題名:おぅ、しっとだぜ。
「ふむ…これは、なかなか……興味深いものだね」
一見どこにでもありそうな『それ』を手に取りながら、
僕はこれを最初に考え出した人に関心していた。
ほんの僅かな事だが、それが有ると無いとでは結果が大きく違ってくる。
人間は知恵によって、自らの限界を超える事に成功した――
なんて言われているけど、まだまだ僕たちは自分でも知らない知恵の使い道があるのかもしれない。
「そうですか?私にとっては、別に珍しいものじゃないと思うのですが……」
僕の反応がおかしかったのか、彼女は不思議そうな顔で僕の手の中にある『それ』を見ていた。
「こう言うのは発想が鍵だからね。一度原理を知ってしまうと、似たような事には驚かなくなるものなんだよ。わかり易く例えるなら、手品のネタと同じって事かな?」
それにしても、この『まぐかっぷ』と言うものはなかなか便利なものだなと思う。
中に熱い液体を注いでも問題が無い様になっている優れものなのだが、
その原理と言うのが、ただ「容器を二重にする」だけなのだから。
「へ~、そういうものなんですか……」
「……ちなみに、先程の話の中で笑う様な要素は無かった気がするんだが……?」
どういう訳なのか、先ほどから彼女は不思議なことに、楽しそうに僕を眺めては時折笑いを浮かべている。
「ぁ、いえ……その、私のいた所だと、そう言うのに興味を示す人って中々いなかったので……つい」
「まぁ……君達のいた所だと、この手のものは沢山あるらしいからね。そう思うのも仕方が無いだろう」
そう言って、僕はなんとなく『まぐかっぷ』の表面に書かれた文字を読んでみた。
そこには、おそらくこの持ち主の母親が書いたであろう丁寧な事跡でこう書かれていた。『東風谷 早苗』と。
「それにしても、悪いね……こう何度も押しかけて。何と言うか、迷惑じゃないかい?」
手にしていた『まぐかっぷ』を、机の上に置く。
机の上には、ほかにも様々な――大抵は、早苗が『外の世界』から持って来たものが置かれていた。
『外の世界』から来た彼女にとっては決して珍しい物ではないこれらは、僕にとっては――
いや、この『幻想郷』にとっては滅多に見れない珍しいものだ。
もっとも、その価値が分かる人は数えるほどしかいないのだが……
すると、彼女は何故かまた可笑しそうに笑い出した。
なんと言うか、そうされると此方としてはどう反応していいのか対応に困るのだが……
「そんなこと無いですよ、こうして霖之助さんと話をするのは楽しいですし」
本当に楽しそうに、彼女は笑みを浮かべる。
その事は、僕を少し安心させてくれる。
少なくとも、彼女の負担にはなっていないらしい。
彼女には色々と分からない事を聞いているし、
こうやって今も彼女の個人的な部屋で『外の世界』を度々調べさせて貰っているのだから、
本来なら少しは負担に思ってもおかしくは無いのだが……
まぁ、彼女が良いと言っているのだから、別に構わないのだろう。そう結論付けることにした。
もっとも、彼女の部屋にいる理由の半分は、彼女自身がそうして欲しいと望んだことなのだが……
それにしても、部屋でお茶を飲みながら話をする事が好きだとは……
彼女は、少し年寄りじみた感性があるのかもしれない。
そう思った途端、どこからとも無くツッコミを受けたような気がするが、気のせいだろうか?
まぁ、そうに違いないだろう。
「それは良かった。僕も、こうしていろんな事を知ることが出来て楽しいよ」
「あはは……そうですか」
何故か、早苗は少し引きつった様な笑みを浮かべていた。
その近くでは、彼女の家に同居している2人の姿が襖の隙間から見える。どうやら、此方を見ている様だ。
2人にとっては隠れているつもりだろうけど、こちら側からは丸見えだったりする。
昼間なら光が影を作って丸見えでも、辺りが暗い夜なら絶好の隠れ場所となるのだろう。
と、言う事は彼女にもあのお2人が見えているという事なのか?
