この作品は「私が家庭を持ったらどんな感じになるのかしら。お母さんってどんな事してたっけ。いつもニコニコとお払い棒を振り回してた記憶しかないのだけど 」の裏ストーリーになっています。
そちらから読んでもらえると幸いです。
背景 名前が無い程度の能力様
このあっつい中、皆様どのようにお過ごしでしょうか。
私は五月病前回全開です。むしろ雛の膝枕病です。
長い間私達のLAVE LAVELOVELOVEを盗み見見て頂き有難う御座いました。
恥ずかしくもあり、充実した日々であったと思います。
さて、私達の物語はこれからもずっと続いていきます。
朱鷺時に笑い、時にケンカし、時に涙することもあると思います。
けれど、その姿を皆様にお見せすることは、もうできません。
なぜならば、私達は一つの幸せの形に行き着いたからです。
ぶっちゃけ、これ以上はリアルすぎて色々と危険なんだよね。
でも之だけは言えます。私達は幸せです。これからもずっと幸せです。
では、またお会いできる日を夢見て。
川代河代 にとり
「はいにとり。訂正入れておいたわよ」
「もうちょっと雛枕を堪能してから直すー」
「んもぅ……あと5分だけだからね?」
「みゅ~……zzz」
P.S. にとりのタキシード姿に惚れ直しました♪
PP.S. 雛のウェディングドレスは鼻血物だったよ♪
一つの夢は終わり、新たな夢へと誘う。
それは交わり。
それは誓い。
それは繋がり。
それは糸。
二つの絆はやがて、全ての糸の土台を編む。
物語は複雑に組み合わされ……
< 花占いかぁ。こんなの迷信よね? …………好き…嫌い…好き…嫌い…好き…好き…好き……大好き♪ >
~あらすじ~
神奈子がぎっくり腰になりました。
霊夢が紫に(親友的な意味で)好きって言いました。
美鈴が嫉妬したっぽい。
霊夢が部屋から飛び出し、修羅場な雰囲気。
でも本当は……
「私の好きな霊夢さんなら、許してくれると信じてますから♪」
博麗神社に響き渡る声。
その声を発した主は、紅 美鈴。
霊夢の整体師としての師匠である。
「絶対に許早苗」
「え、私ですか?」
「間違えた。絶対に許さない」
台所で目下作業中な二人は、この神社の巫女、博麗 霊夢と、
別の神社の風祝り、東風谷 早苗である。
二人は仲良く何かの生地をコネコネしているところだった。
「ではこの、かすてーらは誰の為に作ってるんですか?」
「……自分の為よ」
「あー……遠回りに自分の為にもなるって事ですね!」
「うっさい。だまってこねくり回せ」
霊夢は頬を赤らめながら、生地をコネコネ、コネコネ。
ちょっと強いくらいの力で、コネコネ、コネコネ。
卵8個に、砂糖、強力粉適当。
ハチミツ多めでちょっと甘口。
細かな泡になるように、泡立て器で一所懸命コネコネ。
「さっきから思うんですけど……」
「あによ」
「生地が異様に硬くありませんか?」
「……分量間違えた」
ぼん、と生地の入ったボールを手元に置く。
作り直しだ。
早苗も、自分の持っているボールを置こうとしたところで……ふと気が付いた。
「霊夢さん」
「あによ」
「霊夢さんって意外と可愛いですよね」
「な、ななな……」
「ちょっとだけ、美鈴さんや紫さんの気持ちが分かった気がします♪」
「う、うっさい!」
恥ずかしさのあまり、勢い良く早苗に背中を向けた。
そのとき、霊夢の袖が生地のたっぷり入ったボールにヒット。
早苗が、あっと声をあげる暇も無く、空中へと舞い上がったボールはそのまま回転しつつ霊夢の頭へと……
「はぁい霊夢。今の美鈴の声聞こえ、へぶぁ!」
霊夢の頭を飛び越え、突然現れた紫の顔へとクリーンヒットした。
「……随分と食い意地はってるのね紫」
「あっ! 霊夢さん危ない!」
「早苗、もう遅いから」
紫と早苗の双方へツッコミを入れた霊夢は、紫の顔から落ちてきたボールをキャッチ。
