呼び出された時から、悪い予感はしていた。
そも、今日は目覚めが宜しくなかった。
続けて、靴のリボンがなくなった。
そして、黒猫が前を横切った。
いやいや、これは幸運だ、ちぇぇぇん。
「藍」
「はっ」
――主たる八雲紫の呼び声に、八雲藍は顔を上げた。
予感が確信へと変わる。
紫の服装がおかしい。
普段着の上にエプロン、頭には三角巾が巻かれている。
足の傍らに置かれたチリトリも含めて察するに、住処であるスキマの掃除をしていたのだろう。
任せてくれればいいのに――思う藍に向けられている紫の面は、無表情だった。
紫が動く。
両者の間に置かれた数枚の紙――新聞を開いた。
もったい付けたような手の動き、緩慢な動作は、見ている藍が多少とは言え後ろめたく感じているせいだろうか。
或いは、紫自身が躊躇しているのかもしれない。
暫くの、間。
両者は無言で対峙する。
紙がめくられる微かな音だけがスキマを支配した。
――数頁進み、音が止んだ。
どうということはない頁。
よほど暇な者でもない限り、読み飛ばすだろう。
紫が開いたのは、よくわからない健康器具や、少し考えれば必要のない便利道具を載せた、所謂広告欄だった。
その端を、指が示す。
綺麗な円が付けられていた。
藍には見覚えがある――当然だ。自身が付けたのだから。
可愛らしくデフォルメされたバニーガールとキャットガールが、吹き出しでこう言っていた――『大人の動物園、一般公開開始ですぅ』。
「藍っ、お母さん、藍をそんな子に育てた覚えはありません! 不潔!」
「因みに、私は千年天狗の文と昔馴染みなので千歳以上なのですが」
「搦め手できたわね!? って、そういう話じゃないわよ!」
無表情を一転させ、新聞を手の平で叩きつけながら紫が叫ぶ。
「どういうことなの、説明なさい!」
「橙に向けると壊れてしまいそうな思いのたけを発散しようかと」
「露骨よ!? もう少しオブラートに包んで!」
「偶にはお触り程度しないとやってられません。やりはしませんが」
「更に悪くなってるわよーっ」
びったんびったん。
「うぅむ……では、仕事で疲れた体に温もりを、でいかがでしょう」
「綺麗事を言って! ふしだらなことが目的でしょう!?」
「先ほどからそう言っているじゃないですか」
「こんな、こんな、三本尻尾の子猫ちゃん相手に!」
「子猫ちゃんと言えどもさもさでしょう。あぁいや、獣形態の話ですが」
開き直った藍は、とても強かった。
とは言え、割とガチでさめざめと泣いている紫を見ていられず、藍は空咳を打ち、弁解する。
「諸々の不都合が嫌がらせとしか思えないレベルで文字通り降り注いだので、結局、行ってはいませんよ」
「じゃあ何故今もこの新聞を持っているの! なんで!?」
「うわ面倒くさい」
思わずぽろっと本音が漏れた。
「面倒くさいってなによ、我が子が犯罪者予備軍になろうとしているのよ! 干渉するのは親の務めでしょう!?」
「‘神隠しの主犯‘に言われたくはありません。ところで紫様、おいくつで?」
「んがっ、だからそーゆー話じゃ……くっ……貴女よりは……上っ!」
藍の目が見開く。
断腸の思いだったのだろう。
両拳を強くかため、紫は言った。
それでも、視線は外されていない。
「紫様……」
応えるように、藍も目を細くした。
「だって、私は貴女のお母さんなんだもん……っ」
「はは、御冗談を、マイマスター」
「主従を強調したわね!?」
藍にだって認められないラインがある。
再び、びったんびったんと暴れだす紫。
そんな主を、藍は片腕をかざし止めた。
もう一方の手で新聞を抜き取る。
事の発端である広告を千切り、紫の眼前に広げる。
「とりあえず、これで収めてください」
そして、くしゃりと握りしめ、チリトリへと投げ捨てた。
「藍……っ、わかってくれたのね、いいえ、お母さん、最初から藍を信じてた……!」
「いや、ですから、貴女は母では――うーわ、嘘臭ーい」
「うふ、良い子の藍には、ご褒美を上げないとね」
紫が発した笑い声に、妙な艶を感じ取る藍。
呼び出された時から、悪い予感はしていた。
「さぁ藍、お母さんの胸に飛び込んできなさい! 吸いつく勢いで!!」
「そう言うプレイでしたか。出てたまるかぁぁぁ!」
「何の話ふがぁぁぁ!?」
両腕を広げ無防備な腹に、藍は渾身の一撃を放ったのであった――。
所変わって、博麗神社近くの温泉。
「それってさぁ、後半は勢いで言っちゃったんでは? だったら、貴女の主は悪くないんじゃない?」
「……そも、いい歳をした家人の私物に手をつけるのがどうかと思うんだ」
「言われればそうなんだけど。でも、貴女は式でしょう?」
頷いた藍は、しかし、目を逸らす。
追撃するほど、共に湯に浸かる射命丸文は無粋ではなかった。
「で、何処に隠してたの?」
「机の引き出しの奥」
「わー、ベタ」
「やかましい。そう言うお前は?」
「出しっぱなし。至る所に転がってるわ」
一人暮らしの強みである。
「ま、最近はなんだかんだで出入りが多かったから、押し入れに詰めてるけどね」
詰め切れない分はリサイクルに回している。
具体的に言うと、人の里近くに捨てていた。
紡がれる、エロ本を中心にした妖怪と人間とのハートフルストーリー。
閑話休題。
「んー、でもさぁ」
「なんだ、にやにやして。気味が悪い」
「微笑んでるつもりなんだけど。ともかく――飛び込んじゃえば良かったのに」
事実、文が浮かべているのは微笑であった。
「……できるか、馬鹿」
挑発するような色を見出したのは、藍に負い目があるからだろう。
「本気になりそうで、怖かった?」
そっぽを向き応えを返さない藍に、更に言葉を重ねるほど、文は無粋ではなかった――。
<幕>
どんなだよwwwwww
私はいたる所に。
本はないけどDVDがゲームに混じって(ry
官能小説だがな…
>エロ本を中心にした妖怪と人間とのハートフルストーリー
心温まりますw
しかし携帯とハードディスクは誰にも見られるわけには……
>こんなです。
マジワロスwww
もうこれで一本書けるだろ…
むしろ書いてください
あとがき良い話にしようとすんなww