建てて早々に雲山やナズーリンの力を借りて幻想郷のことは調べ尽くしているのだ。
あまり褒められたことではないので、みんなには黙っているけど。
「そしてですね、その館には『メイド長』という館を仕切っている人間もいるらしいの」
「そう、それは凄い人間ね。あの吸血鬼の館を仕切っているなんて」
それも知っている。
でも、水蜜が嬉しそうに話しているのだから、私は話に横槍を入れる気なんてない。
背中にさらに体重がかかる。
洗濯物を畳んでいる私と背中合わせで胡坐をかいている水蜜が体を預けているからだ。
「それで、貴方は何を言いたいのよ。その門番とメイド長に会いたいわけですか」
「ちーがーいーまーす。話は最後まで聞いてよね。それでね、なんとその門番とメイド長は……恋仲らしいんです」
「え」
それは知らなかった。
いや、さすがの私も人のプライバシーまで根掘り葉掘り調べたりはしない。
とはいえ、風の噂程度の話なら全て雲山が聞いているはずだ。ゴシップ情報ならネズミが嗅ぎつける。
本当なのか怪しいわね……。
「そんな話、どこで聞いたのよ。貴方、そこまで他人と話したっけ?」
「新聞屋。色恋の話はありますかって聞いたら、嬉しそうに二時間も話してくれたわ」
黒髪の方か、横を結んでいる方か……。
「信憑性は疑わしいわね。天狗の話なんて話半分に聞くくらいが丁度いいわ」
「そう……かしらね。私は本当だと思うけど」
ん?
「どうして貴方がその門番とメイド長の仲を応援しているのよ?顔も見たことがないでしょう」
背中が離れる。
水蜜が体を丸めているからだ。
だから、今度は私が水蜜に背中を預けてみた。
「水蜜?」
「……門番さんって偉いよね。家を守って、家の人達を守って。家の外で家の中の人達が安心して仕事ができるように守っているの」
「そうね、私も貴方の船を守っているからよくわかるわ」
「……」
水蜜、なんか貴方の体、熱いんだけど。
「きっとそのメイド長さんもさ、その門番さんがいるから安心して仕事ができると思うんだ。お互いに家の中と外を守っているんです」
「そのメイド長は館の仕事の責任者らしいわね。家の中のことはメイド長に。家の外のことは門番に。吸血鬼が任せて眠れるわけだわ」
「……」
水蜜が手を握ってくる。
水蜜、なんか貴方の手、熱いんだけど。
「そ、そういえば私も船の責任者だよね。メイドさんほど船の仕事はしていないけど」
「貴方も船長だしね。自動操縦でも船は貴方の意思で動いているんだし、寺の掃除とか修理とかも毎日欠かさずやっているじゃない」
「うん、私にできるのはそれくらいしかないし……」
「それで十分よ。貴方は立派な船の責任者だわ」
振り向くと水蜜と目が合った。
水蜜、なんか貴方の顔、真っ赤なんだけど。
「だ、だからぁ、ふ、ふね……館の管理人と番人は凄くいいパートナーだと思うんです!」
「そうね、その二人が連係を取れていないと館の運行が届こおってしまうわ」
「私と一輪も聖を助けた時に連係を取れていましたよね!」
「私が巫女を船の中に誘い入れて、貴方が魔界に着くまで時間稼ぎをして……本当に私の意思を汲んでよくやってくれたわ」
「わかるわ!千年も一緒にいたんですから!私は一輪の考えていること、だいたいわかります。わからないこともあるけど……」
ど、どうしたの……?手が痛いんだけど……
「そろそろわかってほしいな。私がわからないことを貴方にわかってほしい」
「へ」
「船の中を守る私と船の外を守る貴方はお互いのことがわかっているから、お互いに助け合って補い合って支え合えると思うの」
「……そうね」
「あと一つだけ、私がわからない一輪のこと、私にわからせてくれますか?」
「私にわかることならね」
あー、長い前フリだこと。
「一輪は私が好きですか?」
「好きよ。水蜜が私を好きなのと同じくらいね」
何を今さら。好きでもない人の船など自分から守るものか。私は姐さんと違って聖人なんかじゃないよ。
「……一輪は本当に雲みたいね。捉えどころがないんですもの」
「貴方は錨に縛られすぎよ。ずっと同じところに留まって。さっさと錨を引き上げて船を出せばいいのに」
「いろいろと準備がいるんです。それができないと船長として許可は出せません」
「その間に雲は見えなくなってしまうかもしれないわよ?」
泣きそうな顔しないでよ。ちゃんとここにいるでしょ。
「……錨を雲にぶち込んで引き止めます」
「それなら私は当てやすいように、見えなくならないように、大きな大きな雲になるわ」
「それなら私は海になる。ずっと貴方を映していたいから」
「それなら私は空になる。貴方に私の色を映したいから」
おでことおでこをくっつける。お互いの熱が伝わってくる。
「じゃあ、それって、一緒ってことじゃない」
「そう、ずっと一緒ってこと」
やれやれ、入道以外に舟幽霊にも憑かれてしまったようね。
そういえば、舟幽霊のこと、海入道って言うんだったかしら?
うん、むらいちはいいね。もっと流行るといいね。
一輪さんのブレない感じと、みっちゃんの押せ押せモードが◎
甘すぎる。
そして予期せぬめーさく、ありがとうございました。