先程の表情はその為といえるかもしれない。
「そういえば、そろそろ夕食の時間だな……おっと、すまない。こんな遅い時間まで付き合わせてしまった」
「ぃ、ぃえ、気にしないでください。私は大丈夫ですから」
その言葉に、彼女は手を激しく振って答える。
「そして、御二人方も申し訳ない。早苗をこんなにも長く拘束させてしまって」
「え、御二人って…か、神奈子様、諏訪子様!どうしてそんな所に!?」
僕の言葉に反応したのか、襖の奥から2人がやって来た。それをみた早苗は、以外にも驚きを隠さずにいる。
「いやぁ~、ばれちゃってたんだねぇ。少しは自信があったんだけど、中々やるじゃないか」
「隙間から御二人の顔が見えてましたから……偶然ですよ」
もっとも、あれを隠れていたかどうかと言うと非常に微妙な感じがするのだが……
一応、御二人の面子を立てて置いて悪い事は無いだろう。
もっとも、早苗が驚いている所を見ると、意外とあれで見つからないらしい。
……ふむ、これは少し考える必要があるな……
「で、あんたはこれからどうするんだい?」
その言葉に、僕は外の様子と、部屋に備え付けてあった時計とを見る。
「そうですね……もう遅いですし、そろそろお暇させて貰おうかと思ってます」
この時間だと、帰るのが少し難儀するが仕方が無いだろう。
こんな事もあろうかと、『かいちゅうでんとう』なる物を持ってきてあるので大丈夫だろう。
これを使えば部分的にだが昼間の様にとまでは行かなくても、蝋燭の灯りより遥かに良く見えるのだ。
「そうかい?せっかくだから、泊まっていきなよ」
「そうそう、今日は早苗が料理を作ってくれるんだしさ。食べていかないと損だよ~」
神奈子の提案に、諏訪子も乗り気のようだ。しかし、ふとそこで疑問が起きる。
「今日『は』と言うと、普段はどなたが作っているんですか?」
「神奈子だよ」
特に、何でもないように諏訪子が答えてくれた。
しかし、その言葉は益々自分の中である疑問が浮かび上がる。
「しかし、私が聞いた話だと料理は早苗が――」
「そ、それは昼食の事です!よ、夜は神奈子様が作ってくださるんです!」
「そうなの?私は聞いた事が――」
「そうなんです!ですよね!?」
何故か、早苗は必死になって諏訪子に言い寄っていた。
その迫力に押されてなのか、諏訪子は勢いのままこくこくと頷く。
「ですから、誤解しないでくださいね。私は――」
「あぁ、いつも昼食を作ってくれている事かい?すまないね……普段料理してないのに、毎度無理に作ってくれてたのか。その、うん。今度からは控えるようにするよ」
「あぁ…いえ、そうでは無いのです……そうでは無いのですが……」
早苗は言葉になりそうでならない何かをつぶやき続けている。
そんなに大変だったのだろうか?となると、これは気をつけた方が良さそうだ。
彼女に負担をかける事は、此方としては本望ではないのだから。
「で、どうするんだい?別に遠慮する必要は無いよ、この辺の夜は危険だしさ」
「お気持ちはありがたいのですが、さすがにこれ以上は……それに、私には闇夜を照らす方法がありますから」
「そうじゃなくて、あたしが危惧してるのは、道中妖怪に襲われるかもしれないって事なんだけど?」
「あ~……そこまでは考えてませんでしたね……」
ちなみに、僕には基本的に力がある訳ではない。こう見えて、普通の人より長く生きてるけど、それだけだ。
妖怪に襲われても、追い返す方法はあんまり無かったりする。と言うか、ほとんど無い。
「だったら、悩んでないで入った入った」
「そうですね、それじゃあ……お世話になります」
せっかくなので、僕は神奈子の言葉に甘えさせてもらう事にした。
「その必要は、無いぜ」
そんな時だった。彼女が現れたのは。
「あぁ、魔理沙か。こんな所までどうしたんだい?」
僕の問いかけに、彼女は答えずに僕の腕を引いて早苗の部屋から出て行こうとする。
「ど、どうしたんだい?いきなり。何かあったのか?」
「別に、何も無いぜ?それよりも、帰るんだろ?だったら早く帰るんだぜ」
どうも、魔理沙の様子が普段とは違う。何か嫌な事があったときの態度だ。
……また、霊夢にでも負けたのだろうか?だとすれば、ここまで来る意味が分からないが……
それ以前に、どうしてここを知ったのだろうか?魔理沙には、ここに来る事を伝えた記憶はないのだが……
「帰るって、どうやって帰るんだい?第一、僕は帰る方法が無いから――」
「うるさいな、こーりんは。そんなのは、この魔理沙さんが全部解決してやるのだぜ」
そう言うと、魔理沙は睨み付けるなり僕の意見など完全に無視して、いつも彼女が空を飛ぶときに使う箒――
ではなく、無骨な円柱の形をした『何か』に僕を座らせると、彼女もそれにまたがった。
「ぇ、ちょっと待ってください!それって――駄目です駄目!こんな所でそんなの使わないでくださいよぉ!」
ただ一人、早苗だけがそれが何か知っている様で、慌てふためいていた。
「な、なぁ魔理沙、ひとつ良いかな?なんだか嫌な予感がするんだけど……ここは一つ、冷静になってだな」
「こーりん、舌噛むから話さない方が身のためだぜ」
そう言うと、魔理沙は少しずつ僕をも乗せた円柱形の筒を浮かせていく。
後ろには、羽の様な物が付いていて、それでいて先端が少し尖っている。
まるでとても太い矢の様だ。それが何か、僕は視る事が出来た。
どうやら、これは――
「え、ちょっと魔理沙、まさかこれを飛ばす気なのかい!?」
「しっかり掴まってるんだぜ」
「ま、待った待った、流石にここだとヤバ――」
「行くぜ」
僕の言葉をさえぎりながら、そんな魔理沙の言葉とともに辺りは轟音に包まれて――
凄まじい速度で、僕達は空を飛んでいた。
魔理沙が箒で飛ぶ速度とあまり変わらないと言えば変わらないが、
それでもこの人数をこの速度で飛ばせるのは驚きだ。
流石は『カガク』の力といった所だろうか?これは、外の世界で『ろけっと』と言うらしい。
普段なら風圧で潰されそうになる所だが、その辺は魔理沙が何らかの処置をしているのだろう。
中々すごい才能だと思う。それを作った彼女もだけど。
そんな彼女は、今恐ろしいほどに無口なのだが……
「どうしたんだい?魔理沙。なんだか、すごく怒っているような気がするんだけど……」
「……」
魔理沙は何も言わなかった。さっきから、ずっとこの調子だ。何がいけなかったのだろうか……?
