ぬえが昼寝をしていた。
畳の上で、大の字になって気持ちよさそうに眠っていた。
「……子供みたいなんだから」
苦笑しながら近づくと、彼女のシャツは少しめくれていて、可愛いおへそがちらりと覗いていることに気付いた。
「…………」
そこでふと、私は思ってしまったのだ。
―――ぬえって、寝ているときにおへそ舐められたらどんな反応するんだろう、と。
◇ ◇ ◇
「……何も殴ることないじゃん」
「うっさい馬鹿! しね!」
ぷりぷりと怒るぬえの三歩後ろを歩きながら、私はまだ痛みの残る頭部をさすっていた。
純粋な好奇心からぬえのおへそを舐めてみること数秒、「ひゃうっ!」という可愛らしい嬌声と共に目を覚ましたぬえに私が頭をどつかれたのが約十分前。
元々遅い昼食を摂りに行く予定だった私は、同じくまだ昼食を摂っていなかったぬえと共に、居間へと足を運んでいた。
「もう死んでるって」
「じゃあもっかいしね! 二回しね!」
さっきからずっとこんな調子で、ぬえは一向に機嫌を直してくれそうにない。
まったく、自分は自分で、寝ている私の額に『肉』とか落書きしたりするくせに。
そのくせいざ自分が似たようなことをやられたら怒り心頭だなんて、ちょっとワガママすぎるんじゃないかしら?
……とかなんとか思うことは色々あるのだけれど、そこはぐっと堪えて口には出さない私である。
なぜなら私は、船長だから。
船長たるもの、常に真摯に紳士でなければならないのである。
ゆえに、こういうときは一歩引いて、相手を立ててやるのが船長というものなのだ。
私は船長としての矜持を今一度噛み締めながら、どすどすと足を踏み鳴らして歩く正体不明娘の背中に優しく声を掛けた。
「ぬえ」
「……何よ」
「ごめんね」
ぎゅっと、強く、優しく。
―――抱きしめてみた。
「なっ……」
―――どごん、と。
再び、鈍い衝撃が私の脳天を貫いた。
◇ ◇ ◇
「……何も殴ることないじゃん」
「うっさい馬鹿! しね!」
居間に着いた私たちは、仲良くちゃぶ台に向かい合い、遅めの昼食―――今日は納豆である―――を摂るところなのだ、が。
「もう死んでるって」
「じゃあもっかいしね! 三回しね!」
『真摯に紳士な船長のハグ』もぬえの怒りを鎮めることは叶わず、それどころかむしろ、火に油を注いでしまった感がある。
一体、何がいけなかったのだろうか。
「うーん……」
手元の納豆をまぜまぜしながら、考えてみる。
しかしいくら考えど、納豆の粘りが増すだけで、私の疑問はちっとも晴れやしない。
私が軽く息を吐き、やれやれと顔を上げると。
「~~♪」
先ほどまでの不機嫌面はどこへやら、頬を緩めて嬉しそうに納豆をまぜまぜしているぬえの姿が目に入った。
「…………」
その無垢な表情に見入ること暫し。
やがて、私の視線に気付いたぬえが、眉をぴくりと吊り上げ、不機嫌面を復活させた。
「……何よ」
「へ?」
「……人の顔、じーっと見て」
「ああ」
むぅっと唇を尖らせるぬえを見ていると、さっきまでの疑問など、どうでもいいことのように感じられた。
だから、私は。
「かわいいなあ、って」
「へ……?」
思った通りのことを言った。
ぬえが目を丸くする。
「いや、だから、納豆混ぜてるぬえ、かわいいなあって」
「ば……ばばばばっかじゃないの!?」
ぬえは顔を真っ赤にしながら、納豆をがつがつとかき込んだ。
それからすぐ、ご飯を同じようにかき込む。
―――そういやぬえは、納豆はご飯に乗せない派だったっけ。
口元から糸を伸ばしながら、リスのように頬を膨らませてもぐもぐと咀嚼しているぬえを見ていると、なんだかとてつもなく幸せな気分になってきた。
「ねぇ、ぬえ」
「な……なによ」
「あーん」
そう言って、大きく口を開ける私。
口から糸を出したまま、固まるぬえ。
「……な、なにやってんの。ムラサ」
「ぬえの納豆、私にもぷりーず。あーん」
「なっ……」
また怒られるかな?
