※ この話は、ジェネリック作品集63、『妹紅、慧音に相談すること。』からの続きとなっております。
『輝夜、愛している。結婚してくれ。』
久方ぶりに届いた妹紅からの果たし状にはそんな言葉が書き連ねられていた。
……ていうかこれ、本当に果たし状?
「どうしたのですか、姫? 文を見つめたまま固まって……?」
廊下で固まっていた私のところへ偶々通りすがった永琳が不思議そうな顔で言うので、ならばと件の果たし状を見せてあげる事に。
それを見た永琳は、何故か頬に手を当て恥ずかしそうにした。
「結婚してくれなんて……(ぽっ)姫ったら。」
「貴女に言ってるんじゃないわ! 大体ここに『輝夜』って書いてあるでしょ!? わ・た・し・あ・て!」
頬を染める永琳に私はつい憤慨して突っ込みを入れた。
どう見たらそんな勘違いができるのかしら?
「まあ冗談は置いといて……」
「冗談だったのね……。」
サッと表情を素に戻す永琳に私は頭痛を覚えた。どうやら演技だったらしい。
全く、この従者は何をやっても上手いから困る。
「お受けするのですか? 相手はあの妹紅でしょう?」
永琳の目が鋭くなったのを見て、私はそっと溜息を付いた。
やっぱり良い顔はされないか……って私は別に本気で受けるつもりなんかないのよ?
第一、妹紅だって私をからかっているだけかもしれないし。
「まさか…………あいつ、どこかで頭でも打ったんじゃないかしら? 取り敢えず会ってくるわ。もし治療が必要だったら殺してでも連れてくるからよろしくね?」
悪戯なのか、或いは本気なのか……。
それだけ確かめに行くのも悪くないと思う。
でも……あいつは冗談でもそう言う事は言わないと思ってたけど……。
「……照れてます?」
「照れてないわよ!」
突拍子も無い事を言い出す永琳に、私はついムキになってしまった。
だって数々の求婚を受けてはあしらってきたこの私が、今更妹紅なんかの求婚に喜んでいるとでも言うの?
もしそう思われているのなら心外よ、心外!
「……何? あいつの求婚を私が本気で受けるとでも思っているの?」
「私はどちらでも構いませんが……朝帰りだけは認めませんよ?」
「ちょっ!? 誰が朝帰りなんてするものですか!?」
私が憤るのも仕方ないと思う。幾ら姫にだって、譲れない一線ぐらい有るのだ。
何で私がよりにもよってあの妹紅を相手に──
「愛しさ余って憎さ百倍とも言いますし。」
「それを言うなら、可愛さあまって憎さ百倍……と、ともかく! 今から行って、妹紅の奴を軽く揉んでくるわ!」
ここで話してても埒が明かないし、私のフラストレーションもそろそろ限界だ。兎に角この鬱憤を晴らしてやらなければ腹の虫が治まらない。
八つ当たりしたって、罰は当たらないだろう──というかこうなったのも全部妹紅のせいなんだから!
どこまで本気かは知らないけどこんな傍迷惑な手紙寄越して一体何を考えて…………そうだった、それを確かめに行くのだった。
例え妹紅が本気だったとしても、きっとそれは一時の気の迷い…………だってあの時、無防備な私を襲えないくらいあいつは意気地無しなのだから。
べ、別に……何か期待していた訳じゃないけど。
「揉むなんて……大胆……。」
「……え、永琳? 実は…………怒ってる?」
普段より冗談が過ぎる彼女に、私は怒りを通り越して不安になった。
思い違いだろうか? 相変わらず永琳は素の表情をしている様に見えるのだが……逆にそれが怖い。
「…………朝帰りなどされたら、今後姫様を午前様と呼ばねばなりません。」
「呼ばなくていいから! ハァ……もういいわ。兎に角ちょっと行ってくるから。」
永琳に付き合ってたら、何時になっても出れやしない。
だからこれ以上は付き合わないという意思表示に背を向けてヒラヒラと手を振ってやる私。
「あれ……? 姫様、こんな時間にお出かけですか?」
「ええ。ウドンゲ。晩御飯には戻るそうよ。」
すると後ろで永琳とウドンゲの会話が聞こえた。
おいおい。誰もそんな事言って無いわよ。
だけど突っ込みたい気持ちをぐっと堪える。ここで突っ込んだら負けなんだから……。
「それはそうと、丁度良い所に来たわね、ウドンゲ。貴女これからお赤飯を炊きなさい。」
「お赤飯……? 何かお祝い事でもあったんですか?」
