夏の夕暮れ時は不審者がうろついているので大変危険です、という忠告が寺子屋で流れてから日も浅いとある黄昏時。
人里からそう遠くない上空をゆったりとした速度で飛行する妖精の姿が二つあった。
「ねえねえ、チルノちゃん、チルノちゃん」
「ん、なあに、大ちゃん?」
「うふふ……なんでもない」
「ん? あはは、変なのー」
他愛の無い放課後の風に乗ってふわふわと漂っているだけである。
ところが突然、片割れの馬鹿妖精が大きな声を上げて地上を指差した。
「ねえねえ、大ちゃん、あれ見て、あれ!」
「えっ、どうしたの急に!? ……あ、人だね。あんな所で何してるんだろう」
チルノが指差した先には、夕日を照り返して茜色に染まっている広大な水田。
人的に整形された正方形を囲うようにしてあぜ道が巡っていた。その内の一本に人影らしいものがあった。
「おねがいしてるんじゃない? お米がいっぱいとれますよーにって」
「ええっ、気が早いなぁ。わたしは違うと思うけど、でもさっきからあの人立ったまま動いていないね」
「……にひ」
夕日色に染まったチルノの顔に悪戯っぽい笑みが浮かぶ。同時に、大ちゃんにも変化があった。
心の奥をくすぐられるような、知らず知らずのうちに笑みが零れる様な。
「ねえ」
「うん」
「あの人のこと驚かせちゃおうか」
二人は口元をニヤつかせて、あぜ道にぽつんと立つ人間目掛けて宙を蹴った。
当の人影は依然として動く気配も無い。
やがて、二人は少し離れた土手から背後に回るようにして距離を縮めていった。
「くふふ」
「チルノちゃん、しーっ! ……気付かれちゃうよ」
そう言ってチルノを諌める大ちゃんの顔にも、堪えきれない嬉々とした期待がはっきりと現れている。
じりじりと間隔を狭めていき、とうとう人間のすぐ背後まで近づいた二人。
声を押し殺して互いに目配せをしてタイミングを見計らう。チルノの掌からは既に氷の結晶がパラパラと零れている。
(いい? あの人が振り返ったら、せーので驚かそうね)
(おっけー! うぅ、わくわくする~)
「ふぅ」
人間が一息漏らし、こちらへ振り返った。
まさに弾けんばかりの勢いで二人は土手から飛び上がり声の限りに大声を上げた。
「……あっ」
声は音を成さなかった。
人間は男だった。
二人は目の前の男に釘付けになった。
「おっ、お……お、お、お、」
男は何をしていたのか。
振り向いた男の両手は股間に添えられ、着物からはみ出したる逸物を収納せんとする時点でその動きをやめていた。
…………。
……。
…。
「まあまあ慧音先生、落ち着いて、落ち着いて」
「これが落ち着いていられる状況とお思いか!! 妹紅、お前も黙ってないで少しは意見したらどうなんだ!」
人里は寺子屋。
本来、生徒がいて勉学に勤しんで然るべき教室には、幾人もの大人が車座になっており、その中には里の長っぽい爺や生徒の親、教師陣に属する上白沢慧音、藤原妹紅も含まれていた。
会合と呼ぶには些か剣呑な雰囲気の元、とある議題について話し合われている真っ最中である。
『立ち小便全面禁止について』
ここのところ道端で用を足す人間(男)の数がうなぎのぼりである事から、下校中及び浮遊中の女児がこれを目撃し精神に多大なる傷を負っていることが明らかとなっている。
いくら私有地、公有地とはいえ幻想郷において青空トイレを許可するのはあまりにも勝手である。
故に生理的又は不注意から尿意を催した場合においても、立ち小便を禁止する。
というのが慧音の言い分であった。
「いいか御仁ドモ。女性にとって男性の……ごにょごにょ……を見る事は即ち、恐怖なのだ。それが分かった上で私の提案に物言いをつけると言うのか!?」
「いやいや、それおかしい」
「何がおかしい! 言ってみるといい!」
