うだる程暑いある夏の日。
そんな日の博麗神社は、必ず決まって夜が長い。
何故か、って? 勿論そんなのは決まってる。
「れーむー、ほらさけーー!!」
「あとつまみも頼むんだぜー!」
「霊夢、後ワインなんかもあれば貰えると嬉しいのだけれど」
「お嬢様、そんな高級品はこのボロ神社には御座いません。 そう思ってご用意して参りました」
「・・・・流石は咲夜、と言った所かしらね、レミィ」
「ここまで完璧に育てた憶えも無いのだけれど。出来すぎる、というのも困りものよ」
「申し訳御座いません、いつもの癖で」
「癖でワインを携帯するって、どんなんですか咲夜さん」
「貴女は門番なのに毎日毎日昼寝する癖を直したらどうかしら?」
「そんなことよりれーむー、さけはまだかーい?」
「つまみも、なー」
・・・・・・・・・・博麗神社の、夜は長い。
「ったく、人の敷地で勝手に宴会おっ始めといて材料は私持ちとか勘弁して欲しいわほんと・・・・。」
霊夢は一つ溜め息を吐く。
博麗神社の台所。 そこで馬鹿魔法使いに頼まれたつまみを霊夢は慣れた手付きで料理していた。
「というか、あんな奴のお願いを聞くとは。 なんて良い奴なの私」
霊夢はよく分からない理論の自画自賛を言葉にしながら作ったつまみを更に盛り付け、先程蔵から出してきた安そうな酒を片手にわいわいがやがやとうるさい声の聞こえる境内へと向かった。
「お、れーむ、さけはー?」
どこからどう見てもシラフではない萃香が霊夢の姿を見るなりそう声を飛ばす。
「はいはい、持ってきたわよ。 というかあんた便利なひょうたん持ってたわよねえ?」
「さー、なんのことだっけー?」
霊夢は呆れ顔をしながらも持っていた酒を萃香に渡し、少し離れた場所にいる白黒にもつまみを渡してやる。
「白黒とか、あんまり外見で決めつけるのは良くないんだぜ、紅白」
「あんたも決めつけてんじゃないの。というか心を読むなっ」
霊夢は自らの来ている巫女服の腰にさしていたお払い棒で魔理沙の頭をコツン、と叩く。 お払い棒を腰にさすのは巫女としてどうなのか、とかそこらへんは誰も突っ込まない。 いつもの事だ。
「心なんか読んでないんだぜ?」
「じゃあ何で分かったのよ」
「んー・・・・、酒の力、とか」
右の人指し指を空に向けピンと立てながらそう言った魔理沙の姿を見て霊夢はそれに思いっきりジト目を向けてやる。 日陰の魔女もびっくりのジト目だ。
「・・・・むきゅー」
何か聞こえてきたが空耳だろう、霊夢は勝手に解釈する。
「あー、別に心を読むとかじゃなくてそんな事考えてそうな顔だったんだよ、お前が。 もう何年の腐れ縁だと思ってるんだ」
「・・・・・・成る程」
もう少し表情に出ないようにしなければな、と霊夢は考える。 もし何かあった時、魔理沙に弱みを握られるのは非常にまずいのだ。
「霊夢、一緒に飲みましょ?」
腕を組みながら魔理沙の元を離れ、縁側に行こうとした霊夢をその声が引き止めた。
「貴女が到底飲めないような高いワインで乾杯と洒落込もうじゃないの」
霊夢が声のした方に視線を向けると、そこにはレミリア・スカーレットの姿があった。霊夢はつい、少し身構えてしまう。
「別にワインと血をかけて言ってる訳じゃ無いわよ? それに貴女の血は私が勝利を収め貴女を完全に屈服させた時に頂くからご心配なく」
よく考えると言ってることが末恐ろしいのだが、とりあえず「今日は血が狙いでない」らしい、という事が分かり安心した霊夢は、
「分かった、それじゃあ一杯だけ貰おうかしらね」
と返事をした。高い酒なら是非飲みたいし、と心の中でそう言葉を付け足して。
「はい、どうぞ」
霊夢の持っていたワイングラスに血のように紅いワインがトクトクと注がれていく。 咲夜はそうして紅魔館の皆と霊夢にワインを注ぎ終えると、最後に自分のグラスへとそれを注ぐ。
「・・・・・・いいわね。 それじゃあ、乾杯」