「良いから炊くのよ……そう、朝帰りなんて、認めないんだから……。」
私は何も聞いてない。聞いてないんだから……。
氷の様に冷たい永琳の視線を背中越しに感じた気がするし、ウドンゲの「ひっ……!」という小さな悲鳴が聞こえた気もするが……全て気のせいだという事にした。
手紙には特に場所や時間の指定は無かった……けど、向かう先など決まっているし、時間などと言う概念は、私達にとって有って無いようなものだ。
だから迷う事なんて無かったし、不安になんてならなかった。そう、何時だって彼女は、そこで私を待っている。
「本気……だったのね。」
だけど約束の場所に出向いた私を待ち受けていたのは妹紅だけじゃなかった。
「ああ。ご覧の通り、お前が出した難題の品々、全部ここに揃っている。」
それは数々の財宝だった。
全く……ここ数日音沙汰も無く、姿も見えないと思っていたら、こんなものを探していたのか……。
そして悔しいが、これらは全て本物であると私の目が言っている。
妹紅だって、伊達や酔狂でこんなものを集めたりはしないだろう──だから私は彼女が本気なのだと思った。
「これらが有ればお前は求婚を受ける……そうだったな?」
「そうね……。」
これだけの物を用意するのに要した苦労は並々ならぬものだったろうに……それを誇ることもなく、ただ妹紅は私に返事だけを求めてきた。
その真摯な様子に、感銘すら覚える。
だけど……だからこそ、私は分からなくなる。
今更どうして……?
「受けて……くれるよな?」
──そんな事言われても……。
断ろうと思えば断れるのだけど。
『それは貴女に出した難題じゃない。』
そう言ってしまえば彼女の努力は全て無に帰す事になる。けど何となく……それだけはしたくなかった。
まるで妹紅を庇うような感情に自分でも戸惑ってしまう……でもきっとそれは、彼女が本気だという事に気付いてしまったから……。
どう答えればいいのか、判断に迷う……けれど、それよりもまず確認しなければいけないだろう。
「どうして……?」
聞きたい事、聞かなきゃいけない事。たくさんある筈なのに、いざ私の口から飛び出した言葉はそれだけだった。
だけど、たったそれだけでも十分過ぎるくらい妹紅には伝わったらしい。
「驚くのも……仕方ないな。ついこの間まで殺し合いをしてきた仲だ。だけど私は気付いたんだ……自分の本当の気持ちに。」
「本当の……気持ち?」
真剣なんだ……瞳を見れば分かる。妹紅の瞳は今、憎しみに捕らわれてなどいなかった。
「そう……簡単な話さ。お前を愛し、振られた父の恨みを継いで復讐を誓った子が、気付いたら父と同じようにお前を愛してた……それだけの事さ。」
ちょっと照れくさそうに頬を掻きながら話す妹紅。
どうして……?
もっと格好の良い台詞も、くさい口説き文句も、これまで嫌というほど聞いて来たのに……。
こんなにも私の心を強く揺さぶったのは、妹紅の不器用な今の言葉が初めてだった。
「父の悲願は……お前を殺す事なんかじゃ無かったし、そんなことをしても父の無念を晴らせる訳でもなかった──そもそも私の逆恨みだった訳だしな……私は間違ってたんだ。
だからさ……お前を……輝夜を、藤原家の嫁に迎え入れて初めて、父の無念は晴らされる……今ではそう思ってる。」
静かに胸の内を語る妹紅の姿は、どこか精練とされていて……私の目には格好良く映った。
私は……今、ときめいてるの?
トクン、トクンと繰り返す胸の音が普段より大きく、そして早く聞こえる気がした。
そんな今まで感じた事のない感覚が、より一層、明確に妹紅を強く意識させた。
「だから終わりにしたい。お前と殺し合う日々を。」
そんな日が来るとしたら、それは世界の破滅する時じゃないかって、本気で考えた事がある。
例え月に連れ戻されたとしても妹紅なら追い掛けて来てくれる……そんな気がしていた。
「今日からは夫婦として、ずっと側に居て欲しいんだ。」
ちょっと……なに勝手に話進めてんのよ。
私が何も言い出せずにいるのを良いことに、妹紅は着々と話を進めている。
このままじゃ私、駄目になる……。きっとこれまでの私じゃ要られなくなる。
「輝夜……。」
ヤメテ……ソンナ目デ見ミナイデ……。
高鳴る胸や、溶けてしまいそうになる思考が、全てが貴女を愛していると誤認させる。
──本当に誤認?