「今どき、おぼこでもあるまいし、男のナニの一つや二つ見たくらいでどうってことないだろう?」
「ほう。御仁の最期の言葉しかと聞き届けた」
「慧音っ、落ち着け!」
掌から歪曲した閃光を燻らせる慧音を必死に押さえつける妹紅。
白く端正なつくりの顔のあちこちに青筋が浮かび、激しく脈動していた。
この手の問題が議題に上った、という時点で妹紅は同僚の気が気でないということはある程度わかっていた。
しかしながら、慧音のそれは妹紅が想像していたものを遥かに超えて、もはや気を抜いたらそれこそ里の人間がそっくりそのまま霧散してしまいそうな勢いだった。
「慧音、お前の言いたい事は分かる。同じ教師として、生徒を心配する気持ちも理解できる」
「なら止めてくれるな。私は是が非でもこの提案を通さねばならんのだ」
怒りに歪みながらも、慧音の目は透き通っていた。我を忘れているわけは無いらしい、むしろ、文字通りの真剣な眼差しがそこにあった。
妹紅は悩む。
どうやったらこの場を丸く治めることができるのだろうか。
反対側と賛成側。
どちらが口を開いても火種を生む状況であるならば――
「そこの記者二人。お前たちの意見を聞きたい」
殺気立つ車座から外れた所に、白と黒の影があった。
黒の人影は片手にメモ帳を開き、筆を握ったもう片方の手で己を指差して困惑の表情を浮かべている。
白の人影はこっくりこっくりと船をこいでいた。
「あのー、私達はあくまで第三者の立場を維持したいといいますか、正直関わりたくないと言いますか」
「頼む」
「うーん、困りましたね……私の意見を述べたところで解決しそうにもなさそうですし。そうですね……」
黒の記者は首を捻りながら半笑いを浮かべ、それから一つわざとらしいセキをした。
「立って用を足す、という行為は果たして必要なのですかねえ」
「この天狗、何を抜かすかと思えば! いいか、男が催すってのはそりゃあ辛抱ならねえもんなんだ」
「はっ、これはこれは大変奇なる事を仰る御仁がいたものだな。男の尿意が我慢ならないものだと? 笑わせるな」
「なにをっー! だったらなにかい、女の方が我慢できないって言うのかかい、ええっ!?」
「笑止……妹紅、お前から説明してやるといい」
「は、はあっ? やだよ、恥ずかしい! なんでわたしがそんな事言わなきゃならないんだ!」
「なぜって……お前はトイレが近い方じゃないか」
妹紅の顔が一瞬でフジヤマヴォルケイノした。
円を描いた四方八方から寄せる視線が耐えられない。恥ずかしすぎる。
「う、うるさいっ!! お前が言い出したことだ、お前が説明しろーっ!」
それから妹紅はくるりと回転し、浴びる視線を背中で流す事にした。
乙女の花摘みを公の場で述べるなど死んでもできない、と妹紅は思った。無論、死ねないのだが。
「なにを恥ずかしがっているんだか。よろしい、ならば私の口から説明しよう。
いいか、根本的に女性の尿道は男のそれよりも短いのだ。故に、我慢状態にある女性がセキをしたり笑った拍子に多少漏らしてしまう事は、ままある。
私も……まあ、その……授業中に………………ほんの、ほんの少しだけだが…………ある」
慧音の揺れる視線が僅かに俯く中、異様なほどのシャッター音が響いていた。
「そ、その話、もう少し詳しく! ……ん?」
「あの」
妹紅が再び車座に向き直ると、先程まで夢の世界にいたであろう白い記者がその袖からたおやかな腕を天高く掲げていた。
「どうした、何か言いたい事でもあるのか」
「はい。わたしもあります。文さんが帰りが遅くなった時、わたしはりんごのジュースを飲んでいました」
「椛、あなた何を――」
「寂しかったんです。でも文さんがただいまーって帰って来てくれた時、わたし、すごく嬉しくて――」
黒の記者が漆黒の翼を羽ばたかせて、白の記者の口を押さえたまま飛び去った。
…………。
