昔々のお話です。
幻想郷のある所に、一人の吸血鬼が住んでいました。
名前は、今は伏せておきましょう。
美しい金髪と、噴火口に落とされたルビーの様な瞳を持った美しい吸血鬼の少女。
血を吸う鬼――吸血鬼とは思えない程に明るく、人懐っこい少女でした。
生まれつき好奇心が旺盛で、勉強をするのも大好き。
慈しみと優しさを持ち、誰にでも真心を持って接する事が出来る。
そんな少女でした。
しかし、彼女には一つの悩みがあったのです。
◆ ◇ ◆
吸血鬼と言う生き物は、とても力が強く、そして同時にとてもひ弱な生き物でした。
雷よりも早く動けるのに、住人に招かれなければ家の中に入る事は出来ない。
霧に化ける事が出来るのに、流れる水に当たれば深い傷を負ってしまう。
そして何よりも、空に輝く太陽に晒されれば一たまりもなく灰になってしまう。
吸血鬼とは、そんな、強くて弱い生き物だったのです。
当然、例の少女も例外ではありません。
彼女は悩みました。
お友達を作ろうにも、こちらから相手の家にお邪魔をして仲良くなる事が出来ない。
一緒に川に入って水遊びをする事も出来ない。
そして何よりも、日光の下でお友達と一緒に遊ぶ事が出来ない。
原っぱでかけっこをしたり、おままごとをしたり、宝探しをしたり……お友達と一緒に遊ぶ事が、彼女には出来ませんでした。
暗いねぐらの中から、明るい日の下で楽しげに遊ぶ妖精たちの姿をじっと見るのが精一杯。
時に勇気を出して日の下へ踏み出そうともしましたが、じりじりと照りつける日の光は吸血鬼の肌を無慈悲に焼き尽くしてしまいます。
日光が手を照らした時は、何万本もの針で刺されたかと間違う程の痛みが手の平のみならず全身を駆け抜けて、彼女は思わず大声で叫んでしまいました。
こんな身体ではお友達と一緒に遊ぶ事も出来ない。
日の光に焼かれていては、鬼ごっこもおままごとも出来ない。
だから、彼女は考えました。
それなら、お友達とは夜に遊ぼう――と。
◆ ◇ ◆
しかし、それも無理な話でした。
夜の吸血鬼は、あまりにも強すぎたのです。
お友達と一緒にかけっこをすれば、地面を一踏みするだけで地面が抉られ、辺りの地形が変わってしまう。
おままごとをしようにも、おもちゃのお皿や泥のお団子を握りつぶしてしまう。
鬼ごっこなんて事をしようなら……大変な事になってしまいます。
だから結局、彼女は夜の世界でもお友達と一緒に遊ぶ事は出来なかったのです。
◆ ◇ ◆
昼の世界では吸血鬼と言う存在はあまりにも弱く、夜の世界では強すぎる。
だから、どちらの世界でもお友達と一緒に遊ぶ事は出来ない。
それは、吸血鬼の少女にとってとても、とても悲しい事でした。
妖精のお友達や妖怪のお友達と一緒に遊びたいと言うのに、その願いが適わないのですから。
聡明な頭脳を持つだけに、彼女がその事に気付くのは一瞬の事でした。
だから、彼女は神様にお願いをする事にしたのです。
「世界で一番弱くなっても平気ですから、私を太陽の下でも生きられる体にして下さい」と。
夜の世界での強さも、今までに得た知識も、吸血鬼としての力も、何もかもを捨てても構わない。
そんな力はいらない。
それよりも、お友達と一緒に遊べる妖怪になりたい――と、彼女は願ったのです。
そして……意地悪な神様は、彼女の願いを適えてくれました。
吸血鬼としての全ての力と引き換えにして、たった一つだけ昼の世界で生き延びる為の方法を授けてくれたのです。
神様は夜の世界のほんの一部分を切り取ると、彼女に被せてくれました。
被せられた夜の欠片の中で、彼女は軽く地面を蹴ってみます……地面は優しく彼女のつま先を受け止めてくれました。
もう、地面が砕ける事もありません。
かけっこも、鬼ごっこも、おままごとだって出来るでしょう。
それだけじゃない。お友達のお家に遊びに行く事も、水遊びをする事だって出来るはずです。
何故なら、もう彼女は吸血鬼ではないのですから。
「これで、お友達と一緒に遊べるね」
吸血鬼ではなくなった彼女は、とてもとても、嬉しそうに笑いました。
◆ ◇ ◆
「むにゃ……むにゃ…………神様、ありがとうなのだー……にへへっ……」
「なあ霊夢。あそこで寝てるルーミアの奴だが、一体どんな夢を見てるんだろうな」
「さあ? 昔の夢でも見てるんじゃない?」
