「退くつもりはないわ……」
ええ、退いてやるものか。
私は、妹の再三の要求を断固として拒否する。
姉として、ここで退くつもりは欠片もない。
「退いてよ」
短く突っぱねるような言葉の一つ一つが私の心に深く突き刺さる。
影で「あいつ」呼ばわりされていると知った時も、相当な精神的負傷を負ったが、直に攻撃的な態度を見せられるとそれを上回る苦痛がある。
「ここから動くつもりはないわ。あなた、私がここを離れたら、絶対に外に逃げるでしょ？」
妹の性格なら私が一番分かっている。
私の予測はほぼ間違いないだろう。
でも、心のどこかで「外れてくれ」と願う自分がいることは否定しない。
私が動いても、妹が自主的にここに留まってくれたなら、これほど嬉しいことはない。
「ええ、お姉様が退いたら、私の持てる限りの力でこの部屋から出させて貰うわ」
やはりそう上手くはいかないものだ。
私の願いは儚くも消え去った。
まあ、それは想定していたことだからさして問題はない。
願ってから三十秒もかからずに破れるのは流石に堪える。
「退いてよ」
再び妹が呼び掛ける。
勿論、私の答えは決まっている。
黙り込んだまま身動き一つしない私に、流石に我慢しきれなくなったのか、怒りの為だろうか？
妹の顔に赤味が差し始める。
これ以上は私と言えども、まずいかもしれない。
――昔が懐かしい。
できるならば、今すぐにでも、あの頃に戻りたいものだ。
嗚呼、あの頃の妹に会いたい。
幼い頃の素直な妹に……
私の姿を見つけると
「レミレミ遊ぼー」
と駆け寄って来た我が妹。
それが、少し目を離した隙に、中身だけ成長しやがって……
久しぶり会ったと思ったら
「おはよう、お姉様」
などと抜かす。
何がお姉様だ。
レミレミはどこへ行ったんだ。レミレミは！
半ば現実逃避に近い思考を頭を揺らして吹き飛ばす。
私のその行動が気に入らなかったのか、妹の表情はより険しいものになる。
正直に言うと、少し恐い。
けれども、私はここを退かない。ほんの僅かもだ。
それだけが私達、姉妹の在るべき関係を取り戻すためにできる、私の唯一取れる方法だから。
妹に何と思われようが構いはしない。
最後には妹も理解してくれる。
そう、信じているから。
だから、私は決意をより強固なものとする。
そんな私へ妹から辛辣な言葉が掛かる。
「いい加減、退いてくれない？ 脚が痺れてきたんだけど」
脚など幾らでも痺れていればいいのだ。
私の言うことを聞かない、我が儘な妹の言葉になどに従う道理はない。
「私に退いてほしいなら、まずあなたから私の言う通りにしなさいな」
「嫌」
最早こちらに顔を向けることすらしない。
けれど、妹の性格はよく理解している。
なんだかんだ言いつつも結局は、私の言うようにしてくれるのだ。
長い無言のせめぎ合いが続く。勿論、堪え性のない妹に私が負けるはずはない。
「……レミレミ」
微かに聞こえた妹の声、昔のような元気はないが、今の私はそれでも大満足だ。
「初めから、そう呼んでくれたら良いのに」
久々に聞いた妹の懐かしい言葉を脳内で繰り返し再現しながら、妹の脚から頭を退ける。
両手で顔を覆っている妹。隙間からちらりと見えたその顔は真っ赤だった。
いつも澄ました顔が違う表情を浮かべているのを眺めるのは中々に面白い。
それにしても、膝枕も意外と悪くないな。
そう思った。
可愛くてニヤニヤしてましたｗ
続きが読みたいです！
これで今日の夜勤も戦える
＞赤味が挿し始める
もしかして: 差し始める
パッチェさんが昔そんな風に呼んでたらいいなぁ
この後は急いで立ち上がりトイレへ駆け込もうとするも
痺れた足がもつれて転び、その衝撃で……
となるはずと予測しますが続きはどこですか？