Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

静寂呈色

2010/05/09 20:43:09
最終更新
サイズ
6.26KB
ページ数
1

分類タグ

「静寂呈色」

 人気の無い夜道を月が照らしていた。紅い紅い光であった。映し出された道の先に続く館は、その本来の壁の色と相成り、更に深炎の猩々緋を呈している。夜空の月は既に天高く、時刻は丑三つ時。こと幻想郷においては人が出歩くべき時間ではない。ただ、一人の少女の笑い声が響くのみである。

 そんな道を赤と銀の閃光が飛び交った。赤い線から無数の光球が尾を引きながら弧を描き、銀の点からは直線状の線が伸び、光球へと瞬く間に炸裂する。
「へぇ、貴方。意外と持つのね」
 一対の羽を背に生やした赤い少女が片腕を振り上げる。月が雲間に隠れ、辺りは深淵の闇に包まれた。
「まぁ私にこの時間に挑むんだから、その程度当然かしら」
 言い終わる間もなく、光球が生まれ、射出された。
「……ック」
 対する銀髪の少女は、頭を打ち抜こうと迫るソレを片手に持ったナイフで弾いた。続いて迎撃せんと銀髪の少女が正面を見据えると、光球の後ろから続いて、振り上げた腕を銀髪の少女の喉下へと向けた吸血鬼の姿が現れる。その口元には笑みが浮かんでいる。勝利に酔う者の影が見える笑みだ。
「ハイ、これでチェックよ」
 そのまま首を捕まれ、銀色は近くの樹へと縫い付けられる。押さえつけられた首がミシミシと悲鳴をあげた。
「もうちょっと遊んであげたかったんだけれどね、生憎と夜明けを待たれたら嫌だもの」
 だが、赤い少女の表情は暗い。目の前の少女は、未だ成人していないと見える。弱い者をいたぶる趣味は彼女にはなかった。

 そこまで考えてふと赤い少女は思い至る、なぜ彼女を一番槍としてよこしたのだろうか。確かにこの少女の力量は目を見張るものがある。現に放った弾幕を悉く避けて見せたのだから。しかし、今この手に掴んでいる少女はあまりに非力だ。このまま力を加えれば、あっけなく逝ってしまうだろう。

 そして、銀色の少女の反撃が始まる。

 辺りの風景が一瞬灰色に包まれたかと思うと、目の前の人影が人形へと変わっていた。
「魔性の者には火炙りで」
 途端、人形は腕に巻きつき発火し。
「吸血鬼には銀の刃」
 頭上には月光に煌めく多数のナイフがこちらを射抜かんと滞空している。
「貴方は時間をかけすぎた」
 気づけば銀色の少女は背後で囁いていた。全てが数瞬の出来事で、赤い少女は呆けにとられいてた。
「これでチェックです」
その言葉とともに、近くの木々から複数の人影が現れる。人影は皆一様に銀で出来た杭を携えていた。

しかし、人影の杭は銀色の少女にも向けられている。

「お前も既に用済みだ」
「その力はもはや妖の域にまで達しているだろう」
「やはり、物の怪を滅ぼすのは同じ者であるか」
吸血鬼を滅することに酔っているのか、人影達は口々に言葉を発し始めた。ソレとともに、赤銀の少女への包囲網を狭めていく。

男達が銀色の少女ににじり寄る合間にも、赤の少女に火が回る。13本のナイフが勢いよく落下し、少女の体を地上へとはりつけにする。肢体は火達磨となり、四肢は例外なく貫通したナイフに縫い付けられた。だが、赤の少女の表情は明るい。
「なるほどね、幼い少女で誘き出して、仲間で袋叩きにする。悪くない作戦だわ、ご立派なものね」
疑問がひとつ消えたことへの喜びの笑みではない。自身の様を自嘲しているわけでもない。はたまた、闖入者たちへの嘲笑ですらない。

ブチブチと肉の裂ける音を辺りに響かせながら、赤い少女は立ち上がった。無粋な輩へ制裁を下せることに喜悦の笑みをその顔にはりつけながら、銀色の少女へ向かう者たちに対峙した。
「でも、相手が悪かったわね。私の名前を言ってみなさい。レミリア、レミリア・スカーレットよ」
赤の少女の体が変化する。
「貴方たちのような下衆が、相手の務まる吸血鬼ではないわ」
刺さっていたナイフは地面へと落ち、その刀身についた血が霧散していった。辺りに紅い霧が立ち込める。

 紅符「不夜城レッド」

 瞬間、一気に紅い少女の体からも同質の紅が放出され、銀色の少女の位置を頂点とした十字架が展開された。迸る紅の奔流は人影を呑みこみ、木々を薙ぎ倒し、大地すら削らんとするばかりの勢いで周囲を駆け抜ける。当然、脆弱な人間に生き残る術など残されてはいなかった。

