Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

こいしの一日

2010/05/17 02:02:31
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「えへへ~こっそりみんなの部屋入ってみよーっと」

 こいしは新しい玩具を見つけた子供のような瞳で言った。もちろん、その危なげな発言さえも誰にも気付かれない。それが無意識の力だ。
 別にこの行動に理由はない。ただいつも通り、ふとした思い付きだ。
 特に忍び足をする必要もないのに、わざわざひっそりと歩く。この方がなんだか悪戯っぽい雰囲気が出る、といったような単なる気紛れだろう。
 そして、誰にも気付かれることなく、最初の目的に部屋に着いた。

「まずはお燐だー!」

 そっと扉を開くと、中には誰も居なかった。
 燐は仕事をしている時間なのだろう。
 こいしにとっては、実際誰が居ても居なくてもあまり関係ないのだが、とりあえず「もしかしたらばれちゃうかも……」みたいな、ちょっとしたドキドキ感は味あわなくて済みそうだ。

「うーん、意外に綺麗。やっぱり普段から家事とかやってるし、結構綺麗好きなのかな?」

 さっぱりとした性格だけど、割とマメに掃除をするタイプのようだ。別に当番が決まっているわけではないが、普段から燐は率先して食事や掃除をこなす。意外と家事が好きなのかもしれない。
 こいしが部屋をキョロキョロと見渡すと、小さな本棚を発見した。自作したのか、少し歪な形をしていたが、数冊の本が入っていて、しっかりと役割を果たしている。

「ほえーこれまた意外。お燐って本とか読むんだー。どれどれ……」

 適当に一冊手に取ってみる。
 表紙には「あたいの日記」と書かれていた。

「ありゃ、これ日記だ。日記なんてつけてたんだ」

 パラパラと捲ると、一日の出来事が簡潔にだが書かれていた。
 達筆というわけではないが、整った綺麗な字だ。

「えーと、なになに?」

 こいしは試しに昨日のページを読んでみることにする。


『今日もおくうが「くっ……静まれ、私の制御棒っ! ぐあああああ!」と叫んでいた。「大丈夫? 主に頭」と尋ねると「神の力を持たぬ者には分かるまい……」と返された。意味が分からない。日に日にあの子が残念になっていくのが、とても辛い。今度おくうに力を与えたっていう神様に文句を言いに行こうと思う。』


「お燐……苦労してるなぁ」

 どんなに迷惑をかけられても、意味が分からないことを言われたとしても、それでも空を見捨てたりしないところに、二人の強い絆を感じる。
 こいしは日記を元の棚に戻した。

「うん、じゃあ次はおくうの部屋行ってみよー」

 空の部屋と燐の部屋は近い所にある。
 名目上は、もし何かあったとき、要となる二人がすぐ出会って指揮をとることが出来るからだ。だが実際には、ただ単純に二人の仲が良いからという面が大きい。
 こいしはさほど時間もかからず、空の部屋に到着した。

「お邪魔しまーす……って言っても意味はないけどね」

 こいしが予想した通り、空も不在だった。燐が仕事をしているなら、空も仕事時間だということはなんとなく予想出来たのだ。
 空の部屋は特に散らかっても無く綺麗ではあるが、ただ単に物が少ないからとも言える。寝床と小さな卓袱台だけで、まさに必要最低限以外の物は置いていないという部屋だった。

「うーん、あんまり面白くないかな。そういえば、おくうの部屋もお燐の部屋も、入ったのは初めてだったかも」

 燐の部屋の時と同様に、部屋全体を見渡してみる。決して広くはないが、一人で使うには充分すぎるスペースだ。物が少ない分、それをより感じる。

「ん? なんだろ、あれ?」

 ふと、卓袱台の下に落ちている物が目に入る。

「あ、日記だ」

 さっき燐の部屋で見た日記と色違い、灰色の日記だ。

「おくう、日記つけてるイメージなんてなかったなぁ」

 こいしの中では、おくうは文章を書いたりするよりも、体を動かしている方が好きそうなイメージが強かった。
 それに、おくうが何かを書いている場面を見たことが無かったのだ。
 こいしは好奇心を刺激されて、中を見てみることにした。

「とりあえず、昨日のページを……」



『私が馬鹿なことをしたら、お燐が割と本気で心配してきた。頭大丈夫かと言われた。その言葉と視線が、私の心に小さなダメージを負わせた。でもこれでいいんだ。私が馬鹿なことを言ったりすれば、もし何かあったとき、例えば侵入者が現れた場合、真っ先に頭の悪そうな私を攻撃するだろう。そうなったら、他のみんなに被害が及ぶ前に、大きな力を身に付けた私が甘く見た侵入者を始末することが出来る。強大な力を持ったのだから、有効活用しろって神様も言っていたから。』


