「あれ?」
そのことに気付いたのは、ある日の夕暮れ時だった
今の生活には何かが足りない。
確信にも似た違和感だった
「どうしたんだ ? 」
一人で悩んでいると上から声をかけられた
「悩むなんでお前らしくないな」
「いきなり現れて失礼ね」
それはよく見知った顔だった
「失礼とはひどいぜ」
「あんたは失礼以外の何物でもないわよ」
私がそういうと彼女は「やれやれ」といった具合に首を振った
「で?
何を悩んでたんだ? 」
「あぁ、あんたなら分かるかもね
何か、違和感があるのよ」
「違和感?
体にか? 」
「違うわよ、そんなことなら医者に相談するわよ
なんていうか……何かが足りないのよ」
「足りない?
ますます意味がわからんぞ」
「具体的に言うと……今までいた誰かが居ないっていうか……」
「あぁ……それなら、ゆか……おっと」
「ゆか?」
「な、なんでもないんだぜ!!」
そういうと、逃げるように帰って行った
「怪しい……」
明らかに彼女は何かを隠している
それが何か分からないのが気持ち悪い
とても大切なことのような気がするのに……
「ゆか……り……? 」
「ゆかり」確かに私は今そう呟いた
なぜだろう
とても懐かしい気がする
「ゆかり
探さなきゃ」
そう思った私はもう日も暮れるというのにその場を飛び出していた
それからの私は違和感の解決に死に物狂いだった
唯一の日課である境内の掃除も放り出してそこらじゅうを駆け回っていた
紅い霧の時の場所
春が来なかった時の場所
夜を止めて月を探した時の場所
花が咲き乱れた時の場所
今まで回ったいろんな場所を回った
けれど、「ゆかり」に関することは何も分からなかった
唯一つ、皆が私に何かを隠しているということ
なぜ皆でわたしを「ゆかり」から遠ざけるのだろう
「考えてても仕方ない」
そうだ、私はいつも行動して解決してきた
考えてても何も始まらない
だからひたすら行動するのだ
この違和感を解決するまで
「ここどこ? 」
気付いたら私は見知らぬ場所に迷い込んでいた
周りに民家はたくさんあるのに人の気配が全くしない
そのかわりに、妖怪の気配とまとわりつくような視線を感じる
「見られてる」
見知らぬ場所にいる不安とまとわりつく視線にイライラしながら進んでいくと
ようやく人の気配のする民家を見つけた
「誰かいませんかー? 」
戸の前で大きな声を張り上げる……返事が無い
「お邪魔しまーす」
返事が無いということは誰もいないということだ
誰もいないなら入っても大丈夫だろう
「何この家
誰か住んでるみたいだけどすごい妖気」
今までに感じたことのないような膨大な妖気に身震いしながら進んでいくと
写真立てに入った1枚の写真を見つけた
「妖怪? 」
妖孤と化猫が一人の女性と映っている写真だった
「………」
3人とも知らないはずなのに知っている
「八雲藍」「橙」……「ゆかり」……
私が探していた「ゆかり」だ
この家は探す価値がありそうだ
写真を写真立てから外して懐に入れると
私は家の捜索を再開した
「確かに誰かが住んでた」
この家には確かに誰かが住んでいた痕跡がある
用事が出来たから急いで出て行った……いや、隠れたような
不自然さがある
「なんで? 」
隠れたというなら何故だろう……
誰かが来たから?
私が来たから?
そういえば、確かに皆が私から何かを隠していた
ここを隠していたの?
それともここにある何かを隠していたの?
ここには何かそんなに危ないものでもあるの?
「…………」
私は不安になりながらも足を進める
この違和感を解決するために
やがて私は一つの部屋の前にたどりついた
「結界が張られてる」
私ならこの程度の結界は簡単に破れる
でも…怖い
ここには何かがあるのだろう
でなければ、結界なんて張るはずがないから
そもそもこの結界は
この部屋に何も入らない為に張っているのだろうか
それとも、
この部屋から何も出ない為に張っているのだろうか
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い
恐怖…こんな感覚は初めてだ
何故こんなに怖いのだろう
この先には何があるのだろう
そう思い手を伸ばすと
「え? 」
私が襖に手を触れると結界はすぐに解けた……触れただけなのに!!
