Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

暑そうで実は寒い日

2010/05/10 00:30:08
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 ここのところ暑い日が続き、流石にもう炬燵も必要ないだろうと思って片してから間もないある日。
 私は仕事から帰って部屋に入ると、床にうずくまって呻いている椛の姿を発見した。

「も、椛!? ど、どうしたの!」

 急いで駆け寄ると、椛の口の端から大量の唾液と思わしき液体が流れ出ていた。
 しゃっくりを上げながらうわ言のように私の名を呼ぶ椛。
 お腹を押さえて苦しそうに眉で八の字を描いている。汗の一つも出ていない。
 
「今、診療所に連れて行くからね」

 椛の体を担ぎ上げると、そのまま私は部屋の出口へと向かった。
 何か悪い病気にかかったのか、それとも第三者から霊的な攻撃を受けたのか。
 兎にも角にも、私の焦燥は募るばかりで、腕の中で荒い息をあげている椛が不憫でならない。

 コツ。コツ。

 足元で何か音がした。
 ぐい、と椛の体を頭の上まで持ち上げて床を見ると、何やら三寸ほどの木の棒が大量に散らばっている。
 何だろう、これは。
 
 コツ。コツコツコツコツ……。


 手元からその木の棒が落ちてきた。視線を上げる。
 椛の服の袂に同じ物がたくさん引っかかっていた。というか、それは椛の服から零れ落ちたものらしかった。

「何ですかこれは」

 椛は答えない。
 目をきゅっと瞑って、苦悶に喘いでいるだけである。
 私は片手で椛を抱えなおすと、もう片方の手でそのうちの一本をつまみ上げた。
 何の変哲の無い、ただの木の棒に見えるそれは半分から先が湿って若干黒ずんでいる。
 湿り気を帯びている箇所を触ると、案の定ベタベタした。
 まさか、と思い、それを鼻に近づけて匂いを嗅いでみる。

「……あ、ず、き」

 苦しそうに涎を滴らせている椛の口元を注意深く観察してみる。
 青ざめた唇の端に、小さな黒い半透明の薄皮のようなものが付着しているではないか。

「……あ……ず……き」

 私は、ふう、と一息付いて椛の柔らかい肢体を床に下ろした。
 顎辺りまで流れ出した唾液を指で掬い、口に運んでみた。
 正味、1秒。私の考え出した顛末の判断材料は、それで十分だった。

「うぅぅ……いたいよぉ……おなか、いたいです……文さん、文さん……あ」

 そりゃあ痛いはずだ。
 お腹を壊したときの痛みというのは人間、妖怪、果ては神までも問わず、遍く耐え難い苦痛なのだから。

「椛、あなた、一体何本食べたんですか?」

 ギクッという擬音が聞こえてきそうな椛の体の硬直を尻目に、私は床に散らばった棒――小倉アイスバー――の片づけを始めた。

 
 …………。
 ……。
 …。

 
 竹林の診療所を抜け、ようやく人里に付いた頃には、すっかり辺りは宵闇に包まれていた。

「まったく、その食い意地。浅ましいったらない」

「ごめんなさい……」

 結局、椛は別段、重い病に罹ったわけでもなければ呪術をかけられたわけでもなかった。
 単純に暑いからアイスを食べてお腹を壊しただけ、という何ともお粗末な筋書きを演じただけであった。
 もっとも、『200本』という数を聞かされた時には、文々。新聞の端に載せる位のネタにはなりそうだと思ったが。

「心配、かけてごめんなさい」

「……もういいってば。怒ってないよ」

「本当ですか? 本当に怒ってないですか?」

「ないよ。もうそんな顔で人のこと見るのやめてよ」

 椛の顔に笑顔が戻る。
 その笑顔の矛先が、

「わらび~もち~」

 茶店ののぼりに向いた時、私の拳は椛の殴り心地のよい後頭部へクリーンヒットした。

 …………。
 ……。
 …。

 椛に付き合っているとどうにも編集作業の時間が無くなりがちだ。
 私は生乾きの髪に櫛を立てた格好のまま、机の上のネタ帳と睨めっこをしている。
 今週は何でいこうか、前回の特集とあわせて今回も料理ネタでいこうか、などと思いをあれこれ巡らせていると、

「文さーん」

 弛緩した椛の声が私の後ろ髪を引っ張った。
 というより、実際に振り向いたら椛が私の髪を引っ張っていて、床に水滴がポタポタ落ちていた。
 
「文さん」

「なに。どうしたの。またお腹痛いの?」

 椛がかぶりを横に振って、白い髪の先から大量の水滴を私の顔に浴びせた。
 奥歯がギリギリと嫌な音を立てた。

「おなかは痛くないんですけど……その」

「だから、どうしたのって。編集、明日までにやらないといけないんだから、何か用なら早く言って」

「おなか、さすってください」

 上目遣いの椛。
 私は迷わずその体を抱え上げ、既に敷かれてあった布団へ投げ捨てた。

「なに甘えた事言ってるの! このワン公!」

「わたし、犬じゃないです」

 口答えする甘えんぼにスライディングをお見舞いした。
 すかさず抱きつかれたものだから、もう編集は無理だと天を仰ぐ私。犬の力は強いのだ。

「だから、犬じゃないですってば」

「うるさい。ほれ、ちゃっちゃとお腹出す!」

 寝巻きをたくし上げて、白い腹部が現れた。
 可愛らしいへそが、今は憎らしい。

「ったく、何が悲しくて、新聞の締め切り前日に後輩のお腹をさすらにゃならんのですか……」

「ふぅ……ふぅ……あはは……きもちいいですぅ……」

「そら、そんなにさすって欲しけりゃさすってあげるわ! いっそネタになるくらい、お腹が擦り切れるくらいにね!」

「ひゃああ! あははは、くすぐったい、くすぐったいですー!」

 何をやっているんだか、と自分でも思った。
 そのまま一時間もしないうちに、私と椛は仲良く眠りについた。


 
 翌日、二人そろって腹痛に涙したのは言うまでも無い。



 Fin
巫女は言う。腹痛など片腹痛いわ、と。
蓋の甘
コメント



1.ぺ・四潤削除
前作といい、おバカわんこな椛が可愛い過ぎるんですがww
なんていうか、こう、具体的に言うと両神了さんに漫画化してもらいたいww
2.奇声を発する程度の能力削除
>ペ・四潤氏
それ凄く分かります!!!

もみじもみもみ可愛いよ!
3.名前が無い程度の能力削除
ひどく駄犬なもみじが可愛いなぁw
しかもあまえんぼなところがさらに可愛いーw
4.蓋の甘削除
>1-3
犬って可愛いですよね。狐も可愛いですよね。藍様好きです。