「ムリヤリ開かせるって言葉にそこはかとないエロスを感じないかしら?」
いつものようにソファに座り込んで、いつものように猫を撫でて、いつものようにわたしに接しながら、ごくごく自然に、まさにいつもの通りに、なんてことのないように、そんなわけないように、じっと視線を猫にやりながら、そんなことを、お姉ちゃんはボソリと、しかし、わたしに聞こえる程度の声音で言った。
ぽろり、と思わず食べかけのクッキーが音を立てて机に転がった。
あ、あれ?
なに? 聞き間違いよね?
「おねぇーちゃーん……?」
「なぁに、こいし?」
くっと顔を上げてわたしを見る。
いつも通りだった。いつも通り過ぎだった。さっき聞いた言葉が、まるでわたしの聞き間違いのように思えてくる。
ううん。そうよ。聞き間違いよ。絶対そう。お姉ちゃんそんなこと言わない。
「さっきさー、何て言ったの?」
だから違う言葉が来るって分かってる。絶対そう。絶対なんてないけど、絶対そうに違いないの。
そう願ってたんだけど、現実は冷徹で残酷で無慈悲で救いようがなくて。
お姉ちゃんはいつもと変わらない表情で、わたしに笑いかけるときのように、思いついたことを楽しそうに話すように、なんてことなしに、わたしを打ち砕く言葉を放った。
「だからね、ムリヤリ開かせるって言葉にそこはかとないエロスを感じないかしら? と言ったのよ」
そのときのわたしはきっと酷く怯えていたと思う。
だってさー、姉の口から唐突にそんな言葉が出たんだよ? 正直、嫌。こんなのお姉ちゃんじゃない。
しかも、その視線! わたしの三つ目の目を見てる気がするの。
なに? なんなの? お姉ちゃんそんなにわたしの目を開かせたいの? そして心を読ませたいの? そこにエロスを感じるの? 違うの? なら行為自体に? わたしをいったいどうしようって言うのよ! いったいなににエロスを感じてるのよお姉ちゃんは!
わたしはこのときほど自分の目を閉じてしまっていたことを悔やんだ。
見たいけど見たくない、この気持ち。おさまりがつかないよ。
ぐるぐる無意識にあちこちに視線を彷徨わせていたわたしは、たまたま部屋に入ってきたお燐に勢いで助けを求めた。
「た、助けてー! お姉ちゃんがおかしくなっちゃたの!」
「へっ? い、いったいなにが、あったんですか!?」
「さぁ?」
いきなり飛びつかれて、目を白黒させて慌てるお燐。
くいっと小首を傾げたお姉ちゃん。くそう、かわいいなぁ。
「実はね、お姉ちゃんが」
ぐぬぬ、これを言うには少し勇気がいるよぉ。
だけど言わなきゃ。言わなきゃ解決しない。頑張れわたし。
「ムリヤリ開かせるって言葉にそこはかとないエロスを感じないかしら? って聞いてきてぇ……」
最後はもはや聞き取れるぎりぎりだ。
顔が火照ってくるのが分かる。けど無意識には逃げられない。だってこの人、どうにかしなきゃいけないもん。
「はぁ!?」
お燐が素っ頓狂な声を上げる。
次いで顔が赤くなる。ほらほら、普通こういう反応になるでしょ。
その心を読んだか、お姉ちゃんの顔が真っ赤になる。
「ちょっと待ちなさい! あなたも空の脚がどうとか考えてるんじゃないの。違うのよこいし!」
「じゃあなんだって言うのよ!?」
慌てながら立ち上がって、顔をさらに紅く染めるお姉ちゃん。手足をぱたぱた振りながら。
かわいいなぁ、もう。
「缶詰よ!」
……………………………………………………………………………………………………………………は?
え?
「この間、河童から渡されたのよ」
ほら、と服の中から缶詰を取り出す。キャッチコピー『開け! エロスを感じろ!』
そしてそれを机に置き、服の中から缶切りを取り出した。
そしてそれで缶を開け、開け……開け――
なんだか水音がとっても卑猥です。
「ね?」
と言ってやり遂げた笑顔で振り向くお姉ちゃん。
いや、ねっと言われましても。あ、お燐まで呆然としちゃってる。
でもね、わたし、言わなきゃならないことがあるの。
そしてやらなきゃならないことも。
それすなわち。
「お姉ちゃんのばかー!!」
ダッシュ! 全力で逃走。引き止める声。無視。顔が赤い。恥ずかしい!
ああ頭が回る。恥ずかしいわ。自分が恥ずかしいわ!
いったいなんなのよこれはー!
[了]
いつものようにソファに座り込んで、いつものように猫を撫でて、いつものようにわたしに接しながら、ごくごく自然に、まさにいつもの通りに、なんてことのないように、そんなわけないように、じっと視線を猫にやりながら、そんなことを、お姉ちゃんはボソリと、しかし、わたしに聞こえる程度の声音で言った。
ぽろり、と思わず食べかけのクッキーが音を立てて机に転がった。
あ、あれ?