その瞬間とてつもない妖気が部屋の中からあふれ出した
「ひっ」
私は怖くなって座り込んだ
こんな妖気ありえない
こんな大きな妖気は今までに感じたことが無い……
「誰? 」
襖の奥から声が聞こえた
聞いたことが無いはずなのに妙に聞きなれた懐かしい声
「藍? それとも橙? 」
声は私が誰なのか分からず尚も問い詰めてくる
今すぐにここから逃げ出したい
「ここはあけるなって言っておいたでしょ? 」
「ご、ごめんなさい」
「!!!」
私がとっさに謝るとその声は驚いたようだ
「なぜ貴女がここにいるの? 」
声は私がここにいるのを心底不思議がっている
「何か、足りなくって…その足りないものを探してたら」
「そう」
何かに納得したようだ
「入りなさい」
「え? 」
「中に入りなさい」
私が声の言うとおりに襖を開けて中に入ると
そこには妖気の塊があった
「なにこれ……」
「これが私よ」
「 」
言葉にならなかった
今まで会話していたものは妖気の塊だったのだ
「…………」
「…………」
「…………」
「私がわかる? 」
「えっ? 」
聞き返しても返事が無い
どうやら私の返事を待っているようだ
「ゆかり? 」
「ゆかりって誰? 」
「分からない
でも、多分私の大切な人だと思う」
「そう」
それきり、声は黙ってしまった
「どうしたの?
ゆかりを探しに行かないの? 」
声が尋ねてくる
「貴方が……ゆかり? 」
「貴女の大切な人はこんな妖気の塊なの? 」
私は何も言い返せない
でも、違うともいえない
「こっちに来なさい」
私は恐る恐る近づく
近づくほどに私は妖気に纏わりつかれる
怖いのにどこか安心できるその矛盾した感覚
分かる、この妖気は私に決して危害を加えない
「ごめんなさいね」
「えっ」
私の額に何かが触れたと思うと私は気を失った
「っ」
私が次に目を覚ました時にはすべて思い出していた
「紫っ!! 」
目覚めた部屋から飛び出しマヨヒガの中を捜しまわる
「紫ぃっ」
目から涙が溢れてくる
あの姿はもしかして紫が一番見られたくなかった姿なのではないか
あの姿を見てしまったから紫には二度と会えないのではないか
「ゆっ…紫ぃ
ぐすっ…どこにいるのよぉ」
そんなのは嫌だもう一度、もう一度紫に会いたい
その一心でマヨヒガの中を捜しまわる
「紫ぃ…いじわるしないでよぉ」
その場に座り込んでしまったもう動く元気も無い
「………」
声も出せない、声を出したら泣いてしまうから
「………」
「あらあら、どうしたのかしら? 」
「っ!! 」
声の聞こえた方を向くと探していた人が居た
「……」
どうして声が出ないのだろう
思い切り名前を呼びたいのに
どうして体が動かないのだろう
思い切り抱きつきたいのに
「どうしたの? 」
「紫ぃ」
我ながら情けない声だと思う
でも、こんな声しか出ないのだから仕方ない
伸ばした手を紫に引っ張ってもらってようやく抱きつけた
「ごめんなさいね」
「どうして紫が謝るのよぉ……」
「あの姿を怖がって泣いてたんじゃないの? 」
「違っ…くないけど、ゆかりだもん、泣いたりしない」
「じゃあ、なんで泣いてたの? 」
「紫に会えなくなると思ったら……凄く怖くて」
「…………」
「なによ」
「ぷっ……くすくすくす」
「どうして笑うのよぉ」
むくれる私を無視して紫は笑い続ける
「どうして私に会えなくなると思ったの? 」
笑いが収まってからようやく聞いてきた
「紫が私の記憶をいじってまで隠してた姿を見ちゃったから
紫に嫌われると思った」
「……馬鹿ねぇ
そんなことで嫌いにならないわよ」
「で、でも」
「はいはい、その話はもう終わり
疲れたでしょう?お風呂が沸いてるから入っちゃいなさい」
「うん」
「ねぇ……」
「どうしたの? 」
「あの姿は何なの? 」
「時々ね、自分の妖力が抑えられなくなってあぁなるのよ」
「じゃあ、なんで隠してたの? 」
「……言わなきゃ、駄目? 」
「駄目」
「笑わない? 」
「笑わない」
「嫌われると思って」
「誰に? 」
「貴方に」
「何で私に嫌われるのよ」
「見た目が気持ち悪いから」
「……それだけ? 」
「それだけ」
「ぷっ」
「わ、笑ったぁ」
「わ、笑って…ないわよ…くすくす」
「笑ってるぅ」
それから色々と意味のないことを話してから私は眠った
久しぶりにぐっすり眠れたような気がした
終
そのことに気付いたのは、ある日の夕暮れ時だった
今の生活には何かが足りない。
確信にも似た違和感だった
「どうしたんだ ? 」
一人で悩んでいると上から声をかけられた
「悩むなんでお前らしくないな」
「いきなり現れて失礼ね」
それはよく見知った顔だった
「失礼とはひどいぜ」
「あんたは失礼以外の何物でもないわよ」
私がそういうと彼女は「やれやれ」といった具合に首を振った
「で?
