2人の若いお姉さんが、名前をレミリアとさとりと言うのですが、すっかり弾幕少女の格好をして、ぷにぷにするほっぺを輝かせ、
犬のような咲夜と猫のような燐を連れて、だいぶ山奥の、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことを言いながら歩いておりました。
「相変わらず、この辺りはけしからんね。天狗も河童も1匹もいやしないわ。何でも構わないから、早く不夜城レッドやってみたいものねえ」
「厄神のいたいけな心なんかにトラウマをお見舞い申したら、随分痛快でしょうね。くるくる回って、それからドギュンと飛んでいくでしょうねえ」
それは山の中でもだいぶ奥の所でした。
案内してきた寅丸星も、ちょっとうっかりして1人迷子になってしまったくらいの山奥でした。
それに、人気テレビドラマ『暴れん坊博麗』の時間になったので、従者が2人一緒に上着を脱ぎ捨て、しばらくうなって、
それからドラマ見たさに家に飛んで帰ってしまいました。
「実に、私は二千四百カリスマの損害だ」
レミリアは咲夜が脱ぎ捨てた服を、ちょっとひっくりかえして言いました。
「私は二千八百カリスマの損害です」
と、さとりが悔しそうに頭を曲げて言いました。
レミリアは少し顔色を悪くして、じっとさとりの顔つきを見ながら言いました。
「私はもう戻ろうと思う」
「私もちょうどお腹はすいたし、『暴れん坊博麗』は見たいし、もう戻ろうと思います」
「それでは、これで切り上げよう。なに、戻りに菓子屋でケーキを十カリスマも買って帰ればいいわ」
「シュークリームも出ていましたねえ。そうすればお土産は十分でしょう。では帰りましょうか」
ところがどうも困ったことには、どっちへ行けば菓子屋があるのか、一向に見当がつかなくなっていました。
風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、夜雀はちんちん、尼さんはキャーナムサーンと鳴りました。
「どうもお腹がすいたわ。さっきから口が糖分を求めてたまらないの」
「私も同じです。もうあまり歩きたくないものです」
「そうね、何か甘いものが食べたいわ」
「食べたいですねえ」
レミリアとさとりはざわざわ鳴るすすきの中でこんなことを言いました。
そのときふとろを見ますと、立派な一件の西洋造りの家がありました。
そして玄関には
『西洋スイーツ店・こいフラ軒』
という札が出ていました。
「あら、ちょうどいいわ。ここはこれでなかなか都会なのね。入りましょうよ」
「こんなところにおかしいですね。しかしとにかく、おやつが食べられるのでしょう」
「勿論できるわ。看板にそう書いてあるじゃないの」
「入りましょう。私はもう糖分が欲しくて爆発しそうなのです」
2人は玄関に立ちました。玄関は白い瀬戸の煉瓦で実に立派な門です。
そして硝子の開き戸が立って、そこに金文字でこう書いてありました。
『どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません』
2人はそこでひどく喜んで言いました。
「やっぱり世の中はうまくできてるわ。今日1日難儀したけど、今度はこんないいこともあるのね。このうちはスイーツ店だけれども、ただで御馳走してくれるのね」
「どうもそのようですね。決してご遠慮ありませんというのはその意味でしょう」
2人は店の名前にすっかり信頼を寄せて、戸を押して中へ入りました。
そこはすぐ廊下になっていました。その硝子戸の裏には、金文字でこうなっていました。
『ことに、カリスマ溢れるお姉さまやペットに愛されるお姉ちゃんは、大歓迎いたします』
2人は大歓迎というので、もう大喜びです。
「私達は大歓迎されているのね」
「お互い、いい妹を持ちましたね」
ずんずん廊下を進んでいきますと、今度は水色のペンキ塗りの戸がありました。
「どうも変な家ですね。どうしてこんなにたくさんのドアがあるのでしょう」
「これは紅魔式よ。私が訪れる建物は全部こうあるべきだわ」
そして2人はドアを開けようとしますと、上に黄色な字でこう書いてありました。
『当軒は注文の多いスイーツ店ですから、どうかそこはご承知ください』
「なかなか流行ってるのね。こんな山の中で」
「それはそうでしょう。旧地獄の美味しい甘味屋だって大通りには少ないですもの」
2人は言いながら、その戸をあけました。