本当はもっと前から予見していた。こんな事態を……。
ううん、それも違う。これは私が望んだ事なのかも知れない。
そう。本当は……本当に愛していたのは…………私の方なのかもしれない。
だって話が出来すぎている。
だからこれはきっと私が見ている夢なのだ……。
「私の嫁になれ。」
差し伸べられた妹紅の手を、私は──
「無い無い! 絶対無いぃぃぃぃぃいい!?」
頭の悪い光景に、思わず私は金切り声を上げてしまった。
ぜぇぜぇと、肩で息をする自身の姿は姫としての尊厳を失い兼ねないとすら思う。
しかし誰にも見られていないのだからセーフ……という事にしておきたい。
(一人……なのよね?)
気が付くとそこは見知らぬ天井だった。それ以前に此処に来るまでの記憶があやふやだ。
まずは現状確認が必要だろう。
そう思って、ちょっとだけ冷えた頭で周りを見渡したところ何の変哲もない部屋のようだ。
強いて言うなら質素過ぎる。こんな部屋、永遠亭には存在しない筈……。
どうしてこんな所で寝かされていたのか?
それと先程の光景はやはり……夢、だったのだろうか?
「ん……輝夜? 起きたのか?」
声がした。それも聞き覚えのある声だ。
でも、どこから?
「おはよう。良く眠れたか?」
正体不明の声はすぐとなりから聞こえた。
「も、妹紅……!?」
首を横へ向けると、妹紅がいた。……どうやら直ぐとなりで寝ていたらしい。
どういうこと……? これはまだ夢の続きだとでも言うの?
「どうしたんだ? そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔して。」
いや、だって貴女が私の隣で寝てて、その上一糸纏わぬ姿を晒していたら誰だって驚く──裸!?
「…………っ!?」
裸だった……。
それも妹紅だけじゃない…………私も。
これはその、所謂事後ってやつで、私はその、妹紅と──
バッ!!
全てを思い出した私は、恥ずかしさから掛け布団を引き寄せて、火が出そうな程熱い顔を覆い隠した。
──やってしまった……!
「どうした!? どっか痛むのか!?」
気遣わしげに背中へと回される妹紅の手が、悔しいほど温かく感じられて……。
昨晩、その手に散々弄ばれた事を否が応でも意識させられて……。
「大丈夫……なのか?」
余計に顔を上げる事が出来なくなった私は、さっきから心配してくれている妹紅に頷く事で辛うじて答えた。
まさか……まさか本当にやってしまうとは──!
今頃永遠亭では永琳がお冠だろう……。
今後の事を思うと、憂う気持ちまでもがふつふつと湧き上がってきた。
「輝夜…………そのままでいいから聞いてくれ。」
不意に聞こえた真剣味を帯びた妹紅の声に、私は思考を止めた。
そのままでいいと言われたから、敢えて顔は布団で隠したまま、その声に耳を傾ける。
ギュッ。
(え……?)
「えっと……その……なんだ。これからはずっと、一緒だ。ずっと……一緒だから。」
布団ごと私を抱き締め、妹紅はそんな事を耳元で囁いてきた。
やっぱり不器用な、だけど優し過ぎるその言葉だけで、私の心は驚く程に落ち着きを取り戻していった。
「…………うん。」
更に強く抱き締めてくれる妹紅に私は確信した。
一時の迷いなんかじゃなかった……私は確かにこの女性(ひと)を愛している……そう想わせてくる包容だった。
それから暫く、私は無言のまま愛する者の腕の中で幸せを噛み締めるのであった。
絶対無いって叫んでから朝チュンまでに一体ナニがあったんだーーーー!!!!
これじゃわかりませんよ! もう少し詳しく!!
最近は土曜日なのに早起きする癖がついて健康的になっちゃったじゃないですかww
一箇所だけ「時間などと言う概念は、私達にとって有ってない無いようなものだ。」ないがダブってます。
もこてるごちそうさまでしたっ!
そりゃもう、ナニがあったんでしょうよww
ともかく、ごちそう様でした!
いいもこ輝だ
ん?姑はもちr
(頭から矢が生えている。射抜かれたようだ)
これ以上あまあまだと不自然に感じてしまうギリギリのラインまで切り詰めてます!
まぁすでに私はとろけきってしまいましたが