何を悩んでたんだ? 」
「あぁ、あんたなら分かるかもね
何か、違和感があるのよ」
「違和感?
体にか? 」
「違うわよ、そんなことなら医者に相談するわよ
なんていうか……何かが足りないのよ」
「足りない?
ますます意味がわからんぞ」
「具体的に言うと……今までいた誰かが居ないっていうか……」
「あぁ……それなら、ゆか……おっと」
「ゆか?」
「な、なんでもないんだぜ!!」
そういうと、逃げるように帰って行った
「怪しい……」
明らかに彼女は何かを隠している
それが何か分からないのが気持ち悪い
とても大切なことのような気がするのに……
「ゆか……り……? 」
「ゆかり」確かに私は今そう呟いた
なぜだろう
とても懐かしい気がする
「ゆかり
探さなきゃ」
そう思った私はもう日も暮れるというのにその場を飛び出していた
それからの私は違和感の解決に死に物狂いだった
唯一の日課である境内の掃除も放り出してそこらじゅうを駆け回っていた
紅い霧の時の場所
春が来なかった時の場所
夜を止めて月を探した時の場所
花が咲き乱れた時の場所
今まで回ったいろんな場所を回った
けれど、「ゆかり」に関することは何も分からなかった
唯一つ、皆が私に何かを隠しているということ
なぜ皆でわたしを「ゆかり」から遠ざけるのだろう
「考えてても仕方ない」
そうだ、私はいつも行動して解決してきた
考えてても何も始まらない
だからひたすら行動するのだ
この違和感を解決するまで
「ここどこ? 」
気付いたら私は見知らぬ場所に迷い込んでいた
周りに民家はたくさんあるのに人の気配が全くしない
そのかわりに、妖怪の気配とまとわりつくような視線を感じる
「見られてる」
見知らぬ場所にいる不安とまとわりつく視線にイライラしながら進んでいくと
ようやく人の気配のする民家を見つけた
「誰かいませんかー? 」
戸の前で大きな声を張り上げる……返事が無い
「お邪魔しまーす」
返事が無いということは誰もいないということだ
誰もいないなら入っても大丈夫だろう
「何この家
誰か住んでるみたいだけどすごい妖気」
今までに感じたことのないような膨大な妖気に身震いしながら進んでいくと
写真立てに入った1枚の写真を見つけた
「妖怪? 」
妖孤と化猫が一人の女性と映っている写真だった
「………」
3人とも知らないはずなのに知っている
「八雲藍」「橙」……「ゆかり」……
私が探していた「ゆかり」だ
この家は探す価値がありそうだ
写真を写真立てから外して懐に入れると
私は家の捜索を再開した
「確かに誰かが住んでた」
この家には確かに誰かが住んでいた痕跡がある
用事が出来たから急いで出て行った……いや、隠れたような
不自然さがある
「なんで? 」
隠れたというなら何故だろう……
誰かが来たから?
私が来たから?
そういえば、確かに皆が私から何かを隠していた
ここを隠していたの?
それともここにある何かを隠していたの?
ここには何かそんなに危ないものでもあるの?
「…………」
私は不安になりながらも足を進める
この違和感を解決するために
やがて私は一つの部屋の前にたどりついた
「結界が張られてる」
私ならこの程度の結界は簡単に破れる
でも…怖い
ここには何かがあるのだろう
でなければ、結界なんて張るはずがないから
そもそもこの結界は
この部屋に何も入らない為に張っているのだろうか
それとも、
この部屋から何も出ない為に張っているのだろうか
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い
恐怖…こんな感覚は初めてだ
何故こんなに怖いのだろう
この先には何があるのだろう
そう思い手を伸ばすと
「え? 」
私が襖に手を触れると結界はすぐに解けた……触れただけなのに!!