すると裏側に、
『注文は随分多いでしょうが、どうかいちいちこらえてください』
「これは、どういうことなのかしら」
レミリアが顔をしかめました。
「これはきっと、従業員がドジっ子メイドだから何度も注文を聞き直しに来るというと、こういうことでしょう」
「そういうことね。それにしても、早くテーブルに座りたいわ」
「そして御馳走になりたいです」
ところが、どうもうるさいことは、また戸が1つありました。
そしてその脇に鏡がかかって、その下には長い柄のついたブラシが置いてあったのです。
戸には赤い字で
『お客様がた、ここで髪をきちんとして、それから履物の泥を落としてください』
と書いてありました。
「これはもっともね。私はさっき玄関で、こんな山奥だと思ってみくびっていたわ」
「作法に厳しいうちですね。きっと私達のような偉い妖怪がたびたび来るのでしょう」
そこで2人は、綺麗に髪をとかして、靴の泥を落としました。
そしたら、どうです。
ブラシを板の中に置くや否や、どこからともなく横綱級の力士が現れ、無言のままブラシを持っていってしまいました。
2人はびっくりして、互いに寄り添って戸をがたんと開けて次の部屋へ入って行きました。
早く何か甘いものを食べて、カリスマを補充しておかないと、もう途方もないことになってしまうと、2人とも思ったのでした。
戸の内側に、また変なことが書いてありました。
『ドロワーズとパンツをここへ置いてください』
見るとすぐ横に黒いクローゼットがありました。
「なるほど、確かにパンツを穿いて食事をするのはマナー違反よね」
「いや、よほど偉い人が始終来ているのですね」
2人はドロワーズやパンツを脱いで、それをクローゼットの中にしまいました。
また黒い戸がありました。
『どうか、帽子と靴をお取りください』
「……取る?」
「取りましょう。確かに、よっぽど偉い方なのでしょう。奥に来ているのは」
2人は帽子と靴をその場にいた力士に渡して、ぺたぺた歩いて戸の中に入りました。
戸の裏側には、
『財布、指輪、ネックレス、銀のナイフ、その他金物類、もしくは空気を読むスキルなどはみんなここに置いてください』
と、書いてありました。
戸のすぐ横には、黒装束の立派な力士も、ちゃんと両手に金庫を持って待っていました。
「分かったわ。何かの料理に衣玖さんを使うと見えるわ。金気のものは危ない、空気を読むスキルがあるとキャラが被る、と、こういうことなのね」
「そうでしょう。すると、この力士さんはずっとここで金庫を持っているのかしら」
「どうも、そうらしいわ」
「そうでしょう、きっと」
2人は、もう腕が震えている力士が持つ金庫に空気を読むスキルを入れると、ぱちんと閉めました。
少し行きますと、また戸があって、その前にガラスのクローゼットがありました。
戸にはこう書いてありました。
『クローゼットの中の衣服で、すっかりドレスアップしてください』
見ると、確かにクローゼットの中にはとても短いスカートのメイド服が2着ありました。
「この服に着替えろっていうのは、どういうことかしら」
「これはですね、外が非常に山奥でしょう? 部屋の中があまりに豪華だから、登山服だとミスマッチじゃないですか。
だから、その予防、つまり私達もお洒落するべきだとこういうことなのですよ」
2人は今まで着てきた服を脱ぐと、クローゼットの中のメイド服に着替えました。
それから戸を開けますと、その裏側には
『ドレスアップしましたか? 耳までばっちりレディになりましたか』
と書いてあって、ねこ耳バンドが2つ置いてありました。
「そうそう、何か足りないと思ったらこれをすっかり忘れていたわ。危なく田舎者扱いされるところだったわね」
「実に細かいところまで気が利きますね。ところで、私は早く甘いものを食べたいのですが、どうも廊下ばかりでは仕方ないですね」
すると、すぐその前に次の戸がありました。
『料理はもうすぐできます。15分とお待たせはいたしません。すぐ食べられます。
早く貴方の頭に、瓶の中の香水をよくふりかけてください』
そして戸の前には金ぴかの香水の瓶が置いてありました。
2人はその香水を、頭へぱちゃぱちゃ振りかけました。
ところが、その香水はどうも強い酒のような匂いがするのでした。
「この香水はお酒の匂いがするわ。どうしたのかしら」
「間違えたのですよ。ドジっ子メイドが、中身の補充の際に間違えて入れたのでしょう」
