Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

桜は散る姿こそ美しい

2010/05/06 11:21:59
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<桜は散る姿こそ美しい>




「暑いです~……」

「あっついわね」

「春ですよ~?」

「そうね、もう夏ね」

「はる~……」


私の名前は博麗 霊夢。

楽園の素敵な巫女と呼ばれてたりする。

もっとも、素敵なのは当たり前だけど、そう呼ばれて悪い気はしないわね。

誰だ守銭奴って言った奴、咲夜を投げつけるわよ?


「暑いです~……」

「あっついわね」

「春ですよ~?」

「そうね。この熱で皆の頭の中が春になってるわね」

「はる~……」


んでこの私の膝の上に、ちょこんと座っているのがリリーホワイト。

つるぺったんと思いきや、これがなかなか……って何の話よ。

にしても、さっきから羽がピシピシと私に当たって鬱陶しい。

ついでにリリーの特徴であるとんがり帽子が、目の前をちょろちょろして鬱陶しい。

とりあえず、帽子を取って横においておくことにした。

抵抗も無かったので、ついでにリリーの頭に顎を乗せる。

むせ返るほどの太陽の匂いが、私の頭を刺激した。


「暑いです~……」

「くっついてるから暑いんじゃない?」

「頭が重いです~」

「私は膝が重いわ」

「はる~……」


私が何かを言うたび、リリーは落ち込んだような声で出す。

羽が力なく萎れ、膝の上の重みも少し増したような気になる。

しかし羽がまたピンっと伸びたかと思うと、暑い暑いと言うのだ。

恨めしく、夏を追い返すかのように。

何かを我慢するかのように。


「暑いです~……」

「あっついわね」

「霊夢さんなんとかしてください」

「なんとかって、何よ?」

「なんとかは、なんとかですよ?」

「無理」

「はる~……」


このやり取りも、もう何回目だろうか。

良く飽きないなと、我ながらに思う。

ほぼ独り言状態のリリーの言葉に、別に返事はしなくてもいいのだけど。

リリーだって、私に何かを求めているわけでもないだろうに。

いや求めているのか? たとえばお茶とか。

そういえば喉が渇いた。リリーを乗せてから一滴の水分も取っていなかったっけ。

さて、お茶を飲むには人の膝の上に陣取っている妖精を、蹴り落とさなくてはいけない。

だけど正座の状態からは、なかなかに難しい注文だ。


「春なのに~」

「皐月は暦上ではもう夏よ。桜も散ったしね」

「はる~……」


リリーの頭が左右に揺れている。

羽がぴこぴこと、胸に当たる。

蹴り落とすのは、さすがに可哀想かもしれない。

そもそも蹴らなくても、持ち上げて横に置いたらいいのか。

やっぱり私の頭の中も、春で一杯みたいね。

あたり一面春だらけ。

……沢山のリリーが頭の中を駆け回ってるイメージしか沸かないわ。


「むに……眠たくなってきました」

「いい天気だからね」

「はい」

「五月晴れね」

「五月闇になると涼しいですか?」

「五月闇は梅雨真っ只中だから、蒸れるし暑いし最悪よ」

「はる~……」


さらさらとした金色の髪の毛が、私の胸をくすぐる。

どこぞの力馬鹿魔法使いとは、少し違う色。

柔らかな春の香りが、私の鼻をくすぐる。

どこぞの妖怪桜とは、少し違う香り。

うん、もう少しだけ。春を感じていてもいいかもしれない。

もう少しだけ、もう少しだけ……


「霊夢さん」

「何?」

「少し、寝てもいいですか?」

「だめ」

「むに、でも眠たいです」


まったく何を言ってるんだ。

この状態で「寝る」だなんて。

でももう半分以上寝ているのだろうか。

体がふらふらしているのは、眠気のせいだったのかもしれない。

眠気と必死に戦って、暑い暑いとい言いながらがんばって……


「ねぇリリー」

「る?」

「がんばったわね」

「……たのしかった、ですから」

「ありがとう」


がんばったご褒美に、少しだけ枕になってあげてもいいだろう。

太陽という布団と、私という枕。まったく贅沢なベッドね。


「少しだけよ」

「はい、では少しだけ」


太陽の光が、まぶしいほどの光りがリリーを包み込んだ。

まるで世界が、リリーを抱きしめるように。ゆりかごのように。


「ゆっくりおやすみ。起きたら一緒にお団子でも食べましょう」


そっと、リリーを抱きしめる。

暖かい。リリーの温もりが私に伝わる。

春の名残が、体中に染み渡る。

これが、私達の最後の春。

でも、始まりの春だから、きっとまた。


「おやすみ、なさい……です……」

「……おやすみリリー。また春まで」




膝に掛かる重さが……減った。


胸に掛かる重さが……減った。


心に掛かる重さが……増した。


目の前で揺れていた春は、静かに、ただ静かに眠りについた。


残ったのは私と、とんがり帽子だけ。


否。


「……今日は一段と暑いわね」


とんがり帽子を膝に置き、目を瞑る。

そこに、確かにあった温もりははまだ覚えている。


「そう思うでしょ、リリー?」


この春の思い出はずっと、ずっと残っていく。


リリーという桜が、私の心に咲き続ける限り。













「……喉が、渇いたわね」


風が木々を凪いで行く。

夏の香りが、私の鼻をくすぐった。
さくら さくら 舞い散るその姿 それはまるで 眠るように落ちる
さくら さくら 舞い散りやがて消える 次の春に 会える事を信じて
BGM「さくらさくら 〜 Japanize Dream... 」

夏が来ましたねー。暑い暑いヤ暑いスト。
というわけで、来年の春までリリーはお休みいただきます。
もしかしたらみんなの呼びかけに、春と勘違いしてひょっこり現れるかも?

ではではまた将来にお会いいたしましょう。またにてぃ~♪
こじろー
[email protected]
http://maira001.blog113.fc2.com/
コメント



1.ぺ・四潤削除
こじろーさんリリー最近見なかったのでこのまま終わってしまうのかと思ってて寂しかったです。
減った減った増したの最後のシーンで涙が溢れて止まりませんでした。
最後にきちんとリリーにお別れできたようで良かったです。ありがとうございました。
2.奇声を発する程度の能力削除
はる~。
3.こじろー削除
>最後にきちんとリリーにお別れできたようで良かったです。
来年はリリーブラックとの絡みも入れてみたいですね
リリーかわいいよリリー

>はる~。
は~る~♪
きっとこれから空を見上げる回数が増えるんだろうなぁ……
「まったく……今日も暑いわね」