<桜は散る姿こそ美しい>
「暑いです~……」
「あっついわね」
「春ですよ~?」
「そうね、もう夏ね」
「はる~……」
私の名前は博麗 霊夢。
楽園の素敵な巫女と呼ばれてたりする。
もっとも、素敵なのは当たり前だけど、そう呼ばれて悪い気はしないわね。
誰だ守銭奴って言った奴、咲夜を投げつけるわよ?
「暑いです~……」
「あっついわね」
「春ですよ~?」
「そうね。この熱で皆の頭の中が春になってるわね」
「はる~……」
んでこの私の膝の上に、ちょこんと座っているのがリリーホワイト。
つるぺったんと思いきや、これがなかなか……って何の話よ。
にしても、さっきから羽がピシピシと私に当たって鬱陶しい。
ついでにリリーの特徴であるとんがり帽子が、目の前をちょろちょろして鬱陶しい。
とりあえず、帽子を取って横においておくことにした。
抵抗も無かったので、ついでにリリーの頭に顎を乗せる。
むせ返るほどの太陽の匂いが、私の頭を刺激した。
「暑いです~……」
「くっついてるから暑いんじゃない?」
「頭が重いです~」
「私は膝が重いわ」
「はる~……」
私が何かを言うたび、リリーは落ち込んだような声で出す。
羽が力なく萎れ、膝の上の重みも少し増したような気になる。
しかし羽がまたピンっと伸びたかと思うと、暑い暑いと言うのだ。
恨めしく、夏を追い返すかのように。
何かを我慢するかのように。
「暑いです~……」
「あっついわね」
「霊夢さんなんとかしてください」
「なんとかって、何よ?」
「なんとかは、なんとかですよ?」
「無理」
「はる~……」
このやり取りも、もう何回目だろうか。
良く飽きないなと、我ながらに思う。
ほぼ独り言状態のリリーの言葉に、別に返事はしなくてもいいのだけど。
リリーだって、私に何かを求めているわけでもないだろうに。
いや求めているのか? たとえばお茶とか。
そういえば喉が渇いた。リリーを乗せてから一滴の水分も取っていなかったっけ。
さて、お茶を飲むには人の膝の上に陣取っている妖精を、蹴り落とさなくてはいけない。
だけど正座の状態からは、なかなかに難しい注文だ。
「春なのに~」
「皐月は暦上ではもう夏よ。桜も散ったしね」
「はる~……」
リリーの頭が左右に揺れている。
羽がぴこぴこと、胸に当たる。
蹴り落とすのは、さすがに可哀想かもしれない。
そもそも蹴らなくても、持ち上げて横に置いたらいいのか。
やっぱり私の頭の中も、春で一杯みたいね。
あたり一面春だらけ。
……沢山のリリーが頭の中を駆け回ってるイメージしか沸かないわ。
「むに……眠たくなってきました」
「いい天気だからね」
「はい」
「五月晴れね」
「五月闇になると涼しいですか?」
「五月闇は梅雨真っ只中だから、蒸れるし暑いし最悪よ」
「はる~……」
さらさらとした金色の髪の毛が、私の胸をくすぐる。
どこぞの力馬鹿魔法使いとは、少し違う色。
柔らかな春の香りが、私の鼻をくすぐる。
どこぞの妖怪桜とは、少し違う香り。
うん、もう少しだけ。春を感じていてもいいかもしれない。
もう少しだけ、もう少しだけ……
「霊夢さん」
「何?」
「少し、寝てもいいですか?」
「だめ」
「むに、でも眠たいです」
まったく何を言ってるんだ。
この状態で「寝る」だなんて。
でももう半分以上寝ているのだろうか。
体がふらふらしているのは、眠気のせいだったのかもしれない。
眠気と必死に戦って、暑い暑いとい言いながらがんばって……
「ねぇリリー」
「る?」
「がんばったわね」
「……たのしかった、ですから」
「ありがとう」
がんばったご褒美に、少しだけ枕になってあげてもいいだろう。
太陽という布団と、私という枕。まったく贅沢なベッドね。
「少しだけよ」
「はい、では少しだけ」
太陽の光が、まぶしいほどの光りがリリーを包み込んだ。
まるで世界が、リリーを抱きしめるように。ゆりかごのように。
「ゆっくりおやすみ。起きたら一緒にお団子でも食べましょう」
そっと、リリーを抱きしめる。
暖かい。リリーの温もりが私に伝わる。
春の名残が、体中に染み渡る。
これが、私達の最後の春。
でも、始まりの春だから、きっとまた。
「おやすみ、なさい……です……」
「……おやすみリリー。また春まで」
膝に掛かる重さが……減った。
胸に掛かる重さが……減った。
心に掛かる重さが……増した。
目の前で揺れていた春は、静かに、ただ静かに眠りについた。
残ったのは私と、とんがり帽子だけ。
否。
「……今日は一段と暑いわね」
とんがり帽子を膝に置き、目を瞑る。
そこに、確かにあった温もりははまだ覚えている。
「そう思うでしょ、リリー?」
この春の思い出はずっと、ずっと残っていく。
リリーという桜が、私の心に咲き続ける限り。
「……喉が、渇いたわね」
風が木々を凪いで行く。
夏の香りが、私の鼻をくすぐった。
「暑いです~……」
「あっついわね」
「春ですよ~?」
「そうね、もう夏ね」
「はる~……」
私の名前は博麗 霊夢。
楽園の素敵な巫女と呼ばれてたりする。
もっとも、素敵なのは当たり前だけど、そう呼ばれて悪い気はしないわね。
誰だ守銭奴って言った奴、咲夜を投げつけるわよ?