2人は若干酔い始めた状態で戸を開けて中に入りました。
戸の裏側には、大きな字でこう書いてありました。
『色々注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。もうこれだけです。
どうかその胸に、壺の中の胸が大きくなる薬をたくさん、よく揉みこんでください。
そして何も考えず、次の戸の中に飛び込んでください。抵抗は厳禁です』
なるほど立派な青い瀬戸の壺が置いてありましたが、
今度という今度は、2人ともぎょっとして、お互いにねこ耳がぴこぴこ動く顔を見合わせました。
「何かおかしいわ」
「私もおかしいと思います」
「たくさんの注文というのは、向こうが私達に注文しているのよ」
「だから、スイーツ店というのは、私の推察ですと、甘いお菓子をお客に食べさせるのではなく、
来た客を(色んな意味で)食べてやる、そして『すいーつ(笑)』と満足するうちと、こういうことなのです。
これは、その、つ、つ、つ、つまり、わ、わ、私達が……」
がたがたがたがた、震えだしてもうものが言えません。
壁を壊すという選択肢もあったのですが、空気を読むスキルを置いてきてしまった2人が、それに気づけるはずもありませんでした。
「わ、私、もう帰るわ!」
がたがたしながらレミリアは後ろの戸を開けました。
どうです、先ほどまで誰もいなかったはずの部屋に大勢の力士が所狭しと詰まっているではありませんか。
こんな汗臭い部屋に戻りたくありません、レミリアはそっと戸を閉じました。
奥の方にはまだ1枚戸があって、大きな鍵穴が2つ付き、銀色のレーヴァテインと第3の目の形が切り出してあって
『いや、わざわざ御苦労です。大変結構にできました。さあさあ、お入りなさい』
と書いてありました。
おまけに、鍵穴からはきょろきょろ目がこっちを覗いています。
2人は泣きだしました。
すると戸の中では、こそこそこんなことを言っています。
「駄目だよ、もう気がついたよ。せっかくパチュリーに作らせた薬を揉みこまないわよ」
「当たり前さ。おくうに書かせた私が馬鹿だったのよ。何も考えずに飛び込みなさい、抵抗は厳禁です、なんて間抜けたことを書いたのね」
「どっちでもいいわ。私、胸が大きいお姉さまも好きだけど胸が小さいことを気にしているお姉さまも好きだから」
「私もよ。でも、お姉ちゃんたちが入ってこなかったら、そしたら元も子もないわ」
「呼ぼうか、呼ぼう。おおい、お姉さまがた、早くいらっしゃい。いらっしゃい、いらっしゃい。
ベッドのメイキングしてあるし、生クリームも泡だてておいたわ。あとはお姉さま方を生クリームでトッピングして、
真っ白なベッドに押し倒すだけです。早くいらっしゃい」
「いらっしゃい、いらっしゃい。それともちゅっちゅはお嫌いなの?
それなら、これから何か新しい遊びを一緒に考えてもいいよ? とにかく早くいらっしゃい」
2人はあんまり心を痛めたために、急激にカリスマを失って縮んでしまい、
お互いにそのペドペドしい顔を見合わせ、ぶるぶる震え、声もなく泣きました。
中ではふっふっと笑って、また叫んでいます。
「いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いたら、私達の加虐心に拍車がかかっちゃうじゃない。さあ、早くいらっしゃい」
「早くいらっしゃい。私達も、舌舐めずりをしてお姉ちゃん達を待っているのよ」
2人は泣いて泣いて鳴いて泣いて鳴きました。
そのとき後ろから
「妹様よ、余の顔を見忘れたか」
と言う声がして、あの主人よりTVドラマを優先する従者が2人、戸を突き破って部屋の中に飛び込んできました。
鍵穴の目玉はたちまちなくなり、咲夜と燐はしばらく幼くなったミニスカメイド姿の主人を舐めまわすように眺めてはポエポエしていましたが、
「成敗!」と高く吠えて、いきなり次の戸に飛びつきました。
戸はがたりと開き、従者どもは吸い込まれるように飛んで行きました。
その戸の向こうの真っ暗闇の中で
「む、無念じゃ……あべしっ」
「ぐわらばっ」
という声がして、それからがさがさ鳴りました。
部屋は煙のように消え、2人は寒さにぶるぶる震え、草の中に立っていました。
見ると、横綱や大関や関脇や小結の力士達が、あっちの枝にぶらさがったり、こっちの根元に寝そべっていたりしています。
