無意識の世界からうっすらと意識が戻ってくる――
すぐ目の前には頬を紅く染め、ポカンとした表情で私を見つめるお姉ちゃんの姿。
いったいどうしたのかな?
「………だったのに」
「え?」
「初めてだったのに!」
そう言い残して、パタパタと駆け出していっちゃった。
独り残された私は、とりあえず状況を整理してみる。
紅潮したお姉ちゃん。
初めて。
そして、唇に僅かに残る甘い感触。
もしかして、無意識にお姉ちゃんのファーストキスを奪っちゃったとか?
なるほど、それなら怒って飛び出していってしまうのも無理はない。
ということは、お姉ちゃんのファーストキス、私が貰っちゃったんだ。
なんだか嬉しいな。お姉ちゃんの初めての人になれて。
でも、無意識だったせいで全然覚えてないのが少し残念だな。ううん、かなり残念。
だって、私も初めてで、お姉ちゃんが初めての人だから。
って、呑気に考え込んでいる場合じゃない。
無意識にとはいえ突然キスしちゃうのは流石にまずい。
とにかくお姉ちゃんに謝りに行かなくちゃ。
お姉ちゃんが好きすぎて、ついやっちゃいました。って言えば許してくれるかな?
――――――――――――――――――
コンコン
ノックしてみるけどお姉ちゃんの返事はない。
「お姉ちゃん?」
部屋に鍵は掛かってないみたいだから、そっと中を覗いてみると、お姉ちゃんはベッドの上で膝を抱えて俯いていた。
「入るね」
そっと近付いても、俯いたままで目を合せてくれない。やっぱり怒ってるよね。
「お姉ちゃん、ごめんね…」
「………」
謝ってもお姉ちゃんは拗ねたみたいに口を閉ざしたまま。
さて、どうしたものか。
「ごめんってば、お姉ちゃん…」
「………」
やっぱり返事はない。
そんなに私に初めてを奪われたのが嫌だったのかな。
流石にそこまで機嫌悪くされると、私もショックだよ…。
「無意識だったからしょうがないよ……。お願い、そんなに怒らないで」
「……こいしは何もわかってない」
「え?」
「無意識だったから怒ってるの!ファーストキスというのはもっとこう……、雰囲気が大切っていうか、ムードが大切っていうか………。とにかく!お互いの気持ちをしっかり確認してからするのに意味があるの!私はまだ、こいしの本当の気持ちだって知らないのに………」
……うん?
どういうこと?
キスしたことを怒ってるんじゃないの?
というか、雰囲気が大切って。お姉ちゃん、意外と乙女だったんだ。
なんだかとっても可愛らしい。
「どうしたら、許してくれるの?」
お姉ちゃんがすっと立ち上がり、伸ばした両手が私の頬に触れる。
漸く目と目が合い、優しい眼差しはまるで全てを見透かしているよう。
熱く紅潮する頬も。
早まる鼓動も。
私の、想いさえも。
「こいしの気持ちを教えて…」
本当はもう全部知ってるくせに。
「私は、お姉ちゃんのこと……」
でも言葉にするのはやっぱり恥ずかしい。
だけどしっかり伝えないと。
またお姉ちゃん怒っちゃうから。
「大好き、だよ」
「ありがとう、こいし。私もあなたのことが大好きよ」
あぁ。今なら、お姉ちゃんの乙女心がわかる気がする。
だって、凄く嬉しいんだもん。
お姉ちゃんに好きって言ってもらえて。
お姉ちゃんの気持ち、私にもちゃんと伝わったよ。
だから……。
「お姉ちゃん」
お姉ちゃんの身体に腕を回し、そっと目を閉じる。
「こいし」
そして―――――
柔らかくて、暖かくて、優しくて、甘い感触に包まれる。
心も、身体も、幸せで満たされていくのがわかる。
こんな気持ちは初めて。
だからきっと、これが本当の初めて。
どれくらいの時間が経ったのかな。
名残惜しいけど、そっと唇を離す。
凄く長いように感じたけど本当は一瞬だったのかもしれない。
お姉ちゃんはうっとりとして紅くなってるから、私もきっと同じだと思う。
「許してくれた?」
「そうね、どうしようかしら」
お姉ちゃんは意地悪だ。
「許してくれるまで、何度でもしちゃうから」
「なら、絶対に許してあげないわ」
ほらね。
だけど、私だって本当は許してもらおうなんて思ってないよ。
私も意地悪だから、たくさん甘えて困らせちゃおう。
お姉ちゃんなら、どんな我儘を言っても全部受け入れてくれるから。
だからお願い。
「意地悪……」
もう一度―――――
瞳は閉じているというのに、そこに広がるのは暗闇ではない。
眩しい光と暖かい温もりだけが、私達の世界を満たしていた。
おわり
こめいじちゅっちゅを普及して、皆幸せにすることが貴方の善行です!!
幸せだぁ…
古明地姉妹が幸せだと自分も幸せになれる
ということで古明地幸せは世界を救う。いいぞもっとやれ。