……。
…。
果たして議論は平行線を辿った。
その代わりに途中で席を立った中立の立場にある黒の記者が強力な助っ人を連れてやってきた。
「なるほど。立ち小便が問題に、ねえ……よし、わかった。僕に任せてくれ」
話もそこそこに、森近霖之助は帰っていった。
立ち尽くす黒い記者、眠りこける白の記者、呆然とする一同。
ともあれ、数日後。
眼鏡の端をくいくいと何度も直しながら霖之助が寺子屋に現れた。
「やあ。問題はどうなったい?」
「どうもこうもない。相変わらず被害を受ける子達が増えるばかりだ。慧音は今にも男連中に襲い掛かりそうで危うい」
「そうか。しかし、もうその心配も要らないよ。ついに完成したのだから」
「完成した? 一体、何が?」
ふふっ、と気色の悪い笑みを浮かべて霖之助は懐に手をやり何かを取り出そうとした。が、その直前と手を止め、
「ついでだ、実際に見てみるといい。誰か、一緒に来てくれる子はいるかい?」
何を始めようとしているのか、皆目見当もつかなかったが、今はちょうど下校時刻。寺子屋から吐き出される集団の中に、最初の被害者がいたのを見つけると、妹紅は足早に近づき事情を説明した。
チルノと大ちゃん、どちらも不安そうな表情を浮かべて気乗りしない様子だったが、そこは人望。
「もこー先生が一緒なら……」
「うん。そうだね……」
霖之助に言われるまま、妹紅、チルノ、大ちゃんは人里を歩いていく。
軒を連ねる民家を越え、人里の入り口を越え、そして、
「ここは……霖之助さん、あなた一体何を考えているんだ」
やってきたのは水田。妖精二人の嫌な思い出が詰まったあの水田。
妹紅は男の神経を疑った。
「チルノ、大ちゃん、大丈夫だからな、先生が付いてるからな?」
「どうしたんだい?」
不思議そうな顔をする霖之助をキッと睨みつける。
これだから男は嫌だ、といつか聞いた同僚の言葉が頭をよぎった。
「ふむ……まあいい。さてと、それじゃあ早速始めるとしよう」
そう言って霖之助は懐に手を入れ、中から茶色の竹筒を取り出したのだった。
3人が呆気にとられる中、何を思ったか霖之助はいきなり履き物を下げ、そして――
「い、い、いやあああぁぁぁぁぁっ!!! いやぁーっ! うわぁぁああぁ!!」
「だ、大ちゃん!?」
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……⑨」
「チルノーッ!! しっかりしろ、だ、だいじょぶだからな、先生が付いてるからな、だいじょうぶだから――」
竹筒の中からチョロチョロと水音がする。
霖之助の惚けた表情。
しばらくして音が止む。
「ふぅ……どうだい、これなら道を汚さずに用が足せるだろ? この竹筒は液体を見た目の10倍近く貯蔵する構造をしていてね。
それにしても人里も随分と衛生にうるさくなったものだね、道端の小便くらい何も害など無いだろうに。少し潔癖すぎやしないかい?
ああ、安心するといい。女性用もちゃんと用意して――」
気を失った二人の生徒をそっと横たえる妹紅の背に、紅蓮の翼がパチパチと音を立てて顕現した。
周りの空気がドロドロに溶けた陽炎をつくり、その温度差ゆえか、西日が白光となって四散している。
「慧音は……間違っていなかった。生徒がこんな思いをしているというのに、わたしは」
「どうしたんだい? ……ひっ」
…………。
……。
…。
慧音の提案は満場一致で可決され、うっかり現場を目撃してトラウマを作る者もいなくなった。
その事に慧音は胸を撫で下ろし、しかし、妹紅は溜飲を下げずにいた。
「慧音。わたし、この程度じゃヌルいと思うんだ。何か気が抜けた拍子に約束を破る者も出てくるかもしれない。
そうだろう? だから、いっそのこと里の男全員の……ごにょごにょ……を焼き落とすというのはどうだろう?