レミリアは咲夜が自らのグラスにワインを入れ終わるのを見てから、そう合図した。 カチン、と小気味よいグラスとグラス同士がぶつかり合う音がして、その場にいた面々は皆持っていたグラスを一斉に口へと流し込んだ。
霊夢はワイン独特の芳醇な香りが口一杯に広がるのを感じ、そして喉の奥へ流し込むとそれはアルコール特有の苦みと共に美味しさを霊夢の身体の中一杯に伝えた。
「美味しいわね」
始めにパチュリーがそう口を開いた。 一気には飲み干せなかったのか、まだグラスの中には半分ほど紅い液体が残っていた。
「こ、こんなワイン飲んだの久しぶり、ですよ・・・・!」
続いて言ったのは美鈴だ。 グラスの中には何も残っていない。もう飲み干したのか、と霊夢はグラスを傾けながらそう思った。
それから、
「流石咲夜、こんなワイン何処で?」、とレミリアが。
「時間を止めて熟成させた物です。 まだ何本かは残っていますよ」、と咲夜が。
そして霊夢も無事ワインを飲み終える。 先に飲み終えた皆の視線が何故か霊夢の方を向いていた。どうやら感想待ち、のようだ。
「・・・・美味しかった、わよ」
霊夢はその視線に晒されながらも何とか言葉を口にした。 すると皆ホッとした様子でそのワインをまた飲み始めた。
「霊夢さんが美味しい、って言ってくれて良かったですよ、ほんと・・・・。」
二杯目を飲み終えた美鈴がそう言いながら、霊夢の横につく。
「え、どうして?」
「・・・・ここだけの話、なんですけどね」
美鈴は辺りをキョロキョロと伺い、皆が話しに華を咲かせているのを確認してから霊夢にだけ聞こえるような声で呟いた。
「みんな、霊夢さんが美味しい、って言ってくれるか不安だったんですよ。 口に合わないんじゃないか、って」
「別に、そんな事気にする必要無いじゃないの」
「そんな事、って・・・・。 霊夢さん、その、気付いてないんですか?」
「何がよ」
霊夢がそう返すと、美鈴は少しうーん、と考え込むような、呆れるような素振りを見せた。
「・・・・・・霊夢さん、何だか不機嫌な顔してたからですよ」
…………私が不機嫌な顔をしていた?
「魔理沙さんがさっき当てたのだって、不機嫌そうな顔をしている霊夢さんならこんな事思いそうだな、って思ったからで・・・・「めーいーりーんー・・・・?」
気が付くと美鈴の後ろには鬼のような形相をした咲夜が立っていた。
「ひっ、!!」
「待ちなさーーあい!!!」
そして必死に逃げ始める美鈴と追いかける咲夜。 紅魔館のメンバーはその様子を皆で酒の肴にしているのか野次を飛ばしている。
霊夢は自分に注目が向いていない事を察知し、そこから静かにいつもの位置、神社の縁側へと向かった。
「・・・・・・っと、やっぱりここが一番落ち着くわね」
霊夢は縁側に着くとほぼ同時に腰掛け、酒を片手に境内でドンチャン騒ぎをしている奴らを観賞していた。
あそこでは幽々子と妖夢が二人で何か話し合ってる。 あ、妖夢が顔を赤くした。 大方弄られてるんだろう。
その奥では「八目鰻」と書いてある看板の屋台に妹紅と慧音、それに………蛍やチルノ等もいるな。なかなか繁盛してるのか。
その横では楽器を持った三姉妹がなかなかに激しい演奏をしている。 あれを酒の肴にして飲んでる奴も多いみたいだな。 お、幽香やアリス、それに月から来た兎の・・・・、ウドンゲって言ったか。 おとなしめな奴らが徒党を組んで飲んでるみたいだ。
それからあそこには因幡てゐと……悪戯好きな妖精三人組だ。 悪そうな顔してるなー、何か変なことでも起こさなきゃ良いけど………
あ、あとそれから……
「隣いいかしら、霊夢?」
「隣座らせて貰うぜ、霊夢」
霊夢は急に両耳からそれぞれ違う声が聞こえて驚く。 ふと右を見れば紫が、左を見れば魔理沙が座っていた。
「・・・・・・何か? 私の顔に虫でも付いてるの? それとも悪霊?」
霊夢には、悪霊なら心当たりが少しあった。 と言っても最近は姿形すら見ないのだが、それでも何処かそこらへんに居るような気がしていたのだ。
「・・・・お前は私の事がそんなに嫌いなのか」