「暑いです~……」
「あっついわね」
「春ですよ~?」
「そうね。この熱で皆の頭の中が春になってるわね」
「はる~……」
んでこの私の膝の上に、ちょこんと座っているのがリリーホワイト。
つるぺったんと思いきや、これがなかなか……って何の話よ。
にしても、さっきから羽がピシピシと私に当たって鬱陶しい。
ついでにリリーの特徴であるとんがり帽子が、目の前をちょろちょろして鬱陶しい。
とりあえず、帽子を取って横においておくことにした。
抵抗も無かったので、ついでにリリーの頭に顎を乗せる。
むせ返るほどの太陽の匂いが、私の頭を刺激した。
「暑いです~……」
「くっついてるから暑いんじゃない?」
「頭が重いです~」
「私は膝が重いわ」
「はる~……」
私が何かを言うたび、リリーは落ち込んだような声で出す。
羽が力なく萎れ、膝の上の重みも少し増したような気になる。
しかし羽がまたピンっと伸びたかと思うと、暑い暑いと言うのだ。
恨めしく、夏を追い返すかのように。
何かを我慢するかのように。
「暑いです~……」
「あっついわね」
「霊夢さんなんとかしてください」
「なんとかって、何よ?」
「なんとかは、なんとかですよ?」
「無理」
「はる~……」
このやり取りも、もう何回目だろうか。
良く飽きないなと、我ながらに思う。
ほぼ独り言状態のリリーの言葉に、別に返事はしなくてもいいのだけど。
リリーだって、私に何かを求めているわけでもないだろうに。
いや求めているのか? たとえばお茶とか。
そういえば喉が渇いた。リリーを乗せてから一滴の水分も取っていなかったっけ。
さて、お茶を飲むには人の膝の上に陣取っている妖精を、蹴り落とさなくてはいけない。
だけど正座の状態からは、なかなかに難しい注文だ。
「春なのに~」
「皐月は暦上ではもう夏よ。桜も散ったしね」
「はる~……」
リリーの頭が左右に揺れている。
羽がぴこぴこと、胸に当たる。
蹴り落とすのは、さすがに可哀想かもしれない。
そもそも蹴らなくても、持ち上げて横に置いたらいいのか。
やっぱり私の頭の中も、春で一杯みたいね。
あたり一面春だらけ。
……沢山のリリーが頭の中を駆け回ってるイメージしか沸かないわ。
「むに……眠たくなってきました」
「いい天気だからね」
「はい」
「五月晴れね」
「五月闇になると涼しいですか?」
「五月闇は梅雨真っ只中だから、蒸れるし暑いし最悪よ」
「はる~……」
さらさらとした金色の髪の毛が、私の胸をくすぐる。
どこぞの力馬鹿魔法使いとは、少し違う色。
柔らかな春の香りが、私の鼻をくすぐる。
どこぞの妖怪桜とは、少し違う香り。
うん、もう少しだけ。春を感じていてもいいかもしれない。
もう少しだけ、もう少しだけ……
「霊夢さん」
「何?」
「少し、寝てもいいですか?」
「だめ」
「むに、でも眠たいです」
まったく何を言ってるんだ。
この状態で「寝る」だなんて。
でももう半分以上寝ているのだろうか。
体がふらふらしているのは、眠気のせいだったのかもしれない。
眠気と必死に戦って、暑い暑いとい言いながらがんばって……
「ねぇリリー」
「る?」
「がんばったわね」
「……たのしかった、ですから」
「ありがとう」
がんばったご褒美に、少しだけ枕になってあげてもいいだろう。
太陽という布団と、私という枕。まったく贅沢なベッドね。
「少しだけよ」
「はい、では少しだけ」
太陽の光が、まぶしいほどの光りがリリーを包み込んだ。
まるで世界が、リリーを抱きしめるように。ゆりかごのように。
「ゆっくりおやすみ。起きたら一緒にお団子でも食べましょう」
そっと、リリーを抱きしめる。
暖かい。リリーの温もりが私に伝わる。
春の名残が、体中に染み渡る。
これが、私達の最後の春。
でも、始まりの春だから、きっとまた。
「おやすみ、なさい……です……」
「……おやすみリリー。また春まで」
膝に掛かる重さが……減った。
胸に掛かる重さが……減った。
心に掛かる重さが……増した。
目の前で揺れていた春は、静かに、ただ静かに眠りについた。
残ったのは私と、とんがり帽子だけ。
否。
「……今日は一段と暑いわね」
とんがり帽子を膝に置き、目を瞑る。
そこに、確かにあった温もりははまだ覚えている。
「そう思うでしょ、リリー?」
この春の思い出はずっと、ずっと残っていく。
リリーという桜が、私の心に咲き続ける限り。
「……喉が、渇いたわね」
風が木々を凪いで行く。
夏の香りが、私の鼻をくすぐった。
減った減った増したの最後のシーンで涙が溢れて止まりませんでした。
最後にきちんとリリーにお別れできたようで良かったです。ありがとうございました。
来年はリリーブラックとの絡みも入れてみたいですね
リリーかわいいよリリー
>はる~。
は~る~♪
きっとこれから空を見上げる回数が増えるんだろうなぁ……
「まったく……今日も暑いわね」