「ちなみに、どうして僕が守矢神社にいるって知ってたんだい?迎えにって行ってたけど、君に行き先を伝えたかな?」
「……――のか?」
ふと、何か魔理沙が呟いた様な気がした。
「そんなに、早苗の方がいいのか?」
ふと、魔理沙は此方の方を向くとそう繰り返した。
「……それは、どういう事だい?」
「別に、早苗に聞かなくても、私に聞いてくれれば答えれるぜ?」
「魔理沙が『外の世界』の道具に詳しいのは、知ってはいるけど……どうしてまた、突然そんな事を言うんだい?」
「その、なんだ、別に、早苗に聞くって選択肢だけが、全てじゃないんだぜって、言いたいのだぜ」
よく分からないが、かなり戸惑いながらも魔理沙は言葉をつなげていく。
「まぁ、そうだろうね……」
その事に関しては同意しておく。
元々早苗は『外の世界』に住んでいたから、『外の世界』のものには詳しいのは当然だ。
だが、彼女は『外の世界』を捨ててこの幻想郷にやってきた。
捨てたはずの、『外の世界』のものを見せられるのは、あまりいい気はしないのだろう。
きっと、魔理沙はその事を言いたかったに違いない。
「そうだな……すまない、魔理沙。これからは控えるよ」
「そ、そうか?べ、別に私はそういう事を言いたかった訳じゃないのだぜ?で、でも……こーりんがそれで良いのなら……」
途中で彼女は、どういう訳か前を向きなおすと帽子を深く被り直す。
それでは前があまり見えないんじゃないだろうか?と思ったが、声に出すのは少し抵抗があった。
幸いな事に、この『ろけっと』なるものは自動制御らしい。
魔理沙の制御とは別に、後ろにある4枚の羽で自動的に舵を取っているようだ。
「そうだな……これからは、早苗にあれこれ聞くのは止めた方がいいな」
「そう、か?なら、これからは私に――」
「うん、彼女にはもっと幻想郷の楽しい所を知ってもらわないと困るからな……」
そう、それが彼女にとっても、もっとも好ましい筈だ……
だと言うのに、その言葉を聞いた直後に、嫌な雰囲気が、気配が、否――殺気が、漂い始めていた。
「そうか――」
その気配は、魔理沙を中心に漂っていた。否、魔理沙を中心に発生していた。
「そんなに、早苗の事が気になるのか――」
何かしなければ不味い事になると、何かをしなければ、何かをしないと、
必ず嫌なことが起きると。そう、本能が告げていて――
「だったら、早苗にでもなってろ!この、バカ――!」
一瞬だった。気が付けば、僕は空を舞っていて――
情けない事に、僕は何もする事が出来なかった。
蹴り落とされる少し前、何故か彼女の顔が頭の中に焼き付いて離れない。
そう――、彼女は、泣いてた、様な、気が――
その友人も無理に誉めるくらいならハッキリ言えばいいのに。
聞くのは?
うーん…そう落ち込まないでください!
こーりんは褌とか本来、原作からは全く抽出されない要素のことを指すので。
ダウナーですか……まぁ、前向きな姿勢は大切ですしね……気をつけます。
次こそ「和やかな」小説を目指してがんばります!
>2~4
修正点を教えていただきありがとうございます。早速直してみました。
途中の魔理沙が出てきてからのドキドキ感は本物ですから、自信持って下さい。
あとは皆さんの意見を聞き入れて少しずつ精進です。
とりあえず客観的視点からすると、完全なキチガイに見える魔理沙をなんとかしてくれ。
それともアレか、作者氏はリアルでこんな痛い女にばっかり囲まれているのか。
読者というのは作者の思う壺に嵌りたいものなのです。
その状態に持っていくには単純に文章量(情報量)が不足しているように思えます。
不条理ならばこそもっと肉付けを行い、読者に条理と錯覚を起こさせるよう誘導しなければなりません。
この場合、言葉とは弄する為に有るのです。もっともっと狡猾に為るべきです。