魔理沙がボソッとそう呟き、「昔の事を掘り返さないでくれよあの時はつい勝てたことが嬉しくてだな・・・・」と完全に負のモードに入った様子だったので霊夢は無視した。
「そうね、強いて言うなら」
紫が口を開く。霊夢は右を、紫の居る方向を向いた。
「貴女の顔が何処と無く寂しそうだったから、よ。 貴方もそうでしょ、魔理沙?」
紫は私の左側にいる魔法使いにそう語りかける。
「・・・・ん、まあそうとも言うな」
「それ以外に何があるのかしら?」
「う・・・・、ま、まあ言葉のあやって奴だよっ!」
顔を赤くさせ、帽子の鍔を深く被し顔を隠しながら魔理沙がそう言った。
「・・・・私、そんな顔してたの?」
霊夢がポツっ、とそう言葉を漏らす。 それに対して二人は、
「ええ、してたわね」
「ああ、してたな」
即答だった。
「皆は不機嫌な顔してる、って思ってるのかもしれないけれどあれは霊夢、貴女が悲しい時にする顔だわ」
「その通り。 お前はむかしっから泣きそうになったりするとああいう顔するんだよなー、ほんと」
紫と魔理沙は霊夢を見ながらそう、ニヤニヤしながら答えた。
「・・・・・・う」
霊夢は思わず言葉に詰まる。
「まあ、私に隠し事は出来ないって事だよ霊夢っ」
「私にも、よ。霊夢」
そして、霊夢が一言。
「・・・・あんたらって、もしかして私よりも私の事分かってるんじゃない?」
宴会も終わり。 霊夢はいつも通り神社を一人で掃除していた。
…………そんな予定に成るはずだったのだが。
「はい、ごみを萃めてー、っと。 れーむー、ここに集めとくよー!」
「・・・・メイドとしての腕がなるわね」
「上海、蓬莱、しっかり掃除してね」「シャンハーイ」「ホラーイ」
「箒も持ってることだし、たまには掃除もしてみるかなっ」
「妖夢、私の分もしっかりお願いね」
「幽々子様、勿論です!」
「これは、どうなってるのかしら・・・・」
思わず霊夢は頭を抱えた。 こんな光景、まるで夢でも見ているようだ。
「貴女が変な感じだったからよ」
相変わらず私の右に立っている紫がそう言った。
「私なんかを気にかけないでしょ、皆」
「霊夢は自分を過小評価し過ぎよ。 貴女は気付いてないでしょうけどね、皆宴会中もずっと心配だったのよ」
霊夢は目をキョトンとさせる。
「私の事が?」
そして自分自身を指さした。
「そう、貴女の事が」
紫もそれを真似るかのように、霊夢に指をさす。
「今まで色々あったけれど、結局貴女を嫌いな奴どころか、好きな奴しかいないのよ、ここには」
紫は大きく手を広げて言った。 そこから紫は真剣味のある普段とは違った顔になった。
「霊夢。 幻想郷は全てを許すわ、そして「それはとても残酷な事。・・・・でしょ?」
紫は頷く。
「その科白ならしっかり憶えてる。 何しろ、印象的だったしね」
霊夢は紫の方をしっかり向いて、言葉を続ける。
「・・・・でも悪いけど、私にはよく分からない。 何度か暇なときに考えたんだけど、ね」
紫はその言葉を聞いて「そう、」と少し悲しそうに俯いて相槌を打った。
「でもね、紫」
霊夢は声をいつもより大きくして言った。
「でも、いつか分かる時が、いや、分からなきゃいけない時がきっと来る。 そんな気がするから、それまで考えるのを止めるわ。それまでは『博麗の巫女』として生きるよりも『博麗霊夢』として、生きる。いや、生きたい」
霊夢の声は段々と大きくなっていく。
「我が儘、だと思う。 でも、ここは、幻想郷は、」
紫は霊夢が次に何と言うのか、予想がついたきっと、今の彼女ならこう言うだろうと。
「・・・・幻想郷は全てを許してくれる。 でしょ、紫」
霊夢が泣きそうな目で紫を見上げた。
「・・・・・・いつか分からなければ行けないときは、逃げ続けた分残酷よ?」
「それでもいいわ」
「だって皆がいる今が、そこそこ楽しいから、ね」
博麗神社の夜は、まだまだ長い。
そんな日の博麗神社は、必ず決まって夜が長い。
何故か、って? 勿論そんなのは決まってる。
「れーむー、ほらさけーー!!」