そのまま流し台へとほおりこんだ。
がらんがらんと、ほとんど空になったボールの音がやけに大きく聞こえる。
紫はどろっとして粘つく白い液体を、顔からふき取ることもせず唖然としていた。
とおもったら、ちょっと涙ぐんでいるらしい。先ほどから小さな嗚咽が聞こえている。
しかし霊夢は何事も無かったかのように、冷蔵庫(氷を入れておくタイプ)から卵を取り出した。
先の言葉の通り、作り直すようだ。
「卵八個に、砂糖適当、強力粉はさっきの半分以下っと。お湯も作り直さないとね」
「霊夢さん霊夢さん。こっちの失敗作はどうします?」
「そっちも作り直しね。冷蔵庫の卵を適当に使って」
流しに転がっているボールを水で流しつつ、適当に答える。
何事も適当。それが博麗の巫女なのだろうか。
でも色恋ごとに対しては……博麗の巫女も乙女なのだ。
「霊夢さん、この失敗作はどう処理しましょう?」
「適当に処理しておいて」
何事も適当。大体はそれでうまく行く。
色恋以外は。
「適当に、適当に……あ、そうか。ボールって本来投げるものですよね!」
早苗はのちに語る。
適当とは、常識に囚われてはいけないと言う事とイコールであると。
幻想郷では適当に生きるべきであると。
そして、台所から悲鳴が上がったのは、わずか一秒後のことであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ぐす……なんで私がこんな目に合わなくてはいけないのよ……」
「ごめんなさい……やっぱりボールは投げるものじゃないですよね」
「早苗グッジョブよ。紫は日頃の行いが悪いからこうなるのよ」
紫は体中から甘い匂いを立たせて泣いていた。
顔や髪の毛には、まだ生地がねっとりと付着している。
まるでアレの後のようで、なんというか……
「エロいわね」
「卑猥ですね」
「貴方たちが私にぶちまけたのでしょう!?」
もはや何の為に出てきたのか分からないゆかりん。
自分の式神である八雲 藍に手入れして貰えばいいのに、そのことすら頭に回っていないようだった。
その証拠に、むーむー怒りながら、霊夢をぽかぽかと叩いている始末だ。
「ぶちまけるとか……すけべ用語は引くわー」
「ぶちまけるだなんて……えっちなのはいけないと思います!」
「私が悪いの!?」
霊夢と早苗はさでずむに目覚めた!!
一方、霊夢と早苗が紫いじりに華を咲かせていた頃、客間では美鈴が神奈子へのマッサージの仕上げを行なっていた。
「はい、之で本日の治療は終了です。お疲れ様でした!」
「ありがとうね、えっと……門番さん?」
「美鈴。紅 美鈴です」
「そうか。ありがとう美鈴、かなり楽になったよ」
「どういたしまして~」
タオルに針に汗の吸ったシーツ。
手際よく片付けていく美鈴に、神奈子は目を細めた。
その瞳に見透かされた者は、震え上がるだろう蛇の睨み。
しかし美鈴は、笑顔で首を傾げるだけで何とも思っていないようだった。
「鈍感なのか、それとも肝が据わっているのか。もしくはタダの馬鹿か」
「私は馬鹿の金メダリストらしいですよ?」
「そうだったね。でも私の言いたいことくらいは理解しているだろう?」
後片付けよりも、さっさと霊夢の所へ行け。
さっきから神奈子はそう瞳で訴えているのだ。
「でも洗い終わるまでが料理っていいますし」
「あたしはまな板の上の鯛かい」
「お~。それは言い得て妙ですね~」
針を人差し指と親指で挟んで神奈子へ向ける美鈴。
獰猛は犬のように犬歯を覗かせてはいる。
「……チワワね」
「チクワですか?」
「もういいわ、好きにしなさいな」
「ほえ?」
のんびりと片付けを再開する。
神奈子はそれを見ているだけ。
着替えたくても、服が腰から破れているので動けないというのも、あるだろうけれど。
布団で隠しているとはいえ、今頃になって恥ずかしさが戻ってきたらしい。
