Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

土手

2010/05/18 06:35:32
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春だった。


土手。


がしゃーん。
からからから。


「……、うおお……」
早苗はうめいた。空が逆さまである。
視界が反転した、と思ったときには遅かった。耳の端に、車輪の回る音が虚しくひびいている。
空には、のんきに桜の花びらが舞っていた。ぶざまにすっころんだ早苗の視界を、からかうようによぎっていく。
「ぐう……いっ、たあ……」
うめきつつ、何とか起き上がる。
派手に転がり落ちたようだ。土手の真ん中当たりで自分は止まっていた。
立ち上がって、近くに倒れていた自転車を見る。車輪が宙をかいて、虚しく空回りしている。
「あー……も~……」
早苗は、自転車を起こして、引っ張り上げた。難儀しつつ、どうにか土手の上へと上る。
自転車を立てて、制服の裾を払う。雨上がりであるから、土手の草花は少しぬかるんでいて、どうにも酷い有様だった。
当然、早苗の制服もひどい有様だった。
「うえー」
早苗は泣き言を漏らした。洗い立ての制服に、べったりと土が張りつかれては、泣きたくもなった。
膝がひりひりと痛む。ちょっとすりむいたらしい。
少しかがんで様子を見る。血は出ていないようだ。
(はあ)
早苗はため息をついた。自転車を引いて、歩きだす。
誰にも見られていなくてよかった。気まずげに土手を見渡す。
人の通りも少ない道である。川沿いで見晴らしが良い。
あいかわらず、桜の並木は見事に咲き誇っている。土手に沿って、ずらりと植えられた桜は、早苗が生まれるずっと前からあるらしい。
花びらが、ちらちらと舞っている。
「はあー」
早苗は自分で自分にため息をついた。
恥ずかしい。桜に見とれて転んでしまうとは。
もう一度、制服の尻を払ってから、早苗は足を止めた。自転車にまたがる。
からからから、とまた車輪が回り出す。桜は音もなく舞っている。
「……」
今年の秋。
自分は、ここを発つらしい。









翌年。初春。

守矢神社。境内。
温い季節を迎え、神社の周囲には、草花が芽を吹いている。

郷へ行く用事を言いつけられて、早苗は外へ出た。
きょろきょろと、神社の壁際を探す。自転車はどこだったか。
(えーと、あれ? ……)
早苗は、眼をさまよわせた。そのまましばし、うろうろと神社の周りを歩く。
やがて、ふと気づいて、早苗は我に返った。
(ん? ……)
眼を瞬く。足を止めて、早苗は少し考えこんだ。
「……あちゃ」
しまった。なにをやってるんだか。
(なにしてるのよ……)
「あーもう……」
自転車ってね。
早苗は、気まずげに眉をひそめた。気恥ずかしい。
自転車はもうないのだ。どうしてないんだったかな、と早苗はふと思いだした。
たしか、必要ないから、という理由で置いてきたはずだった。よく覚えていないが。
(ぼけてるなあ)
早苗は、境内を歩き、頭を掻いた。
鳥居をくぐり、石段を下りる。雪も解けて、境内近辺には、春の息吹が吹きこんでいた。
(良い天気ね……)
今日は空気が若干冷たいが、そのかわり、雲や風はない。よく晴れたすがすがしい空だ。
お布団干さなきゃな、と思う。神社の管理は早苗の仕事だ。やることが多い。
ふと石段を終えて、桜の木が眼に入る。
今年の春は、忙しくて、よく見る余裕がなかった。
(あ。咲いてる……)
気づかなかったが、いつのまにか咲き始めた花は満開になっていた。もう、花びらがひらひらと落ちてきている。
もう散り始めくらいか。早いな、と早苗は思った。
そういえば、こっちに来て、まともに桜を見たのはこれが初めてだ。
「……」
思ったより、長い時間があった。
早苗はふと、そう思った。
「……?」
ふと、視界が滲む。滲んでから早苗は気がついた。
ふいに眼の前がぼやけ出す。
何だろう。
早苗は思った。
眼の奥が熱い。
「? ……」
早苗は目をこすった。
鼻の奥が痛んだ。
なんだろう。
眼の奥が熱い。
熱くて熱くてこらえきれなかった。
「……うっ……ひっ……。……?」
早苗は、自分に驚いた。ふと、急にしゃくりあげていた。
なんだろう。
涙がこれきれなかった。悲しくて悲しくて、たまらない。
「ひっ……うう…………うえっ……ふっく……」
早苗はぼろぼろと涙をこぼした。何が悲しいのかわからない。
その場に膝を抱えてしまった。子供のように。
泣いて。泣いて。
早苗は泣き続けた。
頭の隅に、こびりつくようによぎるものがある。
桜。ひらひらと舞い散る桜。
それが、どこの桜なのかは、もうわからなかったが。



春だった。
早苗は、見上げた桜の並木に何のけなしに見とれていた。
からからから。
車輪が回る。静かに。
今年も、あの土手の並木には、また桜が舞い散るだろう。あの自転車で毎日のように通った道に。

そこにもう、自分はいない。
自分はいない。
            ____ , 、
           /       ヽ_)
  こ      /  ,、  ,    ハ
.  っ      从/\∨ヽ/ !ニ!    な
   ち     (j ●  ● j/イ!      ん
   ゃ    入" マフ "jイ !l      だ
.  見    ノ  `¨7尓卞 }Jハ    オ
   ん   /  //∥ |¨し'  ヽ   メ
    な   i  〈:Y`´`¨´!_..ノ〉  i   ェ
        ル/ソ: : : : : : ーゝ)ル′
       /< イ廴,_,_,_,_ノ
.     ヽ/ ノ しー'ー'ー'し′
無言坂
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
花に嵐のたとえもあるぞ
さよならだけが人生だ
さよならだけが人生ならば
また来る春はなんだろう
2.名前を間違える程度の能力削除
ごく普通に暮らしていた年頃の娘さんが唐突にこちらの事を思い出してホームシックにならないわけないじゃない。
当たり前だけど、なかなか上手く書けないものを舞い散る桜に掛けて、綺麗に書く貴方にぱるぱる。


土手に寝転んで黄昏れる早苗さんにキュンときた(死語)
3.奇声を発する程度の能力削除
後書きが…
とっても良かったです!!
4.名前が無い程度の能力削除
うーむ、上手い。
読後感がまたいい。
5.名前が無い程度の能力削除
泣きたいときは泣いていいんだぜお譲ちゃん
おれァなんも見てねえからよ
6.名前が無い程度の能力削除
綺麗な桜だな~
あんまりに綺麗だからみとれて桜しか見えないわ~
誰かが泣いていようが桜にみとれてなにもわかんねぇぐらいだな~
7.名前が無い程度の能力削除
だいなしだな
8.名前が無い程度の能力削除
綺麗なお話でした。
桜に埋めたものがある限り、また綺麗な花びらが舞うのでしょう。
9.名前が無い程度の能力削除
切なくて綺麗な話だなぁ。早苗さん…
後書きは見なかったことにします
10.名前が無い程度の能力削除
これはまだ、彼女が常識に囚われていた頃のお話……