「あとつまみも頼むんだぜー!」
「霊夢、後ワインなんかもあれば貰えると嬉しいのだけれど」
「お嬢様、そんな高級品はこのボロ神社には御座いません。 そう思ってご用意して参りました」
「・・・・流石は咲夜、と言った所かしらね、レミィ」
「ここまで完璧に育てた憶えも無いのだけれど。出来すぎる、というのも困りものよ」
「申し訳御座いません、いつもの癖で」
「癖でワインを携帯するって、どんなんですか咲夜さん」
「貴女は門番なのに毎日毎日昼寝する癖を直したらどうかしら?」
「そんなことよりれーむー、さけはまだかーい?」
「つまみも、なー」
・・・・・・・・・・博麗神社の、夜は長い。
「ったく、人の敷地で勝手に宴会おっ始めといて材料は私持ちとか勘弁して欲しいわほんと・・・・。」
霊夢は一つ溜め息を吐く。
博麗神社の台所。 そこで馬鹿魔法使いに頼まれたつまみを霊夢は慣れた手付きで料理していた。
「というか、あんな奴のお願いを聞くとは。 なんて良い奴なの私」
霊夢はよく分からない理論の自画自賛を言葉にしながら作ったつまみを更に盛り付け、先程蔵から出してきた安そうな酒を片手にわいわいがやがやとうるさい声の聞こえる境内へと向かった。
「お、れーむ、さけはー?」
どこからどう見てもシラフではない萃香が霊夢の姿を見るなりそう声を飛ばす。
「はいはい、持ってきたわよ。 というかあんた便利なひょうたん持ってたわよねえ?」
「さー、なんのことだっけー?」
霊夢は呆れ顔をしながらも持っていた酒を萃香に渡し、少し離れた場所にいる白黒にもつまみを渡してやる。
「白黒とか、あんまり外見で決めつけるのは良くないんだぜ、紅白」
「あんたも決めつけてんじゃないの。というか心を読むなっ」
霊夢は自らの来ている巫女服の腰にさしていたお払い棒で魔理沙の頭をコツン、と叩く。 お払い棒を腰にさすのは巫女としてどうなのか、とかそこらへんは誰も突っ込まない。 いつもの事だ。
「心なんか読んでないんだぜ?」
「じゃあ何で分かったのよ」
「んー・・・・、酒の力、とか」
右の人指し指を空に向けピンと立てながらそう言った魔理沙の姿を見て霊夢はそれに思いっきりジト目を向けてやる。 日陰の魔女もびっくりのジト目だ。
「・・・・むきゅー」
何か聞こえてきたが空耳だろう、霊夢は勝手に解釈する。
「あー、別に心を読むとかじゃなくてそんな事考えてそうな顔だったんだよ、お前が。 もう何年の腐れ縁だと思ってるんだ」
「・・・・・・成る程」
もう少し表情に出ないようにしなければな、と霊夢は考える。 もし何かあった時、魔理沙に弱みを握られるのは非常にまずいのだ。
「霊夢、一緒に飲みましょ?」
腕を組みながら魔理沙の元を離れ、縁側に行こうとした霊夢をその声が引き止めた。
「貴女が到底飲めないような高いワインで乾杯と洒落込もうじゃないの」
霊夢が声のした方に視線を向けると、そこにはレミリア・スカーレットの姿があった。霊夢はつい、少し身構えてしまう。
「別にワインと血をかけて言ってる訳じゃ無いわよ? それに貴女の血は私が勝利を収め貴女を完全に屈服させた時に頂くからご心配なく」
よく考えると言ってることが末恐ろしいのだが、とりあえず「今日は血が狙いでない」らしい、という事が分かり安心した霊夢は、
「分かった、それじゃあ一杯だけ貰おうかしらね」
と返事をした。高い酒なら是非飲みたいし、と心の中でそう言葉を付け足して。
「はい、どうぞ」
霊夢の持っていたワイングラスに血のように紅いワインがトクトクと注がれていく。 咲夜はそうして紅魔館の皆と霊夢にワインを注ぎ終えると、最後に自分のグラスへとそれを注ぐ。
「・・・・・・いいわね。 それじゃあ、乾杯」
レミリアは咲夜が自らのグラスにワインを入れ終わるのを見てから、そう合図した。 カチン、と小気味よいグラスとグラス同士がぶつかり合う音がして、その場にいた面々は皆持っていたグラスを一斉に口へと流し込んだ。