いい提案だと思うんだが。そうすれば、チルノや大ちゃんももう嫌な思いをしなくて済むし、他の女の子だって安心して勉強や遊びに集中できる。
なあ、慧音から里長っぽい爺に言ってくれないかな。なあ?」
Fin
人里からそう遠くない上空をゆったりとした速度で飛行する妖精の姿が二つあった。
「ねえねえ、チルノちゃん、チルノちゃん」
「ん、なあに、大ちゃん?」
「うふふ……なんでもない」
「ん? あはは、変なのー」
他愛の無い放課後の風に乗ってふわふわと漂っているだけである。
ところが突然、片割れの馬鹿妖精が大きな声を上げて地上を指差した。
「ねえねえ、大ちゃん、あれ見て、あれ!」
「えっ、どうしたの急に!? ……あ、人だね。あんな所で何してるんだろう」
チルノが指差した先には、夕日を照り返して茜色に染まっている広大な水田。
人的に整形された正方形を囲うようにしてあぜ道が巡っていた。その内の一本に人影らしいものがあった。
「おねがいしてるんじゃない? お米がいっぱいとれますよーにって」
「ええっ、気が早いなぁ。わたしは違うと思うけど、でもさっきからあの人立ったまま動いていないね」
「……にひ」
夕日色に染まったチルノの顔に悪戯っぽい笑みが浮かぶ。同時に、大ちゃんにも変化があった。
心の奥をくすぐられるような、知らず知らずのうちに笑みが零れる様な。
「ねえ」
「うん」
「あの人のこと驚かせちゃおうか」
二人は口元をニヤつかせて、あぜ道にぽつんと立つ人間目掛けて宙を蹴った。
当の人影は依然として動く気配も無い。
やがて、二人は少し離れた土手から背後に回るようにして距離を縮めていった。
「くふふ」
「チルノちゃん、しーっ! ……気付かれちゃうよ」
そう言ってチルノを諌める大ちゃんの顔にも、堪えきれない嬉々とした期待がはっきりと現れている。
じりじりと間隔を狭めていき、とうとう人間のすぐ背後まで近づいた二人。
声を押し殺して互いに目配せをしてタイミングを見計らう。チルノの掌からは既に氷の結晶がパラパラと零れている。
(いい? あの人が振り返ったら、せーので驚かそうね)
(おっけー! うぅ、わくわくする~)
「ふぅ」
人間が一息漏らし、こちらへ振り返った。
まさに弾けんばかりの勢いで二人は土手から飛び上がり声の限りに大声を上げた。
「……あっ」
声は音を成さなかった。
人間は男だった。
二人は目の前の男に釘付けになった。
「おっ、お……お、お、お、」
男は何をしていたのか。
振り向いた男の両手は股間に添えられ、着物からはみ出したる逸物を収納せんとする時点でその動きをやめていた。
…………。
……。
…。
「まあまあ慧音先生、落ち着いて、落ち着いて」
「これが落ち着いていられる状況とお思いか!! 妹紅、お前も黙ってないで少しは意見したらどうなんだ!」
人里は寺子屋。
本来、生徒がいて勉学に勤しんで然るべき教室には、幾人もの大人が車座になっており、その中には里の長っぽい爺や生徒の親、教師陣に属する上白沢慧音、藤原妹紅も含まれていた。
会合と呼ぶには些か剣呑な雰囲気の元、とある議題について話し合われている真っ最中である。
『立ち小便全面禁止について』
ここのところ道端で用を足す人間(男)の数がうなぎのぼりである事から、下校中及び浮遊中の女児がこれを目撃し精神に多大なる傷を負っていることが明らかとなっている。
いくら私有地、公有地とはいえ幻想郷において青空トイレを許可するのはあまりにも勝手である。
故に生理的又は不注意から尿意を催した場合においても、立ち小便を禁止する。
というのが慧音の言い分であった。
「いいか御仁ドモ。女性にとって男性の……ごにょごにょ……を見る事は即ち、恐怖なのだ。それが分かった上で私の提案に物言いをつけると言うのか!?」
「いやいや、それおかしい」
「何がおかしい! 言ってみるといい!」
「今どき、おぼこでもあるまいし、男のナニの一つや二つ見たくらいでどうってことないだろう?」
「ほう。御仁の最期の言葉しかと聞き届けた」
「慧音っ、落ち着け!」
掌から歪曲した閃光を燻らせる慧音を必死に押さえつける妹紅。
白く端正なつくりの顔のあちこちに青筋が浮かび、激しく脈動していた。
この手の問題が議題に上った、という時点で妹紅は同僚の気が気でないということはある程度わかっていた。
しかしながら、慧音のそれは妹紅が想像していたものを遥かに超えて、もはや気を抜いたらそれこそ里の人間がそっくりそのまま霧散してしまいそうな勢いだった。