風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、夜雀はちんちん、メルランはぽっぽぽっぽと鳴りました。
従者が2人、身長40cmくらいに縮んでしまった妹を抱っこして戻ってきました。
そして後ろからは
「御嬢さん方、御嬢さん方」
と叫ぶ者があります。
2人はすぐに元気が出て
「おーい、こっちよ、早く来なさい」
と叫びました。
宝塔の形をした着ぐるみを着た、専門の寅丸星が、パンの欠片をちぎりながらやってきました。
そこで2人はやっと安心しました。
「帰り道は大丈夫ですよ。道しるべにパンの欠片を置いてきましたから、それを辿れば家に帰れます」
寅丸はそう言いました。
彼女の後で、ルーミアがパンの欠片を拾っては食べ、拾っては食べ、ここまで来ていました。
その後、2人は頼りにならない案内人を放置して、それぞれの従者に帰り路を教えてもらい、途中でイチゴのタルトを1箱だけ買ってそれぞれの家に帰りました。
しかし、あの時脱いだドロワーズやパンツは、家に帰っても、捜索願をだしても、もう2人の手元に戻ってくることはありませんでした。
というか唐突に暴れん坊将軍が出てきて気管に水がががが
>主人よりTVドラマを優先する従者が2人、戸を突き破って部屋の中に飛び込んできました。
このあたりで笑いがこらえきれなくなりました……
盛大に吹いたwww
星ちゃんがパンツの欠片をちぎりながらに見えたw
『暴れん坊博麗』が普通に見てみてえwww
ああもう、わけわからねえwww
将軍様に成敗されずに姉をちゅっちゅしつくす妹さんたちが見たいです
あ、あと暴れん坊博霊も
空気を読むのは着脱可能なのかΣ
>おくうに書かせた私が馬鹿だったのよ。
ここが見事すぎるw
作者の好きなものは時代劇、相撲、緑茶。
むせ返るような老人臭が漂う、コメ返しの時間です。
>01
セロ弾きですか……実はルナサは、最初は弦楽器演奏がド下手だったとか。
気管に水の件については、とりあえず
粗茶ですが、どうぞ。
>02
どこからでもカモンなのですよ。
とりあえず盛大に笑ってくれたようなので、感謝の意をこめて
粗茶ですが、どうぞ。
>03
新しい時代の幕開けですね。
時代の最先端を行く姉さんたちを祝って
粗茶ですが、どうぞ。
>04
ちゅっちゅではありません。そうそう、ちゅっちゅと言えば、
粗茶ですが、どうぞ。
>05
身長40cmは、ピカチュウと同サイズですのでセーフです。
暴れん坊博麗については、あたしの趣味全開でしたねw
さらには「パンツちぎって」と見て、パンツだけでは足りなくて服全部を道においてくる寅丸さんを幻視。
でもそれって、「よだかの星」って言うより「はだかの星」じゃないですか、やだー、やだー、絶対やだー!
……これで一通りだね。うん。
粗茶ですが、どうぞ。
>06
あたしにちゅっちゅが書けるわけないじゃないですかー
お詫びに
粗茶ですが、どうぞ。
>07
むしろあたしも見てみたいですよ、誰か書いてくれませんかねぃ。
粗茶ですが、どうぞ。
>08
ええ、タイトル詐欺でしたね、謝ります。
でも将軍様が締めてくれないと、将軍様のファンであるあたしが泣くので、ここはとりあえず
粗茶ですが、どうぞ。
>09
奇声を発するさんの親戚のお方でしたか。お近づきのしるしに
粗茶ですが、どうぞ。
>10
地底メンバーですか……キクリさんとか、行けそうですよね。
あの人は星というよりは月を目指した結果みたいな感じもしますが。うんうん、
粗茶ですが、どうぞ。
>11
ダブルで無理です!w
あ、でも霊夢さんの「成敗!」なら見てみたいかも...
粗茶ですが、どうぞ。
>12
なんと! そんな作品があるのですね!
今度調べてみます。情報サンクスなのです、お礼に一杯
粗茶ですが、どうぞ。
>13
おーれー、おーれー、チャチャチャ、ハクレイs
粗茶ですが、どうぞ。
>14
力士はいつも僕らの心の中に……キャー、ドスコーイ
粗茶ですが、どうぞ。
>15
本来、いるべきはずの親方様を省いたので、こういう形になりましたw
フランとこいしは猫耳つけてもワイルド性は失わないと信じてる!山猫万歳!
粗茶ですが、どうぞ。
>16
We love 力士。We love 和風。わふっと一発、
粗茶ですが、どうぞ。
>17
原作はかなり素晴らしい作品なので、何度でも読んでくださいな。読書のお供に
粗茶ですが、どうぞ。