そう思い、少し不安に駆られる私。
……しかし、どうやらそれは杞憂だったらしい。
ぬえは頬を紅潮させたまま、視線をきょろきょろと彷徨わせると、やがて観念したように、手元の納豆を箸で掬い取った。
「……ひ、ひとくちだけだからね」
「あーい。あとで、お返しに私の分もあげるね」
「……い、いらないわよ」
ぬえの箸がゆっくりと伸び、納豆が私の口の前まで運ばれる。
私は大きく口を開け、ぱくり、とそれを咥えた。
「うーん、でりしゃす」
「……ばか」
「ぬえ、できればご飯も」
「……ひとくちだけって言ったでしょ。自分の食べなさいよ」
「ちぇ」
私は軽く唇を尖らせ、自分の分のご飯を口に運んだ。
口内で絶妙に絡みあう納豆とご飯。うむ、至高。
次に私は、自分の手元にある納豆からひとくち分を掬い取ると、ぬえの方に差し向けた。
「ほら、ぬえ。さっきのお返し―――」
「……いらないって言ったでしょ」
そう言って、ぷぃっと顔を背けるぬえ。
……照れ隠しのつもりだろうか。
耳たぶまで真っ赤にしておいて、あまり意味があるとも思えないけど。
「……もう、素直じゃないんだから」
私が苦笑混じりに呟いた、そのとき。
「……まったく、何をやっているんだか」
「え?」
「!?」
ふいに声が聞こえたので振り向くと、微妙に陰鬱そうな表情をしたナズーリンがすぐ傍に立っていた。
「あれ、ナズ。いたんですか」
「……いたともさ」
「い、いいいつから!?」
何故か必要以上に動揺しているぬえに対し、ナズは至極冷静に答える。
「……君が船長に餌づけしていたあたりからだよ、ぬえ」
「ッ……!」
いや、餌づけって。
「……まあ、人様の仲にとやかく口を挟む趣味はないが、そういうことは、できれば二人だけの空間で営んでほしいものだね。一応ここは、我々全員の共有スペースなのだから」
「ち、ちちち違うのよナズーリン! これには深いワケが……」
「……別に隠さなくてもいいさ。私はこう見えても口は堅い方だからね」
何故か慌てふためいているぬえに対し、ナズはどうでもよさそうにそう言うと、戸棚からブルーチーズを一切れ取り出し、そのまますたすたと去って行った。
「……ふむ」
それ以上、特に問題もなさそうだったので、私は先ほど混ぜ終えた手元の納豆をご飯に乗せ―――
「……ムラサッ!!」
―――ようとしたところで、それはまたすんごい剣幕で私の名を呼ぶぬえによって阻まれた。
「……何よぬえ。んな怖い顔しちゃって」
「何よじゃないわよ! どーすんのよアレ!」
「? アレって?」
「ネズミよネズミ! あいつ、明らかに誤解してたじゃないの!?」
一瞬、私はぬえが何を言っているのか分からなかった。
「誤解って? 何が?」
「だ、だだだから、その、私が、ムラサと……」
顔を赤くし、そっぽを向きながらごにょごにょ言うぬえ。
そんな彼女の様子を見ているうち、ようやく私は、彼女の言わんとしていることが分かった。
「あー、そういうこと」
「そういうことって……ムラサ!?」
どん! とちゃぶ台に両手をつき、私にずいいっと詰め寄るぬえ。
しかし私は微塵も動ぜず、さも当たり前のことのように言った。
「……でもそれって、別に誤解じゃないじゃん?」
「……へ?」
目をぱちくりとさせるぬえに対し、私は得意気に言ってやった。
「……だってぬえは、私のことが大好きなんでしょう?」
「! な、なな……」
「それに私も、ぬえのことが大好きだし」
「なっ……」
酸素を求める魚のように、ぱくぱくと口を開閉させるぬえ。
その口から出ている糸を、私はそっと指で絡め取り、
「……ね? 誤解じゃないでしょ?」
それをそのまま、口に含んでにぃっと笑う。
「……ばかっ。しねっ」
「もう死んでるって」
からからと笑い、ぬえの頬をぷにぷにと突っついてやる。
その後のぬえはやけに大人しく、私にされるがままの状態で、ただの普通の女の子みたいだった。
了
完治するにはムラぬえ分が必要なので誰か助けt…
ぬえのおへそか………………よし!(意味不明)
暴言吐きつつもムラサ大好きオーラ出過ぎのぬえかわいいなあ!
そんな素直になれないぬえを理解しているムラサかわいいなあ!
俺は幸せだ。うん
ぬえのあの服でおへそが見えてるって事はパn(正体不明
この台詞最高すぎる!
タイトルがすでにメガヒットなだけなんだからっ!!
なんだこのけしからん悪霊は!(ほめ言葉
ちなみに2回目
俺もぬえに「しね!」って怒鳴られたい……頭を殴られたい……。
あとなんかえちぃ