「え、おくう……そんなこと考えて……」

 一見特に何も深いことは考えず、ただ好きなように行動しているように思えた空だったが、いろいろ考えていたようだ。
 こいしは、日記を元の場所に置いた。

「他には……特に何もなさそう~。次はお姉ちゃんの部屋行ってみようかな」

 そっと空の部屋を出た。
 そして、一番行き慣れている姉の部屋へと向かう。
 燐や空の部屋とは、結構離れているところにあるさとりの部屋。これは、さとりが以前までペットたちとも距離を置いていたことを表している。異変以降、さとりもこいしも少しずつだが、変わってきた。ペットも、さとりに対してあまり怯えを抱かなくなった。

「お姉ちゃんはいるかな~? 部屋からほとんど出ないから、居そうな気がするな~」

 こいしは、そっと扉を開く。
 まずは入らないで、中を覗いてみることにした。

「あ、やっぱり居た。ま、気付かれないからあまり意味無いけどね~」

 さとりはベッドに腰掛け、何やら文庫本を読んでいる。
 何を読んでいるのだろう? そんな思いを胸に抱きながら、こいしは少しずつ近づいてみる。
 こいしの力で、さとりは全く気付かない。

「お姉ちゃーん……うん、気付いてないね」
「こいし、びっくりするからやめなさい」
「あはは、ごめんね~……って、えぇっ!?」

 ジトっとした目が、明らかにこいしを見つめていた。
 声を出したとはいえ、かなり小さな声だった。この程度で、気付かれるようなこいしの能力ではない、はずだった。
 しかし、さとりは気付いた。
 こいしは驚きで、おかしな声を上げた。

「え、ゃ……なんで、お姉ちゃん?」
「慣れ、かしらね。こいしのことを気にかけるようにしていたら、なんとなく空気でね。こいしが声を発するまで気付かなかったけど。で、何の用?」
「や、別にただ遊びに来ただけなんだけど……ちょっと、ううん、かなりびっくり。いやー驚いちゃった」
「突然目の前に妹が現れた私の方がびっくりしたわよ」

 そうは言うが、さとりは驚いている様子ではない。少しも動じていないように、こいしには見えた。
 文庫本を閉じて、ベッドの隅に置く。
 そして、こいしの方向へ体を向けた。

「全然驚いてるようには見えないんだけど」
「顔に出さない努力をしてるからね。妹の前で激しく動揺するなんてみっともない姿見せられないじゃない」
「むぅ……お姉ちゃんのくせに生意気な」

 悔しがるこいしに対して、さとりは割と冷静な表情だ。
 こいしにとっては面白くない。いつの間にか、どうやったらさとりがその表情を崩してくれるかということを考えていた。
 そして、考えた結果、三つほどの案が生まれた。
 1.人差し指で喉を全力で突く。
 2.抱きついてみる。
 3.上目遣いをしつつ、そっと手と手を重ねる。
 こいしはとりあえず、1から実践してみることにした。

「ちょあっ!」
「っ!?」

 こいしの人差し指が、さとりの喉を捉えようとしたその瞬間――

「ほいやぁっ!」
「ふにぃっ!?」

 さとりはそれを咄嗟に避けて、こいしの手首を絡みつくように掴み、ベッドに押し倒した。
 ベッドだから痛みは無く、柔らかい感触がこいしの背中を優しく包んだ。

「ったく、突然何をするのよ……危ないでしょう、こいし?」
「えいっ!」
「きゃあっ!?」

 1が通用しなかったので、2を実践。
 押し倒された状態で、さとりを抱き寄せるこいし。流石のさとりも、これには驚いたようで、目をぱちくりさせている。
 こいしの狙い通り、さとりの表情は崩れた。3の行動をするまでもなかった。

「ちょ、ちょっとこいし? 突然何? どうしたの?」
「えへへ~、お姉ちゃんあったかいね」
「……こいしだって、温かいじゃない」
「そうかな?」
「えぇ、そうよ」

 さとりはこいしの背に腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。こいしも、同じようにぎゅっとした。
 互いの胸と胸が重なり、とくんとくんと鼓動が響く。密着のし過ぎで、どっちがどっちの鼓動だか、よく分からない。二人の鼓動は、とても落ち着いている。安心感を覚えているのかもしれない。

「こいし、結局何をしに来たの?」
「最初に言った通りだよ。ただ遊びに来ただけ~」
「はぁ……ま、いいけど。何かしたいこと、あるの?」
「んーとね……うん、今はこのままでいいや」
「このまま? この体勢のままってこと? 重くないかしら?」
「お姉ちゃんは痩せすぎなくらいだもん。重くないよ」
「そうかしら?」
「そうだよ」