頬が赤く染まるくらいには、まだ神奈子は女の子だった。
「よし」
最後の一本の針をしまい、シーツを使用済み袋へとたたみ入れたところで、美鈴は漸く立ち上がった。
口元をきゅっと、決心の付いた心が逃げ出さないように締めて。
「行ってきます」
そんな姿を見て、神奈子はもう何も言わなかった。
いってらっしゃいとも、がんばりなさいとも。
空気が違う。風が違う。そう感じたから。
静かに戸を閉めて、美鈴は部屋を後にした。
愛する人の下へ。ありったけの想いを、その大きな胸に詰め込んで。
「読めない奴だわ。心配して損した……さて、と」
一人残された神奈子は、とりあえず着るものが無いかと部屋を探す。
神奈子が部屋の角へと目をやると、気になるものがあった。
そこにはいつの間にか、一個の帽子が落ちていた。
目玉が二つ付いた変な帽子だ。
少し驚いたような、困ったような複雑な顔で、神奈子は言った。
「破れたパジャマの着替え、持ってきてくれないかい?」
大きな目玉が二つ。神奈子の言葉に応じるかのように瞬くと、帽子はスッとその場から消え去った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
美鈴が部屋を出た頃、台所では3人が「かすてーら」の生地を作っていた。
完成まではまだまだ。
細かい泡になるよう、カシャカシャ泡立てる。
三人が同じリズムでカシャカシャとかき回す。
一定のリズムを崩さないまま、紫が問いかけた。
「ねぇ霊夢、美鈴のことだけど」
「……」
リズムは変わらない。
同じ速さ、同じ力。それでもきっと味は違う。
「分かっているのでしょう?」
「紫、先にあやまっておくわ。ごめん」
「霊夢……」
何に対しての贖罪なのか。
ただ一つ分かっていることは、紫の作る「かすてーら」は少し塩分が多めだということだ。
それでもリズムは変わらない。
同じ速さ、同じ力。それでもきっと味は違う。
一つは適当な味。
一つはちょっと大人な味。
一つは……
「隠し味は~神奈子様への~あ~い~♪ なんちゃって♪」
ものすごく甘くなるだろう。
早苗のボールだけ、なにか異様な粘り気になっていたが……
それでも同じリズム。同じ力。違う味。
そこに、ふと違うリズムが加わった。
床を賭けるドラムだ。
どんどん大きくなる。
ピアノからフォルテへと。そしてフォルテッシモへ。
曲調が最高潮に達したとき、霊夢へと飛び込む大きな物体があった。
それは、紅 美鈴。
霊夢の整体師としての師匠だ。
「霊夢さん!」
「飛び込んでくるなり大きな声だすんじゃないの」
「す、すいません……」
先ほどの気迫はどこへやら。
霊夢の一言で、迷子の子犬のようになってしまった。
「かすてら」
「はい?」
「かすてら、まだ時間掛かるから待ってて」
「……はい!」
変わらずずっと生地をかき回す。
気持ちを込めて。素直な気持ちを、泡に閉じ込めるように。
「二度と変なこと考えないように」
「はい!」
「それと……」
泡が飛ぶ。風に乗って。想いを乗せて。
リズムが止まり、霊夢は美鈴へと向かって、想いを続けた。
「私も好きよ、美鈴」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ……負けたわ」
「いいんですか?」
「いいのよ。私は之まで通り、霊夢を見続けるだけ。そっとね」
「そうですか……世間一般ではそれをストーカーと呼ぶそうですよ?」
「……あなた思ったよりも性格悪いわね」
台所に残された3つの生地。
一つは届かない想い。
一つは届けたい想い。
どちらが美味しいかは、きっと食べた人だけが分かるだろう。
でも一番美味しいのは、「届いた想い」かもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――これはゆめ
――だれのゆめ?