霊夢はワイン独特の芳醇な香りが口一杯に広がるのを感じ、そして喉の奥へ流し込むとそれはアルコール特有の苦みと共に美味しさを霊夢の身体の中一杯に伝えた。
「美味しいわね」
始めにパチュリーがそう口を開いた。 一気には飲み干せなかったのか、まだグラスの中には半分ほど紅い液体が残っていた。
「こ、こんなワイン飲んだの久しぶり、ですよ・・・・!」
続いて言ったのは美鈴だ。 グラスの中には何も残っていない。もう飲み干したのか、と霊夢はグラスを傾けながらそう思った。
それから、
「流石咲夜、こんなワイン何処で?」、とレミリアが。
「時間を止めて熟成させた物です。 まだ何本かは残っていますよ」、と咲夜が。
そして霊夢も無事ワインを飲み終える。 先に飲み終えた皆の視線が何故か霊夢の方を向いていた。どうやら感想待ち、のようだ。
「・・・・美味しかった、わよ」
霊夢はその視線に晒されながらも何とか言葉を口にした。 すると皆ホッとした様子でそのワインをまた飲み始めた。
「霊夢さんが美味しい、って言ってくれて良かったですよ、ほんと・・・・。」
二杯目を飲み終えた美鈴がそう言いながら、霊夢の横につく。
「え、どうして?」
「・・・・ここだけの話、なんですけどね」
美鈴は辺りをキョロキョロと伺い、皆が話しに華を咲かせているのを確認してから霊夢にだけ聞こえるような声で呟いた。
「みんな、霊夢さんが美味しい、って言ってくれるか不安だったんですよ。 口に合わないんじゃないか、って」
「別に、そんな事気にする必要無いじゃないの」
「そんな事、って・・・・。 霊夢さん、その、気付いてないんですか?」
「何がよ」
霊夢がそう返すと、美鈴は少しうーん、と考え込むような、呆れるような素振りを見せた。
「・・・・・・霊夢さん、何だか不機嫌な顔してたからですよ」
…………私が不機嫌な顔をしていた?
「魔理沙さんがさっき当てたのだって、不機嫌そうな顔をしている霊夢さんならこんな事思いそうだな、って思ったからで・・・・「めーいーりーんー・・・・?」
気が付くと美鈴の後ろには鬼のような形相をした咲夜が立っていた。
「ひっ、!!」
「待ちなさーーあい!!!」
そして必死に逃げ始める美鈴と追いかける咲夜。 紅魔館のメンバーはその様子を皆で酒の肴にしているのか野次を飛ばしている。
霊夢は自分に注目が向いていない事を察知し、そこから静かにいつもの位置、神社の縁側へと向かった。
「・・・・・・っと、やっぱりここが一番落ち着くわね」
霊夢は縁側に着くとほぼ同時に腰掛け、酒を片手に境内でドンチャン騒ぎをしている奴らを観賞していた。
あそこでは幽々子と妖夢が二人で何か話し合ってる。 あ、妖夢が顔を赤くした。 大方弄られてるんだろう。
その奥では「八目鰻」と書いてある看板の屋台に妹紅と慧音、それに………蛍やチルノ等もいるな。なかなか繁盛してるのか。
その横では楽器を持った三姉妹がなかなかに激しい演奏をしている。 あれを酒の肴にして飲んでる奴も多いみたいだな。 お、幽香やアリス、それに月から来た兎の・・・・、ウドンゲって言ったか。 おとなしめな奴らが徒党を組んで飲んでるみたいだ。
それからあそこには因幡てゐと……悪戯好きな妖精三人組だ。 悪そうな顔してるなー、何か変なことでも起こさなきゃ良いけど………
あ、あとそれから……
「隣いいかしら、霊夢?」
「隣座らせて貰うぜ、霊夢」
霊夢は急に両耳からそれぞれ違う声が聞こえて驚く。 ふと右を見れば紫が、左を見れば魔理沙が座っていた。
「・・・・・・何か? 私の顔に虫でも付いてるの? それとも悪霊?」
霊夢には、悪霊なら心当たりが少しあった。 と言っても最近は姿形すら見ないのだが、それでも何処かそこらへんに居るような気がしていたのだ。
「・・・・お前は私の事がそんなに嫌いなのか」
魔理沙がボソッとそう呟き、「昔の事を掘り返さないでくれよあの時はつい勝てたことが嬉しくてだな・・・・」と完全に負のモードに入った様子だったので霊夢は無視した。