 残ったのは焦土と銀色の少女、そして仰向けに伏した紅の少女のみである。

「うー、もうからっきしよー。ガス欠っていうのかしらね、外の世界では」
 手足をバタつかせながら紅の少女が騒いだ。銀色の少女はただ吸血鬼の傍に立ち、その顔を覗き込んでいる。
「…どうして助けたりしたんですか?」
 思案顔で、心底不思議そうに銀色の少女が問いかける。
「そんな野暮ったいことは聞かないの。日本の淑女なら、察することを学びなさい。大体、ああいうのに私は生きる運命を与えてやるつもりなんて欠片も無いのよ。せっかく良いところだったのに……」
 気づけば夜空は晴れ渡り、月明かりだけでなく星明りまでもが大地を照らしている。既に紅を呈してはいない。
「それでも、私は貴方に刃を向けたのですよ?」
 銀色の少女が少し強く問いかける。
「ええ、そうね。でも貴方にやられる私じゃないもの。それにね、私は今晩とても楽しめたわ。流石に銀のナイフは痛かったけどね」
 紅の少女はにべもなく答えると、立ち上がって銀色の少女の首に手を回した。
「ねぇ、貴方。まだ私と戦いたい?」
 銀色の少女の顔に自身の顔を近づけながら、紅の少女は真剣な眼光で相手を射抜く。まるで、やるならば受けてたつと言わんばかりに。
「…いいえ。私もナイフはさっきので最後ですし、これ以上体に負担は掛けられないようだわ…」
銀色の少女は言いながらも、しがみ付いてくる少女をしっかりと抱きとめていた。
「ふーん、じゃあお互い休戦ということにしましょう。どう?私の館で休んでいかない?というか私を運んでくれないかしら?」
 聞いて銀色の少女は考えた。自分は仲間に裏切られた。戻った所で再び殺せない相手を殺せと命令されるか、仲間をはめたと疑われるのが関の山だろうか。
「まぁ起こしてしまったのは私ですし…、送り届けるのもかまいませんが。ところで、レミリアさん、お部屋は一つ空いていますか?」
銀色の少女は少し微笑みながら答えた。
「さんはやめなさい、どこかむず痒いわ。そうねぇ…、レミリア様…はなんか成金みたいねぇ、レミリアちゃん…レミレミ、いやどれも変だわ。うーん…」
レミリアは考えながら銀色の少女の周りをくるくると回り始めた。その腰に抱きつきながら。

その時、銀色の少女は、自身の育った屋敷を思い出していた。あの屋敷ではよく「姫様」という単語が飛び交っていた。思えばあの屋敷へ手伝いに出されるようになってから、自分の人生は色あせたような気がする。

「それではお嬢様……と、どうせ行く当ても無い身の上ですから、侍女として働かせてくださいませんか?」
「お嬢様……うん、お嬢様。悪くはないわね。うん実に良いわ」
 うんうん、と満足気に頷くレミリアの様子に、銀色の少女は肯定と受け取ったようだ。
「それでは行きましょうか、お嬢様」
 銀色の少女は首に捕まっていたレミリアの体を本格的に抱えあげながら、焼け野原の向こうに立つ館へと向かう。館の周りの草木はきちんと残っている辺り、きちんとしているのだろうか。
「ええ、分かったわ。ところで貴方、名前は?」
 ふと、思い出したように尋ねる。
「いえ、私には名前はないのです。幼少より、ただ"16番"と呼ばれておりました」
 それが彼女にとって当たり前の世界でもあった。
「そう、それは味気ないわね…。なら折角主従の関係を結ぶんだもの、私からの第一の褒賞は名前よ!そうね……」

 その日、銀色の永い夜に、緋が挿した。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
創想話への投稿は今回が初めてなので、とりあえずはミニへと拙作を出させていただいた次第です

尚、かなり短いこともあり、後日加筆修正するかもしれませんが、後々ご指導いただけると私も助かります。

その時には本スレに投稿できるレベルには仕上げたいなぁ。

追記
>>1
誤字指摘、ありがとうございました。
レミレミは私の脳内でのお嬢様の呼び名でございますb
>>新谷かづき様
咲夜さん自身の我の弱さ、希薄さを示したくて切り替えを早くしてみました。
ただ、やはり伝わりづらいでしょうかね@@
223
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
>幻想卿
幻想郷

とっても面白かったです!レミレミwww可愛いなww
2.新谷かづき削除
レミレミ良いですねw
咲夜さんの切り替えが速いなぁ、なんて思いましたが、短い中にぎっしり凝縮された素敵な作品でした。