――わたしのゆめ
――わたしたちのゆめ
「美鈴、ごめんなさい。大嫌いなんて言って……許してくれる?」
「許すも何も、私は最初から怒ってないですよ。ちこっと嫉妬はしましたけど、なんて♪」
「美鈴……」
二人の間に、仄かな百合の香りが立ち込めた。
お互いの手を取り合い、自然と顔が近づいていく。
まるで恋する乙女のように、お互いの瞳は輝く。
世界で一番綺麗な宝石が、其処にはあった。
「霊夢さん、ごめんなさい。私の事も許してくれますか?」
「……」
美鈴の問に霊夢は眼を瞑って答えた。
小さな唇が僅かに振るえ、ほんの少しだけ開かれる。
全てを受け入れるかのように、小さな穴から紡がれる言葉。
それは、大切な大切な調べ。
もっと傍に寄らないと聞けないほど小さな曲。
でも美鈴には分かっていた。その曲の意味を。
だから、美鈴も目を瞑った。
これから奏でられる二人の音楽。
その序曲が今、始まろうとして……
「許早苗♪」
「えっ? あいたー!」
始まらなかった。
近距離で放たれたのは、霊夢のヘッドバット。
おでことおでこが、ごっつんこのアレである。
「そう簡単にこの私が許すはずないじゃない?」
「ひ、ひどいですよ霊夢さん~。うぅ、たんこぶが出来てしまいました……」
「許してほしかったら、暫く此処で働きなさい」
「ふえ?」
「庭掃除に雑巾かけ。こき使ってあげるわ」
「は、はい!」
――これはゆめ
――だれのゆめ?
――わたしのゆめ
――わたしたちのゆめ
――だからすなおになれる
――ゆめだからいえる
「霊夢さん……好きです」
「美鈴……好きよ」
――わたしのゆめ
――わたしたちのゆめ
「弟子としてですけどね!」
「師匠としてだけどね!」
――それはきっと……げんそう
そちらから読んでもらえると幸いです。
このあっつい中、皆様どのようにお過ごしでしょうか。
私は五月病
長い間私達の
恥ずかしくもあり、充実した日々であったと思います。
さて、私達の物語はこれからもずっと続いていきます。
けれど、その姿を皆様にお見せすることは、もうできません。
なぜならば、私達は一つの幸せの形に行き着いたからです。
でも之だけは言えます。私達は幸せです。これからもずっと幸せです。
では、またお会いできる日を夢見て。
「はいにとり。訂正入れておいたわよ」
「もうちょっと雛枕を堪能してから直すー」
「んもぅ……あと5分だけだからね?」
「みゅ~……zzz」
P.S. にとりのタキシード姿に惚れ直しました♪
PP.S. 雛のウェディングドレスは鼻血物だったよ♪
一つの夢は終わり、新たな夢へと誘う。
それは交わり。
それは誓い。
それは繋がり。
それは糸。
二つの絆はやがて、全ての糸の土台を編む。
物語は複雑に組み合わされ……
< 花占いかぁ。こんなの迷信よね? …………好き…嫌い…好き…嫌い…好き…好き…好き……大好き♪ >
~あらすじ~
神奈子がぎっくり腰になりました。
霊夢が紫に(親友的な意味で)好きって言いました。
美鈴が嫉妬したっぽい。
霊夢が部屋から飛び出し、修羅場な雰囲気。
でも本当は……
「私の好きな霊夢さんなら、許してくれると信じてますから♪」
博麗神社に響き渡る声。
その声を発した主は、紅 美鈴。
霊夢の整体師としての師匠である。
「絶対に許早苗」
「え、私ですか?」
「間違えた。絶対に許さない」
台所で目下作業中な二人は、この神社の巫女、博麗 霊夢と、
別の神社の風祝り、東風谷 早苗である。
二人は仲良く何かの生地をコネコネしているところだった。
「ではこの、かすてーらは誰の為に作ってるんですか?」
「……自分の為よ」
「あー……遠回りに自分の為にもなるって事ですね!」