「そうね、強いて言うなら」
紫が口を開く。霊夢は右を、紫の居る方向を向いた。
「貴女の顔が何処と無く寂しそうだったから、よ。 貴方もそうでしょ、魔理沙?」
紫は私の左側にいる魔法使いにそう語りかける。
「・・・・ん、まあそうとも言うな」
「それ以外に何があるのかしら?」
「う・・・・、ま、まあ言葉のあやって奴だよっ!」
顔を赤くさせ、帽子の鍔を深く被し顔を隠しながら魔理沙がそう言った。
「・・・・私、そんな顔してたの?」
霊夢がポツっ、とそう言葉を漏らす。 それに対して二人は、
「ええ、してたわね」
「ああ、してたな」
即答だった。
「皆は不機嫌な顔してる、って思ってるのかもしれないけれどあれは霊夢、貴女が悲しい時にする顔だわ」
「その通り。 お前はむかしっから泣きそうになったりするとああいう顔するんだよなー、ほんと」
紫と魔理沙は霊夢を見ながらそう、ニヤニヤしながら答えた。
「・・・・・・う」
霊夢は思わず言葉に詰まる。
「まあ、私に隠し事は出来ないって事だよ霊夢っ」
「私にも、よ。霊夢」
そして、霊夢が一言。
「・・・・あんたらって、もしかして私よりも私の事分かってるんじゃない?」
宴会も終わり。 霊夢はいつも通り神社を一人で掃除していた。
…………そんな予定に成るはずだったのだが。
「はい、ごみを萃めてー、っと。 れーむー、ここに集めとくよー!」
「・・・・メイドとしての腕がなるわね」
「上海、蓬莱、しっかり掃除してね」「シャンハーイ」「ホラーイ」
「箒も持ってることだし、たまには掃除もしてみるかなっ」
「妖夢、私の分もしっかりお願いね」
「幽々子様、勿論です!」
「これは、どうなってるのかしら・・・・」
思わず霊夢は頭を抱えた。 こんな光景、まるで夢でも見ているようだ。
「貴女が変な感じだったからよ」
相変わらず私の右に立っている紫がそう言った。
「私なんかを気にかけないでしょ、皆」
「霊夢は自分を過小評価し過ぎよ。 貴女は気付いてないでしょうけどね、皆宴会中もずっと心配だったのよ」
霊夢は目をキョトンとさせる。
「私の事が?」
そして自分自身を指さした。
「そう、貴女の事が」
紫もそれを真似るかのように、霊夢に指をさす。
「今まで色々あったけれど、結局貴女を嫌いな奴どころか、好きな奴しかいないのよ、ここには」
紫は大きく手を広げて言った。 そこから紫は真剣味のある普段とは違った顔になった。
「霊夢。 幻想郷は全てを許すわ、そして「それはとても残酷な事。・・・・でしょ?」
紫は頷く。
「その科白ならしっかり憶えてる。 何しろ、印象的だったしね」
霊夢は紫の方をしっかり向いて、言葉を続ける。
「・・・・でも悪いけど、私にはよく分からない。 何度か暇なときに考えたんだけど、ね」
紫はその言葉を聞いて「そう、」と少し悲しそうに俯いて相槌を打った。
「でもね、紫」
霊夢は声をいつもより大きくして言った。
「でも、いつか分かる時が、いや、分からなきゃいけない時がきっと来る。 そんな気がするから、それまで考えるのを止めるわ。それまでは『博麗の巫女』として生きるよりも『博麗霊夢』として、生きる。いや、生きたい」
霊夢の声は段々と大きくなっていく。
「我が儘、だと思う。 でも、ここは、幻想郷は、」
紫は霊夢が次に何と言うのか、予想がついたきっと、今の彼女ならこう言うだろうと。
「・・・・幻想郷は全てを許してくれる。 でしょ、紫」
霊夢が泣きそうな目で紫を見上げた。
「・・・・・・いつか分からなければ行けないときは、逃げ続けた分残酷よ?」
「それでもいいわ」
「だって皆がいる今が、そこそこ楽しいから、ね」
博麗神社の夜は、まだまだ長い。
あと、「・・・」と「……」が混濁してたのが気になりました。
三点リーダーで統一した方がいいかと。
セリフ「」内の句読点後は文字間を空けずに書いても構いません。
※ただし感嘆符後は一文字間空ける
特に気になったのはそれくらいですね。
作風はとてもしっとりとしていて好みでした。