「慧音、お前の言いたい事は分かる。同じ教師として、生徒を心配する気持ちも理解できる」
「なら止めてくれるな。私は是が非でもこの提案を通さねばならんのだ」
怒りに歪みながらも、慧音の目は透き通っていた。我を忘れているわけは無いらしい、むしろ、文字通りの真剣な眼差しがそこにあった。
妹紅は悩む。
どうやったらこの場を丸く治めることができるのだろうか。
反対側と賛成側。
どちらが口を開いても火種を生む状況であるならば――
「そこの記者二人。お前たちの意見を聞きたい」
殺気立つ車座から外れた所に、白と黒の影があった。
黒の人影は片手にメモ帳を開き、筆を握ったもう片方の手で己を指差して困惑の表情を浮かべている。
白の人影はこっくりこっくりと船をこいでいた。
「あのー、私達はあくまで第三者の立場を維持したいといいますか、正直関わりたくないと言いますか」
「頼む」
「うーん、困りましたね……私の意見を述べたところで解決しそうにもなさそうですし。そうですね……」
黒の記者は首を捻りながら半笑いを浮かべ、それから一つわざとらしいセキをした。
「立って用を足す、という行為は果たして必要なのですかねえ」
「この天狗、何を抜かすかと思えば! いいか、男が催すってのはそりゃあ辛抱ならねえもんなんだ」
「はっ、これはこれは大変奇なる事を仰る御仁がいたものだな。男の尿意が我慢ならないものだと? 笑わせるな」
「なにをっー! だったらなにかい、女の方が我慢できないって言うのかかい、ええっ!?」
「笑止……妹紅、お前から説明してやるといい」
「は、はあっ? やだよ、恥ずかしい! なんでわたしがそんな事言わなきゃならないんだ!」
「なぜって……お前はトイレが近い方じゃないか」
妹紅の顔が一瞬でフジヤマヴォルケイノした。
円を描いた四方八方から寄せる視線が耐えられない。恥ずかしすぎる。
「う、うるさいっ!! お前が言い出したことだ、お前が説明しろーっ!」
それから妹紅はくるりと回転し、浴びる視線を背中で流す事にした。
乙女の花摘みを公の場で述べるなど死んでもできない、と妹紅は思った。無論、死ねないのだが。
「なにを恥ずかしがっているんだか。よろしい、ならば私の口から説明しよう。
いいか、根本的に女性の尿道は男のそれよりも短いのだ。故に、我慢状態にある女性がセキをしたり笑った拍子に多少漏らしてしまう事は、ままある。
私も……まあ、その……授業中に………………ほんの、ほんの少しだけだが…………ある」
慧音の揺れる視線が僅かに俯く中、異様なほどのシャッター音が響いていた。
「そ、その話、もう少し詳しく! ……ん?」
「あの」
妹紅が再び車座に向き直ると、先程まで夢の世界にいたであろう白い記者がその袖からたおやかな腕を天高く掲げていた。
「どうした、何か言いたい事でもあるのか」
「はい。わたしもあります。文さんが帰りが遅くなった時、わたしはりんごのジュースを飲んでいました」
「椛、あなた何を――」
「寂しかったんです。でも文さんがただいまーって帰って来てくれた時、わたし、すごく嬉しくて――」
黒の記者が漆黒の翼を羽ばたかせて、白の記者の口を押さえたまま飛び去った。
…………。
……。
…。
果たして議論は平行線を辿った。
その代わりに途中で席を立った中立の立場にある黒の記者が強力な助っ人を連れてやってきた。
「なるほど。立ち小便が問題に、ねえ……よし、わかった。僕に任せてくれ」
話もそこそこに、森近霖之助は帰っていった。
立ち尽くす黒い記者、眠りこける白の記者、呆然とする一同。
ともあれ、数日後。
眼鏡の端をくいくいと何度も直しながら霖之助が寺子屋に現れた。
「やあ。問題はどうなったい?」
「どうもこうもない。相変わらず被害を受ける子達が増えるばかりだ。慧音は今にも男連中に襲い掛かりそうで危うい」
「そうか。しかし、もうその心配も要らないよ。ついに完成したのだから」
「完成した? 一体、何が?」
ふふっ、と気色の悪い笑みを浮かべて霖之助は懐に手をやり何かを取り出そうとした。が、その直前と手を止め、
「ついでだ、実際に見てみるといい。誰か、一緒に来てくれる子はいるかい?」
何を始めようとしているのか、皆目見当もつかなかったが、今はちょうど下校時刻。寺子屋から吐き出される集団の中に、最初の被害者がいたのを見つけると、妹紅は足早に近づき事情を説明した。
チルノと大ちゃん、どちらも不安そうな表情を浮かべて気乗りしない様子だったが、そこは人望。
「もこー先生が一緒なら……」
「うん。そうだね……」