「うっさい。だまってこねくり回せ」
霊夢は頬を赤らめながら、生地をコネコネ、コネコネ。
ちょっと強いくらいの力で、コネコネ、コネコネ。
卵8個に、砂糖、強力粉適当。
ハチミツ多めでちょっと甘口。
細かな泡になるように、泡立て器で一所懸命コネコネ。
「さっきから思うんですけど……」
「あによ」
「生地が異様に硬くありませんか?」
「……分量間違えた」
ぼん、と生地の入ったボールを手元に置く。
作り直しだ。
早苗も、自分の持っているボールを置こうとしたところで……ふと気が付いた。
「霊夢さん」
「あによ」
「霊夢さんって意外と可愛いですよね」
「な、ななな……」
「ちょっとだけ、美鈴さんや紫さんの気持ちが分かった気がします♪」
「う、うっさい!」
恥ずかしさのあまり、勢い良く早苗に背中を向けた。
そのとき、霊夢の袖が生地のたっぷり入ったボールにヒット。
早苗が、あっと声をあげる暇も無く、空中へと舞い上がったボールはそのまま回転しつつ霊夢の頭へと……
「はぁい霊夢。今の美鈴の声聞こえ、へぶぁ!」
霊夢の頭を飛び越え、突然現れた紫の顔へとクリーンヒットした。
「……随分と食い意地はってるのね紫」
「あっ! 霊夢さん危ない!」
「早苗、もう遅いから」
紫と早苗の双方へツッコミを入れた霊夢は、紫の顔から落ちてきたボールをキャッチ。
そのまま流し台へとほおりこんだ。
がらんがらんと、ほとんど空になったボールの音がやけに大きく聞こえる。
紫はどろっとして粘つく白い液体を、顔からふき取ることもせず唖然としていた。
とおもったら、ちょっと涙ぐんでいるらしい。先ほどから小さな嗚咽が聞こえている。
しかし霊夢は何事も無かったかのように、冷蔵庫(氷を入れておくタイプ)から卵を取り出した。
先の言葉の通り、作り直すようだ。
「卵八個に、砂糖適当、強力粉はさっきの半分以下っと。お湯も作り直さないとね」
「霊夢さん霊夢さん。こっちの失敗作はどうします?」
「そっちも作り直しね。冷蔵庫の卵を適当に使って」
流しに転がっているボールを水で流しつつ、適当に答える。
何事も適当。それが博麗の巫女なのだろうか。
でも色恋ごとに対しては……博麗の巫女も乙女なのだ。
「霊夢さん、この失敗作はどう処理しましょう?」
「適当に処理しておいて」
何事も適当。大体はそれでうまく行く。
色恋以外は。
「適当に、適当に……あ、そうか。ボールって本来投げるものですよね!」
早苗はのちに語る。
適当とは、常識に囚われてはいけないと言う事とイコールであると。
幻想郷では適当に生きるべきであると。
そして、台所から悲鳴が上がったのは、わずか一秒後のことであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ぐす……なんで私がこんな目に合わなくてはいけないのよ……」
「ごめんなさい……やっぱりボールは投げるものじゃないですよね」
「早苗グッジョブよ。紫は日頃の行いが悪いからこうなるのよ」
紫は体中から甘い匂いを立たせて泣いていた。
顔や髪の毛には、まだ生地がねっとりと付着している。
まるでアレの後のようで、なんというか……
「エロいわね」
「卑猥ですね」
「貴方たちが私にぶちまけたのでしょう!?」
もはや何の為に出てきたのか分からないゆかりん。
自分の式神である八雲 藍に手入れして貰えばいいのに、そのことすら頭に回っていないようだった。
その証拠に、むーむー怒りながら、霊夢をぽかぽかと叩いている始末だ。
「ぶちまけるとか……すけべ用語は引くわー」
「ぶちまけるだなんて……えっちなのはいけないと思います!」
「私が悪いの!?」
霊夢と早苗はさでずむに目覚めた!!