その瞬間とてつもない妖気が部屋の中からあふれ出した
「ひっ」
私は怖くなって座り込んだ
こんな妖気ありえない
こんな大きな妖気は今までに感じたことが無い……
「誰? 」
襖の奥から声が聞こえた
聞いたことが無いはずなのに妙に聞きなれた懐かしい声
「藍? それとも橙? 」
声は私が誰なのか分からず尚も問い詰めてくる
今すぐにここから逃げ出したい
「ここはあけるなって言っておいたでしょ? 」
「ご、ごめんなさい」
「!!!」
私がとっさに謝るとその声は驚いたようだ
「なぜ貴女がここにいるの? 」
声は私がここにいるのを心底不思議がっている
「何か、足りなくって…その足りないものを探してたら」
「そう」
何かに納得したようだ
「入りなさい」
「え? 」
「中に入りなさい」
私が声の言うとおりに襖を開けて中に入ると
そこには妖気の塊があった
「なにこれ……」
「これが私よ」
「 」
言葉にならなかった
今まで会話していたものは妖気の塊だったのだ
「…………」
「…………」
「…………」
「私がわかる? 」
「えっ? 」
聞き返しても返事が無い
どうやら私の返事を待っているようだ
「ゆかり? 」
「ゆかりって誰? 」
「分からない
でも、多分私の大切な人だと思う」
「そう」
それきり、声は黙ってしまった
「どうしたの?
ゆかりを探しに行かないの? 」
声が尋ねてくる
「貴方が……ゆかり? 」
「貴女の大切な人はこんな妖気の塊なの? 」
私は何も言い返せない
でも、違うともいえない
「こっちに来なさい」
私は恐る恐る近づく
近づくほどに私は妖気に纏わりつかれる
怖いのにどこか安心できるその矛盾した感覚
分かる、この妖気は私に決して危害を加えない
「ごめんなさいね」
「えっ」
私の額に何かが触れたと思うと私は気を失った
「っ」
私が次に目を覚ました時にはすべて思い出していた
「紫っ!! 」
目覚めた部屋から飛び出しマヨヒガの中を捜しまわる
「紫ぃっ」
目から涙が溢れてくる
あの姿はもしかして紫が一番見られたくなかった姿なのではないか
あの姿を見てしまったから紫には二度と会えないのではないか
「ゆっ…紫ぃ
ぐすっ…どこにいるのよぉ」
そんなのは嫌だもう一度、もう一度紫に会いたい
その一心でマヨヒガの中を捜しまわる
「紫ぃ…いじわるしないでよぉ」
その場に座り込んでしまったもう動く元気も無い
「………」
声も出せない、声を出したら泣いてしまうから
「………」
「あらあら、どうしたのかしら? 」
「っ!! 」
声の聞こえた方を向くと探していた人が居た
「……」
どうして声が出ないのだろう
思い切り名前を呼びたいのに
どうして体が動かないのだろう
思い切り抱きつきたいのに
「どうしたの? 」
「紫ぃ」
我ながら情けない声だと思う
でも、こんな声しか出ないのだから仕方ない
伸ばした手を紫に引っ張ってもらってようやく抱きつけた
「ごめんなさいね」
「どうして紫が謝るのよぉ……」
「あの姿を怖がって泣いてたんじゃないの? 」
「違っ…くないけど、ゆかりだもん、泣いたりしない」
「じゃあ、なんで泣いてたの? 」
「紫に会えなくなると思ったら……凄く怖くて」
「…………」
「なによ」
「ぷっ……くすくすくす」
「どうして笑うのよぉ」
むくれる私を無視して紫は笑い続ける
「どうして私に会えなくなると思ったの? 」
笑いが収まってからようやく聞いてきた
「紫が私の記憶をいじってまで隠してた姿を見ちゃったから
紫に嫌われると思った」
「……馬鹿ねぇ
そんなことで嫌いにならないわよ」
「で、でも」
「はいはい、その話はもう終わり
疲れたでしょう?お風呂が沸いてるから入っちゃいなさい」
「うん」
「ねぇ……」
「どうしたの? 」
「あの姿は何なの? 」
「時々ね、自分の妖力が抑えられなくなってあぁなるのよ」
「じゃあ、なんで隠してたの? 」
「……言わなきゃ、駄目? 」
「駄目」
「笑わない? 」
「笑わない」
「嫌われると思って」
「誰に? 」
「貴方に」
「何で私に嫌われるのよ」
「見た目が気持ち悪いから」
「……それだけ? 」
「それだけ」
「ぷっ」
「わ、笑ったぁ」
「わ、笑って…ないわよ…くすくす」
「笑ってるぅ」
それから色々と意味のないことを話してから私は眠った
久しぶりにぐっすり眠れたような気がした
終
「ゆかり」捜索時の、他のひと達との会話とか。みんなが紫のことを隠した理由もちょっと気になったかも。
でも、話はすごく好みでした。ふたりともかわえぇ。
これからもがんばってくださいね。(…と、偉そうなことを言ってみる)