幻想郷のある所に、一人の吸血鬼が住んでいました。
名前は、今は伏せておきましょう。
美しい金髪と、噴火口に落とされたルビーの様な瞳を持った美しい吸血鬼の少女。
血を吸う鬼――吸血鬼とは思えない程に明るく、人懐っこい少女でした。
生まれつき好奇心が旺盛で、勉強をするのも大好き。
慈しみと優しさを持ち、誰にでも真心を持って接する事が出来る。
そんな少女でした。
しかし、彼女には一つの悩みがあったのです。
◆ ◇ ◆
吸血鬼と言う生き物は、とても力が強く、そして同時にとてもひ弱な生き物でした。
雷よりも早く動けるのに、住人に招かれなければ家の中に入る事は出来ない。
霧に化ける事が出来るのに、流れる水に当たれば深い傷を負ってしまう。
そして何よりも、空に輝く太陽に晒されれば一たまりもなく灰になってしまう。
吸血鬼とは、そんな、強くて弱い生き物だったのです。
当然、例の少女も例外ではありません。
彼女は悩みました。
お友達を作ろうにも、こちらから相手の家にお邪魔をして仲良くなる事が出来ない。
一緒に川に入って水遊びをする事も出来ない。
そして何よりも、日光の下でお友達と一緒に遊ぶ事が出来ない。
原っぱでかけっこをしたり、おままごとをしたり、宝探しをしたり……お友達と一緒に遊ぶ事が、彼女には出来ませんでした。
暗いねぐらの中から、明るい日の下で楽しげに遊ぶ妖精たちの姿をじっと見るのが精一杯。
時に勇気を出して日の下へ踏み出そうともしましたが、じりじりと照りつける日の光は吸血鬼の肌を無慈悲に焼き尽くしてしまいます。
日光が手を照らした時は、何万本もの針で刺されたかと間違う程の痛みが手の平のみならず全身を駆け抜けて、彼女は思わず大声で叫んでしまいました。
こんな身体ではお友達と一緒に遊ぶ事も出来ない。
日の光に焼かれていては、鬼ごっこもおままごとも出来ない。
だから、彼女は考えました。
それなら、お友達とは夜に遊ぼう――と。
◆ ◇ ◆
しかし、それも無理な話でした。
夜の吸血鬼は、あまりにも強すぎたのです。
お友達と一緒にかけっこをすれば、地面を一踏みするだけで地面が抉られ、辺りの地形が変わってしまう。
おままごとをしようにも、おもちゃのお皿や泥のお団子を握りつぶしてしまう。
鬼ごっこなんて事をしようなら……大変な事になってしまいます。
だから結局、彼女は夜の世界でもお友達と一緒に遊ぶ事は出来なかったのです。
◆ ◇ ◆
昼の世界では吸血鬼と言う存在はあまりにも弱く、夜の世界では強すぎる。
だから、どちらの世界でもお友達と一緒に遊ぶ事は出来ない。
それは、吸血鬼の少女にとってとても、とても悲しい事でした。
妖精のお友達や妖怪のお友達と一緒に遊びたいと言うのに、その願いが適わないのですから。
聡明な頭脳を持つだけに、彼女がその事に気付くのは一瞬の事でした。
だから、彼女は神様にお願いをする事にしたのです。
「世界で一番弱くなっても平気ですから、私を太陽の下でも生きられる体にして下さい」と。
夜の世界での強さも、今までに得た知識も、吸血鬼としての力も、何もかもを捨てても構わない。
そんな力はいらない。
それよりも、お友達と一緒に遊べる妖怪になりたい――と、彼女は願ったのです。
そして……意地悪な神様は、彼女の願いを適えてくれました。
吸血鬼としての全ての力と引き換えにして、たった一つだけ昼の世界で生き延びる為の方法を授けてくれたのです。
神様は夜の世界のほんの一部分を切り取ると、彼女に被せてくれました。
被せられた夜の欠片の中で、彼女は軽く地面を蹴ってみます……地面は優しく彼女のつま先を受け止めてくれました。
もう、地面が砕ける事もありません。
かけっこも、鬼ごっこも、おままごとだって出来るでしょう。
それだけじゃない。お友達のお家に遊びに行く事も、水遊びをする事だって出来るはずです。
何故なら、もう彼女は吸血鬼ではないのですから。
「これで、お友達と一緒に遊べるね」
吸血鬼ではなくなった彼女は、とてもとても、嬉しそうに笑いました。
◆ ◇ ◆
「むにゃ……むにゃ…………神様、ありがとうなのだー……にへへっ……」
「なあ霊夢。あそこで寝てるルーミアの奴だが、一体どんな夢を見てるんだろうな」
「さあ? 昔の夢でも見てるんじゃない?」