一方、霊夢と早苗が紫いじりに華を咲かせていた頃、客間では美鈴が神奈子へのマッサージの仕上げを行なっていた。
「はい、之で本日の治療は終了です。お疲れ様でした!」
「ありがとうね、えっと……門番さん?」
「美鈴。紅 美鈴です」
「そうか。ありがとう美鈴、かなり楽になったよ」
「どういたしまして~」
タオルに針に汗の吸ったシーツ。
手際よく片付けていく美鈴に、神奈子は目を細めた。
その瞳に見透かされた者は、震え上がるだろう蛇の睨み。
しかし美鈴は、笑顔で首を傾げるだけで何とも思っていないようだった。
「鈍感なのか、それとも肝が据わっているのか。もしくはタダの馬鹿か」
「私は馬鹿の金メダリストらしいですよ?」
「そうだったね。でも私の言いたいことくらいは理解しているだろう?」
後片付けよりも、さっさと霊夢の所へ行け。
さっきから神奈子はそう瞳で訴えているのだ。
「でも洗い終わるまでが料理っていいますし」
「あたしはまな板の上の鯛かい」
「お~。それは言い得て妙ですね~」
針を人差し指と親指で挟んで神奈子へ向ける美鈴。
獰猛は犬のように犬歯を覗かせてはいる。
「……チワワね」
「チクワですか?」
「もういいわ、好きにしなさいな」
「ほえ?」
のんびりと片付けを再開する。
神奈子はそれを見ているだけ。
着替えたくても、服が腰から破れているので動けないというのも、あるだろうけれど。
布団で隠しているとはいえ、今頃になって恥ずかしさが戻ってきたらしい。
頬が赤く染まるくらいには、まだ神奈子は女の子だった。
「よし」
最後の一本の針をしまい、シーツを使用済み袋へとたたみ入れたところで、美鈴は漸く立ち上がった。
口元をきゅっと、決心の付いた心が逃げ出さないように締めて。
「行ってきます」
そんな姿を見て、神奈子はもう何も言わなかった。
いってらっしゃいとも、がんばりなさいとも。
空気が違う。風が違う。そう感じたから。
静かに戸を閉めて、美鈴は部屋を後にした。
愛する人の下へ。ありったけの想いを、その大きな胸に詰め込んで。
「読めない奴だわ。心配して損した……さて、と」
一人残された神奈子は、とりあえず着るものが無いかと部屋を探す。
神奈子が部屋の角へと目をやると、気になるものがあった。
そこにはいつの間にか、一個の帽子が落ちていた。
目玉が二つ付いた変な帽子だ。
少し驚いたような、困ったような複雑な顔で、神奈子は言った。
「破れたパジャマの着替え、持ってきてくれないかい?」
大きな目玉が二つ。神奈子の言葉に応じるかのように瞬くと、帽子はスッとその場から消え去った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
美鈴が部屋を出た頃、台所では3人が「かすてーら」の生地を作っていた。
完成まではまだまだ。
細かい泡になるよう、カシャカシャ泡立てる。
三人が同じリズムでカシャカシャとかき回す。
一定のリズムを崩さないまま、紫が問いかけた。
「ねぇ霊夢、美鈴のことだけど」
「……」
リズムは変わらない。
同じ速さ、同じ力。それでもきっと味は違う。
「分かっているのでしょう?」
「紫、先にあやまっておくわ。ごめん」
「霊夢……」
何に対しての贖罪なのか。
ただ一つ分かっていることは、紫の作る「かすてーら」は少し塩分が多めだということだ。
それでもリズムは変わらない。
同じ速さ、同じ力。それでもきっと味は違う。
一つは適当な味。
一つはちょっと大人な味。
一つは……
「隠し味は~神奈子様への~あ~い~♪ なんちゃって♪」
ものすごく甘くなるだろう。
早苗のボールだけ、なにか異様な粘り気になっていたが……
それでも同じリズム。同じ力。違う味。
そこに、ふと違うリズムが加わった。
床を賭けるドラムだ。
どんどん大きくなる。
ピアノからフォルテへと。そしてフォルテッシモへ。
曲調が最高潮に達したとき、霊夢へと飛び込む大きな物体があった。
それは、紅 美鈴。
霊夢の整体師としての師匠だ。
「霊夢さん!」
「飛び込んでくるなり大きな声だすんじゃないの」
「す、すいません……」
先ほどの気迫はどこへやら。
霊夢の一言で、迷子の子犬のようになってしまった。
「かすてら」
「はい?」
「かすてら、まだ時間掛かるから待ってて」
「……はい!」
変わらずずっと生地をかき回す。
気持ちを込めて。素直な気持ちを、泡に閉じ込めるように。
「二度と変なこと考えないように」
「はい!」
「それと……」
泡が飛ぶ。風に乗って。想いを乗せて。
リズムが止まり、霊夢は美鈴へと向かって、想いを続けた。
「私も好きよ、美鈴」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ……負けたわ」
「いいんですか?」
「いいのよ。私は之まで通り、霊夢を見続けるだけ。そっとね」
「そうですか……世間一般ではそれをストーカーと呼ぶそうですよ?」
「……あなた思ったよりも性格悪いわね」
台所に残された3つの生地。
一つは届かない想い。
一つは届けたい想い。
どちらが美味しいかは、きっと食べた人だけが分かるだろう。
でも一番美味しいのは、「届いた想い」かもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――これはゆめ
――だれのゆめ?