そして、二人は黙った。
 別に、何か特別なことをするわけでもない。ただ、互いにぎゅ~っと抱きしめ合っているだけ。
 柔らかくて、温かくて、心地良い。

「ふぁ……んっ。眠くなってきたかも」
「こいし、寝るなら自分の部屋で――」
「お姉ちゃんも一緒に寝よ~」
「ちょ、こいし!?」

 体勢を横にして、目を瞑ってしまうこいし。もちろん、さとりを抱きしめたまま離していない。
 さとりが何かを言おうとしたが、こいしの穏やかな笑みを見て、何も言葉を発しなかった。
 その代わりに、一つため息を零した。

「……おやすみなさい、こいし」
「えへ~おやすみ、お姉ちゃん」

 こうなったら、もう私も寝てしまおう。そう思ったさとりは、こいしと同じように目を瞑った。
 吐息がかかるほどの距離。規則的に聞こえる呼吸の音が、まるで優しい子守唄のようだった。
 平凡かもしれないが、とても穏やかな時間が、空間が、そこには確かに存在していた。
 
こいしちゃんの日に余裕で間に合わなかった愚かな喉飴です。
本当なら、こいしちゃんの日に514個こいしちゃん詰め合わせにして、新感覚詰め合わせ! とかやりたかったのですが、やっぱり無理でした。普通に2本しか出来ませんでした。
そして、2本じゃあ詰め合わせっぽくないので、結局1本に。
といわけで、今更感ばりばりですが、こいしちゃんの日ssでした。
そんなこんなではありますが、少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。
喉飴
http://amedamadaisuki.blog20.fc2.com/
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コメント



0.簡易評価なし
1.無評価名前が無い程度の能力 削除
おくう邪気眼すぎるwww
…と、思ったら裏でそんなことを…。

しかしここの姉妹は仲良しでいいですなぁ…

どこかの姉妹は姉が大暴走することも多々あるというのにw
いやもちろん仲良しなのはわかります!
2.無評価名前が無い程度の能力 削除
こいしちゃんの日じゃなくてもこいしちゃんSSは大歓迎ですよ
3.無評価薬漬 削除
待ってました喉飴さん!

しかし誤字発見
>それでも空を身捨てたりしないところに、二人の強い絆を感じる。
身捨てたり→見捨てたり
4.無評価名前が無い程度の能力 削除
相変わらずほのぼのした古明地姉妹が可愛過ぎます
甘くて幸せでした

さぁ、残り513の素敵な古明地姉妹ssを作る作業に戻ろうか
5.無評価名前が無い程度の能力 削除
こいしちゃんSSが投稿された日は全部こいしちゃんの日なんです
他のこいしちゃんの日SSの影響でさとり様の部屋に入ったあたりで無駄にドキドキしたけど、さとり様は普通だった
甘くて仲良い姉妹で面白かったです
それにしてもお空…そんなこと考えてたのか…
6.無評価名前が無い程度の能力 削除
おくうが健気過ぎて泣いた
7.無評価名前が無い程度の能力 削除
こんにちは喉飴さんこいしちゃんは今日も可愛い
8.無評価奇声を発する程度の能力 削除
お空がかっこよすぎます!!!
9.無評価名前が無い程度の能力 削除
喉飴さんのほのぼの大好きなんです。
心があったかくなりました。
10.無評価ぺ・四潤 削除
大丈夫!今日もまたこいしちゃんの日ですから!
このお空には惚れそうだ! タンスを漁らないこいしちゃんが新鮮に見えるのは何故だろうwww
何があってもこいしちゃんのことを気づいてくれるさとり様はいい!
でもやっぱりこいしちゃんの匂いに反応してるだけに思えるのは何故だろうwww
11.無評価名前が無い程度の能力 削除
お空がかっこよすぎる!惚れてまうやろ!
それはおいといて、いいほのぼのでした
そして甘さを忘れないとは、死角がないですね
12.無評価こじろー 削除
あぁ制御棒ってそういう……
家族愛っていいですね~ほのぼの♪
13.無評価喉飴 削除
>>1様
どこかの姉妹もたまにはこんな風に穏やかな時間を過ごしますよ、多分!

>>2様
間に合いませんでしたが、そう言われるとありがたいです。

>>薬漬様
あややややや!? ありがとうございました。即座に修正しました。

>>4様
513本も書いたら私壊れちゃいますw

>>5様
なるほど……っ!
ありがとうございます。

>>6様
おくうはとても良い子だと信じてます。

>>7様
こんにちは7様こいしちゃんは今日も可愛いです

>>奇声を発する程度の能力様
ありがとうございます!

>>9様
ほのぼのを書くのが大好きな私には嬉しいお言葉です。
ありがとうございます。

>>ぺ・四潤様
で、ですよね! ギリギリセーフですよね!
さとり様なら出来るって信じてますw

>>11様
おくうは良い子!
ありがとうございますー!

>>こじろー様
家族の繋がりは良いですよね。
家族は大切です、えぇ。