なに? 聞き間違いよね?
「おねぇーちゃーん……?」
「なぁに、こいし?」
くっと顔を上げてわたしを見る。
いつも通りだった。いつも通り過ぎだった。さっき聞いた言葉が、まるでわたしの聞き間違いのように思えてくる。
ううん。そうよ。聞き間違いよ。絶対そう。お姉ちゃんそんなこと言わない。
「さっきさー、何て言ったの?」
だから違う言葉が来るって分かってる。絶対そう。絶対なんてないけど、絶対そうに違いないの。
そう願ってたんだけど、現実は冷徹で残酷で無慈悲で救いようがなくて。
お姉ちゃんはいつもと変わらない表情で、わたしに笑いかけるときのように、思いついたことを楽しそうに話すように、なんてことなしに、わたしを打ち砕く言葉を放った。
「だからね、ムリヤリ開かせるって言葉にそこはかとないエロスを感じないかしら? と言ったのよ」
そのときのわたしはきっと酷く怯えていたと思う。
だってさー、姉の口から唐突にそんな言葉が出たんだよ? 正直、嫌。こんなのお姉ちゃんじゃない。
しかも、その視線! わたしの三つ目の目を見てる気がするの。
なに? なんなの? お姉ちゃんそんなにわたしの目を開かせたいの? そして心を読ませたいの? そこにエロスを感じるの? 違うの? なら行為自体に? わたしをいったいどうしようって言うのよ! いったいなににエロスを感じてるのよお姉ちゃんは!
わたしはこのときほど自分の目を閉じてしまっていたことを悔やんだ。
見たいけど見たくない、この気持ち。おさまりがつかないよ。
ぐるぐる無意識にあちこちに視線を彷徨わせていたわたしは、たまたま部屋に入ってきたお燐に勢いで助けを求めた。
「た、助けてー! お姉ちゃんがおかしくなっちゃたの!」
「へっ? い、いったいなにが、あったんですか!?」
「さぁ?」
いきなり飛びつかれて、目を白黒させて慌てるお燐。
くいっと小首を傾げたお姉ちゃん。くそう、かわいいなぁ。
「実はね、お姉ちゃんが」
ぐぬぬ、これを言うには少し勇気がいるよぉ。
だけど言わなきゃ。言わなきゃ解決しない。頑張れわたし。
「ムリヤリ開かせるって言葉にそこはかとないエロスを感じないかしら? って聞いてきてぇ……」
最後はもはや聞き取れるぎりぎりだ。
顔が火照ってくるのが分かる。けど無意識には逃げられない。だってこの人、どうにかしなきゃいけないもん。
「はぁ!?」
お燐が素っ頓狂な声を上げる。
次いで顔が赤くなる。ほらほら、普通こういう反応になるでしょ。
その心を読んだか、お姉ちゃんの顔が真っ赤になる。
「ちょっと待ちなさい! あなたも空の脚がどうとか考えてるんじゃないの。違うのよこいし!」
「じゃあなんだって言うのよ!?」
慌てながら立ち上がって、顔をさらに紅く染めるお姉ちゃん。手足をぱたぱた振りながら。
かわいいなぁ、もう。
「缶詰よ!」
……………………………………………………………………………………………………………………は?
え?
「この間、河童から渡されたのよ」
ほら、と服の中から缶詰を取り出す。キャッチコピー『開け! エロスを感じろ!』
そしてそれを机に置き、服の中から缶切りを取り出した。
そしてそれで缶を開け、開け……開け――
なんだか水音がとっても卑猥です。
「ね?」
と言ってやり遂げた笑顔で振り向くお姉ちゃん。
いや、ねっと言われましても。あ、お燐まで呆然としちゃってる。
でもね、わたし、言わなきゃならないことがあるの。
そしてやらなきゃならないことも。
それすなわち。
「お姉ちゃんのばかー!!」
ダッシュ! 全力で逃走。引き止める声。無視。顔が赤い。恥ずかしい!
ああ頭が回る。恥ずかしいわ。自分が恥ずかしいわ!
いったいなんなのよこれはー!
[了]
ところでぺさんの缶切り解説のどこがエロスなのか分からないのでどなたか解説お願いします。
ところでタイトルが『はいてない』に見えてしまったのですがwww
最初は先端に感じた抵抗感に阻まれなかなか入らなくて、ある強さまで力を入れると突然抵抗をやめ、次第にそれを受け入れるようになる。
先端が一度入ってなお、狭い空間に微かな抵抗感を感じつつも無理やりこじ開けるようにそれは挿入されていく。
奥まで入りきったところで、そこから挿入したものを引き戻し、一定のリズムで上下に動かしていく。
ひとしきり動かした後、全てが終わったところで抜き取ると、液でベタベタになっている。
そのままにしておくと臭くなってしまうので、きちんとふき取りましょう。
缶切りでした。