――わたしのゆめ
――わたしたちのゆめ
「美鈴、ごめんなさい。大嫌いなんて言って……許してくれる?」
「許すも何も、私は最初から怒ってないですよ。ちこっと嫉妬はしましたけど、なんて♪」
「美鈴……」
二人の間に、仄かな百合の香りが立ち込めた。
お互いの手を取り合い、自然と顔が近づいていく。
まるで恋する乙女のように、お互いの瞳は輝く。
世界で一番綺麗な宝石が、其処にはあった。
「霊夢さん、ごめんなさい。私の事も許してくれますか?」
「……」
美鈴の問に霊夢は眼を瞑って答えた。
小さな唇が僅かに振るえ、ほんの少しだけ開かれる。
全てを受け入れるかのように、小さな穴から紡がれる言葉。
それは、大切な大切な調べ。
もっと傍に寄らないと聞けないほど小さな曲。
でも美鈴には分かっていた。その曲の意味を。
だから、美鈴も目を瞑った。
これから奏でられる二人の音楽。
その序曲が今、始まろうとして……
「許早苗♪」
「えっ? あいたー!」
始まらなかった。
近距離で放たれたのは、霊夢のヘッドバット。
おでことおでこが、ごっつんこのアレである。
「そう簡単にこの私が許すはずないじゃない?」
「ひ、ひどいですよ霊夢さん~。うぅ、たんこぶが出来てしまいました……」
「許してほしかったら、暫く此処で働きなさい」
「ふえ?」
「庭掃除に雑巾かけ。こき使ってあげるわ」
「は、はい!」
――これはゆめ
――だれのゆめ?
――わたしのゆめ
――わたしたちのゆめ
――だからすなおになれる
――ゆめだからいえる
「霊夢さん……好きです」
「美鈴……好きよ」
――わたしのゆめ
――わたしたちのゆめ
「弟子としてですけどね!」
「師匠としてだけどね!」
――それはきっと……げんそう
とてもいい話でした。
ところで東方IME辞書というものがあってだな…
>河代 にとり
雛おしい、「川城」だ
こじろーさん、三度の飯やら睡眠やらはちゃんととっていますか?
あなたのペースを見ているとちょっと本気で心配になってきます。
あと誤字報告
>河代
河城です。1氏も惜しかったんですが。
そーかそーか…二人が仲直りするまではこうだったか…
あの時仲直りするところが見たいと、待ち続けた甲斐があったというもの。
うん、こういう話大好き!
それをですね、会社のPCにですね。アッー!
>こじろーさん、三度の飯やら睡眠やらはちゃんととっていますか?
睡眠は通勤電車の中でちゃんととってますよ♪ ねみぃ……
そして両方、誤字報告ありがとうございます!素で間違えて覚えていただなんてイエナイ
でもあえて残しておくと、雛が可愛く見えてくる不思議なので、このままでもイイカナ?
>うん、こういう話大好き!
そう言っていただけると次回のやる気もまんまんと満ちてきます♪
ケンカをしてもお互いのことを心の奥で信頼し合っている二人。いいから結婚しチャイナ(中国だけにチャイnうわなにをするやめry