霖之助に言われるまま、妹紅、チルノ、大ちゃんは人里を歩いていく。
軒を連ねる民家を越え、人里の入り口を越え、そして、
「ここは……霖之助さん、あなた一体何を考えているんだ」
やってきたのは水田。妖精二人の嫌な思い出が詰まったあの水田。
妹紅は男の神経を疑った。
「チルノ、大ちゃん、大丈夫だからな、先生が付いてるからな?」
「どうしたんだい?」
不思議そうな顔をする霖之助をキッと睨みつける。
これだから男は嫌だ、といつか聞いた同僚の言葉が頭をよぎった。
「ふむ……まあいい。さてと、それじゃあ早速始めるとしよう」
そう言って霖之助は懐に手を入れ、中から茶色の竹筒を取り出したのだった。
3人が呆気にとられる中、何を思ったか霖之助はいきなり履き物を下げ、そして――
「い、い、いやあああぁぁぁぁぁっ!!! いやぁーっ! うわぁぁああぁ!!」
「だ、大ちゃん!?」
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……⑨」
「チルノーッ!! しっかりしろ、だ、だいじょぶだからな、先生が付いてるからな、だいじょうぶだから――」
竹筒の中からチョロチョロと水音がする。
霖之助の惚けた表情。
しばらくして音が止む。
「ふぅ……どうだい、これなら道を汚さずに用が足せるだろ? この竹筒は液体を見た目の10倍近く貯蔵する構造をしていてね。
それにしても人里も随分と衛生にうるさくなったものだね、道端の小便くらい何も害など無いだろうに。少し潔癖すぎやしないかい?
ああ、安心するといい。女性用もちゃんと用意して――」
気を失った二人の生徒をそっと横たえる妹紅の背に、紅蓮の翼がパチパチと音を立てて顕現した。
周りの空気がドロドロに溶けた陽炎をつくり、その温度差ゆえか、西日が白光となって四散している。
「慧音は……間違っていなかった。生徒がこんな思いをしているというのに、わたしは」
「どうしたんだい? ……ひっ」
…………。
……。
…。
慧音の提案は満場一致で可決され、うっかり現場を目撃してトラウマを作る者もいなくなった。
その事に慧音は胸を撫で下ろし、しかし、妹紅は溜飲を下げずにいた。
「慧音。わたし、この程度じゃヌルいと思うんだ。何か気が抜けた拍子に約束を破る者も出てくるかもしれない。
そうだろう? だから、いっそのこと里の男全員の……ごにょごにょ……を焼き落とすというのはどうだろう?
いい提案だと思うんだが。そうすれば、チルノや大ちゃんももう嫌な思いをしなくて済むし、他の女の子だって安心して勉強や遊びに集中できる。
なあ、慧音から里長っぽい爺に言ってくれないかな。なあ?」
Fin
相変わらずホントに椛どれだけおバカわんこなんだよw
けーね先生! 生まれた時から服を着ないという歴史を作れば何とも思わないと思います!!
たしかに、田舎に住んでると時々立ちションを目撃してしまう。
ひどいのになると酔っ払って町中でやるやつまで。
見られるのをわかっててやるのは勘弁して欲しいぜ。
立小便やってるひとがいたとかで、問題になったことがあって
その話を聞いたときは、幾らなんでもそれは駄目だろうと思いましたね…
実は、マジで女性用が開発されているのですよね。米国で。
因みに、発案者は女性だそうです。
女尊男卑って言うほどじゃないと思うけれど、繊細な女児童にはもっと正しい性教育をですね。むしろ我が教えて(フジヤマボルケイノ
投稿する度に様々な視点からご意見をいただけるので、毎度楽しみにしています。
女尊男卑、というのも全く予想していなかっただけに大変驚きました。
実験的に内容を少しずつエスカレートしていたので、椛の嬉しいおしっこについて、
「少し下品です」のような指摘は多少覚悟していたのですが、まさか寺子屋にその矛先が向くとは思ってみませんでした。
これからも忌憚なきご意見を心待ちにしていますが、流石に不愉快に思われた方もいらっしゃるようなので、
今後、寺子屋ネタは自重したいと思います。あと、えーき様とこまっちゃんも同様に自粛します。
ただ、何分、自分の感性では判別付かない場合が多々あると思うので、今度からは文頭に、
/* 注意 */
のようなものを付けるなどして対応したいと思います。
機会があったら、また読んでやってください。
Fin
面白かったですしえいき様とこまっちゃんの話も好きだったんで自分はまた見てみたいです
面白かったですよ
ちょっと霖之助やり過ぎな気はしましたが
トイレを増やせば問題は解決する!後、トイレ無い山の中とかは勘弁して!w